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『幼☆妖★体験記』   第一話         闇の奥……【2,107文字】

 私の田舎。それは母側の実家の印象が強かった。

 父側は比較的、都市化された場所にあり海沿いで磯の香りが印象的だ。場所も近く、田舎という印象はあまり無い。

 母側の実家は京都の亀岡市にある、山々に囲まれた一画にあり家自体も典型的な田舎の作りだった。

 トイレは「ぼっとん便所」汲み取り式で、玄関は大きく古民家によく見られる土間。一段目にある座敷へと上がる長式台の一枚板が逆L字に迎え入れられ、真っすぐいくとまた大きな台所。左手には襖とその奥へといくつかの部屋は畳でイグサの香り、木材、線香の臭いが思い出される。

 子供のころ、よくそのぼっとん便所に落ちる夢を見た。

 田舎の夜はとにかく暗い。外灯なんてのは殆どなく、道路沿いの小川にガードレールも無いので暗くなれば外出禁止になるのも当然かと、今では分かる。

 夜にトイレへと行くのも、少し母屋から出て離れにある客室の隣まで行かなくてはならず、住み慣れていない私たちは懐中電灯で照らしながら闇に脅えて行っていた。

 その恐怖心からか、外側である母屋と離れの間を真っすぐに突っ切ると、中型の柴犬「タロー」が鎖で繋がれた犬小屋がある。タローなんて、昔の人がよく付けるまたまた典型的な名前だ。完全に番犬として飼われていて、当初の私たちは頻繁に吠えられて、更に子供心の中に恐怖を植え付けられた。幼くまだ小さかった私ちとっては大型犬に感じる大きさだ。

 夜に行くトイレは闇夜の中に

 ジャラジャラジャラ・・・・・・

 と、繋がれたがのたまう音はまるでが潜む空気を出し、懐中電灯を向けるとオオカミのようにギラづく二つの目が反射する。その恐怖に固まっていると

「・・・ワン!ワンワンワン!!」

 ビクッッ!!!

 泣きながら母親の元へ行き、夜のトイレは必ず誰かと一緒に付き添ってもらわなければ行けなかった。

 何度かの帰省、二度目か三度目ぐらいだったと思われる。私も分別が着き出した小学生低学年ごろ、母の兄、叔父がタローの元へと一緒に来るように言われた。

 叔父が一緒だとタローは吠えない。飼い主としての認識があるのだ。私は必ず吠えられて完全にビビッていたのですが、吠えないタローは意外にも可愛く思えた。

 叔父がタローを撫でてあやし、それに気を良くしているタローは獣から普通の犬となり、私の中にあるイメージは覆る。

「大丈夫やろ?撫でたってや」

 叔父が私にそう促した。私は恐るおそるタローの頭に手をやる。タローは不思議そうに私の手を見るが、唸ったり威嚇をすることもなく私の手を受け入れた。

 それ以降、タローは私に吠えなくなった。

 叔父が私をタローに紹介してくれた後は、夜でも吠えられなくなり無事に一人でトイレにも行けるようになった。なぜか、夜の闇の恐怖も消えて、私は逆にタローに守られている、そんな気がしていた。


 そこから一年後。


 母の帰省にまた付き合うが、タローは私の匂いを覚えてくれていた。尻尾を振りながらこちらを見ている。母は極度の獣恐怖症で、猫ですらタローですら、怖がる人だったので当然の様に私の実家ではペット飼うことは出来なかった。なので私はタローが初めての動物と心を通わす存在だった。

 毎年、夏休みには母側の実家に行くことになり一週間ほどそこで寝泊まりし、夏と田舎の思い出となる。たったの一週間だが、その際に私は犬のタローのエサやり当番となった。

 お互いが認め合った仲となり、私は毎朝タローの元へとエサが無くても向かって行くようになる。

 私は親戚一同の誰よりも真っ先にタローの元へと行って撫でるのが恒例となり、私の勝手かもしれないが、そこに絆を感じていた。


 そしてある年、タローが居なくなっていた。

「タローは?」

 と、叔母に聞いたような気がする。今でもはっきりと覚えていない。タローの死を誰かに聞いた記憶もない。しかし、なんとなく分かっていた気もする。

 認めたくなかったのか、思考停止していたのか。なんだか分からない感情だった記憶がある。泣いて悲しんだということもなかった。なんだろう、また会える。無根拠にそんな感覚だった。死んだのではなく、逃げ出したんだ。そんな風に捉えていたような感じだった。

 そんな、変な感覚が違和感となってそれ以来、母側の実家には行かなくなった。私が成長し、反抗期に入ったからかもしれないが、心に少し穴が開いたような気がしてならなかったからだ。

 そうして、自分勝手だが親戚とは疎遠となり、成人し結婚して娘を授かった。

 娘も成長していき、多感な時期では定番だが子犬を拾って飼ってもいいかとせがんでくる。私は当然、ダメだと言い放つ。必ず私と同じ思いか、もしくはもっと悲しい現実が待っているからだ。

「いいからだっこしてみて!」

 娘が強制的に子犬を渡す。どこで拾ってきたのか分からないので抵抗感を示すが、子犬を抱きかかえそのつぶらな目を見ると、なんだかタローに似ていた。

 犬などのペットを飼っている方なら分ると思いますが、犬たちにも人相・・・犬相というのだろうか。顔の見分けが付いてくる。


 そうして今、私はタローを膝の上で寝かせたまま、コレを書いている。


⇩NEXT ~山の友達~


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