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2024年 My Best Movies
今年は旧作を含めて180本近くの作品を観た。新作はおそらく100本。週2回ペースで映画館に通い、作品世界に深く入り込むことで、日常を生きる活力を得ていたように思う。
さっきまで最後の映画を観ていた。(2024年12月31日20時)
というのも、クリントイーストウッド監督最新作が、U-NEXTのみで配信されていたことをすっかり失念していたからだ。94歳となる巨匠の最後が、もしかすると配信限定になってしまうかもしれない。これも時代だなと思いながら、改めて2024年のMy Best Moviesを10作品挙げたい。
日本の興行収入ランキングは、ここ数年はアニメがドル箱になっており、洋画実写は寂しい状況が続いている。今回挙げた10作品は、いずれも興行的には成功とはいえないかもしれないが、私の時々の関心に合致し、新たな視点を提供してくれた作品が中心となっている。(もちろん、単なる娯楽作品もあるが…)
1 オッペンハイマー
日本で無事に公開されて安堵した作品。
日本人だからこそより深く作品と向き合えたと思えた作品だった。
原作の評伝を大胆に再構成する力は、クリストファー・ノーラン監督なれではの力業だが、それ以上に私が注目したのは「因果関係」の矛盾が、本作で丁寧に描かれていたことだ。
ナチスドイツより先に原子爆弾を開発しなければ、米国は第二次世界大戦に敗北する。だから、原爆は国家プロジェクトたるべきで必ず完成・成功させねばならない。(原因)
日本の広島・長崎に原爆が投下され、無辜の民が多数犠牲になった。(結果)
図らずもこの作品は、マンハッタンプロジェクトが諸般の事情によって当初の目的の達成如何に関係なく、引き返せない状況になったこと、また、広島・長崎とは関係の無い別の事情でオッペンハイマー自身が罪に問われていることが、同時並行的に描かれている。
この事実に何を見出すかは観客に委ねられているが、量子力学の「光は粒子であり、また波でもある」という当時の科学者たちの革新的な発見も重なり、AかBかという単純な問いに帰着できない現実の複雑さを突きつけられることは間違いない。
2 陪審員2番
イーストウッド監督最新作。U-NEXT限定配信の作品。
陪審員制度の欠陥を描くだけではなく、そこから「正義の不確かさ」を改めて世に問う良作だった。
陪審員2番が直面した葛藤は、単に「家庭を守ること」と「容疑者に公正な判決を下すこと」の二項対立だけではなく、陪審員制度においては「真実としてよい真実」と「真実足り得ない真実」があるという現実と向き合い、どう折り合いをつけていくかを問うような描写もあり、胸に詰まるものがあった。
ラストシーンに何を見るか?
3 どうすればよかったか?
統合失調症を発症した姉と、その姉と共に暮らす両親を定点観測したドキュメンタリー作品。
このような記録が残っていること自体が貴重であるし、何より「どうすればよかったか?」という問いは、本作においては「統合失調症を発症した姉をどうすればよかったのか?」という半ば藤野監督の後悔を含む問い掛けであったが、主題を変えれば様々な家族でも何かしらの問いが浮かび上がるのではないだろうか?
家族の問題は、合理性だけでは解決できない。むしろ、合理的であることが正しいとは限らないことさえある。他者としての家族とどのような距離で向き合うべきかを試行錯誤し続けた監督の奮闘記として観ても、得るものが多い作品だと思った。
4 ロボットドリームズ
セリフが一切ないアニメーション作品。
古き良きNew Yorkを舞台とした本作は、ドッグとロボットの関係に多様な可能性を見出すことができる。あらすじには、「友情」と形容されているが、私個人としては友情を超えた何かを感じることもあったし、実際そのように捉えることもできるだろう。
他者の思いやり方として、そばに居続けることだけが正解ではないことを本作はそっと示してくれている。
5 シビル・ウォー
もし、米国で再び南北戦争(内戦)が起きたらどうなるか?という壮大な思考実験をジャーナリストたちの視点で描いた作品。
政治的な思想の強さはあまりなく、むしろ戦争の現場がいかに単純であり、かつ暴力的であるかを淡々と描いているような印象を持った。つまり、敵味方分かれているわけだが、現場の兵士は「撃たれるから撃ち返す」ということ以上に闘う理由はなく、そこに崇高な主義主張はないのかもしれない。
そんな醒めた現実を映画という舞台装置から観ることを通して、「素朴になぜ、戦争をやっているのか?」を世の為政者に問うような作品なのではないかと思った。
ある意味では、本作はプーチン大統領に向けられたメッセージ性のある作品なのかもしれない。
6 関心領域
強制収容所のすぐ近くに住む所長家族の様子を描いた作品。
アウシュビッツを含む、強制収容所を描く作品は過去にもたくさんあれど、本作のようにあくまでもその存在を感じ続けるだけという設定は過去には無かったはずで、そういった意味では新鮮だった。
所長の嘔吐に何をみるか?
7 パスト・ライブス
あり得たかも知れない、男女の別の可能性に思いを馳せる作品。
冒頭、ノラを囲む三角関係を客観視する描写から始まるが、外野はどこまでも外野であり、本人たちにしか知り得ない、奥行きを持った事情があることが淡々と描かれていく。
NYを舞台に後半は展開されるが、どこまでも東洋的な思想に包まれており、縁や輪廻といった仏教的価値観を下敷きとしながら、今ある現実を自然と肯定してくれる、優しく寄り添う一本だった。
8 悪は存在しない
仰々しいタイトルだが、善悪二元論に安易に逃げない、判断を無限に留保させ続ける作品。
善性の対比としての悪性は、どんな時に表出するのか。なりゆきで悪の立場になってしまうことも時にあり、それが最悪の事態に至ってしまう可能性がある。抽象的にはそんなことしか書けないが、各々が場面を振り返りながら語り合うのに適した一本だった。
9 ナミビアの砂漠
河合優実が演じるのは、何の捉えどころもない20代前半女性のカナ。彼女の言動は至るところでおかしいのだが、なぜか見入ってしまう。
時折扱われていたセンシティブな問題は、異性の身勝手な行為や最近の映画業界における性加害問題に対するメッセージとも受け取れた。
10 哀れなるものたち
エマ・ストーンがここまで奔放な女性を演じるとこうも清々しいのかと思い知らされた一本。ヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンの信頼関係がなせる際どいシーンは、生々しい生の実感と女性の解放の狼煙を上げるに十分すぎた。
常識の外側に鑑賞者を誘う、世界と出会い直す喜びを寿ぐ作品だった。
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