述語論理で書くということ(3)
例3) ボールの運動の述語論理での記述
ここでは運動について考えてみたい。
あるボール(色は白い)が、定規(0から9まで目盛がふってある)の上を運動をすることを考える。
その様子を定規の横に並行に並べられた10台のセンサー(S0からS9と名付ける)で観測する。
動画は扱わなくて、1秒に一回光を当て、センサーはそのときの静止画から、ボールが目盛のどこにあるのかを観測する。
実験の概念図
⚪—-→ ボール
+---+---+---+---+...
0 1 2 3 .. 目盛
↑ ↑ ↑
S0 S1 S2 … センサー
ボールが0の位置にきたとき最初の観測を行う。するとどのようなFactが得られるのか。
書くための語彙をこう決める。
ボールをWという定数で示す。(色が白いのでW(hite))
述語At(x,p) で、xというもの(ここではボール)が位置(p)にあるという関係を表す。
実際に、各時刻に撮影された写真にはボールとその下の目盛が写っていて、この2つの情報は抽出できるとする。
時刻0のFact
まず、目につくのはセンサー0の情報でこれからは次のFactが得られる。
{+At(W,0)} … (1)
目盛0のところにWがあるので+At(W,0)になる。
しかし、他のセンサーについては、そこにはボールがないことも表せるので -At(W, ?)というFactになる。まとめると時刻0でのFactの集合はこうなる。
Σ0 = {+At(W,0), -At(W,1), -At(W, 2), …, -At(W,9)} …(2)
時刻1以降のΣはこうなる。
Σ1 = {-At(W,0), +At(W,1), -At(W, 2), …, -At(W,9)} …(3)
Σ2 = {-At(W,0), -At(W,1), +At(W, 2), …, -At(W,9)} …(4)
…
Σ9 = {-At(W,0), -At(W,1), -At(W, 2), …, +At(W,9)} …(5)
時刻ごとに異なるFactの集合が得られる。
Σ1からΣ9を単純に合わせると、-At(W,0)と+At(W,0)のように矛盾してしまうので、Σでまとめて混ざらないようにした。このようにΣ_tが時刻によって変化するFact集合と考えることができる。
一方で、At述語の引数に時刻を追加すれば、Σを10個でなく1つにすることもできる。
Σ = {+At(W,0,0), -At(W,1,0), -At(W, 2,0), …, -At(W,9,0),
-At(W,0,1), -At(W,1,1), +At(W, 2,1), …, -At(W,9,1)
…
-At(W,0,9), -At(W,1,9), -At(W, 2,9), …, +At(W,9,9)} …(6)
こちらは、全時刻での状態をまとめたFact集合になる。
どちらを選ぶかは、これらのFactの知識をどう使いたいか、それをどう表現したいかによるだろう。
* factと仮説
運動については、方程式を立てることができる。ボールが1秒間に2目盛進むとすると、Σ全体はこう書くこともできるだろう。こちらのほうが言明の数は減らせて簡潔になる。
Σ' = {
∀t.+At(W, 2*t, t), … (7)
∀t∀p(p≠2*t ⇒ -At(W, p, t)) ... (8)
}
(7)は「いかなる時刻tのときも目盛が2*tの場所にWがある」ことを書いている。
(8)は、それ以外の場合にWが存在しないことを書いている。
これらは書くのは簡潔だが、Factではない。世界からセンサーで得られる情報はセンサーのある場所だけであり、それ以外の場所の位置についてボールがあるとかないとかは確認できないからである。
なんとなく正しいと思える(7)と(8)は何なのだろうか。
これらは「仮説」や「ルール」だと考えることにしたい。Σに書かれているならば、そのどちらであっても「真」であるとみなされるが、その心はFactとは違う。
「仮説」は人間が現象を分析し、このような言明が真になるような現象が起きると仮定していることを書いている。
「ルール」というのは、現象がこの言明が真になるようなものしか許さないという制約を示している。たとえば、実験をする場合、「ルール」を決めて、それに従った現象を起こさせることができるだろう。
また「仮説」は人間だけが立てるわけではなく、機械学習などにより実際の現象から、ある種の予想=仮説を得ることもできるだろう。
まとめると、真であるとするΣの要素の言明には、事実(fact)、仮説、ルールというものがありうる。他にもあるかもしれない。
* 補足
ここまでの話では、ボールは1個しか登場しないのでWという定数はなくてよい、世界にWしかない世界ではそれを名指しする必要がない。
もしも、もう一つボール(色は黒でBと名付ける)があると、At(B,x,t)ということが語れるようになる。
その場合、Bの速度とWの速度が違えば、定規の上で衝突が起きて、書けることがいろいろ出てくるだろう。
*まとめ
運動といっても時間や位置を離散化して書いている。書くだけなら時間も書けるということを示した。
時間を述語の引数に取るか、Σ_tとしてΣ内部では時間を排除するかなど書き方を変えられるが、これらの事実をもとにどのような推論をするのかが重要だ。
Σには、Fact、仮説、ルールなどを書く。これらは証明の間、真であるとみなされる。