『幼☆妖★体験記』 第二話 山の友達
最近、思い出したことがある。
母の田舎は京都の亀岡市というずっと山奥にある古屋で、よく夏休みに遊びに行きました。その家の裏には程よい山があり、その所有は母の長男である叔父さんが持っている山でした。幼い私はカブトムシを取りに行ったり、叔父が趣味で植えた程度の山菜や何か謎の果物を取ったりして貰った記憶が薄っすらとあります。
現代の様にスマホやゲームなんてのはなかった時代なので、一週間も住めば子供にとっては大自然にも慣れて来て極端に暇を潰す様になるものです。
大人たちはみんな談笑してたり、居なかったり。恐らく今を思えばお墓参りだとか色々と大人の事情をこなしていたんだと思いますが、子供には分かりません。何度か一緒にお墓参りに行った記憶はありますが、子供の足ではキツイ坂道や危険な道も多く、毎回は連れて行ってはくれなくて、よく私と誰か一人か二人ぐらいの大人と居残っていました。
残る人も、叔母さん方の女性が多く家事をこなしたりと忙しくしていて、叔父さんらはきっと仕事など行っていたんだと思う。仕方なく私は犬のタローの所へ行ったり、家の周りを散歩したりと探索するしかなく、それも二、三日で飽きてしまう。
母の実家の裏には山へと続く土手道が真ん中に一本。その先は漠然と立ちはだかる山へと道が続く。左右には大きな田んぼが二区画並び、カブトエビやオタマジャクシを良く一人で眺めていた。
行ってはいけないと言われていたのですが、山へと続く道を少し行ってみた。今思えば危険な行為だと思う。野性の動物は子供にとって、鹿ですら危険だからだ。あの大きな角に突進されれば一溜りもありません。
しかし、そんなことは気にも及びもしなかった私は、TVゲームの勇者を気取り、能天気に適度な棒を振り回しながら山の麓まで来ました。
背後に小さな田園を背負ったその時、目の前には大人の背丈程度の小山があり、その頂上にはいつのまにか私と同じ年ぐらいの男の子に出会いました。名前は・・・聞いていません。
お互いにびっくりした様子で一秒ほど間が生まれましたが、お互いに右手を振って子供の挨拶を交わし、それだけで意気投合しました。
今となってはその無鉄砲さが羨ましい場合がありますね。
名も知らぬ山の子と虫を取ったり、石を投げたり、小川のザリガニを捕まえては、私はそのハサミが怖くて逃げてそのまま追いかけっこをしたり。お互いに笑い声ばかりでまともな会話は殆どしなかった。
「これっ」「わっ!」「あはははははっ!!」・・・・・・
そんなリアクションのオンパレード。どこの子でいくつなのか。名前は疎か、どこに住んでいるのかも聞かずに兎に角、一緒に遊んでいた。
今の子でも、たまたま公園で一緒になった知らない子と遊ぶ時は同じ感じだと思います。
その子のおかげでその日は時間を忘れて遊び、いつの間にかもう夕暮れ。
「おぉーい!!」
夏の日が暮れるのは遅く、もう夕食の時間なんだ、と毎日のように思わされて時間の感覚を奪う。叔母に呼ばれて私は仕方なく名残惜しむように、また、山の子に出会った時と同じく「バイバイ」と手を振り母屋へとトボトボ帰って行く。何度も振り返ると、山の子はずっと私の方を見てくれていて見送ってくれていました。あの子は帰らないのかな?と少し疑問に思ったかもしれません。叔母の元へと到着して最後に振りかえると、あの子の姿はもう消えていた。
「あんな山の方で何してたん?」
と叔母に聞かれて、山の子の話をすると
「はぁて、そんな子おったかねぇ?」
田舎の人なら分かると思いますが、田舎のご近所は概ねみんなお互いを把握している。少なくともここ一帯の、子供が一人で行動できる徒歩圏内にそんな子は居ないらしかった。
「そばに誰か大人はいたんか?」
私は見なかったことを伝えると
「そりゃ、不思議だのぉ。あの山への道はここの裏手の土手道だけやから、誰かと来たらあたしらにも分かるでぇ?表の道は車一台分しか通れんさかいに置いとけんし、止めとくならうちの敷地ん中に入るしかないからなぁ」
もう一人の叔母が言う。
「きっと、山神の小童か座敷童の類かもしれんの。良かったなぁ」
そう言って私の頭をポンポン、と優しく撫でる。
当時の私は何のことかは分かりませんでしたが、今を思えば叔母たちは私が怖がらないように話してくれたんだと思います。でも、これも今思えばあの山の子は私がこれ以上、山の奥へと行かない様に遊び相手になってくれたんだと感じています。
なぜなら・・・・・・
「ちょっと!こんな所にこんなもん置きな!」
母が翌日、私の寝起きざまに怪訝な顔をして起こしてきました。
「ちゃんとなおしててや(片付けなさい)」
私が寝ている部屋の縁側には、キレイなまん丸の、子供にとっては投げやすい石がいくつも並んでいました。川で水切り遊びをするには”うってつけ”な石です。
しかしそれから毎日、山の麓まであの子と遊びたい一心で通っていましたが、一度も会うことは出来ませんでした。
完
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