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『私と花の物語』

This is "The Story of Me and the Flower."

風が強く吹いている。
台風が来ている訳じゃないけど女の子のスカートも捲れそうなくらいだ。
私はスカート嫌いだからあまり履かないけど。
そして今日も揺られている。
あのお花屋さんのお花達。

小さい頃から私はこの街に住んでいる。
あのお花屋さんは昔からある。
昔から私は外出が嫌いでお母さんにお買い物を連れていかれるのすら嫌だった私。この面倒くさがりな性格は高校生になった今も尚のこと。
だけど、花屋のおばちゃんに出会ってから外出が楽しくなった時期があった。
私が小さい頃はおばちゃんがよくカモミールのお花をくれた。
お母さんと一緒に大切に育てるもののやはり最終的には枯らしてしまう。
しかしおばちゃんはこう言った。

「そろそろ枯らしちゃった頃なんじゃない??」

そう言ってまた一輪のカモミールをくれた。
それがすごく嬉しかったのを覚えている。

しかし今は若いお姉さんが経営している。
おばちゃんの娘さんだ。
お姉さんにおばあちゃんについて聞いてみる事にした。

「すいません。おばちゃんは…?」

「あ〜 実はね…」

お姉さんは笑顔を失い床を見つめた。

「癌にかかって… もう……」


「…」


「余命1ヶ月なの…」


私は小さく「そんな…」と呟きお姉さんと共に床をただ一点見つめするのであった。
まだおばちゃんは50過ぎでかなり若い。
流石に嘘だと思いたかった。



翌日。

昨晩はほとんど寝れなかった。
最近あまり見ていなかったおばちゃん。
でも花屋の前を通る度におばちゃんの笑顔を思い出して、今日も頑張らなきゃって自分を奮い立たせていた。
今ではそのおばちゃんの笑顔を思い出すと辛くて泣いてしまう。

今日はあまり集中して授業を受けられなかった。
ずっと頭の片隅のおばちゃんの笑顔があった。
忘れようとは思わないけど忘れられない。

Make up your mind.
下校。
お花屋さんに寄ることにした。

「あらまた来たのね!」


笑顔で迎え入れてくれるお姉さん。
本当はお姉さんも辛いのは分かってる。
接客業は特に心の内に秘めている感情を露わにしてはいけない職業だと思う。
辛くてもちゃんと笑顔を見せてお客さんの対応をする。ある意味名俳優だよね。

そう思いながらもお姉さんに尋ねる。

「おばちゃんは今どこに居るんですか?」

「今はお家で安静にしてるよ。 もう助からないってお医者さんに言われて"それならお家で過ごしたい"ってお母さんが……」

「いや、そんなお医者さんデタラメだよ!もう1回ちゃんと見てもらおう!!まだ助かるかもしれないって!!」

気付けば私はお医者さんの意見を泣きじゃくりながら反対した。さぞお姉さんも困った事だろう。
そりゃ泣きたいのはお姉さんも一緒だしむしろ私より泣きたいはずなのに。そんな事は分かってた。けど気付けば私は口走っていた。

「家にお邪魔してもいいですか??」

泣きながらお姉さんに尋ねる。

「もちろんいいよ!むしろ呼ぼうと思ってた!」

そう言われお花屋さんの営業終了後に家にお邪魔する事にした。

「お邪魔します…」

とても緊張している。
脱いだ靴を整えて部屋に入る。

「お母さん〜 今日は素敵なお客さんが来てるわよ〜!」

お姉さんはそう言った。
そのお姉さんの視線の先に居たのはすごく痩せたおばちゃん。
会ったのは6年ほどぶりだろうか。

「こ…   こんにちは……」

覚えられているかとても心配したが


「あら!久しぶり!大きくなったねぇ〜」

覚えてくれていた。
安堵しているとおばちゃんが私を抱き寄せた。

「来てくれてありがとう。こんな姿見せてごめんね…」

そう言われると涙が溢れ出てきた。
思ったよりも元気そうなおばちゃんを見て安心しきった。

「おばちゃん…  まだ間に合うよ!もう1回治療してもらわない??」

と私はおばちゃんに声をかけるとおばちゃんは私の手をギュッと握った。

「いいの。私この家が大好きなの。
助からないことなんて正直前から分かってた。
だからここで最期を迎えたいの。」

「でも…」

「いいのいいの!心配してくれてありがとう。
死に方くらいは私が決めたいから。」

「死」という言葉が出てきてとてつもなく気が重くなる。

「人間なんていつかは全員死んじゃうよ。
それが私が早くに来てしまっただけだから。」

私はおばちゃんの目にも涙が浮かんでいるように見えた。
そりゃ誰だって生きていたい。


この日は長く長くおばちゃんと色んな思い出話をした。私の小さい頃の話をたくさん聞き、何だか恥ずかしくなった。


「また来てくれる??」

お姉さんはそう言うと私は

「もちろん来ます!」

そう言って私は帰宅した。




1週間後


「すいません!10輪のカモミールをください!」

そういってカモミールを10輪買った。


「もちろんおばちゃんに渡したいです。」

おばちゃんにカモミールを渡す事にした。


そしてお邪魔する。

「あら〜また来てくれたのね〜」

優しく元気に迎えてくれる。

「はい!プレゼント!!」

そう言って10輪のカモミールを渡した。

「私が初めて自分のお小遣いで買ったカモミールなの!」

するとおばちゃんは涙して私をまた抱き寄せた。

「ありがとうね。私はなんて幸せものなのかしら。」


涙を浮かべているもののおばちゃんの笑顔を見て相変わらず安心した。
この笑顔がずっと見れたらと強く願った。


それから1週間に1回のペースでおばちゃんに会いに行った。
何度も何度も他愛もない話をした。
余命1ヶ月なんて言われてたけど結局あれからおばちゃんは半年間生きた。
逆境にめっぽう強いおばちゃんだったな。
最後の最後まで笑顔だった。



半年後

私は友達がかなり増えた。
今までそこまで人とコミュニケーションを取ることがなかったはずなのに気付けば友達と一緒に帰ったりしている。
青春を謳歌していると実感する。

でもそれはおばちゃんが空から見てくれているような気がするから。
友達と帰宅する時にお花屋さんの前を通りかかる。
いつだってお姉さんは私に笑いかけてくれている。
きっと幸せものなのは私の方なのかもね。



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