泡沫の恋【フロジェイ】
恋い焦がれる想いは、痛み吸い上げ僕を覆い尽くす。どれだけの涙を、隠してきたのだろう……。落ちてゆく雫に、映る玉兎。花びらもいつかは、散りゆき空に舞い。過ぎてゆく無常の意味、教えて……。
三五夜の宴終わり、人知れず寂しいくて。明かしてはいけない秘密を貴方に、打ちあげたくなる……。触れられるほど近く、でも決して届かない君……。悲しき宿命(さだめ)よ。君を護る為なら、壊れてもいい……。儚い想いなら……せめて夢を見せてよ。愛しあう夢見せて……。
あなたは、"輪廻転生を信じますか?"
例えば、自分と同じ人外を求め延々と輪廻を続ける運命があったとしよう。生きては追い。死んでは巡る。それは、運命か?はたまた呪いか?そしてその先には、果たして最後はあるのだろうか?自分と同じ人外を求め続け、やがてお互いの姿が同じ人外でなくなってしまっても……、輪廻は巡る。そして、男は"禁忌 "を犯してまでも"彼"を求めたのだった。
そしてこれは、曖昧で夢現な鬼と人の"泡沫の物語"
*****
ここは、"人と妖"が暮らす世界。元々は、妖だけの世界だったが、1人の人間により妖だけの世界に"人"という種族を生んだ。それ以来、妖と人の交流は続いている。だが、妖と人の交流に意義を唱えるものも少なくなかった。
それは、"妖と人間は交わってはいけない"という掟があった。その理由は、妖の血が途切れてしまうと恐れられていたからだ。そんな反妖怪派と人間派を仲裁する場所が存在した。
契約料を払えば何でもする『モストロ・ラウンジ』という名前のカフェ兼裏企業も営んでいる。
そこにいるのは、"人間の最初の一人"と言われた女性が産んだ唯一"妖怪と人間"のハーフの男が営む店だ。
「ねぇアズール、俺のピアス知らねぇ?」
そう濡れたターコイズブルーに右側に黒のメッシュ、目はオッドアイなのだろう。右は黄色で左は生壁色の目をした男が、髪をタオルで拭きながらシルバーの髪に眼鏡をかけた、アズールと呼ばれた男に問う。
「知りませんよ。あなた、いつも部屋を散らかしている無くすのでは?少しは掃除をしなさいフロイド」
「えー、だって面倒臭いし〜。アズールがやってよ〜」
「なぜ、僕がしないといけなんですか。それぐらい自分でしなさい」
そんな事を2人が話していると、勢いよく扉が開いて慌てた男が入ってくる。
「アズールさん!フロイドさん!大変です!!また反妖怪派が……!!」
それを聞いたアズールと呼ばれた男は肩を竦めながら、ターコイズブルーに黒のメッシュの男に言う。
「やれやれ、またですか……。行きますよフロイド」
「あはっ!アズール!もちろん、全員絞めていいだよね?」
フロイドはようやく見つけた翡翠のピアスを着けながら聞く。
「ええ、構いませんよ。ですが、やり過ぎないようにしてくださいね」
「はぁい〜」
「あ、待ってください!!フロイドさん!俺も行くっス!」
先程来た男は、慌ててフロイドを追う。そのうしろを立てかけてあった、ダイアモンドに巻き付くような蛸足の付いた杖をアズールは持って彼らのあとを追った。
*****
アズールは、騒ぎになっている場所に着くなり喧嘩を仲裁している人物に声をかける。
「こんにちは、フィーネさん。すみませんが、今の状況の説明をお願い出来ますか?」
「あぁ!アズールさん!ようやく来てくれたのですね!!私だけではもう……!」
フィーネと呼ばれた男は、アズールに今の説明を聞かせる。争いの理由は、人種の理由だった。アズールはまたか……と頭を抱えた。正直、これで呼び出されたのは今日で10回目だからだ。フロイドも飽きてきたのか、何も聞かず1人の男を今まさに殴り掛かろうとしていた。
そんなフロイドをアズールは止めようもしたその時、鈴の音と共に声がした。
「申し訳ありませんがここは、僕の顔に免じて場を収めて頂けませんか?」
その男は、フロイドと同じターコイズブルー左には黒のメッシュいった風貌だった。しかし少し違うは顔を狐の面で覆い、右には鬼のような角が生えていた。フロイドに捕まっている獣耳の男と同じ姿をした男たちが叫ぶ。
「主様!」
「主様がなぜ、この様な場所に!」
そう言った男たちは直ちに、その狐面の男の前で跪く。主様と呼ばれた狐面の男はどうやら、獣人の男たちよりも身分が上なのだろう。それもそのはず、妖怪界では序列が存在しているからだ。鬼の序列は第2位。鳥人は第3位。獣人は第4位だ。空白となっている序列1位は、誰も知る由もない。そう、狐面の男も知らない。
そんな時、狐面の男のあとをついて来たのだろ同じ鬼の女が声をかける。
「主様、急にどこかに行かれては困ります。ましてやこの様な下等などう……」
「それ以上言葉を発したら、貴女の首……いえ、全身に呪いが回りすよ」
鬼の男は優しげに言うが、言葉には毒のような含みがあるように言う。それを聞いた、鬼の女は怯えたように言う。
「も、申し訳ございません!言葉が過ぎました……!」
そう言って鬼の女は、即座に頭を垂れる。鬼の男は興味が無いのか、再びアズールに言う。
「アズール、どうかここは僕の顔に免じてこの場を収めて下さい」
アズールは、ため息つきながら争っていた人たちを解散させる。フロイドは、いつの間にか獣人の男を離してじっと狐面の男を見つめていた。そして、フロイドは狐面の男に近づいて行く。
「なっ!?この下等動物が、主様に気安く近づくなど!うぐっ!?あ、主様……なぜ……っ!?」
フロイドの動きを止めようとした、鬼の女は自らの首を押さえ苦しそうにその場に蹲る。
「ある……じ……っ!主……さ……まっ……!なぜ……!!ある……じ……ジェイ……ドさ……カハッ!……ゴホッ、ゴホッゴホッ……!はぁ……はぁ……。主様……?」
「なぁ、あんた今こいつ殺そうとした?」
フロイドはいつの間にか狐面の男のそばに行き、隠し持っていたナイフを狐面の男の首元に突きつけていた。しかし、狐面の男はそんな事にも動じずにフロイドに言う。
「ええ。それが何か?」
「っ!!」
今にも持っていたナイフの先を引こうとしていたその時、アズールの止める声が聞こえフロイドはナイフを引っ込める。
「そこまでです、フロイド。それ以上するなら、僕が相手になりますが?」
「………」
フロイドは無言で、アズールのそばに戻る。それを確認してから、またアズールは狐面の男に言う。
「ここでは少々目立ちますので、どうぞ、僕たちのアジトへご案内します」
アズールはそう言って案内するように、先に歩き出す。フロイドもそれに続いて歩き出す。狐面の男は2人の後を追うように歩き出したその時、後ろから先程の鬼の女が小さく声をかける。
「主様……わたくし達も……」
「いえ、結構です」
「ですが……!?」
狐面の男は、ようやく鬼の女を見る。そして冷たく言い放つ。
「いえ、結構です。これ以上ついてくると仰るなら、容赦はしませんよ?」
「……っ!?も、申し訳ございません……。わたくしどもは、影に戻ります……」
鬼の女はそう言って、桜となって消えた。そして狐面の男は天を向いて、小さく呟いた。
「やはり、覚えてないのですね……、フロイド……」
狐面の男は、フッと悲しく笑う。そして、先に行ったアズールたちのあとを追ったのだった。
*****
アズールは、着くなりフロイドだけを残しあとの者たちは全て、部屋から出るように指示を出した。
「さて、貴方自らここに来たのには、理由があるのでしょう?話して頂けますか?」
そう話を切り出したのは、アズールだった。フロイドはアズールの隣でまだ、狐面の男を警戒している。そんなフロイドを気にしていないのか、狐面の男は狐面を外す。
「っ!?」
フロイドは、狐面の男の顔を見て驚く。それもそのはず、狐面の男の顔はフロイドの髪の色とは逆だが、瞳の色までも同じだったからだ。
フロイドはこの時なぜ自分以外の者たちを、部屋から出したのか理解した。それは、フロイドと狐面の男の顔が似ているからだ。そう、"角"以外は。
「ええ、そうなんです。少々、新種のキノコの情報を得ましたのでこの目で確かめたかったのです」
そう鬼の男は、笑いながら言う。
「はぁ?新種のキノコ?"どうせまた、山に行って来たんでしょ?『山を愛する会』だっけ?わけのわかんねぇ部活にオレを付き合わせんな……よ……"?」
フロイドは、そう自分が言った言葉に驚く。それもそのはず、鬼の男とこはこれが初対面だからだ。
「え……?何言ってんのオレ……?こんなやつと会ったことも、話したこともねぇのに……!?……っ!」
「フロイド!!」
フロイドは、勢いよく部屋を出て行った。アズールの止めるの声も聞かず。アズールは、ため息をつきながら頭を抱える。
「はぁ……。貴方、こうなる事が分かっていて言いましたね?"ジェイド"」
「おやおや、バレていましたか。さすがですね、アズールです」
「何を分かりきったことを……」
ジェイドと呼ばれた鬼の男は、悪びれもなた様子も無くアズールに言う。
「何故あのようなことを?」
「期待、ですかね……。フロイドに僕を覚えていて欲しかったという……」
ジェイドは、少し影がある顔で言う。それに対し、アズールは答える。
「フロイドが覚えていない事ぐらい、あなたなら予想がついていたでしょ。あいつは……」
「フロイドは、"禁忌を犯して記憶を失った"ですか」
ジェイドは、真っ直ぐアズールの目見て言ったのだった。
*****
何も覚えていないのに、あんな事を言ったフロイドはすぐさま自室に来た。
「意味わかんねぇ……!オレはあいつを知らないのに!!何であんな事言ったんだ!?何で……!何で……何も覚えていないのに……こんなにも胸が苦しいだ……!」
フロイドの心は、月蝕のように欠けてゆき。甘い甘い痛みは、波打つ胎動になり彼を想う気持ちは、加速してゆくのだった。
*****
フロイドが自室から出てくる頃には、ジェイドは居なくなっていた。一人ソファーに座り、優雅に紅茶を飲むアズールしかいなかった。そんなアズールにフロイドは言う。
「アズール……あいつは?」
「お帰りになりましたよ。今後の話し合いも済みましたし。それよりフロイド、あなたは大丈夫なのですか?」
「え……あ、うん……平気。それよりアズール話が……」
アズールはフロイドの言葉を遮り、話を続ける。
「あの男を探しに行くのですか?」
「………っ!?」
「無駄だと思いますよ」
そう言ってアズールは、飲んでいたカップをテーブルに置く。その言葉が、フロイドの怒りに触れた。
「ねぇ……それって、どいう意味で言ってんの?」
「そのままの意味ですよ。あなたが行っても無駄です、と言ったのです」
フロイドは怒りが頂点に達し、アズールの胸ぐらを荒く掴む。そして、フロイドは冷静にだが声は低く、怒りを含んだ声でもう一度言う。
「ねぇ……どいう意味で言ってんの?いくらアズールでも、これ以上言うと本気で絞めるよ?」
「先程も言いましたよ、フロイド。無駄なのです。あなた……」
アズールがフロイドに何か言うとしたその時、先程ジェイドに殺されかけたところを、助けた鬼の女が声をかけた。
「アズール様、お話はそこまでにして頂けませんか?主様がお待ちですので。さぁフロイド様、ご案内致します」
フロイドは、興が冷めたのかアズールを掴んでいた手を離す。そしてフロイドは、何も言わずに鬼の女について行く。そして、黒塗りの車に2人は乗った。
*****
道中無言の2人だったが、フロイドから鬼の女に話しかける。
「ねぇあんたはさぁ、あいつの居場所知ってんの?」
「………」
「あんた、あの男の隣に居た鬼の女だよな?」
「………」
「………」
フロイドが鬼の女に話しかけても、何1つ答えなかった。やがて、フロイドも鬼の女が何も答えようとしないことが分かって、質問をやめた。
また、道中2人は無言が続いた。すると、小さな声が聞こえた。
「……アヤメ」
「え?」
「……わたくしの名前です。おや、ついたようなので降りましょう」
アヤメと名乗った鬼の女は、そう言って先に車を降りた。続いてフロイドも降りる。フロイドは車から降りると、目の前の光景に驚いた。
そこには、昔ながらの日本家屋のような家に巨大な桜が咲いていたからだ。フロイドが、桜に見とれていると、アヤメは月のマークがある扉を開けて声をかける。
「フロイド様、こちらでございます」
フロイドは、アヤメの声で我に返りアヤメのあとをついて行った。そして、広い屋敷にフロイドは一人待たされていた。
『フロイド様、少々こちらでお待ちくだい。くれぐれも、ここから動きませんようお願いします』
と言ったきり、アヤメは戻ってこない。フロイドは待ってるのが、飽きてきたのか屋敷内をウロウロと歩き始めた。しばらくそんな事をしていると、アヤメが何か持って戻ってきた。
「フロイド様、くれぐれもここから動きませんようお願いしたはずなのですが?」
アヤメは、不機嫌にそう言う。そんなアヤメに対し、フロイドは悪びれもなく答える。
「だって、待ってんの飽きた。それに、アヤメちゃんが早く来ないから」
「待つことを飽きたなど、わたくしのせいにしないで頂きたい」
アヤメは、持ってきた何かをフロイドの前に置いていく。
「何これ?それに、あの男に会えるって言うからついてきたんだけど?」
「あの方に会う前に、フロイド様にはこれをご覧いただく権利がございますので、先にこちらをご覧下さい」
フロイドの前に置かれた何かは、アルバムだった。
「なぁにソレ?」
「あの方の……、アルバムでございます」
「………」
フロイドは、黙って渡されたアルバムをめくる。そこには、魚のような姿のの自分や狐面をつけた自分と同じ顔の男とタコでぷっくらしたアズール似の男と一緒に笑いながら写真に写ったもの。そして、今のような人間の姿で楽しそうにバスケをする自分などが写っていた。
やがてそのアルバムの最終ページをめくる頃には、フロイドは涙を流していた。
「思い出されましたか……」
「思い出した……。全て、思い出した」
アヤメはフロイドの答えを聞くなり、立ち上がりフロイドに言う。
「では、こちらへ……」
フロイドも立ち上がり、アヤメについて行く。やがて見えてきたのは、木々で塞がれた場所だった。アヤメはその前で止まると、フロイドに聞く。
「フロイド様、1つお聞きしても宜しいでしょうか?」
「……何?」
「あなたは、1度記憶を無くしています。ですのでわたくしからすると、"主様にとってフロイド様は必要ない"と云うことです。それでもお会いになりますか?」
フロイドは、アヤメのその質問に力ずよく言う。
「それでもだよ」
「主様が、望んでいなくてもですか?」
「記憶を取り戻してさぁ、思い出した事あるだよねぇ……。学生の時、オレたちとって陸の上は初めても当然だった。そして陸の上に出て2年がたってオレは、人間の姿にも他の人間との付き合い方にも慣れたもんだよ」
フロイドはそこで、1度話を止める。アヤメは何も言わず、ただ黙ってフロイドの話を聞いていた。フロイドは話を続ける。
「だが、本当の意味では人に馴染めて無かったんだよ。人間が怖いんだ。人傷付けられた事があるから。人が好きなくせに愛を受け取らない、深入りもしない。そんなジェイドがさぁ……オレの前では、遠慮が無くなるんだ」
(怒って、泣いて、普通に笑う……)
「あの時は、そりゃ自惚れたよ。……自惚れていいと言ってくれ」
「………」
フロイドは、溜息に混じりに呟く。
「やっと記憶が戻ったとはいえ、折れそう……」
「だ、そうですよ。主様」
「っ!?」
アヤメは、いつの間にか目の前にある木々を避けながらその"人物"に言う。
そこにいたのは、必死に声を出さないようにしているジェイドだった。
「ジェイド!!」
フロイドが、ジェイドの名前を呼ぶと同時にジェイドはさらに奥の木道に逃げて行った。ジェイドは、木道を必死に走り続ける。
(何故!何故!?どうして、フロイドがここに!?アヤメが連れてきた?どうしてです!?)
フロイドは、少し遅れてジェイドを追いかけた。
「ジェイド!!逃げるなよ!ジェイド!!!」
だがしかし、ジェイドは振り返りもせずフロイドから逃げ続ける。ジェイドは、フロイドを振り切り木々が入り組んでいるところに入っていく。フロイドもようやく追いつくが、ジェイドが入り組んだところに入ってしまったためフロイドは、必死に入口を開けようとする。
「妙なとこに逃げ込みやがって!どうなってんだよこれ!おい、ジェイド!」
フロイドは、ジェイドに呼びかけ続ける。すると、先程まで黙っていたジェイドが声を荒らげて叫ぶ。
「帰って下さい!帰って……」
「何でだよ……これからだろ?やっと……やっと全部思い出したんだぞ」
「だからです。今はあなたは人で、僕は鬼……。今までとは、違うのですよ?」
ジェイドは、冷たく言い放つ。
「これからは、独りで生きていきたいのです」
「ジェイド、オレことはーーーーー」
「今まで、付き合わせてもう訳ないと思います。けど、あなたこそ僕と離れなければ……。もう輪廻には縛られずにこれからは人として生まれ、人を愛し人に愛され生きてゆくーーーーー。きちんとした、あなただけの人生を生きるのです……」
ジェイドがそう話すと、後ろから何が壊れる音が聞こえた。
「誰が、そんな人生望んだよ」
先程聞こできたのは、フロイドが硬い木を殴った音だった。そして、なおも話を続ける。
「なんだよ、その絵に描いたような生き方は。ジェイド、知ってんでしょ?オレは欲深いだ好きに生きさせろ。それに、ジェイドとうまい飯を食いたい。綺麗な景色を見たい、一緒にしたい事も話したい事も山ほどある。オレの人生の隣には、常にジェイドがいる。他の誰でもないお前と生きたい!」
「止めろ!!」
ジェイドは、そう叫ぶ。
フロイドがようやく木々をわけ道を作ると、ジェイドが悲しみと諦めを帯びた目と目が合う。
「泡沫は終わった。目を覚ます時間ですよ、フロイド」
フロイドは別けた木々の道を進もうとしたその時、ジェイドはさらに奥へと進んで行く。
「あ!おい、行くな!くそっ!本気か、ジェイド!!」
ジェイドは、一向にフロイドの話を聞こうとしない。それどころか、冷たい水の中へと入って行く。
「ジェイド!!」
フロイドは、なおもジェイドの名を呼ぶ。ジェイドはようやく、立ち止まる。
「来ないでください。やっと、あなたがいない暮らしに慣れていこうと思えましたのに!心の整理をしていたのに……どうして追ってくるのですか!!お願いだ……これ以上、僕を掻き乱さないで下さい……」
「え〜嫌だぁ。とことん、掻き乱してやるよ。……ジェイドも、苦しめばいい。オレたち、2人で苦しめば案外楽になるかもよ」
ジェイドは、そこでフロイドの方を振り返る。フロイドは、笑いながら少しずつジェイドに近づいて行く。
「……!来ないでください!」
ジェイドは、フロイドが近づいて来てるのに気づきフロイドを止めようとする。
「ねぇ、オレにどうして欲しいの?諦めたら満足〜?ジェイドは、どうしたいの?」
「ーーーーー……分からないです。自分が……何をしたいのか、分からない。ーーーーー分からないです」
ジェイドは、またフロイドから顔を背ける。そして、ジェイドはゆっくりとフロイドを見上げる。
(ずっと"どうするべき"か、"どうあるべき"かで判断してきた。どうしたい?僕は、何がしたいのでしょう……?ただ確実なのは、フロイド……あなたが、愛しいということだけ……)
ジェイドは、目に涙を浮かべながら答える。
「ただ……望みは1つ、フロイドの幸せです」
フロイドは、驚いた顔でジェイドを見ていた。
(フロイド、フロイドあなたが大切です。どうしようもなく、愛しい僕の唯一の……。あなたの、何にも負けない笑顔が好きです。だからこそ、何にも縛られず生きて欲しい……)
ジェイドは、涙を流しながらでも笑顔で言う。
「これが、僕の愛です。フロイド」
「っ!?」
フロイドは急に目眩を起こし、膝をつく。ジェイドは、静かに答える。
「ジェイド……?」
「……呪いは解けません。あとは僕を忘れていくだけ」
「嫌だ……!やっと、思い出したに……!!」
フロイドは、そう悔しそうに呟く。そんな、フロイドを見ながらジェイドは言う。
「泣かないで、フロイド……。どうか、幸せになって下さい……」
「幸せって何……。教えてよ、ジェイドはこれで幸せになれんの?」
「幸せ……かは、分からないです。ああでも、これからはあなたがいません。ーーーーーそれは、たまらなく悲しい……」
ジェイドの涙は、頬をつたって水の中へと落ちてゆく。
フロイドには、目の前いるジェイドの姿はもうほとんど見えていなかった。しかし、フロイドはそれでもジェイドに言う。
「ーーーーージェイド、もっと欲しがっていい。求めてよ」
「求めるものなど……ありません。僕はあなたに、何もしてあげられない……!」
ジェイドは、そう言って自分の泣いてる姿など見せないように手で顔を隠す。そんなジェイドに、フロイドは強く握りしめる。
「何もしてくれなくていい、今までのようにただ側にいてくれるだけでいいんだ!それだけじゃダメなのか!?なぁ、オレが大事なら幸せにしてくれよ!ジェイドが!オレを幸せにしろ!!」
「ーーーーー僕が……」
「泣くのも笑うのも苦しむのも、ジェイドの隣でありたいしオレの隣であって欲しい!ジェイドもそうだろう!!欲がないなんて、お綺麗な事言ってんじゃねぇよ!!結局はビビってるだけじゃん!!腹くくれよ、ジェイド!オレを求めろ!!!」
ジェイドは大粒の涙を流しながら顔をあげ、フロイドに向けて大きく腕を開いた。そしてフロイドは、ジェイドに向かって走り出す。そして2人は抱きしめ合いながら、1度水の中へ落ちてゆく。そしてフロイドは、水面からジェイドと上がると大きく笑いだした。
「ぶはっ!あははは!ジェイド捕まえた!」
「〜〜〜〜っ!あの言い方は、ズルいです!」
ジェイドはそう、フロイドに悪態をつく。
「だって、ジェイド頑固なんだもん!オレ、ヒヤヒヤしたよ。……あぁもうダメみたい……」
フロイドはそう言いながら、ジェイドの腕の中でくずれてゆく。
(あ……呪いが……。もう、僕の顔も見えていないのでしょう……)
ジェイドはそう思いながら、フロイドと共に1度水の中から上がり、フロイドを寝かせる。フロイドは、手をジェイドの頬へと触れながら言う。
「ジェイド、もし……次に、ジェイドを見つける事が出来たら諦めてよ。オレの手を離すことを諦めて。また一緒に歩める事がきっとある。まだ先は長だ、ゆっくり探していこう?」
ジェイドは、それに答えるように、フロイドに自分の唇を近づけていく。フロイドも同じく近づけていき、2人はキスをする。完全にフロイドの中からジェイドに関する記憶が消える頃、ジェイドは最後に思う。
(ええ……。あなたの側で、あなたと生きてゆくーーーーー。幸せを見つけていきましょう、2人で……)
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「くくく!やれやれ、手間のかかるご両人たちだ」
アヤメは、そう笑いながら空を見上げて呟く。そんなアヤメに、半透明の女人が声をかける。
「あら?珍しく、手を差し伸べましたのね。わたくしたちは"傍観者"ですのに」
「なに、ただの気まぐれだ……。あの2人は、とても面白いからのう。今後どう輪廻の鎖を壊すのか楽しみじゃ。さて長らく空席にしていたからな、元の席へと戻るかのう……。行くぞ、"アヤメ"」
「ええ、我が神(あるじ)……」
そう半透明の女人と、先程までアヤメと名乗っていた女人はそう言って消えて行った。
*****
恋い焦がれる想いは、報いの花咲かせながら2人を包む。君の思い出になれる、それだけじゃダメ。未来さえも変えるカを、どうか下さい……。
花はやがて散り土になり、雪は融け渇いて空へと。それでも、また花は咲いて雪も舞う。想いも宿命(さだめ)超え、2人を導いて愛しあえる日々まで……。
END
あとがき
フロジェイ小説で、鬼と人の物語です!
フロイドのキャラがイマイチ分からかったので、キャラが違うかもしれません……(;´∀`)ちょっと長いです……。そしてイラストはなんと!美麗なイラストを描く、フォロワーさんの月ノ陰様に描いて頂きました♪︎\(*ˊωˋ*)/(ありがとう!!)⚠️pixiv限定でフォロワーさんにイラスト表紙書いてもらいました♪
※相変わらず、誤字雑字多めです……。本来の作品とかけ離れたものとして、読んで頂ければ幸いです……(;´∀`)