【こえ部Memories】 幼少期の終わり
《かつて、こえ部というサイトがあり、
そこでは文章を投稿したり、声を投稿したりで、
それなりに盛り上がっていたという……。》
こちらは当時、2010年7月18日に投稿した文章の再録です。
自分の経験も踏まえて書いてみました。
題名がアーサー・C・クラークの小説と似ていますが
特に関係はありません。
ごく普通の、ありきたりなお話です。
それでは、以下本文です↓
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小さい子をがっかりさせるのが怖い。
特に、期待を裏切るのが怖い。
例えば、お祭りの縁日(えんにち)で「あの景品とって!」
なんてお願いされようものなら、全力でとるしかない。
…じっと眼を見つめればわかる。 この子は、私が絶対に
景品をとってくれると信じている。
「あの景品をとるのは、かなり難しいんだよ?」なんて
理屈の通じる相手ではない。
そんなことを言えば、たちまちこの子は失望するだろう。
そして次からは、簡単にとれそうな景品だけを指さして、
遠慮がちに「あれ、とれる?」と言うようになるのだ。
そうはさせない。 この子の年齢なら
縁日の景品くらい、遠慮せずに好きなものをねだってほしい。
というわけで、私は射的(しゃてき)だろうが、輪投げだろうが
真剣に挑戦せざるを得ない。
この子の信頼にこたえるため、縁日は一転、勝負の場と化す!
『お客さん、もうちょっとだけ下がってくれないかなぁ?』
“うるさい! 私は遊びでやってるんじゃないんだ!
真剣なんだよ!”
…と、叫び出したいのをぐっとこらえて、半歩下がる。
こんな感じで、文字通り必死で獲得した景品を手渡すと
「ありがと!」と笑う。
そして、私はちょっとだけヒーローになる。
月日が経てば、
徐々にこんな無茶苦茶なお願いからも解放されるけれど、
それはそれで、ちょっと、寂しい。
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