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ネットネット株分析 宇野澤組鐵工所

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本ブログは投資に関する情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本を割り込む可能性もあります。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

企業概要(事業内容・沿革・成長性)

株式会社宇野澤組鐵工所(6396、以下「宇野澤組」)は、明治32年(1899年)創業の老舗ポンプメーカーです。本社は東京都渋谷区恵比寿にあり、産業設備向けの真空ポンプや**ロータリーブロワ(送風機)など風水力機械の設計・製造・販売を手掛けています​。特に、自社開発した多段ルーツ式のドライ真空ポンプは世界初の製品であり、潤滑油や封水を使わないクリーンな真空技術で化学・医薬・食品分野などに提供されています​。
こうした独自技術により、一部ニッチ市場では高い競争力(事実上の独占状況)**を築いています​。沿革を見ると、創業から真空ポンプ事業を主軸に発展する一方、昭和56年(1981年)に本社工場跡地(東京・恵比寿)に「ウノサワ東急ビル」を建設し、不動産賃貸業に参入しました​。
現在は製造事業と不動産事業の二本柱で収益を上げています。売上高の約8~9割はポンプ・ブロワ等の製造販売ですが、実は利益面では不動産賃貸が大きく寄与しています​。
同社の成長性は製造事業の景況に左右され、需要が旺盛な時期には増収増益となります。近年は半導体製造装置向け真空ポンプなどが好調で、2023年3月期以降は2期連続で二桁の増収増益を達成しました​。
ただし製造業の需要変動が大きく、10年単位で見ると業績は停滞期もあり緩やかな成長に留まっています。


割安資産株としての基本的魅力

宇野澤組は「資産バリュー株」(割安資産株)として投資家から注目されてきました。
その最大の理由が、東京・恵比寿に保有するオフィスビル等の不動産価値です。同社は恵比寿駅東口徒歩5分という一等地に大型ビル(延床面積17,038㎡)を所有し賃貸しており​、簿価を大きく上回る含み資産を抱えています。東洋経済オンラインの調査(2015年)では、宇野澤組の不動産含み益は約82億円と報じられました​。その後の地価上昇もあり、2020年時点では含み益は約105億円に達すると試算されています​。
これは直近の同社時価総額約30~33億円​の3倍超にも相当します。財務数値を基に「ネットネット株」指標で見ても極めて割安です。
ネットネット値(現預金+売掛金+有価証券+不動産含み益-総負債)を算出すると、2020年3月期時点で約73億円に達し、当時の時価総額約30.6億円の2倍以上となりました​。別の投資家試算では、含み資産を考慮した1株当たり実質純資産価値は約11,000円に上るのに対し、当時の株価は2,300~2,700円台に過ぎず、実質PBRは0.21倍とされています​。
このように保有資産価値に比べ株価が大幅に割安である点が、宇野澤組最大の魅力です。特に不動産含み益の大きさは上場企業でもトップクラスで、資産バリュー投資家から長年注目されてきました​。


株価動向の過去推移とバリュートラップ考察

宇野澤組の株価は長期にわたり低迷と急騰を繰り返す傾向があります。2010年代前半は1,000~2,000円台で推移し、PBR0.6倍台という極端な低評価も見られました​。しかし含み資産の注目が高まる局面では見直し買いが入り、2018年には液晶・半導体向け真空ポンプ好調を材料に一時急騰しました​。
直近では2023年にかけて半導体需要を背景に業績が改善し、株価も上場来高値の3,510円(2024年8月)を記録しています​

足元では3,000円前後で推移し、PBRは実績ベースで1.0倍程度まで上昇しました​
もっとも、株価が資産価値を大きく下回る状況は長期にわたり是正されていません。不動産含み益の存在は以前から知られていましたが、市場では「いつまでも活用されない塩漬け資産」とみなされ、いわゆるバリュートラップ(割安放置)に陥ってきた面があります。実際、資産価値の割に株価が上がらない状態が長引いたため、2015年頃から一部ではMBO(経営陣による株式買収)や資産売却を期待する声もありましたが、具体的な動きはありませんでした​


2023年に東京証券取引所がPBR1倍割れ企業へ改善要請を行った際も、同社は株価対策よりも「基準未達なら名証への鞍替えで構わない」と受け取られる姿勢を見せ、投資家の不信を買いました​


このように、本質的価値は高いのに株主還元や資産活用が進まない点が同社株のジレンマであり、投資には忍耐を要する局面もあったと言えます。


企業の強みと市場環境の概要

宇野澤組の強みは、大きく二つに分類できます。一つは専門メーカーとしての技術力と信頼性、もう一つは優良不動産からの安定収益です。前者について、同社は創業から120年以上にわたり真空ポンプ・ブロワ一筋で培ったノウハウがあります。世界初のドライ真空ポンプ開発など技術開発力があり、特定用途では高いシェアを持っています​

また老舗として官公庁や大手企業との取引基盤があり、製品の信頼性・ブランド力は業界内で一定の評価があります。納入後のメンテナンスや部品供給を含めた長期取引も多く、簡単には他社製品へ切り替えにくいスイッチングコストも強みと言えます。もっとも、市場全体を見るとポンプ・送風機分野には荏原製作所など大手も存在し、宇野澤組の規模では研究開発や販売網で劣る面もあります。従って圧倒的な参入障壁というより、「ニッチ領域で堅実な地位」を築いているとの評価が妥当でしょう。


二つ目の強みは、不動産賃貸事業が安定的なキャッシュを生む点です。同社保有のウノサワ東急ビルは恵比寿という好立地にあり、高い稼働率と収益性を誇ります。不動産事業の営業利益率は約70%超にも達し​、製造事業の薄利(近年3~5%程度の営業利益率​)を補っています。景気変動で製造部門の業績が悪化しても、不動産収入が黒字を確保する防波堤となってきました​
これは事業ポートフォリオ上の大きな強みです。ただし市場環境として、不動産部門には都心オフィス市況のリスクがあります。コロナ禍以降リモートワーク普及で都内オフィス空室率は上昇傾向にあり​、賃料下落リスクも指摘されています。幸い恵比寿エリアは人気が高く宇野澤組ビルも現状テナント収入は好調ですが、今後オフィス需要の構造変化には注意が必要です。製造部門に目を向けると、主要顧客分野である半導体・液晶製造装置業界は周期的な変動があります。実際、2025年3月期は半導体市況の一服により売上高が前期比▲7.6%減の見通しです​
このように、不動産景気とハイテク産業動向という異なる市場要因が同社業績・株価に影響を与える構図です。


総じて宇野澤組鐵工所は、「堅実なニッチ技術×有力資産」を持ちながら市場評価が割安にとどまる典型的なバリュー銘柄と言えます。次章では、そのファンダメンタルズとテクニカル面を詳しく分析し、最後に投資判断を示します。


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