昔みたユメ 映画館
気が付けば映画館の前に立っていた。建物はシネコンのような経済性優先のような無機質な匣型ではない。木造建築であり屋根は瓦で覆われた日本風の建築に西洋の構造を取り入れたような建物であった。このような建物は生活を営む地元にはなく、過去に訪れた記憶もない。さらに奇妙なことに、私が見えている風景はモノクロであった。
これはユメかー
そう思いあたりを見渡すと、通りを歩く人々の服装は、平成生まれの私が知る服装ではなく、時代劇や古い映画に出てくるそれであった。とりあえず、人の流れにあわせて観音開きの大きな扉を抜けて映画館の中に入っていくことにした。
館内は椅子席もあればござを引いた自由席もあり、建物の2階は三方がバルコニーのように突き出していた。物珍しさかどの席も満員であり、早く始めろという野次も飛び交う中、灯りが落された。目の前の大きなスクリーンにスッと明るくなる。
映画がは始まった。残念ながらどのような物語がそこに映し出されていたかは思い出せないが、なぜか懐かしく、皆一様に涙していたのを記憶している。ただ皆がスクリーンを見つめていた。
幸福なユメほど長くは続かない。残念ながら感激した時のあの高揚感と幸福感に満たされていたところで目が覚めた。人生で一番いいユメだったと思えた。
後日、仕事で通りかかった老舗商店にユメで見た劇場の写真を見かけたときは、心臓が止まるかと思った。なんでも戦前に取り壊された当時地域一番の劇場の写真だという。当然、平成生まれの私はその建物に入る機会などあるはずもなかった。どうやら劇場が忘れるなとユメを見せてくれたかのような、そんな不思議な感覚におちいった。
以後、再びユメの世界で出会うことを期待しているが、出会えずにいる。