Svalbard "When I Die, Will I Get Better?"

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イギリス・ブリストル出身のロックバンドによる、2年4ヶ月ぶりフルレンス3作目。

絶妙な立ち位置にあるバンドだと思う。彼女らは昨年に初来日を果たし、渋谷にて開催されたサーキットイベント "After Hours '19" に出演していたのだが、その時の出番は Explosions in the Sky と envy の間だった。彼女らの音楽性はちょうどその2バンドの間隙を埋めるようなものなのである。硬質に研ぎ澄まされた音作りで全力疾走し、スポーティな痛快さを発するドラムはいかにもハードコア的。だがその上に乗るギターはディストーションのみならず、ポストロック風の空間的でしなやかなレイヤーも駆使し、クリーンボイスで冷たく清らかなメロディをなぞる場面では Sigur Rós 、あるいは Mew を思い出したり。また時にはブラストビート×トレモロリフというブラックメタル由来の手法を混ぜ込んでくることも。大まかなジャンルで言えばメタルの枠に入ると思うが、実際にはメタルに限らず、激情をシリアスかつドラマチックに発散する類のロック全般を統合した、緻密かつ大胆なサウンド構成が彼女らの持ち味というわけだ。今回の新作はその持ち味が遺憾なく発揮された、非常に噛み応えのある内容に仕上がっている。

今作を聴くにあたって過去の作品もさかのぼってみたが、基本的な路線変更はない。ただ結成時から磨き続けてきたであろう彼女らにとっての一番の武器が、さらに洗練、強化された形で提示されている。冒頭 "Open Wound" からして一切の遠慮がない。ヘヴィなばかりではなく、深遠で厳かな、それでいて柔和な質感も併せ持ったギターサウンド。ドラムは D-BEAT を主としながら自在に緩急をつけ、身体をガツンと突き上げるアタック感で楽曲を推進していく。それらが密接に絡み合うことで、大海の荒波や雷鳴を思わせるような、何ともスケールの大きな轟音が発生している。演奏の切れ味、展開の妙、メロディの豊かさ、サウンドプロダクションの練度…全ての面においてクオリティが新たなピーク値に達しているのだ。その後の楽曲も一貫してヘヴィであり、ひどく切迫した緊張感に満ちているが、アンサンブル全体から受ける印象は不思議と開放的、ともすれば優美ですらある。それはブラックメタルの攻撃性を発揮し、苛烈さを増している時でも同じ。ここにブレンドされている音楽要素の全ては、単なる苦悩や憐憫の捌け口ではなく、自己をポジティブに開放し、浄化するためのものとして機能している。

エモーショナルなメロディが強く胸を打つ "Throw Your Heart Away" や、クリーンギターの美しさが Slowdive の領域にも肉薄している "Pearlescent" など佳曲揃いの内容だが、彼女らのアティテュードを最も分かりやすく読み取れるのは7曲目 "The Currency of Beauty" だろう。直訳すれば "美の通貨" となるわけだが、彼女らはここで "美は通貨ではない" と喉を擦り切らせて叫んでいる。肉体的、表面的な美しさで我々を値踏みしようとするな、モノ扱いするなと。セクシズムやルッキズムに対する真っ向からの否定である。そもそも彼女らはこのアルバムを過去作と同様に Holy Roar Records からリリースする予定だったが、レーベル創設者が性的暴行で告発されたことを受け、バンドとの関係を断ち切ってリリース元を変更したという経緯がある。差別や抑圧、偏見を拭い去り、属性に囚われず内面のみで対話する。彼女らの鳴らす音が外を向いているように感じるのは、表現の根本にこういった思想が存在しているからだと思う。アルバム表題の問い掛けには "NO" という答えがあらかじめセットで備わっているはず。自分が自分として生きることの過酷さと尊さを、彼女らはエネルギッシュな演奏と真摯な言葉の数々により、聴き手に激しく訴えかけている。

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