【小説】『Dystopia 25』~楽園~Phase Ⅳ
Surface War. Continued
多くの女性が入り組む中、所どころに男性の姿も見受けられる。その殆どは装備が軽装な側に立っていて、恐らくこの争いの反乱軍に位置している。
そして先ほどの|Prober《プローバー》らしき勢力はこの騒ぎに乗じて好き放題やっている構図みたいだった。しかし、反乱側はそのプローバー達を利用している風にもウェルバーは感じた。
「・・・レイアを探さないと!」
「うん、どこだろうね」
「とりあえず、あの一番デカイ家に行こう。あそこがレイアの拠点だ。・・・どうせ、あいつは前戦に居るんだろうが・・・今はこの状況を把握することが優先だ。誰かに話を聞いてから、俺たちの行動を決めないといけない」
「うん、分かった」
ライトとウェルバーの二人は、床下から這い出て各建物の影に潜みながらレイアの家まで向かった。
「・・・誰もいないね」
屋敷はがらんとし、明かりも消されていた。
「どこかにレイアの”お付きの者”の一人ぐらいは居るはずだ。”明らかに戦闘員では無い”のがずっと傍に居たからな。そいつらなら外の一般民とは違い俺とも面識がある。話を聞けるはずだし、レイアの居場所も正確に聞けて俺たちの危険が減るだろう」
「・・・じゃあ、どこかに隠れている可能性があるね。もし、争いがこっちまで届いた時に、安全な場所へ」
「・・・そうか、ならまた地下だな。行ったことはないが話には聞いていた。どこかに隠し扉があるはずだ。探そう」
「・・・あったよ。多分これじゃないかな」
ライトが立つ下には筵が捲られ、床板の隙間から少しだけ松明の明かりが漏れていた。
「・・・っぽいな」
ライトが座り込み、板の隙間に指を差し入れ板を外していく。釘打ちがされていないので簡単に外せて、間違いなく隠し部屋への通路扉だ。
「大引き」と言われる床を支える支柱に「根太」が等間隔に。その一本がまた床板と同じく簡単に外れた。これで人が一人通れるようになった。
直ぐに石と土で簡易に作られた階段が見え、その少し先にはゆらゆらと明かりと影が揺らめいている。急いでここに隠れたのだろう。松明を灯したまま、一炬、落として入っていったのが伺えれる。灯りを持っていないライトがそれを拾い、階段を降りると直ぐ正面に木の壁が見えた。
「おい、俺だ。ウェルバーだ。誰か居るか・・・・・・」
少しの間があってから、壁が右へと動き中から怯えたレイアの側近である三名が顔を出してきた。
Factionalism
第3コロニーは基本、住居権利がある条件というのは『女性であること』のみであり、|Cheater《チーター》と呼ばれている云わば『ストーカー』のような存在から逃げてきた者や、それらから身を守りたいという人のために発足したコロニーで、その歴史も浅くはない。レイアで三代目のボス、代表でその取り決めは民主的であり全コロニー民からの投票で決定する。
しかし、その投票争いに敗れた者や結果に不満をもつ人間も当然のように現れだし、そういった火種を抱えているのは各コロニー代表を決めるという時点で、大小はあれどどこも同じ構図となっている。
第3は比較的、殆どが「女性」という共通点があるためにそういった紛争などはずっと無縁であったはずであったが、各宗派の派閥のように「どの程度、厳格にするべきか」で意見が分かれてしまう。ここでは・・・・・・
①徹底的に男性の排除
男性とその性器を「悪」の象徴とまで考え、女性による女性の為の社会を目指している云わば『過激派』
②家族や親族だけは特別
基本的には女性中心社会を築き、男性が婿に来るというスタンスにより家庭を持ち、子供が男の子だった場合は隣接する第2、第4コロニーの協力の元、定期的な交流を持つ『中立派』
③個人の自由と解放
個々の意思や趣向の自由と、言動、行動の自由を訴え閉鎖的な考え方を否定。代表とその統括は女性で管理し全コロニーとの交流の解放を上げる『リベラル派』
この三つの派閥による口論での争いに、終止符を打つことは長年出来ないでいる。なので知る人ぞ知る者、有識者からすると「とうとう爆発したか」という見解になっていた。
「みんな、レイアは?!」
「・・・レイア様は、現場の指揮を執ると仰られて戦場へ・・・私たちは定例として定められていた行動を取れとの命令で・・・・・・」
「やっぱりか・・・どうしてこうなった?!誰か知らないか?」
第3の参謀的ポジション、レイアの片腕の知識人リサが語り出す。
「恐らくは、としか今は言えませんが『リベラル派』の強行と思われます。以前から不穏な動きの報告は受けていました。第4の『男色鬼』、第2の『好色男爵』との密会の知らせが密偵から情報を得ていましたが、こんなに行動が早いとは・・・そして、これは私個人の考えではございますが裏で手を引いているのは『過激派』のグループだと思います」
「?!なぜだ?リベラルと過激派が手を組むことは絶対にありえないだろう。ここ第3と第2が仲良くするぐらいにな」
「ええ、絶対にありえません。つまり過激派の『フェミス党』がリベラル派を焚き付け、今回の反乱を起こさせた」
「・・・中立派であるレイア達にとって、今回の騒動の結末がどっちに転ぼうが、”始末”を付ける必要が出てくる・・・という訳か?」
「そうです。政治に関係が無い第3の民たちにとってもリベラルを恐れ畏怖し、その決定に反対意見は出なくなる」
「だから、|Prober《プローバー》や|Cheater《チーター》も引き連れてやってきた・・・恐怖と嫌悪、極端な危険度を知らしめるかのように・・・か」
「・・・ええ?奴らも参戦しているのですか?!」
「ああ、ここに来る途中で俺たちは見た・・・赤子をまるで獣のように貪る|Prober《プローバー》をな・・・・・・」
「!!・・・なんてことを・・・・・・」
三人とも悲観し嘆いている。リサがウェルバーの手を取り
「お願いします!どうか、どうかレイア様だけでも!なんとか!!」
「・・・ああ、もちろんだ」
ウェルバーの目には怒りと使命に燃えていた。
Aspiration
「ライトはここで一緒に残って彼女たちを守ってやってくれ。レイアの所には俺が行こう」
「でも!兄さん・・・・・・」
「大丈夫だ。ここには武器や装備が豊富にある。そうだろ?」
「ええ、まだ残っています。上・・・一階のは恐らくみんなが持ち出して行ったでしょうから、二階、レイア様のお部屋の隣・・・これが鍵です。ご自由にお持ちください」
「ありがとう。行ってくる」
ウェルバーは素早い動きで階段を上がっていった。
「・・・大丈夫かなぁ・・・兄さん・・・・・・」
「・・・あなたは、ウェルバー様のご兄弟ですか?」
「ああ、そうです、弟のライトと言います。初めまして。兄がいつもお世話になっているそうで」
「ああ、いえいえ、こちらこそお兄様であられるウェルバー様にはいつもお力を借りていらっしゃいます。あ、初めまして、私はパメラと申します。以後よろしくお願い致します。・・・先日もウェルバー様には私のCheaterを討伐して頂き、安心した夜を過ごせています。本当にありがたい限りです」
もう一人の側近パメラが慎ましく、深々と頭を下げてきた。
「いいえ、僕は何も・・・・・・」
側近の三人はともに、他の第3の女性たちのように筋肉質な肉体はしておらず、パメラは特に華奢で大人しい印象だった。逆に側近の三人はライトへの印象も同じく、華奢な男性だと感じていた。
「第2はこことは相対的に男性優位な思想の方が多く、亭主関白のような古い考えの人達がここ第3を良くは思っていないんです。肉体と精神の強さを重んじていて、欲望や快楽に負けることそのものを『恥』と捉え、その文化の反動でCheaterが出没します。その思想から反発し逃げ出してくる人の殆どが第2では弱者、根性なしと劣等感で育ち心を歪ませるんです。そんな中の一人に私がターゲットとなり、危うく襲われそうな所をレイア様に助けて頂きました。それから私はレイア様にお仕えしようとここ第3へとやってまいりました」
「じゃあ、パメラさんの出身は第2だったんですね?」
「はい。何とかここへ逃げてこられたのですが、そのCheaterは執拗に、ここと第2の隔たりをより強固にした城壁をも越えてきました。・・・今を思えばその時点でここの裏切者が手を引いていたのかもしれませんね。森の中に逃げ込んでは夜にまたやってきて、私の行動範囲を付け狙い幾度となく襲われそうになりました。そんな話をウェルバー様に打ち明けると、その夜には憎きチーターの首を狩って下さいました。本当にお強い方です」
パメラは目を煌めかせながら遠い目をしている。ライトはパメラがウェルバーに好意を抱いていることに直ぐ気が付いた。
「森は兄さんの庭だからね。密林のハンターとは兄さんの事だよ」
二人は子供が神話のヒーローを語るかのように、笑い合った。
「私たちはみんな、ウェルバー様を信頼している。今回も心配ないだろう。なにせレイア様とウェルバー様、二人の英雄がいるんだから」
リサの顔からは不安や懸念が消えつつあった。リサだけではなく、この場の四人ともがパメラの話によって勇気を貰い、希望を待ちわびることになった。
Truth
ウェルバーは鉄を製鉄し鍛えた片手剣と手甲鉤、手投げナイフを数点装備し屋敷を後にした。
コロニアの世界に殺傷目的に作られた武器の支給は一切無い。貴金属は農具としての斧、鎌、鍬などとして配給される。それらの鉄を錬金できる者がこの第3にいるのだとウェルバーは感心すると同時に恐ろしさも感じた。それぞれの使い方なんてのは具体的には分からない。しかし、本能と直感で用途を理解した。この鉤爪なんかは獣の爪にヒントを得た攻防ともに役立ちそうな物だとウェルバーは考えながら得物を選ぶ。
第3が、どうしても筋力や体力的に男性に劣ってしまう抗えない自然の摂理を、こうした武器や防具で補っていたことの象徴かと、生きぬく知恵を振り絞った結果だがなんだか悲しい想いも募らせた。
どうして争いが絶えないのか。どうして人同士が傷つけ合うのだろうか。
自然、動物の世界では捕食と繁殖の為の同性争いでしか戦わない。人間は、何のために争うのだろうか。
森の動植物は、自然の恵みを得ている。それらも神や精霊といった加護の地の恩恵を与えられている。自分達は配給という天の恩恵を得ている。ウェルバーだけでなくコロニアの民たちはみんなそう考えていた。木や土から青果物がどこからともなく実るように、それと同じに、それが当たり前のように天から降り注ぐ配給は空や雲、星、そして鳥たちからの恵みであり自然サイクルの中腹に自分達は存在すると認識していた。センター教とはその摂理に殉じそこに放蕩することが自分達の使命だと信じること。フォレスターは自分達も自然の一部だと考え、森の恵みと共に生きること。リスや鹿たちと我々人間との境は無く、同等の存在だと認識することにある。
ウェルバーはセンターの考えには昔から違和感と疑念を感じていたが、今回の騒動の渦中に身を置くと尚更、人間というモノを考えさせられた。
レイアのことは心の底から愛していた。先ほどまでは一秒でも早くレイアを元へと出向いて共に戦い、守り、生還することだけを考えていたが、洗練されたここの武器の数々を目の当たりにして、冷静さを取り戻した。戦況という興奮状態とレイアへの愛が無くこの武器を見たとしたら、拷問器具を見た時のように血の気が引くほどだったかもしれない。
その丁度、冷静と情熱が中和された心情で更に今、何をするべきかを考える。
レイアを探しながら、降りかかる火の粉を払うように戦い進む。
自分は獣と変わらない。フォレスターの真理を見た気がした。冷静に、自身を守るために殺す。そこに一片の曇りは無い。子を守る親熊や狼でさえ、防衛のために行動しなきゃいけない。でないと我が子が殺されるからだ。だから今、自分と同じく第3の女達は戦っている。標的はその子を襲う者たちだ。なんの為だ?腹が減ったなら配給食を食べればいい。子が欲しいなら自分で生めばいい。なぜ奪う?獣、自然とは逆だ。自分の子じゃない者を排除する獣は稀にいる。どうしても飢餓で死にそうな場合に、子を捕食してしまうという、いたたまれない残酷な現実だが理解はできる。しかし、他人の子を奪い、腹も減っていないのに喰う人間というのは理解できない。
ウェルバーは目の前で子を襲うプローバー数人を鬼神の如く切り倒した。
お前たちは何だ。人間とは何だ。こういった争いの先に何を求めているんだ・・・・・・
『争うことが目的なのか?』
Gender Neutral
「・・・ところでライト様、あなたたちはどうしてここへ?」
「・・・ああ、そうですね。ええっと・・・・・・」
ライトは第6での経緯を三人の側近に話した。
「・・・・・・そうだったのですか。大変でしたね」
パメラが悲しそうな表情でライトを見つめる。続いてリサが口火を開く。
「第6もか・・・詳細までは分からないが、第2へ送った密偵からは第1も酷い争いの最中だと聞いている」
「兄さんから聞いたんだけど、第4もフォレスター達と揉めているって言っていたよ」
「・・・あちこちで、もしかしてこの世界が・・・コロニア全体で何かが起きているのだろうか」
「急に、そしてほぼ同時期に色々起きてますね。まるで差し図ったかのように」
「各コロニーの趣向、例えば私たちのように第3の女尊社会と第2の男尊社会での争いなら分かる。それはずっと昔から対立してきた話だが、そんな規模の話ではないとしたら、各フロア共通のモノと言えば、センター教とフォレスター・・・・・・」
ライトは上層界のゲート教やファティマ正教については黙っていた。話が更に複雑になりそうだったのと、ライト自身も上階の詳しい部分は分かっていなかったのもある。
「・・・あの、私は第4の出身者なのですが・・・・・・」
ずっと黙って聞いていた三人目の側近が声を上げた。
「ああ、そう言えばセーラ、あんたそうだったわね」
「・・・関係があるかどうかは分かりませんが、第4は違う意味でのこことはまた真逆の世界、『男性同士』の世界です。しかし、第2のように反発ではなく尊重としてここ第3と折り合いを付けつつ関係を持ってきました。お互いが似たもの同士として意見が一致してきましたから」
「ああ、そうだよ。それはみんな知っているよ。敢て言ってないだけでさ。それがどうしたんだい?」
「・・・私の両親はそんな中でも男女として結婚し、私を生みました。しかし母が亡くなって私はここへと移住してきました。母が亡くなる前に言っていたことですが、第4の世界観が生まれたのはこの第3からあぶり出された男性たちが第4に集まり、出来た世界だと・・・・・・」
「へぇー」「そうだったんですか?!」「なんか、複雑ですね」
「そう聞くと、原因がこの第3にあってここを憎んでいるんじゃないか?って、思うじゃないですか。しかし、恨みとか何かそういった感情は不思議となく、昔から今と変わらない関係性だったようなんです。私がこっちに来た理由ですが、殆ど女性がいなかったので憧れもあったのですが、そんな歴史的な違和感と原因を調べようとの思いから来ました。そして、私は産婦人医師として多くの人と関わり聞いた話ですが、きっかけは当時ここの男性が女性化したから・・・と、もう既に今は亡くなられた老女様に聞きました。更にその原因までは分かりませんが、次々と男性が家庭を持ち子供を生み守るといった行動と意思を失って行き、そして自然と女性が強く自分と家族を守る必要性が生まれて、この第3が誕生した・・・らしいのです」
「なるほど・・・もうその先は卵が先か鶏が先か、みたいな話になりそうだね」
「そういった世界、云わばどちらも自然の摂理に反する思想だと、フォレスター達は忌み嫌っているんじゃないでしょうか。今の私たちレイア様率いる『中立派』であれば、フォレスターもまだ許容の範囲内だと考えその敵意は第4に集中した・・・・・・」
「・・・辻褄は合うわね」
「・・・えーっと、ここらで状況の整理をしましょう。つまり、第4はさっき聞いたようにフォレスターとの冷戦。僕の第6はセンターの陰謀。ここの第3は第2のチーターと自フロアのプローバー達の暴走・・・では、第1は??」
Lewdness
冷静になったウェルバーは、状況の判断も早く的確だった。通常であれば感情的にレイアの元へと行き、共に戦う姿勢で敵を迎え撃つ所であるがそうはしなかった。真っ先に敵の大将、リーダーだと思われる者を探しに敵側へと侵入する。レイア側は当然のように女性だけの軍勢であり、男性であるウェルバーがそこへ行こうとすると、ウェルバーの存在も顔も知らない一兵士や一般民に敵軍に紛れたチーターと勘違いされて前戦で戦うことになる。そうなるとただ味方である者どうしの無益な戦いだ。逆に反乱側には数人のチーター男性が混ざってそれらも利用している為、男性であるウェルバーとしてもそれが隠れ蓑となり安易に敵戦地へと、変な動きをしない限りバレずに侵入できる。そう考えてイカれたチーターのフリをしながら頭領っぽい人物を当たる。
何人かの、恐らくチーターだと思われる死体は木で作られた『仮面』を被っていた。自己主張をしたいチーターは好みの女性へのアピールとして顔を晒す傾向にあり、そいつらはまだチーターの中では常識的な方である。一部、ただの快楽主義者にまで落ちたクズどもは、この非常時に紛れて好きに暴れ犯したいという腐った思考を持っていて、そいつらは人間として・・・いや、生物としても道を外した外道である。ウェルバーはそいつらを殺したいという衝動を抑えながらも、その汚れた仮面を被りこれを指揮している頭を探す。
前方に見えたものは分かり易く、神輿に担がれ椅子に座っている『好色男爵』の姿が見えた。こいつは一部では有名なクソ野郎でウェルバーの耳にも入っていた。名前も聞いたが胸くそすぎて覚えていなかった。
第2文化である男子としての潔癖な程の厳格理想主義は、ここ第3で発生したプローバーのように深刻な影を生み出す。それがチーター達であり、その頂点かのような『好色男爵』は第2の裏社会を牛耳っていた。
第2では第6のヘクトールのように重鎮の家系であり、敬虔なセンター教徒の一人。その権力を活かし裏の世界での異名は『奴隷商人』。レイアが一番敵対している人物だった。多くの女性を誘拐、拉致しては調教と意にそぐわぬ者は惨殺してると言われている。ウェルバーは『拷問器具』から追って好色男爵へと辿り着き、その道中でレイアと出会った、そして目標が同じであり意気投合したのである。
その討伐すべき第一人者が目の前に、手が届きそうな場所で笑っている。ウェルバーは危険をも顧みず、標的へと一目散に走りだした。
Ghetto
「・・・そう言えば兄さんが第1と第7もプローバーが多発しているっていっていたなぁ」
「レイア様が、ここ最近は第1の代表が会議に参加してこない・・・とも言っていた。ここと同じく内戦の対応に追われていると思ってはいたが・・・パメラ、第2では第1との争いや関係性についての何か情報はないのか?」
「いいえ、無いですね。第1とは全くそんな話すら聞きませんでした。ここと第4のように、非常に平和的だった印象です」
「そうか・・・・・・」
「あの、なぜプローバーという人が生まれるのか、誰か知ってますか?」
ライトは素朴に質問をしている。その表情や態度には深い意味や揶揄めいたものはなく、側近たちの誰も嫌な気にはならなかった。ライトにはそういった能力というか、魅力が昔からあり誰もが素直に教えたくなるという素質を持っている。
「・・・ああ、えっと、他は知らないが、ここの場合は・・・まぁ女ってのは殆どが安心、安全な暮らしの中で出産して子育てをしたいものなんだ。そうじゃない者も、ここには沢山いるけどな。そして女ってのは嫉妬深いってのもまた、基本なんだよ」
「どうして?他の人のものを欲しがるのなら、自分で手に入れるかなにかしたらいいんじゃないの?」
「・・・あのねぇ・・・あ、あんた、童貞だろ?」
「ええ?!なんで分かるの?!」
リサ以外の二人は、首をうな垂れ気まずい顔をした。
「・・・そうか。えっとなぁ・・・別に欲しいって欲望だけじゃあないんだよ。気に入らない相手を蹴落とす、その対象が不幸にならなきゃ意味がないって考えている人もいるんだよ。解れよ!」
「ええ?!解んないよ。みんなが幸せになればいいじゃない」
「・・・もう、いいわあんた・・・・・・」
「???」
「あ、あの!・・・第2で得た情報ではないのですが、第1に行ったことがあるって人から最近ここで聞いた話ですが、第1の活気って言うんですかね、大分と他のコロニーと比べて『廃れていた』とは言っていました」
パメラが気を使ったように話を戻した。
「廃れて・・・なにがあったんだろうか」
リサは思い当たる情報を必死に引き出してた。
「あ・・・それと、なぜ育児放棄が始まったのですか?」
ライトはまた、自分が聞きたいことを実直に質問し出す。
「・・・その件は私たちも難色を示してまして、問題解決へ最優先事項として取り組んでいた最中なんです」
パメラはまた、悲しそうに涙ぐむ。
「当初は、男児を生んだ母親たちのグループによる問題定義から始まったのです。男児は8才を期にこのコロニーからは追放される決まりでして、私たち中立派としてはこのルールの検討を幾度となくしてきましたが、答えが出ないまま民たちの不満が溜まる一方でした。チーターやその他あらゆる男性からの被害者さん達、そして捨てられ残された者達からすれば徹底した男性の排除を望む声もあり、そしてその心情の考慮もしなくてはなりません。しかし、子を思う母心も無碍にはすることも出来ず、あらゆる矛盾が生じてました。そんな中で、例えばチーターに襲われて生まれた子をどうすればいいか、あなたに分かりますか?」
「・・・い、いいえ、想像もつかない程の苦悩だとしか・・・言えません・・・・・・」
「そうでしょう・・・自分自身は男性への恐怖にて、ここを離れることも出来ず、かといって子だけをここ以外のコロニーへまるで捨てるかのように追放することも出来ないでしょう。正式な伴侶が居れば、その元へと送り届け定期的に会いに行けます。その規制はありません。もしくは、子と共に母親も移住するか。そこも自由なのです。しかし・・・その選択肢すらない者にとっては・・・中には森へと、フォレスターを求めて行った者もいます。しかしその勇気もない者、他フロアから逃げてきたような身寄りもない者、そしてその子をしっかりと我が子として愛することも出来ない者なんかは、どうすることも出来ないのです。私たちは出来るだけそういった不遇な母親と子の為に生活ルートの確保を支援してきましたが、手が回っていなかったのと分子の数が増えてきて受け入れる分母、受容をオーバーしてきました。一番の受け入れ先は第4コロニーでしたが、あらぬ噂が飛び交いました。それが『男色鬼』です。その存在の有無も分かりませんが、その名の通り男性の奴隷化をしているらしい。第2の『好色男爵』の女好きとは真逆の存在です」
「凄い・・・僕は殆ど第6から出て行くことがなかったので、知らない事だらけです。そんなことになっていたのですか」
「はい。そうして最大の受け入れ先である第4へと送り出すことも拒否し、隠れて育てだす者が現れたり、そういった煩わしさから全てを放棄し捨てる者すら現れ・・・恐らくですが、そういった母親やそんな状態を見かねた者たちが現在のこの騒動に参加していると思われます」
「でも・・・その後はどうするのでしょうか。もし、ここの規律や制度がなくなったら・・・・・・」
「はい。完全に無法地帯となりチーターの餌食に・・・更に望まれない子が生まれ教育体制もままならずに更なるプローバーを作ることになります」
「なんとか話し合いをしなきゃ!」
「ええ、全力を尽くしていましたが・・・放棄した母親は自分自身の身だしなみや色気を出すことに没頭するのです。第4の男色勢と同じく、自分磨きに専念し他のことには無頓着となり、行き場を無くした欲望が捻じれて同性と愛し合うことになってしまうのです。もう、子供が生まれてどうこうと対処をすること自体に恐怖を覚えてしまい、自由を自身の為だけに主張してしまっている状態で、全体や今後のことなど聞く耳を持てずにいます。過激派と言われています初代元代表家系が率いる『フェミス党』の者達は、厳格にそんな思想は甘えだと徹底した姿勢も見せていて話し合うことすら拒否し続けていまして・・・もうどうすることも・・・・・・」
Subjugation
ウェルバーは他に何が起きようが、真っすぐに男爵だけを見据えてひた走る。あと一歩の所で参謀と思われる男に捕まり食い止められた。
「貴様ぁ!どこに向かう!?」
ウェルバーはそのまま後ろへと転がり巴投げで配った。
他に男爵の側近は妾のような女性ばかりで、みんな突然の出来事で委縮しているだけの状態なので、すぐさま好色男爵の顔面目掛けて剣を振り降ろし、眉間まで食い込ませ有無も言わさずに命を奪った。
「あ・・・がっ・・・な・・・・・・」
バロンは左目が剣圧で飛び出し、舌を出しながら全裸で禿た頭から血が滴りピクピクとひくつく下衆な肉塊へと変わり果てた。
周囲の者達、第2の者だと思われる民たちは唖然とし、何が起きたのか把握する間が生まれ戦闘の嵐の中心、台風の目のようにそこだけ静寂に包まれる。
その静寂を破ったのはその|台風の目《eye of the storm》を作り出したウェルバー本人だった。
「おい!この争いを止めさせろ!!みんな騙されている!陰謀なんだ!!」
先ほど投げ飛ばした参謀に向けて、神輿の上から演説する。
「俺は第6のウェルバーという者!みんな聞けぇ!これは全て『過激派』の罠だ!この騒動の後、お前たちが勝とうが負けようが、また反対組織へのヘイトが溜まる!そうなると同じ反乱が生まれる!それが奴らの狙いだ!第6でも同じ構図で俺は命を狙われた!今、無駄に力や命を使ってはならぬ!疲弊した処を狙われるだけだぁ!!」
「・・・おい、ウソを付くな」
参謀の男が一気に不安顔を見せた。
「本当だ!俺はそのことを伝えにわざわざ命がけでここまで来た!やめろ!利用されちゃダメだぁ!!」
どこからか、一人の女性が現れ、
「この男の言っている事は本当だ!」
レイアがウェルバーの隣、神輿に上がって隣へと降り立った。
「おい・・・・・・」
ウェルバーはレイアを制そうとするが、それすら無言で頷き笑顔を見せて制してきた。
「いいか!みんな聞いてくれ!この男は、私の|婚約者《フィアンセ》だ!!」
「おい!!」
ウェルバーは驚きと焦りで戸惑った。
「もう、いいんだ・・・・・・」
レイアは悟ったかのように、また笑顔でウェルバーを見つめる。
「私たちは決して、お前たちを縛ったりはしない!ただ守りたいだけなんだ!男性を見下したり、嫌煙したりもしない!むしろ尊敬している!私はこの男と出会い、男とはどんな生き物なのか、そしてその素晴らしさを知った。中にはゲス野郎も確かにいる。たった今、死んだこの男のようにな!!しかし、女の中にも同罪な人間も居るんだ。見ろ!隣にいる奴を!血にまみれ、中には子供を喰い散らかし蹂躙している、その姿は私たちを襲ったチーターとどう違う?!同じではないか!!みんなでこの矛盾した世界を変えよう!男が偉いわけでも女が上な訳でも無い、みんな同じ人間だ!」
「女帝よ。主の今の言葉・・・こんな公共の場で・・・もう否定はできんぞ。分かっているのか?」
参謀が詰め寄る。
「ああ。当然だ」
そういってレイアはみんなの前でウェルバーに熱い口づけを披露し、どよめきと騒めきが周囲を支配した。
「・・・よかろう。第2の民よ!みんな引けぇ!!」
後続に防衛線として張っていた過半数の男たちがぞろぞろと去ってゆく。どこかも分からずに参戦していた第3の民も、まるで燃料が切れた焔の如く消えていく。最後には残党のように暴走したままのチーターとプローバーが数人、状況の把握が出来ないまま正規軍に捕まり、その場で処刑され一晩限りの表層戦争は幕を閉じた。
Lovers
「・・・おい、いいのか、これで!」
ウェルバーが心配そうにレイアの耳元で囁く。
「ああ。もう、この場を収めるにはこれしか思いつかなかった。男どもを立て、女どもに希望を持たせるしかな」
「しかし、今度は過激派が・・・お前の命すら狙われることに!」
「私の命一つで大勢が助かる。なら、それでいいんじゃないか?」
「バカ!!俺の気も知らずになに勝手なことを・・・・・・」
レイアが指先一つでウェルバーを黙らせた。
「ふふ・・・じゃあ、共に駆落ちでもするか。それも一興だ。私を攫って行ってくれ。お前ももう、帰る場所は無いんだろ?」
ウェルバーは呆気に取られつつ、女帝の圧制に完全に負けた。
何人かの部下らしい者たちがレイアに言いたいことがありそうにやってくる。が、ウェルバーとの間に割って入ることが出来ないでいた。さっきの演説と演出をまるで裏付けるかのような二人の関係が、無言に答えを表している。部下は殆ど中立派が占めるが、過去の出来事により過激派寄りな者もいる。レイアを慕っている者はウェルバーと同様に心配で気が気ではない様子だ。
「私は・・・もうダメだ、ウェルバー。お前がここまで来てくれた。そして、あのクソ野郎男爵も始末してくれた。こことは殆ど関係のない第6の民なのに・・・もう、ここの教えに殉ずることも私にはできそうもない。そうさせたのは、ウェルバー、あんただからな」
『NEXT』⇩