【小説】『Dystopia 25』~楽園~Phase Ⅸ
The Three Chosen partⅧ
ロキッチ医師は焦っていた。三人との契約は2年間という約束で協力してもらう条件である。
「どうだね、君達。この記事を見てどう思う?」
ジム
「・・・彼らは狂っているね」
チャーリー
「バカだ。治療した方がいいんじゃないか?」
シェーファー
「精神科へ行って治療した方がいいと思う」
「・・・・・・」
「どうしますか・・・・・・」
フィリップは不安そうにロキッチ医師を見る。
「・・・実は、『この記事の内容は彼ら自身の事だ』ということを教えた」
「ええっ!?だめですよ!それはタブーだって言ったのは先生じゃないですか!!」
「分かっている!しかし、まさかここまで自覚と現実の乖離が進んでいるとは思わず、現実をぶつけてみたんだ」
「で、三人はどういった反応だったんですか!?」
「全く聞く耳を持たなかったよ。現実を受け入れることは無かった」
「下手すれば、余計に空想の世界へと入り込んでいったのかもしれませんよ」
「ううむ・・・ん?フィリップ君、その手に持っているのはなんだ?」
「ああ、これですか?チャーリーの奥さんに渡してくれるように頼まれた『手紙』ですよ」
「??チャーリーの・・・あいつも、”一人身”のはずだが?」
「空想が過激になってきてんですよ。空想上の嫁ってことでしょうね」
「・・・ほう」
Colony Ⅱ Captain
「先ず、将軍に合わせる前に第1の現状について、聞かせてもらおうか」
先ほどの髪を束ねただけの者にコロニーの中腹まで案内をされたライトは、同じように髪を束ねているが簡易な甲冑をまとった男の元に案内された。中央では小さな争いが起こっている最中のようで、中腹からタワー側と外側を分断するかのように、竹で作られた簡易バリケードが張られテントも並びコロニー内だが野営地のような印象だった。この警戒では誰かの案内が無ければ途端に捕まるか、最悪は敵と思われその場で殺されていたかもしれない。
ここまでライトを案内してくれた男の方は、その上司的に当たるであろう隊長のような者へ深々とお辞儀をして、その場から去って行った。
・・・・・・
「・・・はい、それで急いでお知らせと、警戒をするようにとも伝えたくてここまで来ました」
その後、同じように第1の状況を細かく伝え、壁や通路の強化を要請をする。
「・・・そうか、分かった。ありがとう。通路は事態を早くに懸念した第1からの逃亡者が既に何人か居てな。彼らの証言にて関門の強化をし、今では完全に閉鎖させている」
「壁の方は、大丈夫ですか?」
「乗り越えられないように有刺鉄線だけでなく監視は常時付けて油を蒔き、罠もいくつもつけている。が、壁が破られては流石にどうしようも無くなるな。ただ、塔内に閉じ込められた者たちの救出は必要だな」
防衛だけでなく「救出」という言葉を聞いたライトは、この時点で第3で聞いていた第2の印象と全く違っていることに驚いた。
「あの、すいません個人的な質問をしてもよろしいですか?」
「・・・なんだ?」
「ここは、まるで戦場のような印象なんですけど・・・内乱でも起こっているんですか?」
「ああ。堕落した腑抜けた者どもの反乱だ。まったく・・・自由だとか権利とかを主張しているが、そんなことを許せば忽ち、第1や第8と同じ結末になる。そんなことも考えずに、ただ個人的な感情と欲望だけを要求している。そんなバカな連中との争いだ」
「第8の事情も、ご存知なのですね?」
「ああ、殆どがセンター教の幹部以上の者しか実際には知らないがな」
ライトはセンター教と聞いて少し不安になる。出来るだけ早くパメラの父親である『マイオス』という男性に会い、自分達の、そして我が子の危機を知らせないといけないと思い、直ぐに『深紫色のクォーツ』を提示して謁見を哀願した。
「・・・それを、預からせて貰えるか?」
「・・・パメラさんの大事な物だと聞いています。僕には責任がありますので、手放す訳にはいきません」
「・・・では、一時的に牢獄へ幽閉する。牢屋を隔ててでならば、面通しをしてもいいだろう。このご時世だ。理解できるか?」
「はい。大丈夫です。僕たちは今、悪魔の森で身を隠しています。proberであれ|Forester《フォレスター》であれ、見つかる危険があります。急ぎでお願い頂ければ、僕はなんでも構いません」
Devil's Forest Taken away
遠くの方から奇声のような、何人かの叫び声が聞こえてくる。
パメラとセーラは、まだ意識が戻らないレイアの看病をし続けていた。
誰かの叫び声が三人のテントへ近づいてきた所で、二人は外へ繰り出した。その叫ぶ声に一つだけ、聞き覚えがある声が混ざっていたからだ。
・・・・・・
「離せぇ!クソぉ!!」
そこにはウェルバーが傷だらけで、何人ものフォレスター達に捕まっていた。その後ろではまた、何人かのフォレスターも所どころ傷を負い血に染まり、足を引きずり肩を押さえ、明らかに双方が格闘をしたような痕跡が見られた。
連行されているウェルバーの直ぐ傍には、セーラ達がずっと診ていたあの足に重傷を負って看病し救ったフォレスターの子供が、セーラ達には分からない言葉で必死に何かを訴えている。
二人も急いでウェルバーに近づき、同じく必死に長老との話を頼み込んだ。
その『前日』。
フォレスターの集落の一画に放り込まれたパメラとセーラは、寝込むほどの怪我とその熱でうなされているレイアを見る。二人はレイアの元へと飛びつき、容体をチェックした。
よく見ると、手法は違えど適切な処置を施されており二人は一安心する。
「お前タチ、コイツ知り合いカ?」
突然、入口の方で聞き慣れた言葉の、しかしイントネーションが違う声に二人ともがビクついた。レイアに全集中していたのか、全く入ってくる気配に気が付かなかった。
「はい、私たちの・・・友人です。この処置はあなたがして頂いたのですか?」
咄嗟にだが、念のためレイアの身分は伏せておいた。
「ソウダ。アノ子の怪我、お前タチか?」
他のフォレスターとは違い、ふくよかで恰幅の良い男が結論だけを応答する。
「い、いいえ!私たちの行く道中、穴に落ちていました。恐らく動物を捕る罠に落ちてしまっていて、そこを私たちが救ったのです・・・あの子は、無事ですか?!すいません、応急処置しか出来ていませんが・・・・・・」
「イヤ、タスカッタ。礼を言イニ来タ」
「こちらこそ、レイア様をありがとうございます!」「ありがとう!!」
二人ともが安堵からか、安心からか、その後は号泣したまませっかく言葉が通じる者との会話は弾むことは無かった。
Colony Ⅱ prison
ライトはCSタワー近くにある大きな家城の地下の牢屋へと、言葉通り一時的に捉えられた。
中には錆びた手枷足枷があり、掃除はされてはいるが少し血の臭い、錆びの臭いが微かにする。その血錆鉄に拘束されることまでは無いが、ゲストとして赴いた身としては複雑な気持ちになった。
「悪いがここで待っていてくれ。遅くとも明日までには話をつけてみようぞ」
「はい、大丈夫です。是非よろしくお願いします」
ライトは不安な心境ではあるものの、センターには暗殺されかけて女には追われ、イカれたプローバーとの死闘の後ではこの獄中の中の方が安らぎの場に思えたことを、不謹慎にも感じていた。
Devil's Forest Judgment
ウェルバーは開けた広場のような場所の真ん中で、木で組まれた柵のような物に、正に裁判を受ける囚人の如く貼り付けにされていた。
この村で一際、その体中に鳥の羽や動物の毛皮、骨の装飾をした屈強そうな男とウェルバー達が救出した少年がずっと何かを話し合っている。
パメラとセーラも、唯一カタコトに会話が出来る者と再度出会うことができ、何とか説得と交渉を試みていた。
「すいません、この人も仲間なんです。多分、私たちの足跡を追ってここまでやってきたの」
「私たちが攫われたと思って、救出に来ただけなんです!勘違いだって、みんなにも説明してもらえませんか?!悪い人ではないんです!」
ウェルバーはフォレスター達との格闘で追った傷で朦朧とした表情で空を見ている。まるでこれからの自分の運命やレイアやライトの運命も悲観した様な心境だった。
フォレスター達は方々で塊り、それぞれで話し合っている。一部の、恐らくウェルバーに攻撃されたその家族と思わしき者は、ウェルバーに何らかの罵倒を浴びせながら睨みをきかせて、今にも飛び掛かりそうな感情を露わにしていた。
間もなくして長老と思わしき装飾を身に着けた高齢な人物が中央へと現れ、フォレスターのみんなを征し全体に聞こえるように何かを話し出す。
「・・・一応ハ伝エタゾ」
パメラとセーラの後ろから突然、先ほど二人の証言を聞いてどこかへと消えたふくよかなフォレスターがそう言って、そのまま引き続き演説の通訳をしてくれ出した。
「我々ハ悪魔デハナイ。自然ヲ愛シ大事ニシテキタ。事情ハソレゾレニアリ、コノ者モ同ジ。狼ニモ得物ヲ狩ル義務ガアリ鹿ニモ身守ル権利ガアル。ソレト同ジ。負ケルノデハ無イ。オ互イニ救イ、オ互イニ傷ツケアッタ。ソレ以上ノ天罰ハ自然ニ反シ悪魔ト同ジ・・・・・・」
敵対心を剥きだしていたフォレスター達は、長老の説明で段々と戦意を消失させていく。パメラとセーラはそれに同調するかのように緊張と不安が和らいでいく。
バラバラと、集まっていたフォレスターは散らばりその広場には演説していた長老と屈強な男、そして救出した少年にパメラ達だけとなった。
長老は場を収めたことを確認すると、残った少年に指示を出しウェルバーは解放されレイアがいる小屋にまで運ぼうとし出した。それを見たセーラは直ぐに駆け付け、少年と共にウェルバーを運ぶ手伝いをする。
パメラは泣きながら後ろに残ったふくよかなフォレスターに深く一礼をしてから、セーラに続いた。
フォレスター達にとっては小さな裁判が、これにて終焉を迎える。
Colony Ⅱ Wanted
その夜。
ライトと話し合った甲冑の男が牢屋前までやってきた。
「将軍には話を通した。現在はお前も見てきたようにここでも内戦が頻発に起きていてな。簡単には戦地を離れることは出来ない。お前も漢なら分かるな?」
「・・・はい」
「・・・お前、出身コロニーはどこだ?」
ライトはドキッと心臓を一気に緊張させた。第1から逃げ延びてきたただの少年を装っていたものの、マイオス将軍の娘であるパメラとの繋がりや、ほぼ鎮圧されていた第1の、しかもその外部からの珍客。確かに不自然だと思われても仕方が無い条件は整っている。
「・・・第6・・・コロニーから着ました」
ライトは変な間を開けずに、正直に言うべきだと判断した。手配書がセンター教から出回っていることを承知で、何故かライトの直感は素直になるべきだと考えた。
「・・・ほう。そうか・・・・・・」
甲冑の男は少し考え込む。
そして、一枚の紙をライトの牢屋内へヒラリと落としてくる。
ライトはそれを拾い上げて内容を確認して見ると、覚悟はしていたものの目の当たりにすると驚きと冷や汗が少し滲む。
「詳細は分からぬが、これはお前に似ている気がするな」
そこにはライトとウェルバーの似顔絵が書かれた手配書であった。
ライトは黙っていると
「語らぬ、か。よい。俺は・・・俺たちはセンター教とは立場として協力体制ではあるが、思想や崇拝するモノは全く違う。中には、センター教に殉じようとも考えている者もいるかもしれぬが、大半のここの男は自分の中に神を持つ。我らが考える思想が貴様に分かるかどうかも知らぬが、強さとは己との戦いであり、他者、例えタワーや壁といった物だろうが、自然や精霊といった見えぬモノだろうが、我が信念や行動、言動を他者に預け責任を転嫁するようなことは無い。自身で考え、自身で切り開き、乗り越えて行く。ただそれだけのことだ。それを、例え不運や失敗を神やタワーの責任にしたとて、何になる?甘え、求め、拝み、称え、何になる?そのような暇があるのなら、この手で掴み取る。その意志と強さこそが崇拝でき、信頼できる唯一のモノではないか?」
ライトは少し、圧倒するようなものを感じた。それは決して威圧的で嫌なものではなく、ライトの中では肉体的な強さだけで測ることではなく精神的な強さを重んじている部分が、少し感銘めいたモノを味わったからだった。
「何故、私がここでこういった話をしているか、お前に分かるか?」
ライトはまだ黙って首を横に振っただけにした。
「お前はたった一人でここに来た。そして、真っすぐに人の目を見て話すことは、案外出来ることではない。ここでも、そういった目をしたものは少なかったりする。どこか自信が無かったり何か後ろめたいことがあるのか。そして、今この状態、牢屋の中だというのにも関わらずウソ無く語っている。それが分かったからだ」
男は顎で手配書を差し、ライトは手にしているその手配書を見ながら考える。誘導なのかもしれないが、ライトの直感は確信めいたものへと変わりつつあった。
「・・・僕の友人が、第6でセンター教に暗殺されました。その友人は一度、上層階へと行ったことがある方でずっとセンター教から隠れるように第6で暮らしてたんです。それが自分達の所為でバレてしまい、そして僕たちも・・・恩師であり親代わりである『チェバラ先生』も大分前に突然と消えていて、その行方を追っていたんです。何か、上層階とセンター教には裏があるようで・・・第6で何者かに襲われて、逃げるように第3へと向かいました。しかしそこでも内戦があり巻き込まれて、そこでパメラさんとも出会い行動を共にすることとなります。その後はここ第2のCheaterとの件を聞いたので、越えて第1へと入ると・・・後は報告させて頂いた通りです」
「チェバラ・・・だと?」
甲冑の男は動揺した表情で、ライトを見つめていた。
「??はい。・・・え、先生のことを何か知っているのですか?!」
男は何も言わずに、答えることも無く去って行った。
ライトは不安と懸念の心境に放置され、考えていても埒があかないと途中で考えるのを止めた。今はチェバラではなく自分達とパメラの事に集中しなければとその場を戒めた。
Devil's Forest Therapy
目の前に二人にとって重要な人物、ウェルバーとレイアが寝込んでいる。
パメラとセーラは気が気では無いが、ただ聞いていたフォレスターのイメージとは違い友好的だったことは安心ができた。自分達は食われるのではないか、子を産む機械にされるのではないか、そんなことが杞憂に終わりコロニー各内部からのあらゆる暴力からは逃れられている現状に、無意識的に安堵していた。
「・・・セーラ、もうちょっと寝たら?」
「・・・ううん、大丈夫。あんまり寝れないのよね」
介護、看護能力に差はそんなに無いが、献身的なその姿勢はセーラの方が集中力に違いがあった。汗を拭い、熱を下げるように配慮する。後は自然治癒の回復を待つだけの状態で、両者が起きている間、パメラは少し手持ち無沙汰と必然になっていた。
そこでパメラは、ここのフォレスター達と交友しようと思い立ったその時
「オハヨウ」
ふくよかなフォレスターが四人の小屋を訪れた。食事のようなイモを蒸したものと、新しい治療用だと思われる薬草の数々。包帯代わりの大きくて長い干し草を持ってきてくれた。パメラは改めて
「この度は本当にありがとうございます。我々はこの女性を探し求めていた所でした」
ふくよかなフォレスターはかわいいとも言える笑顔で
「我ラモアノ子探シテタ。オ互イ様ダ」
「あの子の足は、大丈夫ですか?」
「アア、モウ大丈夫ダ」
ふくよかなフォレスターはそう言いながら、レイアの容態をチェックしだした。貼り付けている干し草や薬草をどんどんと剥がして行き、レイアの身体は一糸纏わぬ姿となる。パメラとセーラは少し恥ずかしげに目を見開くが、ふくよかなフォレスターは一切の表情を変えずに手際よく医療処置をしていった。セーラはその手際や所作をしっかりと目に焼き付けようと、真剣に見て覚えようとする。途中、薬草の効能や処理の仕方などを質問し、フォレスターの医療を身に付けようとしていた。
レイアの身体や傷だらけで、いくつもの矢傷と刀傷が痛々しい。えぐれた二の腕には蛆が湧いていて、これを取ろうとしたセーラの手をふくよかなフォレスターは止めた。これは治療の一つで蛆が腐った組織を食べてくれているのだそうだ。
次にウェルバーの処置へと移る。
ウェルバーは頭部に食らった一撃が重症そうではあったが、体中の傷は大したことが無くすり潰した薬草を塗るだけだった。
「コノ腫レガ引ケバコイツハ大丈夫。コレ、水漬ケテ冷ヤセ」
セーラは使命を受けたかのように麻布を手に取り、大きく頷いた。
「あの、レイア様・・・この女性はどうやってここに?」
医療の方はセーラを主体的に任せ、パメラはさっき考えたようにいま行動を起こそうと質問をしだす。
「瀕死ナ状態デココノ村へノ道キタ。事情ハ知ラナイ。何ヤラ逃ゲテクルヨウニココニ来タ。コノ村、女必要。トリアエズ、助ケタ」
Colony Ⅱ Clandestine meeting
第2コロニー 監獄 深夜。
右端にただ座って居るだけの看守の頭は、上下左右にコクリコクリとふら付いている。狭い階段を下りて一番手前であるライトの牢屋からはその姿は安易に確認が出来た。
階段の左右と看守が見張っている場所の壁に松明が灯り、明るさが際立つ。牢屋側はそれぞれを隔てる石壁に一つずつしか松明は置かれていない為に、薄暗くて不気味だった。今にも処刑された囚人の骸骨なんかが化けて出るような、そんなジメジメとした湿度を感じる。
ライトは夕暮れ過ぎに話した甲冑の男の反応がどうしても気になって、なかなか眠れないでいた。第2とチェバラとの関係は何かあったのか。何故、何も言わずに去っていったのか・・・・・・
外は今、雨でも降っているのか、石作りの天井から滴り落ちて来る水滴をライトはずっと眺めていた。
・・・コンッ、コンコンコン・・・・・・
突然、寝転がっていた頭上側から小さな石が転がってきた。その元を辿ると、隣接しているだろう側の牢屋の壁が一か所だけ、石一つ分、欠けて空洞となっている。
「・・・おい、あんた。チェバラの知り合いか?」
その穴の向こうから、小さな人声がする。隣に囚人が居たのだった。ずっと物音一つせず気配が無かったので勝手に無人だと思っていたのが少しだけ驚いた。
「はい、そうです。チェバラ先生は・・・今どこにいるかご存知ですか?」
「・・・俺がここに入った当初、あんたが今いるそこに幽閉されていたよ」
「?!何故ですか?」
「そんなことは知らねぇ。みんな、どんな理由であれ偉いさんの誰かに嫌われたら捕まるのさ。善悪なんて関係ねぇよ」
「・・・あなたは、誰に何をしたんですか?」
「へっ、まぁ、そんなこたぁどうでもいいや。あんた、チェバラ探してるんだって?」
「はい、そうです。先生はここで、何か言っていませんでしたか?行先とか、何か、何でもいいので手掛かりになるようなことを」
「まぁ、落ち着けや。あんた、チェバラのなんだい?」
「先生は・・・親みたいなものです。実の両親が死んで、変わりに育ててくれた、僕にとっては父のような存在です」
「・・・あんたの名前は?」
ライトはまた一瞬、戸惑った。理由はさっきの指名手配だが、瞬時にもうここは牢屋で話しているのは囚人。彼に隠しても意味はないと諦めて素直に名乗った。
「ライトと言います。あなたは?」
「ほう、凄い。ライト・・・か。お前の兄の名前も知ってるぞ。ウェルバーだろ?」
「何故、知っているのです?!」
「しー・・・声が大きくなって来たぞ。看守が目覚めたら色々と面倒くさい」
「あ、すいません・・・・・・」
「・・・チェバラの奴に聞いたのさ、勿論。お前らのこと、残してきたことに後悔もしてたぞ」
「なぜ!?・・・なぜか、聴きましたか?」
「いんにゃ、その辺は詰まんなさそうだったから深くは聞かなかった。ただ、まぁ結局、こんな所に捕まったりして危険な道だっつって、残してくるしか無かったと自動自問を勝手にして結論付けてたさ」
「危険・・・先生は、一体何をしようとしているのです?」
「面白そうな話は、そこさ。あいつ、上へ行こうとしてたのさ」
「上へ・・・上層階に、ですか?」
ライトはチェバラが元々上層階の出身者であり、自ら降りて来た人だという事は伏せていた。と同時に、チェバラが降りてきたにも関わらずまた上へと目指す理由が、ライトだからこそ尚更、余計に分からないでいた。
「いや・・・更に、その上、だそうだ」
「!!??」
Devil's Forest Abduction
女が必要・・・・・・
その単語に、少し場の空気が響動みだす。パメラとセーラは冷や汗をかく面持ちで、理由を尋ねた。
「ココノ暮ラシは中ニクラベテ、キツイ。綺麗デハナイ場所。女ニハキツイ」
それだけを言って、なんだか悲し気な表情をしたようにパメラは感じた。
「何か・・・あったんですか?」
「色々ダ。中ヘ帰ロウトスル者。子供ガ生メナクナル者。・・・ソシテ、消エル者」
「消える??コロニアへ戻るとかじゃなく、消えるんですか?」
「ワタシタチはNomads、遊牧民タチトノ繋ガリがアル。中ヘハドコヘも簡単ニ入レルし情報モモラエル。消エタ者ハ本当ニ消エタ」
「まさか・・・悪魔、に?」
「・・・森ハ広イ。ソノ場合、アルカモシレナイ。お前タチガ引イテイル線ヨリモ、ワタシタチ奥にイル。道に迷イ、モット森ノ奥ヘ行ッタカモシレナイシ、中ノ奥ニ攫ワレタ、カモシレナイ」
「中の・・・奥?」
「お前タチ、知ラナイ。中にモ奥ガアル。ソノ奥、人攫ウ」
Colony Ⅱ The Big H Gate
更にその上と聞いて、ライトはチェバラに聞いた『The Big H Gate教』と『Fátima Gate正教』の話を思い出したが、言えないための唾を飲み込んだ。
「・・・更にその上って、何があるんです?」
とりあえずは知らないフリをした。
「さぁな。この上すら行ったことも無い俺にはさっぱり分からねぇな。ただ、チェバラはまるで上に行ったような口ぶりで話してたような気もするなぁ」
ライトは少し戸惑う。
「まぁ、とにかく、奴からあんたらの話とか聞いててよ。あいつの話を聞いてたら、なんだか俺もこんなとこに捕まってちゃダメな気がしてたんだよ。どうやって脱走するかずっと考えてんだが・・・あんた、俺らはもう知らない”よしみ”じゃねぇんだからよ、脱走するチャンスがあったら俺も一枚噛ませてくれや」
「あなたは、どうしてここに捕まったんですか?」
「へへ・・・まぁ、いいじゃねえか」
この後は謎の男の世間話や自慢話を聞かされて、ライトはいつの間にか眠っていた。
Devil's Forest Communication
「そんな・・・そんなこと、聞いたことがありませんよ・・・・・・」
「第1といった、荒れていたり争いが多発しているコロニーは確かにありますが・・・だからといってそんな無意味なことをして・・・目的は何なんでしょうか??」
二人の質問にふくよかなフォレスターは、少し怒りの表情が現れて言った。
「知ラナイ。ワタシタチが関ワレナイのが『センター』どもグライ。キットソコダロウ。ソコシカモウ考えラレナイ」
そう言って、ふくよかなフォレスターは俯きながら小屋を出て行った。
「・・・何か、聞いてはいけないことを聞いちゃったのかしら」
「・・・きっと、彼の大切な人が巻き込まれているんじゃないかな。もしかしたら、家族を探し出すために私たちの言葉を覚えて、今も探し続けてるのかもしれない。私はそう、感じちゃった・・・・・・」
「・・・センター教の、『人攫い』・・・こんなことって、本当にあると思う?」
「・・・分からない。ウェルバー様たちの話を聞いたり、ここのフォレスター達の雰囲気や、さっきの話・・・聞かされてきたことと全然違うし。ちょっと、色々と猜疑的になっちゃうわね」
パメラは躊躇う心と足を奮い立たせるかのように、去って行った男を追って外へと繰り出した。謝罪しなければという思いと、そしてもっと話し合いたい。そう、ウェルバーやライト、レイア達は積極的に、能動的に動いてくれている。自分とみんなの為に、やらなければならないことを一生懸命に。自分達も出来る事をしなければ。セーラは看護で頑張っている。パメラはみんなを繋ぐような外交、コミュニケーションで役に立とうと感覚的にそう思った。
小屋を出たその時、足を怪我していた少年に出会った。杖を突きながらだが、頑張ってどこかへ歩いて行こうとしている。
その少年がパメラの姿に気が付くやいなや、満面の笑顔で手を振ってきた。パメラもその元気な姿を見て、安心と安堵、そしてその笑顔で少し元気づけられた気もした。
Colony Ⅱ Audience
・・・ガァンガァンガァン!!
鉄がけたたましく鳴り響く音で、ライトは何事かと飛び起きた。
「おい、将軍が来られるぞ。起きろ」
まだ寝ぼけながらも、脳が緊張の指示を必死に出して全身の交感神経を追いかけるように奮い立たせていく。
一人では無く、何人かの足音が重々しく近づいてくる。
右側、良く寝ていた看守が座っていた方から三人の同じ髪型の男が顔を出してきた。やはり、ここでは長い髪を全て結うことが戦士の象徴ののようだった
「見せよ」
左手の、また別の甲冑の男が指示だけを飛ばしてきた。ライトは一瞬、何のことかが分からなかったが直ぐに気が付いたかのように『深紫色のクォーツ』の首飾りを自分の首から掛かっている胸元から出して見せた。
真ん中の、甲冑が少しだけ赤や黒に装飾をされ立派な髭を蓄えた、明らかに身分が高そうな人物が言った。
「手に取って、見てもよろしいか?」
低く、落ち着いた声が髭の中から聞こえる。
「・・・あなたがパメラのお父さんの、マイオスさんだ、と言うのなら」
「そうだ」
ライトは首飾りを外し、鉄格子に近づき腕を間から突き出す。
ぶら下がる『深紫色のクォーツ』が前後左右に揺れ、マイオスだと名乗った男はそのまま奪うことはせずに、そっとまるでわが子の顎に触れるかのように優しくチャーム部分の鉱石を指で掴み、まじまじと見回す。その目は慈しみに満ち溢れていた。
「・・・確かに。これは我が子に授けたものだ」
「これで、信用して頂けますか?」
「この品物は、間違いない。だが、お主がこれをどうやって手に入れたのか・・・我が子から盗みを働いた。もしくは、殺して奪った・・・。そうでは無いと、どう証明する?」
「それは・・・現段階では、出来ません。我々は、パメラさんと他二人と行動を共にする・・・せざるを得なかった状況だったのです。それらの事情を、あなたにだけはお伝えしたいと思いここへ来ました」
ライトはお付きの者や看守を見ながら、そう言った。
「ふむ・・・よかろう」
マイオスは顎でお付きに去るように指示し、二名は視界から消え看守も後に続いた。
「ありがとうございます・・・・・・」
ライトは全てを正直に話した。勿論、チェバラや隣の囚人、上層階といった話は伏せてではあるが、自分の手配書が回っていることも含め第6で起きた事から、第3の現状、そして一番重要な第1の崩壊・・・それらに追われるようにパメラを含めた自分達が追い詰められていることを強調として語り、パメラは第一に父親であるマイオス本人が気がかりでいたことを神妙に語った。
「・・・・・・そうか。なるほど。盗人や殺人鬼には到底、想定しようがないような話だな。では『チェバラ』について、話して貰おうか」
「!!・・・ここに案内してくれた人もそうでしたが、チェバラ先生とここはどういった関係なのですか?」
「・・・先ずはお主の話からだ」
ライトは少し不満げではあったが、それも仕方なしに思い表面的なことを説明していく。
自分の育ての親だったこと、そして行方不明で今もパメラと行動している兄のウェルバーとで捜索中であること。
そして、このタイミングでマイオスにだけチェバラが元上層階出身者であることを話した。それは吉とでるか凶とでるかの賭けであった。今まで散々、どこにも小さな情報ですら知り得なかったチェバラの情報がここで少しでもあるのなら、リスクは承知で話をした。後、先ほどのクォーツを見る時この男の目を、ライトは信用したのだった。こちらが警戒すれば当然、相手も警戒するのも当然というのもある。
「そういうことだったのか・・・・・・」
マイオスは少しの間、考え込んだ。まだ、それが何かは話してくれない。
『NEXT』⇩