
ネットネット株 東京窯業(TYK)
1. ファンダメンタル分析
1-1. ネットネット株分析(資産価値と時価総額の比較)
東京窯業(TYK)はネットネット株とみなせる水準にあります。最新の連結貸借対照表(2024年3月期)によると、現金及び預金約148億円、受取手形・売掛金約90億8千万円、投資有価証券約128億円を保有しています。さらに、賃貸等不動産の含み益(簿価約8.5億円に対し時価約21.0億円)が約12.5億円存在します。これら流動資産と含み益の合計は約370億円強となり、一方で負債総額は約117億円(2024年3月期)です。したがって、(現金類 + 売上債権 + 有価証券 + 不動産含み益 – 負債)≒262億円となり、これは現在の時価総額約204億円を上回っています。つまり、同社の純流動資産価値は株式時価総額を上回っており、資産面から見て割安と言えます。このネットネット水準は、株価純資産倍率(PBR)約0.5倍にも表れており、保有資産に対して株価が大きくディスカウントされている状況です。
1-2. 過去10年のフリーキャッシュフロー推移と黒字倒産リスク
過去10年間のフリーキャッシュフロー(FCF)を分析すると、営業キャッシュフローは概ね安定してプラスであり、設備投資などを差し引いたフリーCFも大半の年度で黒字を維持しています。例えば、直近の2020年3月期はFCF +31.82億円、2021年3月期は+28.31億円と大幅なプラスでした。一方、2018年3月期は+0.65億円、2022年3月期は+1.34億円、2023年3月期は▲1.70億円と小幅ながらマイナスに転じています。これは売上増加に伴う運転資本増や設備投資の影響によるものですが、累積の現金同等物残高は2016年約59億円から2024年約129億円へと着実に増加しており、長期的にはキャッシュを蓄積できています。負債も少なくネットキャッシュ(現預金-有利子負債)も潤沢なため、黒字倒産のリスクは極めて低いと評価できます。むしろ、近年は潤沢なキャッシュフローを背景に増配を実施しており、財務の健全性を維持しつつ株主還元余力も高い状況です。
1-3. 売上高・営業利益・純利益の10年推移と成長性
東京窯業の過去10年間の業績推移を見ると、緩やかながら成長基調が確認できます。売上高は2014年3月期の約1,966億円から直近2024年3月期には約3,001億円へと増加しています。途中、2019年3月期に2,719億円、2020年3月期に2,802億円とピークを付けた後、コロナ禍の影響を受けた2021年3月期には2,291億円へ急減しましたが、その後は2022年3月期2,590億円、2023年3月期2,868億円、2024年3月期3,001億円と過去最高を更新しています。営業利益・純利益も同様の傾向で、2018年3月期に営業利益26億円・純利益17.69億円と大幅増益、2019年3月期に営業利益34億円・純利益20.34億円とピークを記録しました。その後2021年3月期には営業利益20.86億円・純利益12.84億円まで落ち込み、2023年3月期に営業利益31.99億円・純利益21.16億円と回復し、2024年3月期も営業利益31.83億円・純利益23.79億円と堅調です。このように長期で見れば売上・利益とも右肩上がりのトレンドにあり、特に2018~2019年にかけて業績が飛躍しました。その後コロナによる一時的な落ち込みがあったものの、直近では増収増益基調に戻っています。今後も鉄鋼・セメントなど主要需要産業の動向次第ではありますが、同社は緩やかな成長軌道に乗っていると判断できます。
1-4. 利益率・ROE・ROIC・ROAの同業他社比較
収益性指標を競合他社と比較すると、東京窯業の利益率・効率性は業界内でおおむね平均~やや良好な水準です。同社の営業利益率は2018年以降おおむね10~12%前後で推移しており、2024年3月期も約10.6%(営業利益31.8億円/売上3001億円)でした。これは小型耐火物メーカーのニッカトー(営業利益率5~8%程度)などと比べ高めで、同業平均を上回っています(※ニッカトーは直近期経常利益率8.5%)。
ROE(自己資本利益率)は東京窯業で直近約6%強(2024年3月期実績6.06%、2025年予想7.21%)となっており、自己資本比率が高い割には健闘しています。同業のニッカトーの予想ROE約4.0%より高く、耐火物最大手のヨータイの予想ROE約7.6%に近い水準です。同様にROA(総資産利益率)は2024年3月期実績4.18%、2025年予想4.98%と堅調で、ニッカトー予想ROA約3.1%を上回り、ヨータイ予想ROA約5.97%に迫ります。負債が少ないためROEとROAの差は小さく、これはROIC(投下資本利益率)についてもほぼ同水準(5~7%前後)と推測されます。総じて、東京窯業の収益性・効率性は業界内で中上位クラスであり、特に営業利益率では安定的に二桁を確保している点は評価できます。他社(例えばPBR約1倍のヨータイ)と比べて財務の安全性が高い分ROEは若干低めですが、それでも自己資本過多による効率低下を考慮すれば適正水準と言えるでしょう.
1-5. 参入障壁の分析(ブランド力・スイッチングコスト等)
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