【蒸留日記 vol.140】Achillea filipendulinaの蒸留。
こんちわこんちわ、青の魔術師エフゲニーマエダですどうも。
さてさて!
今回、計画から2年越しでついにやっと壮大プロジェクトの結果が判明したタイトルになりまっす!
北海道に生育する外来植物のセイヨウノコギリソウからなんとも魅力的な青いオイルが抽出できることを2022年に知り、その摩訶不思議な性質を追うためにかねてよりの遠大なプロジェクトを進めてまして。
昨年度2023年春より開始していた、日本で入手可能なヤロウ(Genus Achillea)を一通り蒸留して精油を揃えてみる・比べてみる大実験!
その中でも特に時間がかかっていたシダノハヤロウ(Achillea filipendulina)の結果が種まきから約2年越しでついに出たので、そのレポート回となります!
そもそもの黄花ヤロウとA.filipendulina Lam.について。
日本の園芸業界においてヤロウ/セイヨウノコギリソウ類は、ノコギリソウ属のあらゆる植物種をひっくるめて白花ヤロウ、赤花ヤロウ、黄花ヤロウの3色品種で表されています。
なかでも黄花ヤロウについて…
一概に"黄花ヤロウ"とは言いますが、植物分類学的にみると異なる植物種の多くが所属し構成されています。
・Achillea filipendulina(シダノハヤロウ)
・Achillea tomentosa(ウーリーヤロウ/羊毛ヤロウ)
・Achillea clypeorata(バルカンヤロウ)
・Achillea ageratum(スイートヤロウ)
などが日本国内でも花苗として購入できる黄花ヤロウたちでしょうか。
このように黄花ヤロウ品種を詳しく見てみるとそれぞれ植物種として分かれているんですよね。
中には天然環境には自生していない、園芸家が異種ヤロウを掛け合わせて作出した園芸品種(→オレンジ花のヴォルターフンクなど)などもあります。
で、今回volume140にて蒸留する黄花ヤロウというのがシダノハヤロウと呼んでいる学名:Achillea filipendulina Lam.になります。
英語圏での通称はFarn leaf yarrowです。
シダノハヤロウ(Achillea filipendulina)はイランや中央アジアの乾燥帯原産で、黄花ヤロウの中でも花茎の丈がかなり高くなる種の"黄花ヤロウ"です。
見た目の姿は白花でよくみられるAchillea millefoliumとは結構異なる風貌をしており、植物分類史的にセイヨウノコギリソウをはじめとするアキレアグループではなく、タナセタムグループに割り振られていた時代がありました。
イランや中央アジアの乾燥帯原産ということあって、寒さや湿気にはエラい弱い性質あるのかな〜?と思いきや、意外と北海道の雪積もる冬でもしっかり越冬してくれました。
どうやら湿気と寒さには強いようなのです。さすがはユーラシア育ち!
葉っぱにはハーブ様の強い芳香があり、癒されるような香りではありません。。。
セイヨウノコギリソウとも異なった香りをしています。
アキレア属植物の精油比較プロジェクトにて。
まずプロジェクトの発端などを書した記事たち。
ざーっくりと端折って説明すると、
Achillea属植物らの中で青い精油を作る種は何になるのか?
そして各種Achillea属植物の精油の香りはどうなのか?
を調べるプロジェクトであるワケです。
で昨年2023年の春より、種まきでスタートできるものは種まきから苗づくりをはじめたんですが…
まぁモノ(植物種)によってものっすごい成長に差が出たんですよf(^^;)
ドイツ由来のセイヨウノコギリソウは種まきからわりとすぐに苗に仕立てられたんですが、本稿のシダノハヤロウは苗とするまでにすごい時間がかかってました。
加えて、ほかのアキレアたちは栽培開始から1年以内に精油抽出をして結果を知ることができたんですが、シダノハヤロウだけは生育に時間がかかっていたので栽培開始の初年度では結果を知ることができていませんでした。
のちのちにそれは土壌栄養の貧富差がすごかったって結論になったのですが、本稿テーマとなる黄花グループのシダノハヤロウは地植えにした途端ものっすごい葉っぱがモサモサに化けてしまったんですよ〜。
行き過ぎた感(笑)まぁそれも詳しく後述します!
■素材収穫と蒸留準備!
収穫のようす。
さて、時は晩秋…積雪の時期を直前に迎えて、畑の片付けを進めている頃。
まだ収穫・蒸留が終わっていない作物が2種おりました。
セイヨウノコギリソウ(A. millefolium cv 'Proa')とシダノハヤロウ(A. filipendulina 'Gold plate')です。
鉢植えで育ててぜんぜん大きくなれていなかった(おそらく栄養と水分不足で)黄花ヤロウたち数種をハーブ園の奥の畝2本に列植しておりました。
裏庭ハーブ園開拓のおかげあって、今年度2024年から鉢植え→露地植えに移植できました。
本来だともっと日照条件のよい場所に植えてあげたかったのですが、若造たったひとりの人手では作業がまったく追いつかず…w
これら黄花アキレアたちを日照条件の良い中央緑地に再度移植してあげるのが来年春の目標ですね〜!
本来の花期ではない晩秋であるのと、時期の半分近く常に湿った状態の元畑土壌で育っているためにとにかくモッサモサに育ってしまっているシダノハヤロウ。
まるでダイコンでも育ててるのか!ってツッコミ入れたくなるビジュアルをしています。
冬時期のための冬囲いと称して、茂った葉っぱのダイエットと株の小型化(剪定)を実施します。それで出た枝葉が今回の蒸留材料になるワケです。
土壌の栄養素が多すぎて茎がシナシナになってしまっていたのか、はたまた土壌水分が多すぎてか花茎が倒伏してしまっているようすでした!
もっと乾燥土壌で育てるとチッソ栄養の供給量を絞り、水分も適切な量与えられるのでやはりシダノハヤロウをキレイに開花させるには乾燥気味の土壌で育てるべきなのでしょう。
ちゃんと枯れずに越冬できるかの実験のためにかなり激しめの強剪定をかけたシダノハヤロウの大株(画像上)
来年の春〜初夏でどこまで樹勢を回復できるか観察します。
対照実験としてほぼ剪定をかけていない、育ちっぱの子も何株か用意しておきます。おそらく雪の下で葉っぱは腐れてしまうのかなぁ〜と予想。。。
あまりの収穫物量だったために約2日間かかりましたが、収穫完了!
合計3回分の蒸留となりました。。。
蒸留準備。
そもそも樹勢スケールが比較的大きめのノコギリソウの仲間なので、かなりの収穫物量になってます。
この1枚も蒸留1回分でこれが3箱分あります。
蒸留釜にうまく収めるために大きい葉っぱを細かく刻んで蒸留にかけます。
まず蒸留1本目の素材重量:2000グラムでの蒸留。
次に蒸留2本目の素材重量:1427グラムでの蒸留。
そして蒸留3本目の素材重量:1470グラムでの蒸留。
全蒸留素材量を合算すると4897g:つまり5キロ近くのシダノハヤロウ収穫量となりました!
蒸留時間は1時間半としました!
■蒸留結果は…!?
なんと蒸留3回分:およそ5kg分のシダノハヤロウ全草から得られた黄色い精油。ピペット計測で1.3mLの抽出結果。
かなり収油率が低い、ヘルシーな植物であることがわかりました…。
結果として、カマズレンを含んだ青い精油にはなりませんでしたね!
参考までに並行して蒸留を行ったドイツ由来の自家栽培アキレア精油と比較。
カマズレンの青さが出ることはなく、むしろしっかり濃い黄色の精油が得られた。
おそらくセスキテルペン類を中心とした精油なのだろうと思われます。
1.収油率 - EO Yield
ではシダノハヤロウ(Achillea filipendulina)の精油収油率を算出してみます。
蒸留それぞれでの精油抽出量が少なすぎたため、蒸留を3回重ねて行い、得られた精油を合計してピペット計測(1.3mL)しました。
精油が得られるキク科アキレア属植物なのですが、過去の蒸留経験から花部分以外の収油率はとても低いことが判明していました。
あくまでセイヨウノコギリソウ(Achillea millefolium)においての話ですが。。。
しかしシダノハヤロウの葉っぱをメインボタニカルとした蒸留となると、収油率の数値はさらに下がってついに0.02%台まで下がってしまっているようでした。
そもそもシダノハヤロウは栽培条件の不適・未知などからベストな生育ができておらず、今回に至っては花部の蒸留ではなく葉っぱの蒸留という形になってしまっていました。
なので本来の精油抽出に適した条件での蒸留とはいえない形になってしまっています。
2.香りとか - EO Scent
葉っぱは触れるだけで鼻を突くような鋭い香りがするのですが、精油となるとその匂いの刺激性はややマイルドなものになり、よりアキレアっぽい香りになっていました。
生の葉っぱの香りが一番キツい香りとなっているようです。
▶︎生育状況からみる土壌栄養機能の比較。
シダノハヤロウ(A.filipendulina)の栽培では、栽培用土の構成を大きく2タイプで試していました。
赤玉土と火山灰(エゾ砂)を主体とする排水性用土での栽培。
シダノハヤロウ原産地での本来の生育地を想定した、水落しやすい配合用土です。
そして、その地面そのままの土壌(古くの耕作地用土)での栽培で生育状況を比較観察しておりました。
結果的に、耕作地用土でシダノハヤロウを栽培すると、チッソ栄養分の豊富な供給を受けて、花茎を立ち上げる本数より葉っぱが大いに茂る結果となっていました。
対照的にチッソ栄養分が極貧と思われる排水性用土での栽培状況をみると、葉っぱはさほど多く茂らず、枯れてはいますが花茎が何本も直立して生やすことに成功しています。
ある程度の貧栄養条件と多すぎない潅水がシダノハヤロウを本来の姿のように育てることを実現できるようなのでした。
ただし、昨年に続いて今年も8月からの降雨の日が異様に多く、土壌がなかなか乾燥しないというハーブ栽培においては好ましくない気候条件であったことにも留意すべき点でしょう。
蒸留結果から、精油を得たければ葉っぱではなく花部を収穫して蒸留すべしということなので、豊富なチッソ栄養のある土壌に植えて葉っぱを茂らせるのではなく、ある程度チッソ栄養と水分条件をカットした花壇などで栽培し、花茎をまっすぐ立ち上がらせて収穫するべきでしょう。
もしかすると砂利のような岩ゴロゴロ用土でも案外しっかり育つのかもしれません。