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Nubiyan Twist "Freedom Fables"

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イギリス・リーズ出身のジャズバンドによる、約2年ぶりフルレンス3作目。

ホーンセクション、キーボード、パーカッションも含めた9人編成。そのうちバンマスを務めているのはギタリスト Tom Excell とのことだが、さすがにこれだけの人数がいれば楽曲を作る上で様々な力学がバンド内に発生しているだろうし、今作はその中で生まれ出てきたアイディアすべてを余すことなく網羅しているように見える。すなわち、ジャズを起点としながらジャンルの区分に囚われず、鋼の胃袋による雑食性を発揮し、野心豊かなエンターテインメント性を打ち立てた快作、それがこのアルバムなのである。

楽曲を順に追っていく。オープナー "Morning Light" はアーバンで洒脱な雰囲気を湛えたファンクナンバー。BPM はミドル~スロウ寄りの、最も心地良いと感じるところからもう少し後ろノリで、さらさら流れるメロディの美しさと相反するかのようにグルーヴは粘っこく、この上モノとリズムの微妙な体感速度の違いが不思議なうねりを生んでいる。続く "Tittle Tattle" はそこから一気にギアを上げてのアッパーな速度が鮮烈。人力 UK ガラージのようだがアフロビートの熱量も注入されており、ゲストボーカル Cherise の挑発的な歌唱も相まって体を即座に突き上げられる。そして "Ma Wonka" ではまた一転してラテンテイスト、またダブの音響性を取り入れたりで土着的な印象が増加。ここでのゲスト Pat Thomas はガーナ出身のシンガーで、ジャズを主とする西洋の音楽とアフリカの民族音楽を融合させたジャンル "ハイライフ" の大御所、レジェンド的な存在なのだと。正直なところ自分は全然知らなかった。だが彼の渋味に満ちた歌声が放つ陽気さと、その背後に見え隠れする哀愁、そこにレイドバックしつつダンスの熱に薪をくべる演奏陣(特にスリリングかつ華やかなホーン隊の痛快さときたら!)が重なれば、異国への憧憬を掻き立てるのに十分すぎるほどだ。

中詰。"Buckle Up" は程良くダーティーな緊張感が漂う中、艶やかな R&B メロディからキレの良いラップ、そして情感豊かなサックスソロへと移行するジャズ・ヒップホップ。"Keeper" は7分の長尺曲で、音作りの面にエレクトロニックな感性を宿しながら泥臭い躍動感も兼ね備え、緩急を自在に行き来するセッションの技量の高さを特に実感できる。そこから次曲 "If I Know" に入るときの曲調の落差はこのアルバム内で最も大胆不敵な自信を感じさせる瞬間のひとつと言える。ガーナ出身のラッパー K.O.G. を招聘したこの曲はアフロ色が特に濃厚で、強烈にダンサブルなビートとがっぷり四つで組み合うラップのアジテーション、聴衆をブチ上げんとする陽性のバイブスはあからさまにライブ仕様である。自分はこの手の楽曲を聴くと自動的に真夏の野外フェスを想起する。まあはっきり言えばフジロックの FIELD OF HEAVEN なのだが。今は遠い場所となってしまったあの幸福な空間に思いを馳せ、うっかりエモが溢れ出しそうになる。こりゃ毒だと思いつつもついついリピートしてしまう異色曲だ。

終盤。"Flow" はまた前曲との落差が激しく、エレクトロニックの質感を強めた音像が少し Hiatus Kaiyote を思い出させるネオソウル・ポップ。Cherise はこの曲を含めて今作中3曲でボーカルを担当しているが、それぞれの場面で巧みに表情を使い分けて楽曲の個性を一層際立たせており、そのスキルの高さに舌を巻くばかりだ。"24-7" はさらにエレクトロ寄り、トラップ風のモダンなポップスへ目配せした曲調。今作の中では最も洗練されているが、その中にもジャズやアフロの要素はスパイス的にビシッと生かされており、細部へ目を凝らすほどに音の組み合わせの妙技に唸らされ、気づけばリズムの心地良さへと体を委ねている。そして最後を飾るのは "Wipe Away Tears" 。バンドのサックス奏者である Nick Richards がボーカルを担当。優美な中にタフな芯を備えた歌声が、前に歩を進めるための強さを聴き手にシェアする。曲全体を通じて高揚感を膨らませていく構成も含め、ポジティブな暖かみが伝わってくる感動的な一曲だ。

以上9曲49分。なぜ1曲1曲を細かく書いてきたかと言うと、同一のアルバムに収められていながらも楽曲個々の毛色が随分と異なり、さらにはバンド本隊以上にゲストボーカルがその毛色を決定づけている節もあるため、ともすればコンピレーション的とも捉えられる内容だからである。もちろんバンドメンバーは皆が熟達したプレイヤーであり、ここぞという場面で我の強さを発揮してもいるが、総体としては楽曲のイニシアティブがバンドとゲストで折半されているように見えるし、人によっては Nubiyan Twist としての個性がどこにあるのか汲み取りにくいと感じるかもしれない。しかしながら、ここでの彼らは演者であると同時にある種のキュレーター的な役割も果たしており、現代のジャズというジャンルがいかに多様性に満ちていて自由度が高く、伝統も先鋭も、前衛性もポップさも柔軟に取り入れられる上質な娯楽であるかを雄弁に提示している。英国からアフリカ大陸までの道程、その最中に溢れている雑多な音楽性をジャズの元に統合した、その "雑多さ" こそが彼らの一番伝えたい信念なのではないかと、今作を聴いていると思う。

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