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バカラのグラスで飲むアイスコーヒー

私の好きなモノ⑤
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昨年末、断捨離っぽいことをした。
使っていないもの、
使う時ちょっと心がしょんぼりしてしまうものを手放した。
それはリーズナブルなものも高級なものも同じように判断した。

その片付けをする前、私は
きっとバカラのロックグラスは手放すことになるんだろうな。
と思っていた。
だってあんまり使うことがなかったから。
それは友人が結婚祝いにくれたものだったけれど、
手元に残すのは「お高いから」「人に貰ったから」という基準ではなく
「好きだから」にしようというのは片付け前から決めていた。

なのに、残った。
手に持った瞬間に
「やっぱり好きだなぁ。綺麗だなぁ」
って気持ちがぎゅっとなったから。

えー、全然使ってないのに?
本当に?
とは思った。
けれど、手に持った時の感覚は確実に「すごく好き、一緒にいたい」と感じる。
私はその手のひらからやってくる「好き」を信じることにした。

どうしてもやっぱり使わないな、と思ったらその時手放せばいい。
他にも沢山手放しているのだからひとつくらい大丈夫。
いや、これをきっかけに色々残してしまうかもしれないけれど、
そしたらまた頑張って片付けよう。
だって、なんだかこのキラキラした気持ちは大事にした方がいい気がするんだもの。
と心の中はウロウロしたけれど、どうしてもそのキラキラを無視できなかった。

片付けが一段落したある昼下がり、
いつも通りアイスコーヒーを飲もうとキッチンに向かった時
「あ、あのバカラのグラスで飲もう」
と思った。

クリスタルのグラスに当たる氷の音はきっと綺麗だろう。
午後の日差しはそのカットを美しく照らすだろう。
頂き物のクッキーはせっかくだから豆皿に盛り付けてお茶うけにしよう。

冷蔵庫から出した既製品のボトルコーヒーに自宅の冷凍庫が自動で作ってくれる氷の
ただの普通の、なんの拘りもないアイスコーヒーだ。
それなのに私の心はウキウキしていた。

ずっしりとした重さ、
氷の当たる涼しげな音、
デスクに写るグラス越しの光がチラチラと揺れる。
そのどれもが想像よりほんの少し午後を幸せにした。

我が家では食器洗浄機を使っている。
夜のうちに食器を入れておけば朝には綺麗。
食器を洗うためだけに生まれた彼だか彼女だかは
私が洗うよりずっと綺麗に正確に食器を洗ってくれるし、
おかげさまで私の手は荒れない。
我が家では食器洗浄機が使えるかどうかというところを
キッチンツールや食器を買う時に結構重要視しているところがある。

けれどバカラのグラスは手洗い必須だ。
だからこそこれまで我が家での登場回数が少なかったとも言える。

なのに私はバカラのグラスは喜んで手洗いするようになった。
「今日も素敵な時間をありがとう」
と心の中でお礼さえ言う。

これが断捨離のチカラ!!!!
とは私は言わない。
断捨離のおかげかも知れないし、そうでもないかも知れないから。
(だって私の断捨離はとても小さなステップに過ぎず、完璧からは程遠いんだもの)

けれど午後のコーヒータイムが幸せな色をするようになったのは分かる。
仕事の行き詰った顔で向かってもキッチンにはバカラのグラスと深入りのブラックコーヒーが待っているから。


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