『思春奇★学淵』 第二話 カマドウマン【4,480文字】
噂
僕たちは、隣町にある大きな公園の「噂」を聞いて、最寄り駅の終電も終了した時間に自転車に乗ってまでしてわざわざやって来ました。
友達の何人かはバイト上がりで直ぐに参加した者もいるので、駅前には必ずあるようなラーメン屋で食事を済ませてから、僕と友達三人は噂の「公衆トイレ」の前で佇んでいる。
・・・少し時を戻そう。
僕たちはラーメンを啜りながら、この噂のちゃんとした詳細を友人Aからおさらいがてらに聞いていました。友人Bがこの噂の事を一切、知らなかったのもあったからです。
A「ここの公園・・・『出る』んだって」
僕「分かったから、溜めるな。雰囲気とかいいから今は」
A「ここのトイレの鏡でな、唱えるんだよ。三回」
B「なんて??」
A「『カマドウマン』・・・『カマドウマン』・・・『カマドウマン』・・・・・・」
僕「・・・それ、『キャンディマン』じゃねぇの?」
A「・・・・・・」
C「んで?」
A「・・・で、ちょっと奥にあるベンチまで行く。そしたら、奥の森から手足がスラ~ッと長い二、三メートルの、顔の無いひょろ男が佇んでいる。そいつを見た者は、そこからストーカーのように憑き纏われて、最後にはまた森まで誘われ、そこで十九回も何かに刺されて殺されるんだって」
僕「・・・それ、『スレンダーマン』じゃね??」
A「・・・・・・」
A「二メートルを超える白いワンピースの大女が、『ポポポポポ』って」
僕「それ『八尺様』ね」
過去
フワっとした情報と、色々と入り混じった噂を元に僕たちはこの「緑地公園」へとやってきた。
ここは本当に自然の豊かさをコンセプトにした公園で、その豊かさ故にいつも夜には何かが潜めいている様な雰囲気が有り、歴代に周辺の学校では多くの「怪談話」が渦巻いています。
実際に幾つかの「事件」「事故」の話は多く上がっていて、早朝にジョギングをしていた女性が暴行を受けたとか、首吊り自決。深夜に自転車を乗ってサイクリングしていた人が、突然、変な男に無差別的に金属バットで顔面をフルスイングでバッティングされ重傷を負った等など。
そして極めつけは『人体らしきパーツの発見』
公園の様々な場所から・・・ゴミ箱に謎の肉片、池の畔から足先、ベンチの下にコンビニ袋に入れられた手、公園の入口にある石柱の下に指、噴水口に腕、等など・・・・・・
前者の事件の数々の犯人は凡そ捕まったものの、後者は先ず頭部が出て来ていない為に、その被害者も加害者も未だに見つかっていないとか。
部位だけでは事件性はあれど、大きなニュースにまでには至らず地元民だけの知る人ぞ知る情報であり、それが一般的にまでは至ってはいない。三十秒のお知らせ程度で報道されることはあっても、一番有名な「〇の〇公園バラバラ殺人事件」のように各部位が同時多発的に見つかり、その規模が大衆的に知れ渡り、もはや公にしないと収拾が付かない程に噂が先行して、被害者の指紋が取れて特定がされ且つ、メディアが話題としてが持ち上げない限りは殆どの人が事件そのものを知らずに時が経っていくのもザラである。遺憾なことに、某事件も未解決で終わることとなった。警察側も被害届や捜索願いが出されない限り、そして事件解決の目処が立たない限り、わざわざ報道への余計なリークはしないのもあるだろう。
それに、現在の様に各公園や河川敷、高架下などに住まう人たちに対して生活保護や様々な支援が無かった昔は、そこらの治安はあって無いようなものでした。
勿論、これらも「噂」の一つである。
悪臭
等間隔にブルーシートや段ボールで作られた仮小屋はあるものの、僕たちは四人で行動している限りはまだ安全です。一人は流石に怖いけど、子供の時からこの公園は慣れ親しんだ場であり、広場では様々なスポーツをしてきました。今ほど厳しく無かった時代なので花火を持ち寄って遊びましたし、春には満開の桜や梅が咲き乱れ、花見やピクニックには持って来いなのです。
夜になると・・・心霊系の怖い話や人怖は勿論ですが、当時は「暴走族」なんかも怖かったです。
侵入禁止なはずですが、どこからか勝手に入りバイクで爆走してる連中も週末はチラホラ。警察との追いかけっこが始まって、静かになればやっと比較的、真面目寄りである僕らの主戦場です。
ただ・・・その思考は僕らだけでなく、『別の存在』達にとっても同じだったのです・・・・・・
例のトイレの前で、僕たちは固唾を飲みながら誰が行くかを様子見ていました。
C「・・・じゃ、ジャンケン、だな」
その他「「「おう」」」
A「二組に別れない?二人はトイレへ。後の二人は先に奥のベンチに行って、誰も居ないか確認しとこうや」
B「あ、いいんやない?それ」
そうして僕たちは「グーとぉパァ」地域的には「グーパージャンケン」とも言われるやつをして、二組二名づつに別れて行動することにしました。
僕はCとペアで、先にトイレへと言って例の『カマドウマン』を三回唱える方へ。AとBはベンチへと消えて行きます。
僕「・・・臭え」
公衆トイレとは駅でも海でもどこも大半は、とにかく臭いものです。
特に当時は真夏だったのも有り、嗚咽してしまいそうになる程の悪臭にて、早口で「カマドウマン、カマドウマン、カマドウマン」とさっさと用を済ませて足早に出てきました。ただ、この時少しだけ気になったのが、小便器が四つほど左側に並んでいて、右側に「三つ」大便器用の個室が並び、その奥である三つ目が閉まっていたのです・・・・・・
その違和感に気付きながらも、とにかく異臭が耐えられず僕の中でもそのことは二の次となり、ABが向かったベンチへと二人で歩いて向かいました。
人影
A「・・・おう、ちゃんと言ったか?」
C「おお、言った言った。ってか、めっちゃ臭いで」
AもBも、引きつった笑顔を返しながら軽く手を上げてすれ違います。ベンチ周辺に誰も居なかったかは聞くまでも無い、という雰囲気だったのでその事を確認することもなく僕たちも進みました。もし誰かが居たとしたら、二人ともあんなに平然とはしていないはずだろうし。
程なくするとベンチが見えて来た。そこにはまるでスポットライトが当たるステージの様に外灯に照らされた木製のベンチが、不自然に一つだけ。周辺は完全に真っ暗で、もはや森の中と言ってもいいように不気味な雰囲気が漂う。
ちょっと先ほどの臭気にメンタルをやられていたのもあって、二人で少しそのベンチに腰掛けて休もうとしたその時、目の前の暗闇から気配を感じました。
ジャリッ・・・・・・
微かに、砂利を踏ん張るか、蹴飛ばすかのような足音が聞こえたような気がしたのです。
心の中では「ま、まさか・・・カマドウマン?」と呟きました。
携帯電話のカメラ用フラッシュ機能があったので、それで周囲を照らしてみようと思い、ポケットから取り出し小さいフラッシュを付けて、先ずは音のした方を・・・・・・
地面からゆっくりと照らしていったその先に、薄っすらと薄明りにスラっとした足が見えては、その足は直ぐ様ライトが届かない奥へと逃げるように消え、そのまま右へ、左へと明かりを動かすと他にも別の足が一人、二人と現れては消え・・・・・・
僕らは急いでその場から猛ダッシュで逃げ、トイレの方へと走りました。
息を切らしながらABが居るトイレへと到着した途端
「「ううぅわあぁぁぁぁ!!」」
ABと思われる悲鳴が響き渡り、僕とCも逃げ走って来た勢いでトイレ内部へと駆け入りました。そこには・・・・・・
カマドウ・メン
僕がさっき、僕とCが先にこの公衆トイレへ入っていった際に、三つ目奥の大便器用個室が閉まっていたと言いましたよね。
僕がトイレへと逃げるように入って行くと、そこにはABが尻もちを付きながらビビッて怯えている姿が目に飛び込んできました。二人が見ている方向を追って見てみると、奥の扉は開かれそこから二本の長い足がニョキっと出てきていたのです。僕は直ぐに状況が理解出来ずにいると
「・・・ああ・・・おおぅ」
男のような呻き声が奥から聞こえてきました。
後から入ってきたCが怯えて座り込んでいる二人を起こそうとしている間も、僕はその足から目が離せないでいます。何故なら、あまりにも「生々しかった」からです。その声も、見えている足も、霊やそういった現象の勝手なイメージですが、心霊現象特有のフワっとボヤっとしていなくて、ハッキリと見えて聞こえている様な気がしました。
すると、中からその足の本体がゆっくりと出てこようとしてくるのです。
友人の二人が何とか起き上がり、三人ともが走り去って行く最中、僕はその正体を見極めようとも思い、身構えていると中から『二人の男性』が出てきました。
二人とも全裸で、真夏の個室で汗が滴り落ちる程にむさ苦しくも抱き合っていたのです。
完全に「人」だと認識してからでも、余りにも恐ろしくて僕も急いでその場を走り去って逃げました。
数日後。
AとBに何があったかを聞きました。
A「いや、俺たちも何だか小便がしたくなってさ。二人で用を足してから、鏡の前でアレを言おうとしたんだよ。そしたら・・・・・・」
B「奥の方から、変な声が聞こえてきたんだ」
A「なんか、苦しんでいるような、な」
B「ビビッてさ、二人で息を殺しながら様子見てたら・・・・・・」
A「ゆっくりと、奥の扉が開き出して・・・足がさぁ」
B「後は、お前らが来て、って感じ」
真相
僕は、その後のことはみんなには言わずにいました。
まだ若かったのでどう説明したらいいかも分からず・・・というか、あの状況の理解がまだ出来ていなかったと言った方が適切な気がします。それに、なんだか「言ってはいけない」気もしていたのでした。
細くて小柄な、まるで女性かの様な「男性」と、日焼けしたゴツくてマッチョな「男性」が、まるで水を浴びたかのように汗を全身全裸で垂れ流し、そして・・・『いち物』『局部』をおっ起たせながら、こちらを見て来る二人・・・・・・
浅黒く、ヌラヌラ、ギラギラしたその出で立ちと下半身が、ずっと恐ろしくて・・・・・・
心霊、という事にしていた方が、感覚的に良い気がしていたのです。
数年後。
私も社会や世界、常識や習慣を知って行く中で、一つの有力な情報を得ました。それは『ハッテン場』という存在です。
今では「マッチングアプリ」の需要により、そういった「場」は少なくなったようですが、当時はそういった「場」で出会いを果たすことがその道では主流だったそうです。
僕らは若く、そして無知に『二人ペアに別れた』のが良くなかったのでしょう。仲間だと勘違いされたのか、もしくは・・・・・・
ベンチでの何人かの「人影」たちも、恐らくそういった人たちだったのだと、今の私はそういう事にしています。
しかし・・・それはそれで、恐ろしい事です。
ストーカーされ、何度も挿入されなかった事に安堵します。
『カマ道メン』
彼らは間違いなく、実在していました。
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