【小説】『Dystopia 25』~楽園~Phase Ⅶ
The Three Chosen part Ⅵ
「やぁ、チャーリー。元気かい?」
「・・・・・・」
「最近は、みんな大人しいけどどう思う?他の二人について」
「・・・・・・」
「君にだけ、これを聞いているんだ。ぶっちゃけどう思う?彼らは自分が神だとか、救世主だとか言ってるけど・・・・・・」
「・・・あいつらは精神異常者だ。もう、ここから出してくれ。あいつらの顔すら見たくもない」
「やぁ、シェフ。元気かい?」
「・・・・・・」
「最近は、みんな大人しいけどどう思う?他の二人について」
「・・・・・・」
「君にだけに、これを聞いているんだ。ぶっちゃけどう思う?彼らは自分が預言者だとか、神だとか言ってるけど・・・・・・」
「・・・あいつらは・・・機械だ。人間じゃ無い、ただの操り人形さ」
「やぁ、ジム。元気かい?」
「・・・・・・」
「最近は、みんな大人しいけどどう思う?他の二人について」
「・・・・・・」
「君にだけに、聞いているんだ。ぶっちゃけどう思う?彼らは自分が預言者だ、救世主だとか言ってるけど・・・・・・」
「・・・あいつらはもう、死んでいる。存在しないただの肉塊に過ぎない」
Colony Ⅰ 【Residence】
ウェルバーは静かに後ずさり、まだ意識が無いフォレスターの子を抱きかかえて、周囲をまるで猫のように警戒する。ライトが言っていた右側、第8コロニー側の壁へと急いで向かい合流を急ぐ。ライト達が気がかりで仕方が無かった。
「・・・あまり中央へは行かない方がいいよね」
「そうですね。基本的にタワー周辺の中央エリアは廃れたとはいえCenter教が占めていると思われます。私たち、特にライト様お二人の手配情報が回っている危険もありますし、ウェルバー様が言うように遊牧民達と出会う目的も含めて、外周付近に陣取った方がいいかもしれません」
「でも、私たちが簡単にここへ入って来れたように外側、森からどちらかの追手が来ないとも限りませんよ」
「そうだね。それに、レイアさん達との合流もしなきゃいけないし・・・見張り、治療、調達、捜索の内、今は治療と調達に専念するしかないね」
「あの・・・万が一、もしかしてですけど、中にいるとタワー中央からと外からと、挟み撃ちにされてしまうのでないでしょうか・・・・・・」
「確かに、それが最悪のシナリオだね。んー・・・あの子、|Forester《フォレスター》の子はやっぱり、ある程度の回復が見込めれば早めに森へと帰した方がいいってことになるね」
「問題は、それまでの間をどうするか、ですよ」
「じゃあ、最北端の外周に、ちょっと面倒だけど廃材を集めて僕らの新たな雨風ぐらい凌げる程度の家屋を作って、必ず一名はさっき僕らが扉を開けた外周の高台で見張りを立てつつ少年の回復を待とう。そうすれば、なんとか追手がきても直ぐにまた森へと逃げられるよ。・・・あと・・・・・・」
「??どうされました?」
「・・・うん、もしも、だけど。僕の甘い考えだと思うけど、あの子、フォレスターの子を救出したから、あの子を通じて何とか僕らもフォレスターの仲間にしてくれれば、本当の一安心かな、ってのもあるかなぁ、みたいな」
「ええ?!・・・ちょっと、それは・・・・・・」
パメラとセーラは一応に、従順なセンターの教えが刷り込まれているので対立するフォレスターには自然と抵抗感を示す。
「あ・・・、そっか。二人は僕らとは違い、第2と第3のリベラル派、保守過激派から逃げておけばいいだけでセンター教は危険では無いんだっけ」
「・・・いえ、ライト様たちから聞いた話で、センターに携わっていた私はその背景に推測と心当たりは感じます。たまたま第3だけが火種の種類が違っただけで、第2や第4への”根回し”が私たち第3女性陣だけで行われたと考える方が不自然です。そこにセンター教という大きな力が関わっているとすると、私たちもセンターの情報網にリスト入りしている頃でしょう。両手離しで安全とは言い切れません」
「だったら、まぁ直ぐにとは言わないけど、森へ、フォレスター達と和解しなきゃならない場合もあるから、心構えだけは念頭に入れておいて。どうなるかは分からないから強制はできないけど・・・オーヴェルっていう、兄さんと同じぐらい強くて頭のキレる人が第6に居るんだ。状況が落ち着いたら彼と接触してみんなが安全な場所を確保してくれるよ。それまでの辛抱だと僕たちは考えているから、それまでの時間が稼げればなんとか・・・・・・」
a cruel corpse
ウェルバーは少し駆け足で、かつ出来るだけ物音を立てない様にライト達との合流を目指す。
すると、前方の壁際に人影を見た。すかさず右手建物の影に身を隠し、少年を家の壁に背を預け座らせた。
ウェルバー自身も同じように建物の壁を自身の背後にして、もう一度前方を確認。やはり一人の男がフラフラと揺れるように立ち尽くしていた。揺れの反動で前へと少しづつ進んでるように見え、頭と視線はずっと上空を見上げている。道端に放置された壊れた椅子に膝をぶつけて足を取られるが、フラフラとまた立ち上がり同じ歩行を繰りかえす。
ウェルバーは手頃の石を拾い上げ、中央壁側へと石を目一杯投げて物音への反応を見る。
カンッ!カカンッ・・・カン・・・・・・
投げた石は木組みの基礎に石と土で作られた各コロニー間を隔てる壁に当たり、スラム化した静かなる町と家々に反響する。
壁側前方に呆けながら立たずむ男は、その音に敏感に反応し今までの間抜けそうな動きから一変、俊敏に音のする方へと駆け走った。そして隠れた建物の中央側前方でもう一人、ウェルバーが投げた石の音の方へと凄まじい速さで走り抜ける人影が横切った。
ウェルバーは肝を冷やす。
点々とだが、しかしなかなかの数の|Prober《プローバー》が彼方こちらに居ることが分かった。
このまま壁側まで行き、壁沿いに南下することは諦めて出来るだけ建物や木々に身を隠しながら、ライト達のいるだろう場所まで向かう。
「完全に倒壊しちゃってるとこや木組みだけの剥き出しになっちゃったとこらへんは、見渡しは良いけどこっちもバレバレ。休まる事がないからギリギリのラインで、自分達で家を勝手にだけどリノベーションしながらにしよう。とりあえず、本当に誰も居ないのか調べてから、だよね」
「手分けして当たってみますか?」
「いや、それはダメだよ。女の子だけにしてはおけない!」
ウェルバーが居ないので、ここはライトは頑張って自分が守るんだ、という意気込みで答えた。
「「うふふ」頼もしいですよ、ライト様」
「???」
三人は一緒に一軒づつ、誰も居ないかを確認していった。
「この辺・・・あ、この家がベストかな」
「本当に誰も居ませんね。みんな中心部にでも集まっているのでしょうか」
「・・・もしかして、『悪魔の森』に住む悪魔・・・死神にでも襲われたとか・・・・・・」
「「・・・まさかぁ」ちょっとなんか怖いこと言わないで」
ライトがなんとなく選定した家の中へと入ってみると、なんだか変な臭いに三人ともが気が付く。
「・・・クサい!なにこの臭い・・・・・・」
「何かが腐って・・・アンモニア、肥料・・・血の臭いだ。二人は家を出て、別の家の中に隠れてて」
パメラとセーラの二人は手を握り合い、そそくさと外へと駆け出る。ライトは玄関先にあった火掻き、灰掻きに使うような火鉢棒を取って奥へと進んだ。
ウェルバーと森へと狩りに行った時、狼かなにかの肉食獣に襲われただろう鹿の無残な死体を見つけた時、その時の臭いに今のこの感じが似ていた。野獣を警戒しているが、コロニー内で野獣の被害は聞いたことが無い。しかし、この時のライトは「勇気を出して女性を守る」という使命に初めて燃えていた。
玄関先の台所、釜や囲炉裏の奥へとライトが頭だけを出して見ると、そこにはバラバラに散らかされた人の死体の肉片が壁や天井にすら付着し、様々な昆虫が群がっていた。ウジが沸き、ハエが飛び交い、チャタテ、ヒメマルカツオブシムシ、ゴキブリ、シデムシが床を這いずり回っている。
「うえぇ!おえぇぇぇぇぇ!!」
ライトは気分が悪くなり咽返るが、胃の中にはもう何も吐く物が無く涙だけが頬を伝う。
Cannibalism
「ライト!」
「!?兄さん!!」
ウェルバーは”一人”で、ライト達を見つけてやってきた。
「兄さん、あのね」「ああ、分かってる。これはプローバーの仕業だ」
「プ・・・プローバー・・・・・・」
「しかも、一人や二人ではない。井戸があった中腹らへんには結構いるぞ」
「・・・あれ、あの子は?」
「水分補給をさせて、鍵付きの部屋に寝かせてきた。お前らが心配で先に戻って知らせておかないと、と思ってな」
「僕も、さっきバラバラに食い散らかされたような死体を見つけたんだ。女の子たちの身を隠させて、今から兄さんを探しに行こうとしてたとこだよ。丁度良かった・・・安心したよ」
「ここは予想以上にヤバイな・・・直ぐに出て第8か森へ行こう」
「うん、そうだね」
「俺はまた戻ってあの少年を連れてくる。ここ一画のどこかの家で待機しててくれ」
そう言ってウェルバーは水を入れた皮袋をライトに渡す。
「ありがとう。分かった。一人で大丈夫?」
「ああ。一人の方が見つからずに動きやすい。二人を頼んだぞ」
「OK」
セーラがフォレスターの少年を改めて手当をしている。
「熱も高いわ。これじゃあ絶対安静よ」
「どうする?・・・もうすぐ日が暮れてしまう。今夜はここで泊るとして、その後は俺は森へと向かった方が安全だと思うが」
「この外壁付近にプローバーは居ないよ。あれだけ僕たちが見回ったんだ」
「この子を担ぎながらの移動は逆に危険ではないですか?せめて意識が戻って、自分で動けるまでは・・・・・・」
「・・・全体を逆に考えれば、捕食ターゲットが見境が無いプローバーなら、敵が来てもそことの戦いになるね」
ウェルバーとパメラは、そのライトの提案で沈黙し考え込む。
「・・・そもそも、ここの人たちは全員、プローバーに食い殺されたってことになるのでしょうか・・・?」
「んー・・・まさかそんなことは・・・な」
「ここのプローバーの出現がいつからかが分かれば、だけど、多くの人が徐々に逃げ出していったんじゃないかな。外周側の家屋の廃れ具合は数日でできるものじゃないよ」
「第2が・・・第3を掌握しようと急ぎだしたのも、ここのプローバーが増えてきたことに関係がありそうですね」
「中腹へ行くほどに、奴らは増えていくんだよね。じゃあ、タワー近くの中心部はどうなってるのだろう」
「・・・今後のことを踏まえても、確認しておく必要があるかもしれないな」
「・・・え?どうするおつもりですか?」
「今夜、闇に乗じて中心のタワー付近まで偵察に行こうと思う」
「き、危険ですよ!」
「静かに・・・一応、奴らは音に敏感だ。ここでも念のため声は下げててくれ。偵察だけじゃない、食料と医療器具、薬なんかも必要だろう。あの子の熱は完全に菌に感染している。傷口の洗浄も水で流すだけではダメだろう?」
ずっと看病していたセーラが答える。
「・・・はい。抗生物質と傷口をブラシかなにかで擦り、泥や砂を完全に取り除かなくてはなりません。最悪の場合は、足を切り落とさなければならないことも・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
パメラが嘆くようにうな垂れる。
「・・・僕も行くよ。荷物持ちぐらいには役立つよ?」
Purge
第1は明かりとしての松明や篝火は殆ど消えていた。しかし、タワー下の中央は遠くからでも少し明るく見える。やはり中央へと、タワーへと逃げた第1の民が一定数いる様子だ。
今宵は月も薄く闇夜が不安を掻き立てる。しかし、視認が難しいのはプローバー達も同じ。ウェルバーは森の更に漆黒の闇で慣れている分、優位に動けると自信があった。
出会い頭にばったりと、プローバーに出くわしてしまうことは避けれない。なので急な戦闘になった時のためにウェルバーとライトは腰に紐で繋ぎ、両手が空く状態で離ればなれにならないようにした。そして両手には斧や手投げナイフなどの武器を手に、まるでネズミのように障害物に沿って中央へと進んでいく。
外では最悪、逃げの一手が使えるが屋内、室内で出合わせれば危険である。なので、突入する家屋は厳選する必要があり各コロニーは真ん中にメイン道路がタワーを始め外壁の扉まで一本続いている。そこから三つにサブストリートが分岐し、そこからまるで毛細血管のように小道が分かれている。そのメイン道路に配給された各物資が屋台のように並べられ、食料、家具、衣類などと分けられて民へ分配しているので、メイン沿いの家がそれらのストックを管理している建物の可能性が高い。開けた道なので見つかる危険性が増すが、必ず死闘となり得る密集地域よりかはマシだった。
「・・・ここに入ってみよう」
ウェルバーが足元に医療品らしき物が散らばっている場所の建物を差した。
「そうだね。先に薬とかを手に入れよう」
「ライトはここで外を警戒してくれ」
ウェルバーは腰の紐を解く。
「兄さん、薬がどれかとか分かるの?」
「適当に持ってくるよ。違っていてもいずれ必要になってくることもあるだろうし。配給される錠剤や粉末とかの判別はできないが、薬草や漢方などの草は見れば分かる」
「チェバラ先生の手伝いをよくしていたから、僕は基本的な薬物なら分るよ」
「そうか・・・じゃあ一緒に来てくれ」
幸い、医療ストック小屋内には誰も居なかった。
充実した医療物資を調達し終えた二人は、次に食料を獲得するべくもう少し中央へと向かう。
「・・・待て」
ウェルバーの前方に、プローバーが数人メインストリートを横切っている。
「・・・ねぇ、なんで奴らはプローバー同士で戦ったり襲ったりしないのかな」
ライトがまた素朴な質問をこんな状況でもしだす。
「俺に分かるわけないだろう。ただ、そうだな・・・俺の感想だけど、完全に理性を失っている訳でも無く、動物的な異種を見分ける程度の野生みたいなものは残っているんじゃないかな。そんな印象だ」
ガシュ!・・・ドサッ!
隠れて観察しながら話していると、突然一人のプローバーが倒れた。
カシュ!・・・ガシュ!ドサッ!ゴンッ!
今度は連続して二名が倒れた。よく見てみると、頭に矢が貫通し即死している。ウェルバーは矢が刺さっている方向から発射角度を推測し、建物が並ぶ屋根へと振り返った。灯りが右から左へ、上から下へと移動している。ウェルバーはライトを奥へと更に引っ込めて、完全に闇に身を深めて状況を見守る。
また、いくつかの灯りがウロチョロとしていると、二、三個の灯りが残ったプローバー二体を襲い、しつこく倒れた相手にマウントを取って打撃を繰り返し、何とも言えない奇声を上げている。
「オロロロロー!」「ひひゃはははー!」「うらっ!おらっ!そりゃ!」
もうプローバーの一群は全滅し、十分なはずの状況でも彼らは死体を潰し遊んでいた。
「・・・ライト。どうやら奴らも一枚岩ではないようだな」
「今度の奴らはなんなんだ?まるで狩り、いや、殺しを楽しんでいるようだ」
ライトの目には怒りが込み上げている。
「第3の女性プローバーに近いな。ただ対象が女、子供だけではないだけだ」
「狂ってる・・・こんなの、おかしいよ」
Addiction
食料品がなかなか見つからなかった。
今後の籠城か逃亡、どちらにしても長期的な対策が必要なために缶詰や干し肉、干物といった代物が欲しかった。危険を覚悟しながら数件の家へ侵入してみたが、腐った肉や果物、カビたパン類しか無い。
二人はもう少しタワーへ、中心へと行くことにした。
ここのプローバーには「段階」がある。
それは合成麻薬である『Z Salts』の乱用レベルで区切られていた。
ゾンビのように彷徨える廃人となるのが第4Phase-⑷
⑷を襲い狂い殺したのが第3Phaseから第4Phase-⑵
メインストリート通り沿いには家が連続して建ち並んでいる。大小はバラバラだが、さっきの奴ら第4Phase-⑵達の真似をして建物の天井から移動することにした。4-⑵狂えるプローバー達は一人ひとりが松明を持ち、手あたり次第に暴力、殺し、犯し、壊すことを楽しんでいる。目標が被った時にだけ連携し悦楽を共有しているだけで、チーム、組織的とは言えなかった。
4-⑷彷徨うプローバーは自らの脳も穴が開き、知的思考力は著しく低下していて大半は反射反応的に行動するため、対峙するなら知能が残る4-⑵の方が厄介だが、敵が持つ灯りの目印があるような夜の今は回避しやすい方が安全である。
屋根を伝いながら、タワーの根回りまで確認できる所まで二人は到着した。そこで見たものは・・・・・・
Penetration
塔の中央扉は上層界への通路とも繋がっていて、塔内の一階部分は広いフロアが広がっている。中も八方のコロニーに沿うように、梯形のフロアとなりそこで配給の全ての一時保管場所として使い、定期的な各コロニー代表が会議や議論をそのテーマの場所で行っている場所だ。
その出入口である大きな扉、鉄製スライド式のスチールドアに多くのプローバーが群がり、その全員が開けようとしたり登ろうとしてる。
左右には隣接するコロニーへと続く通路への、普通の大きさ、中央扉と比較すれば小さめの扉がある。問題なのが右側第8コロニーへの扉は壊されていた。更に、そこからゾロゾロと、まだ次々に気がフレたプローバー、4-⑷が留めることなく流れ入ってきている。
大量の4-⑷彷徨うプローバーを囲う松明。それはまるで羊を追い立てる羊飼いが使う牧羊犬のように、4-⑵狂えるプローバーが陣取りながら、溢れて逸れる4-⑷を惨殺しながらここでも狩りを楽しんでいる。しかし、タワーへと向かう者には攻撃はしていない。そこに何か意図を感じざるを得なかった。
「これは・・・・・・」
ウェルバーは声にもならず、絶句する。
「きっと、外へ、森へと逃げれなかった中央側に住んでいた者達はみんな、あのタワー内へと逃げ込んで追い詰められたんだ。あそこなら頑丈な扉があるし上から配給が直接、降りてくる。籠城するなら最適だよ」
こういう時は、冷静に分析をするライトは頼もしい。
「さっきの、松明を持つ”意志を持って殺しているやつら”は、まるで誘導するかのように他の奴らを使っているように見えるな」
戦略的な才をもつウェルバー、策略的な才があるライトのペアは相性が良くお互いの無い部分を補っている。
ガコーン!!ガラガラガラ・・・・・・
第1と第8を隔てる壁が破壊され、更に大量のプローバーの大群が第8から入ってきた。
「!!!ヤバイ!逃げるぞ!!」
ウェルバー達は敵に見つかることはもう気にせずに、立ち上がって颯爽と引き返す。
背後からは三名のプローバーが追いかけてきた。内二人は松明を持ちけたたましく笑い楽しみながら追跡の足を止めない。
「このままパメラ達の所まで戻るのはマズイよ」
「ああ・・・途中で、殺ろう。ライト、”バカの方”を一人でやれるか?」
「やらなきゃ、殺られる!」
「右へ!!」
ライトは右へと曲がり、更に逃げる。ウェルバーは立ち止まり戦闘態勢を取る。すると、松明を持つ4-⑵一名だけがウェルバーへ襲い掛かり、後の二名はライトを追いかけて行った。
「!!ちっ・・・くそっ!!!」
Struggle to the death
「キャハハハハハー!!!」
ウェルバーと対峙したプローバーは、女性だった。死神のような化粧をして、けたたましく笑うその顔に恐怖を覚える。第3と戦った女性プローバーとはまた雰囲気も特性も違った。
ウェルバーは右手の斧で女の短剣を受け止めている。左手でナイフを出し女の脇腹を刺しに行くが、女はしなやかな身のこなしでバク転し、後ろへと下がった。
ライトは右へ曲がった建物が密集している場所で、室内へ隙を見て入りその身を隠した。
「ハア、ハア、ハア・・・・・・」
呼吸を整えながら聴覚を玄関先へ集中する。
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ
一人分の砂利を蹴り歩く足音が聞こえ、警戒しながらもライトは必死に何か策を考えていた。ウェルバーのように対面し戦っても勝ち目がない自覚はある。
奇襲か、罠を張るか、逃げ切るか・・・・・・
トン・・・トン、ギギ、トントン・・・ミシミシ・・・・・・
時間差で、天井から足音がする。ここでライトは二人が自分を追いかけてきたことに気が付いた。
ドク、ドク、ドク、ドク・・・・・・
疲労の鼓動なのか、緊張の鼓動なのか、心臓の音がうるさい。まるで人の胸に耳を当てて聞いているかのように鼓動が耳の傍で聴こえる。
玄関先天井の足音が聞こえなくなった辺りで、室内の物色を開始した。何か使える物は無いか・・・ライトの手元には火鉢棒と、ウェルバーから貰った手投げナイフが一つ。
足元ばかり探しているライトはふと視線を上へとあげると、壁には弓矢が掛かっていた。ここの宿主は狩人のようだ。まだ何も策を弄じてはいなかったが、徐にその弓矢を手にし屋根へと上り逆尾行を開始した。
第3の女性プローバーは男も顔負けな程の筋肉質で、普通のレベルでは簡単に負けてしまうぐらいのパワータイプが多かった。男の社会と同じく、肉体美は筋肉とのバランスで多くの女性にモテるように男らしさと女らしさを兼ね備えるような価値観だが、今ウェルバーの前に立ちはだかる女プローバーは終始、恍惚な表情をしながら細身で女性らしく、長い手足を踊り流れるように構えながらこちらの隙を伺っていた。
「うひひひひ。いい男・・・食いたい、喰いたいぃぃぃぃ」
ウェルバーの身体を舐め回すような視線で足先から頭までなぞる。松明を二人の間に投げ捨て、短剣の先端をしゃぶり出す。ジリジリと右へと回り込むように近づいてきている。
松明の煙が二人を遮ったその時、ウェルバーは迂回せずに松明を飛び越えて斧を渾身の力で振り降ろす。女は野生的な反射神経で斧を短剣で受け止める。が、ウェルバーが振り下ろす斧圧が凄まじく木の棒のように短剣は更に短くへし折れた。斧の起動が少し変わり、斧は無情にも女プローバーの胸元へ食い込んだ。
「ああ・・・ああああああ!!」
胸元のスカーフは開け小ぶりな胸が露わになり、苦痛なはずの状況で女プローバーは目が上向き、舌を出しながらオーガズムに達していた。ウェルバーは無慈悲にも斧を引き抜き、鮮血が飛び交う。
膝を地面に落としたプローバーは、折れた短剣で再度ウェルバーを襲おうとしたが、直ぐ様に脳天を割られとどめを刺された。その顔はまだ恍惚な笑みを浮かべながら死んでいく。
「・・・ライト・・・・・・」
女プローバーに食い込んだ斧がなかなか抜けない。片足で頭を踏んずけ、勢いで斧を抜き切りライトが向かった道へと走る。
ライトを見失ったプローバーの二人は見つからないターゲットに飽きてきていた。彷徨うプローバーは目的を忘れつつあり、立ち尽くしフラフラと揺れ出す。狂えるプローバーはもう一人の方へ帰還しようと、天井から地面に降り立ち戻ろうとする。ライトはその対角線上の闇に隠れ、ずっと二人を見つめて様子を見ていた。
狂えるプローバーが走って戻ろうとしたその時、ライトは弓を構え放つ。すると、手前にいた狂えるプローバーには当たらず外してしまった。その空を切る音に気が付いた4-⑵狂える者は踵を返す。プローバーはターゲットを見つけた喜びをその顔に携えながら、ライトの方へと走り込もうとした。
そしてその時、4-⑷彷徨う者が背後から狂える方を襲い首筋に噛み付いた。
ブチッ・・・ブチブチブチブチッ!!
首筋から血管まで食いちぎる音がライトの元まで聞こえてくる。狂える者《go mad》は持っている短剣の持ち手を返し、背後に乗りかかっている彷徨う者《wanderer》を何度も刺しながら、二人でもみ合う姿をライトは冷静に見つめていた。
首筋の大動脈を嚙み切られ、狂えるプローバーはだんだんと意識を失っていく。膝を付き、そして冷たい地面に倒れ込んだ。ライトは彷徨うプローバーがそのまま、仲間のようで仲間ではない者を食い散らかしていく最中、再度、弓を構え近づき貪る者を後ろから脳髄を貫く。
数秒間、二体ともが動かなくなったことを確認してから、脳髄と左太ももに刺さった矢を回収してその場を去って行った。
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