生きるために生まれたんだと確信する色

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先日発刊された「戸川純全歌詞解説集」が我が家にも届き、すぐさま読了した。久しぶりに貪るようにして活字にのめり込んでいた。タイトル通り、ソロやヤプーズなど自身の書いた歌詞について、当時のエピソードを回想しながら解説するというものだ。その解説によって初めて歌詞を読んだ時の印象をさらに強めたり、数々の引用など新たな発見も多々あったりと、いちファンとしてこの上なく興味深い内容であった。時には思わず声を上げて笑ったり、ゾクリと背筋が凍る場面も多々あった。それらをひっくるめて最終的に思ったことは、「戸川純」は戸川純にしか成し得ない表現だということだ。後続の誰それに影響を与えたという話はよく聞く。よく言われているのは椎名林檎だが、何となくメンヘラっぽいという表層の表層だけを雑に指摘しているだけだと思う。はっきり言って全く別物だ。80年代という時代背景や育っていた環境の特異さもあるだろうが、彼女ほどのオリジナリティを持つ表現者が今後現れるだろうか。

自分が戸川純を初めて知ったのは10数年前、cali≠gari やロマンポルシェ。、筋肉少女帯などの影響で80年代日本のニューウェーブ/アンダーグラウンドシーンにめきめきと興味が湧いていた頃だ。世間的にも時代が一回りし、80年代再評価の機運が高まっていたと思う。スターリン、INU 、非常階段、Z.O.A. 等々、その辺を漁っていれば誰だって嫌でも戸川純にブチ当たるはずだろう。自分もその一人だ。最初に買ったのはゲルニカの BOX セットだったと思うが、その後すぐにソロやヤプーズの諸作も CD ショップを巡ってサルベージしていった。音質や曲調の古さはさして気にならなかった、というよりその古さに新鮮さを見い出していたところがある。そして戸川純の変幻自在のヴォーカリストとしての多彩さ、文学的素養を感じさせながら人間の業を強烈に切り取った歌詞のリアリティ、その目くるめく特濃の世界観にすぐさま魅了されていった。

好きな曲を挙げていくとキリがない。それでも一曲あえて挙げるとするならば「赤い戦車」になるかもしれない。「ダイヤルYを廻せ!」のラストを飾るこの曲。本の中でも特に力の入った解説だったし、公式グッズのTシャツにも歌詞の英訳がプリントされている。戸川純本人にとっても思い入れの強い曲なのだと思う。どれだけ深く傷つき、孤独や憎しみ、諦めを覚え、時には過ちに走ったとしても、最終的にはこの曲が表現している「生」に行きつく。生の象徴である赤色の血、生きる事に強く執着する。それは希望だが、人によっては結局「生」から逃れられないという残酷な内容に映るかもしれない。だが戸川純が自らの内面を振り返った後にこういうある種の決意のような歌詞が生まれてきたというのは、聴き手の我々にとっても希望であると信じている。この曲を聴く時は常に、初めて聴いた時の胸が重苦しく締まるような心地を覚える。戸川純が歌うからこそ深い意味がある、痛々しいほどに力強い名曲である。

どうやら近々、戸川純関連の過去作がまたリイシューされるらしい。上の「ダイヤルYを廻せ!」は残念ながら対象外のようだが、「玉姫様」を筆頭に重要なアルバムが多数含まれている。興味ある方はぜひ手に取ってほしい。サウンド的には時代を感じさせるものではあるが、彼女の歌は決して古びることがない。それはいつの時代も変わらない、人間の根源に真っ向から対峙した歌を歌っているからだ。

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