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『思春奇★学淵』 第一話 心霊スポット?【4,636文字】
地元の…
これは、私がある友人から聞いた話である。
「なぁ、○○神社の裏の山、知ってる?」
友人Bが唐突に問い掛けてきた。
「はぁ?知ってるけど。だからなんなん」
友人AとBは地元が同じで、互いにとっては知ってて当たり前な場所のことをいきなり聞かれて、頭が変になったのかと疑った。
「ちゃうやんあんな、あの山の、神社の裏手に小さな川があるやんか。そこ・・・今では有名な『心霊スポット』になってんねんて」
「マジで?あんな、なぁんもないとこで??・・・あ、あれか、ミステリーサークルみたく地域活性化計画か??」
「なになに?なんかおもろそうな話やん」
ファミレスでクダを巻きながら時間を潰し、夕時からずっと暇でうな垂れていた三人だったが、友人Cの目が輝き出した。Cはこの手の話が大好きだ。
「・・・行ってみる?」
Aは呆れた顔をするが、Cは前のめりな笑顔でBと改めて意気投合し直す。
Cは、野郎三人で行ってもバカみたいだからと言って、共通の友達でもある女子二名を誘って夏の思い出の一つとして満喫しようと、ノリに乗ってきてしまった。
後、一人の女子はバイト中だったので、四人はCの車の中で例の心霊スポットの情報を集めていった。
「神社の裏手を真っすぐに、川沿いまでがそうみたいやな」
「ねぇ、ちょっと危なくない?」
「大丈夫だって、俺の超地元だし。なぁ、A」
「まぁ、ほんと、どうせなんもないって。ただのほぼ田舎の山」
「おい、雰囲気下げるおじさんやなぁ」
その後、定刻となりもう一人の女子が参加し、五人は車で約一時間、隣にあるAとBの地元の県へと向かった。
都会の喧騒は大分と前に過ぎ去り、木々がガードレールの向こう側から枝葉の手を差し伸べてきている。前方にはもう大分と先にしかテールランプの明かりはなく、後続車も徐々に減っていき、いつの間にか一台も無くなり閉鎖的な孤独感がより恐怖心を駆り立てていく。
なんとも言えぬ緊張感が全員の中にふつふつと湧きあがり、それに共鳴するかのように一人の女子が
「なんか、気分が悪い・・・・・・」
「車酔いか?まぁまぁの蛇行した山道やしなぁ」
「窓、開ける?」
「・・・ううん、多分、そういうんじゃないと思うし」
「・・・え?マジ??」
女性陣は心配そうに不安げな顔をし、男性陣は苦虫を嚙み潰したような引きつった顔で失笑した。
神社へと上がる、そこそこ長い石階段の下にある路側帯で車を停めて、そこからは徒歩で進む。こんな丑三つ時に山からの下山対向車は居たらいたで、それも怖い。
「・・・ごめん、私、もう無理かも。ごめん」
とうとう、泣き出してしまった。
「大丈夫?車、戻る?」
「あぁ・・・じゃ、C、車のキー貸して。俺が一緒に戻るわ。お前らだけで行ってくれ」
言い出しっぺの罪悪感からか、Bが残ると介抱の名乗りを上げた。ただ、その他男性陣だけは知っていた。Bがこの娘のことが好きなことを。
虫の息
男二人と女一人は、一つの懐中電灯を持って先が見えない石階段を上っていく。足元にしか照らせない明かりは、余計に周囲を深く、暗く、闇を落としていく。
「キャッ!!」
猫のように小さく短めな咆哮を上げた女子の足元には、蝉が腹を見せながら横たわっていた。例のごとく、虫が苦手な女子はその歩みを止めて虫の息な存在から目を離せないでいた。
バンッ!
ジジジ・・・ジー・・・ジー・・・・・・
Aが虫の息の根を確認するために、蝉のすぐ横に四股を踏むかのように片足を踏み込んだ。蝉は正に虫の息だった。
バタバタバタッ!ジー・・・ジジ・・・・・・
「キャァァ!いやぁぁ!!」
本当に怖がり嫌がっているのだろう。その悲鳴はまるでおっさんように野太かった。
蝉は最後の力を振り絞り羽をバタつかせて、階段の端へとまるでA達に道を譲るように通り道を開けてくれた。Cはすかさず女子を反対側へと促し
「今や!行こう!」
二人は手を繋ぎ、Aを置いて少し先に上がる。
「川へはここの横、獣道から行くねん。よく子供の時に釣りに行ったから今でも覚えてるわぁ」
Aが二人に追いついた場所のちょうど右手に、その獣道があった。左右に設置された手摺りを跨ぎ越え、そこに照らされた土道はまるで奈落への入口のように感じた。
女子の歩む歩幅が、先ほどの蝉による窮鼠の抵抗からの怯えで小さくなったからだけではなく、三人ともがその足を重くしていた。途中、何度も光を求めた虫たちの奇襲の進撃を受けながらも、なんとか三人は川沿いへと辿り着く。
「・・・なんも無かったな。虫ばかりで」
「ちょっと、最悪なんだけど」
「もうちょっとだけこの川を下るか、上がるかしようぜ」
Cは懐中電灯をAから奪い、返答を聞くまでもなく川を上流へと向かった。
程なく、五分も歩かない内に
「・・・え?!何か聞こえへん?!」
「・・・・・・」
女子が敏感に聞き耳を立てる。二人も息を潜め聴覚を集中させた。すると・・・・・・
・・・すけ・・・たす・・・て・・・・・・
僅かに男性の苦しむ声が、確かに聞こえた。Cはその声の方向に明かりを向けると
「「「ギャアアァァァァァ!!!」」」
三人は一目散にその場から逃げ出した。
Bと、自称、霊感が強いという女子が残る車体へと、一番に到着したのは土地勘があるAだった。強引に二人が座っている後部座席に割って入り、息切れて汗だくで、Bは更に驚く。
「な?!どうしたんや?」
Aは黙ったまま、残した二人を待ちわびるように外を見てなにも答えない。
間もなくして、懐中電灯の明かりを上下させながら走ってくるCと、女子が無事に車の元へとやってきた。すぐさま凄い勢いで運転席と助手席に乗り込み、車をとっとと発進させた。その形相を見て、Bの隣で青ざめていた女子はまた泣き始める。
「ちょ、なんやねんお前ら。どうしてんって?!」
Cは無心に車を走らせ、助手席の女子はひたすら背後とバックミラー、サイドミラーをチョックしている。仕方なく、Aが事情を話し出した。
「で、出た。出たよ・・・・・・」
「・・・マジで??・・・何が?」
「男の・・・声が聞こえた。で、そっちを見ると、《《宙づりの男》》が・・・助けを求めながら、こっちを見て・・・・・・」
この時はAも、それが精いっぱいの説明だった。
真実…
後に落ち着いた頃にもう一度、何があったのかを改めて聞いた。
・・・すけ・・・たす・・・て・・・・・・
擦れた声で聞こえた方へとライトを向けても、そこには誰も居なかった。山への崖の斜面に、立派な木の根っこと積まれた石だけがそこにあった。それでも
・・・すけ・・・たす・・・て・・・・・・
と聞こえてくる。すると少し上の方から
ミシミシ・・・ギシギギギ・・・・・・
助け、て・・・・・・
木が軋めく音と共に、助けを乞う男の擦れ声。恐るおそる足元を照らし続けてきた懐中電灯の明かりを音と声のする上の方へと向けて見ると、そこにはまるで蝉のように木から見下ろしてくる男が、真っ赤な眼と凄い形相で三人を睨みつけていたのだった。
それ以来、同じメンバー全員では集まることは自然と無くなり、Bと霊感少女は仲睦まじく付き合った。
その数十年後・・・・・・
私はふと、ある動画を見た。それは故郷がA、Bと同じ県の芸人さんが、自分の過去の恐怖体験をさきららに語る特集動画です。
「僕、学生時代はやんちゃと言うか、ただ頭が悪いだけであまり良くない学校に行ってまして。回りはヤンキーが多かった時代の中、僕はイジられキャラと言いますか、ようはパシリ的な扱いでしてん」
「あぁ、当時はそんなって時代の話、よく聞きますねぇ」
「僕はビビりやしそんな不良とは違いますけど、ほんま、悪い奴が多くてね。もう一人、僕と同じような舎弟的な奴、山下ってやつが居ましてね。そいつとようその同級生やった悪い奴らから逃げ回ってましたわぁ。で、ある日その悪どもが警察に追われてるって話をまた別の友達から噂で聞きまして、ちょっと本格的に巻き込まれんようにせなあかんなぁ、って二人で言ってて、当分その山下って子の家に隠れてたんです。僕ん家はとっくにそいつらにバレてたからね」
「ほぉ、それで?」
「そんで、学校もサボりながら一か月ぐらいしたかなぁ。もう大丈夫やろ?と。流石にもう捕まったか、逃げたかしてんちゃう?ってことで、夜、近くのコンビニに買い出しに行ったら、そこでバッタリ・・・出合わしてもぉてん!最悪やぁって、内心血の気が引くってこういうんやね」
「うわぁ、まだその悪友たちって捕まったりしてなかったんですねぇ」
「そう!ほんまに・・・丁度・・・『おう!お前ら!何ずっと逃げてくれてんねん。まぁ丁度良かったわ。わしらもうここから逃げるとこやってな。ちょっと来いや』・・・って、ワゴン車に拉致られて二人とも攫われたんです」
「あ~、最悪の偶然ってやつですねぇ、ほんと大黒さん、ついてないですねぇ~」
「昔っからそやねんほんまに!・・・で、山の方、○○神社っていうとこがあってね、その裏の山って本当に誰もこない場所なんやけどそこまで連れられて、結構大きめの木、ご神木みたいな・・・確か川沿いのとこにあったんやけど、その『木ぃ登れ!』言われて」
「え?!なんでですか?」
「いや、多分、逃げてた腹いせとかやと思うんですけどね。で、僕もう逆らうのも恐いですやん。訳もわからんまま登って、太目の枝に跨って指示待ってると『手ぇ、後ろに回せ!』って言われて、したらその腕、後ろ手にロープで縛られて。で次、足も、びっしーって、きつく縛られて。で、次は山下も縛られんかなぁ思たら僕一人、そこに置き去りにされましてん」
「あ、え?」
「後で聞いたら山下も別の場所で同じことされてたらしいんですけど」
「ああ、そうなんですね。悪い奴らとグルだった訳とかでは無かったのかぁ」
「そう。で、ずっと真っ暗闇の中、俺、ここで死ぬんかぁって。童貞のまま死にたくないーって思いで、ずっと『助けてくれぇ~!』って叫び続けましたよ。何時間も。そこは昔から僕らの地元では有名な《《心霊スポット》》ですから、本当に誰もこない所なんです。喉もどんどんカラカラになってきてね。そうしたらと向こうの方からなんか明かりが見えてくるんです」
「あ!心霊スポットだから、誰か《《肝試し》》的に来たんですね?」
「そう!カップルが懐中電灯持って来るんです。助かったぁ~ってその時めっちゃ喜びましたよ。で、必死に『助けてくれ~!』って言うんですが、もう声が擦れてしもて全然声が出なくなってしまってて」
「あぁ~、また最悪!」
「必死に身体揺らして、カッスカスの声でなんとか『助けて~』って言ってたら向こうの女性の声で『なんか聞こえない?』って。よっしゃ~!って気持ちで。僕が縛られてる木の麓までやってきて、懐中電灯を上の僕方へと向けると、『「「「ギャアアァァァァァ!!!」」」』って、逃げてしもたんです」
「ははははは!あぁ、なるほど、心霊スポットだから、霊か何かだと思われたんですね?笑」
「そう!『待ってくれ~!』『助けてくれ~!』って叫ぶも、その思いも空しく・・・・・・」
「じゃぁその後、どうやって助かったんですか?」
「翌朝、神社の神主さんがたまたま川の方に見回りにきてくれて、それでなんとか助けられたんですぅ~」
・・・・・・
私は何もコメントをせずに、その動画のURLをそっとAへと転送してあげました。
完
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