心臓通信 崩壊の導き
心臓通信
崩壊の導き
作者 変人28号Sou
2155+P/Z年。
人類にとっての強敵である「侵略者」との戦いは依然として続いていた。
とある物を回収してから30分後の事だった。
静かな青い海と青く腐った平らな大地を昼間の太陽が照らす。
そんな中、謎の白と青に稲光を発した輪っかが奇怪な音を立てながら広がっていく。かなり広がったら次は縦に90度回転した。
((ゴォヲォォォォン と大きなエンジンの音が何も無い青い大地に響く。しかし音と同時に輪っかの中から大きな大きな鉄の鳥のような戦艦が出てきた。
戦艦が出てくると白と青い稲光のリングはしだいに消滅した。
戦艦の中の小さく静かなベッドルームでは1人の18歳くらいの黒髪の少年がなにやら青いバッチのような物を手に持っている。
「お父さん。お母さん。ありがとう」
と言う。すると部屋を後にした。ベッドの隣にある本棚の上には父親と母親らしき人物の写真がある。しかし僕はその時まだ2歳くらいだった。
[補足]
白と青い稲光のリング=ワープホール
鉄の鳥のような戦艦=Hope Ship
侵略者=人類の敵
主人公=創 光一(コウイチ)
Hope Shipは何も無い青い大地をただひたすらに猛スピードで駆け抜けていく。
コウイチは廊下を何も置物もない灰色のコンクリートと灰色の壁が続く廊下を歩く。すると後ろから誰かの足音が聞こえる。
「コーイチくん。祐介艦長から伝達。残り五分で侵略者と遭遇予想。第1戦闘部隊は4分で支度し第3射出カプセルにて集合、だってさ。」
と言ってくるのは僕ら若手捜査官「Dive」の第1戦闘部隊の司令員 多良間 優 (ユウ)という捜査官のお姉さん的存在の人だ。
「分かりました」
「じゃ、あとは頼んだよ。私たちのヒーロー」
「ヒーローか、面白いですね」
と苦笑いして僕は言う。
侵略者の討伐は楽しい感じがするが実は残酷だ。命を落とす人もいるし生き残って次の戦いに参加する人もいる。どっちにしろ待っているのは悲しい死だ。
そう思うと自分は運がいいと思う。3年間捜査官を続けてきたが自分の部隊の仲間を失ったことが無い。それは実力なのか、はたまた運なのか。
そんなことを考えて廊下を歩き続けて1分。自分の私服の肩の部分にはさっき部屋で手に持っていた青いバッチを付けている。またいつもの戦闘を繰り広げるだろうと考える。いつもの事だ。
しかしたまに自分が侵略者と戦う理由を考えてしまうことがある。親を亡くしHope Shipに預かってもらう代償に戦闘部隊として侵略者と戦うというのは元から知っていた。
でも、それに見合う闘いっぷりはもう十分してきたのにいつになったらこの戦いから開放されるのか、というのを考えてしまう。
まるでなにかの呪縛に囚われたかのように。そう思いながら廊下を歩き続けてまた1分。
途中にある広間に出た。右手に見えるのは「第3射出カプセル」と書かれた扉だ。
「あ!コーイチだ!」
と手を振って僕の登場を迎えてくれたのは戦闘部隊に入ってからずっと友達である大親友のショカくんだ。いつも場を盛り上げてくれる明るい同い年だ。
その他にも暗いテンションのナルセやクールな女の子のヒメカなど6人の仲間がいる。
「おはよう。みんな」
みんなそれぞれの表情で僕のことを迎えてくれた。気分が良かった。これも日常の一環だが変わらなくて愉快で楽しかった。
第3射出カプセルの扉を開けて堂々と入ると円柱状の暗かった部屋を白く明るいLEDが僕らを照らしてくれた。
すると目の前の壁に画面を映し出した。それは白く大きな大きなカメレオンのような侵略者が青い大地をノソノソ歩いてる姿だった。
「諸君。任務だ。いつも通りに頼む。4分後第24ポイントにて回収に向かいに行く。」
とスピーカーから祐介の声がする。向こうには誰の声も届かないが反射的に
「はい」
と声を揃えて言った。全員ポケットの中から黒い口だけにつけるようなガスマスクを装着した。そして画面はプチッと消え天井の方からたくさんの機会が動く音がする。
アナウンスで、
「第3射出カプセル。右翼より射出準備。揺れにご注意ください第3射出カプセル。右翼より射出準備。揺れにご注意ください。」
と流れるとガコンと行って外が見えないままカプセルはどこかへ移動する。
「対4酸化炭素除菌ミスト放水します。」
すると天井の隅からミストがシャァァァ僕らに降りかかる。4酸化炭素とは腐敗したこの世界に満遍なくまみれている死の気体だ。言っちゃえば5分間思いっきり吸い続けると即死してしまうほどの恐ろしさだ。
「除菌完了。これより降下準備に入ります。」
このアナウンスの声を毎日聞くと少し自分のモチベーションが何故か上がる。それはこんな恵まれた環境で至れり尽くせりされているからかもしれない。しかし外は死の環境だ。でもモチベーションは上がる。
ガコンと音を立てると床が下に下がっていく。そして床だけが下がったカプセルは周りが外の景色だらけだった。
「さて、やりますか!」
とショカが言うと腕を伸ばして指をボキボキ鳴らした。
「第1戦闘部隊、出撃!」
と僕がみんなに声をかけると全員が一斉に外に向かってスカイダイブした。
まぁまぁダイブしたところで全員は右肩に着いている青いバッチの中心部分を押した。
バッチを押すとさっきまで私服だった僕らの体の上を濃い青色のピチピチスーツが僕らの全身覆った。
今の僕らは声を掛けなくても意思疎通できる。
心の中で「ジェットパック起動」と思い右手の小指を親指と合わせる。すると何も無かった背中から小さめのジェットパックが出てきた。
「目標との距離、500m!ショカとナルセとヒメカはブレードを準備。それら6人は援護射撃を。」
とリーダー的存在のラリという20代くらいの女性が掛け声をする。
気づくと僕らは白いカメレオンのような侵略者の背中らへんの空中に浮いていた。
ショカ達は右手の薬指と親指を合わせて左手に電子ブレードを生成した。
「援護射撃は心臓部分を狙え!」
「了解!!」
とラリの掛け声に合わせて了解と僕ら援護射撃隊は言うと右手の人差し指と親指の第2関節を合わせてライフルを生成した。
そして心臓らへんを狙って引き金を引き続けた。ババババと侵略者の背中を打ち続ける。打ったところから血が飛び出る。
ショカ達は侵略者の背中の上を駆ける。しかし侵略者も抵抗をしてしっぽを僕らの方に振ってきた。なんとかジェットパックを上手くコントロールして避ける。
「スナイパーで打ったところを、ショカ!心臓を刺してくれ!」
と僕が大声を出して声を掛ける。
するとショカは左手に持った電子ブレードを右手に持ち替えて心臓の方へ走った。
「任せてよ。ショカ」
と僕は呟いて左手の人差し指と親指の第2関節を合わせて背中のジェットパックの上からスナイパーを生成した。ジェットパックで体制を整えながら背中から心臓を狙う。
「ここだ!」
スコープを覗いた僕は背中に目掛けて引き金を引いた。
バァァァンと背中から心臓を撃ち抜いた。心臓が少し見える。
足掻いているのか侵略者はまたしっぽを僕らの方に振ってきた。侵略者の攻撃を避けた僕はショカに向かって
「やれ!」
と大声で言った。ショカは狙撃の影響で穴の空いた背中の中にジャンプして入り右手に持っている電子ブレードを力強く侵略者の心臓に刺した。
ショカの顔に血が飛び散る。
「ギャァァァァ」
と侵略者は叫ぶ
「静かになれ!」
とショカはさらに深くブレード刺す。すると侵略者は思いっきり体を振り回した。
「うぉ?!」
心臓からブレードが引き抜かれてショカはズザァァァとそのまま青い大地に吹っ飛ばされた。
「いったいなぁー」
ふとショカが我に戻り自分の背中をさする。青い砂が紺色のスーツの背中に着いている。
「ショカ!立って!」
と僕は思わず声をかけた。なぜなら侵略者の前足がショカの方へ振り下ろされそうになっているからだ。
「え?」
とショカは遠くから聞こえる僕の声を聞いて困惑する。すると青い地面を見つめていたショカも前足の影で自分がピンチということに気づく。
ショカに侵略者の前足が降り掛かる直前のことだった。
ショカは走馬灯を見た。それはコウイチとの思い出や家族との思い出だった。
ショカもコウイチと同じで2歳の頃リブートによって両親を亡くしたためあまり思い出も無かったが唯一脳裏に思い浮かんだのが喋れるようになった時のことだった。
「あ....」
ショカは実感した死という絶望の1文字を。そのまま侵略者の前足は倒れていたショカを踏み潰した...
それを遠くからジェットパックで浮かんで見ていた残りの5人は一瞬場を疑った。そう、これが初めて見る仲間の死だったから。しかしコウイチの体は勝手に動いてジェットパックの猛スピードで倒れたショカの方へ向かった。
「ショカ....」
と僕は絶望というものを初めて実感した。
ショカの近くに寄るとジェットパックをしまわないままボロボロになって体の腹の部分に穴が空いているショカの体を抱っこした。横にはショカの付けていたガスマスクが転がっている。コウイチは慌ててマスクを付けようとするがショカは呼吸をしてない。ショカから流れる血が紺色のピチピチなスーツの上を流れていく。
後ろでショカがトドメを指した侵略者がドサァァァァァと倒れる。
「ショカ.ショカ..ショカ...」
気づくと僕の目から涙が出ていた。そんな僕を見ていたサミという怒ると怖い姉貴的な存在の人が僕に向かって
「ショカを早くお見送りしよ。」
と僕にとっては少し意味深な発言をして迎えに来てくれたHope Shipにジェットパックで飛んで乗って行った。
東京天空城にて....
夜中の2時。
僕はとても静かな病院の待合室のベンチに静かに座っていた。
僕はあの後のことを全く覚えていない。ベンチに座っている今でも何も考えることの無い静寂な時間がただひたすらに過ぎていく。そんな中一通のメールの通知がズボンのポケットから鳴った。
「先生!ショカくんはどうなりました?」
「今さっき息を引き取られたよ...」
向こうで医者と看護師が話している。僕はその言葉を聞いて身の毛がよだつ。鳥肌が半端ないほどたっている。目の奥が遠ざかっていく気分だ。その言葉を聞いてすぐ僕はベンチから立ち上がり病院を出ていった。
外に出るとさっき着たメールを確認する。
『早く帰ってきてね by多良間 優』
そのメールを見た瞬間僕はスマホを遠くに投げ捨てた。パキッと画面が割れる音がした。
「ッッ!!」
涙が異常なほど出てくる。夜の街の明かりが僕の5メートル横を照らす。ただ僕は家に理由もなく東京天空城の街を彷徨うことした。
[補足]
天空城=空中に浮いている都市。街の周りをとても硬度なガラスで覆っていて割れることなどない。街は謎のエネルギーで空中に浮ける
東京天空城=旧日本の首都「東京」の上空に作られた天空城。
4酸化炭素=侵略者から出される人間でいう二酸化炭素のようなもの。世界は4酸化炭素によって汚染され腐敗した。
東京天空城の都市をブラブラと彷徨う僕に家に帰るという気持ちは無かった。僕は侵略者と戦いたくなくなった。
気がつくと夜が明けていた。道路の高架下のトンネルをくぐり抜けると朝日が僕を照らした。
「帰ってみよう....」
と僕は何かを思いついたかのようにぼやくと歩道を歩いて第1戦闘部隊の家である「Life home」へ向かった。
「祐介最高司令官。昨日持ち帰ってきたNo.00バッチです。これで当計画への1歩ですね。」
高層ビルの薄暗い会議室では何やら黒いバッチを持った40歳くらいの髭おじさんが言う。そのNo.00バッチというものはなにやら異様な雰囲気を漂っていた。
「我々しか理解できない別の世界までへの第1歩が開けた。これは全て最初から終わりまで考えられたことだ。当計画はこのまま続行するぞ。栄斗。」
祐介最高司令官は何かを企んでいるかのように受け取ったNo.00バッチをスーツの胸ポケットに入れた。
一方コウイチは浮かない顔で新築の匂いがするLife Homeの前に立っていた。
インターホンをするのが怖い。
「なんでだよ....」
心は落ち着いているはずなのに腕がブルブルする。
いつもショカとスーパーマーケット帰りにインターホンを押すのはショカだったからか?いや違う。ショカがいなくてもいい事が思いついたじゃないか!いいや違う。この震えはショカがいない悲しみからだ。
そんなことを思っていると
「あ、コウイチだ」
2階からヒメカが浮かない顔をしている僕のことを見つけた。
見つかった。だけど家に入るのが怖い....
しかし優さんが ガチャ と玄関の扉を開けて
「おかえり。コウイチくん」
僕をお出迎えしてくれた。
ぎこちなく家の中に入り玄関で靴を脱ぐがやっぱり緊張がする。しかしショカが居ないことへの悲しみはいつしか消えていた。
「ただいま。みんな....」
と暗い顔で言って後ろを振り向くとサミが手を大きく振り上げた。
困惑する僕は考える間もなくサミに バシッ とビンタをくらった。
「!?」
周りのみんなはそのビンタに動揺した。僕もその1人だった。痛みで咄嗟に叩かれたところを手で抑える。
「ショカ....死んじゃったんでしょ?ならなんで悲しみを行動に表さないの?!みんなでお見送りしようってあの時言ったじゃん!」
「ごめんなさい....あの時の僕は自分でもどうすれば分からなかったんです。」
僕はサミに強く言われると少し涙が出そうになった。サミ達はそれを見て安心したような顔をして
「じゃあ、明日ショカを天国にお見送りしにいこうか....」
とサミは言った。ふと気づくと僕の目からはあの時より涙が出ていた。
「はい....」
と袖で涙を拭いながら僕は安心した。そうだ、僕には優しくて厳しい仲間がいるんだ。
そのまま優さんを含める第1戦闘部隊の仲間たちと家のリビングで一緒にカレーを食べた。満腹になった僕はそのままリビングのソファで寝てしまった。
気がつくと夕方だった。誰かにかけられた上着をはぐと机の上にあった付箋のメモが目に通る。
『公園で待ってる by金町 成瀬』
あの暗いイメージのナルセから僕のことを誘ってくれるとは自分でも目を疑った。外に出ると夕焼けが東京天空城を照らした。ビルとの組み合わせがかすかに憂鬱感を出していた。
公園まで歩くこと5分。何にも考えずに歩いた。公園のベンチで眼鏡をかけて足を組みながら本を読んでいるナルセを見つける。
「な、なんの用かな?」
恐る恐る僕はナルセに聞く。しかしナルセはそのまま本を読んだままだ。気まずすぎて僕はナルセの隣に静かに座ろうとした。しかし僕が座るところには『国語辞典』がずっしりと置いてあった。表紙になにやら付箋が貼られている。「また?」と思いながら付箋を見る。
『読め』
と書かれていた。「えぇ?!」と思ったが指示通り僕は分厚い国語辞典を開いた。
静かに読むこと2時間。気づくと日が暮れていた。横で本を読み終わったナルセはベンチを立って公園から出ていく。出ていく瞬間ナルセはこっちを向いて
「君も僕らの大切な仲間だからしっかり生きてよ。」
と呆れた感じで言って公園を出ていった。それを聞いた僕は心に余裕がもてた気がした。
ナルセがしたかった事は僕を失わないためだったかもしれない。そう思うとナルセが僕には到底届かない高い立場にいることを実感した。
ナルセが家に帰ろうとしたため国語辞典を閉じて僕は家に帰るナルセを後ろから駆け足で追いかけた。
翌日....
夕方になりショカの墓参りの準備が整ったため、僕達第1戦闘部隊と優さんは黒いスーツを着て歩いて東京天空城の西側にある霊園を目指した。
住宅街を西に進む事に周りの家がだんだんと少なくなっていく。
周りに1件くらいしか無くなると2mくらいのコンクリートに囲まれた少し大きめの庭園があった。
僕達はそこに入り静かに花などのお供え物をして手を合わせた。
「成仏できますように」
そう呟くと僕達は静かに家に帰って行った。
家に帰る道中、Dive総局から連絡が優さんのスマホに来た。
「はい、もしもし」
優さんはスマホを黒いスーツの胸ポケットから取り出して耳に当てた。
「緊急命令を告げる。15分前。センターDiveバッチ研究施設総司令部にてNo.00バッチの研究中に4酸化炭素反応を確認。総員、至急地下センター射出カプセルにて集合。優第1戦闘部隊司令員、沙美(サミ)、羅莉(ラリ)は総局にて集合。よろしく頼む。」
「はい」
優さんはスマホを耳から離すと連絡通りの命令を僕達にそのまま伝えた。
今からおよそ15分前のセンターDive研究施設総司令部にて....
壁や机などが真っ白い静かな研究施設で1人の研究員が電子顕微鏡でNo.00(黒いバッチ)を見ていた。
拡大と縮小を繰り返してNo.00バッチの研究をしていると何やら透明のモヤがレンズにかかった。4酸化炭素だ....
それを検知した天井の機械はウゥーウゥー!と警報音を鳴らして
「4酸化炭素検知。4酸化炭素検知。研究員及び警備員は第4連絡通路にて東京天空城へ避難。繰り返す....」
と流れる。研究員達はみんな
「まずい、まずい」
「え?!」
「あぁぁぁぁぁ!」
「なんてこった!」
などとパニックに陥っている。それを研究室の扉の向こうから見ていた警備員はパニックで体が動かない研究員達を飽き飽きしながら脇から持ち上げて引きずりながら第4連絡通路と書かれた廊下へ連れていく。
「手ぇ空いてるやつ!密閉扉を閉じろ!」
1人の警備員が呼びかけるとパニックになっていた研究員は「こんなことしてはまずい!」と思ったのか密閉扉と書かれた金庫のような扉をグググとハンドルのようなものを回してガッツリ閉めた。
頑張って密閉扉を閉め終わった1人の研究員は「はぁはぁ」と吐息を吐きながら尻もちをついた。
幸い4酸化炭素中毒による死亡者は1人も出なかった。
[補足]
No.00バッチ=第1話の前の出来事で、消滅した北アメリカの深い地層の場所から回収したもの。
センターDiveバッチ研究施設総司令部=東京天空城の地下であり浮遊しているDive直属の研究施設。
Dive総局にて....
命令受諾後優さん達と別れて僕とナルセとヒメカはDive総局という高層ビルの局に向かった。
優さん達は研究施設のコンピュータハックなどをする為Dive直属のセンターprogram施設へ向かった。
地下センター射出カプセルの扉を開けて僕とナルセとヒメカは堂々と入ると円柱状の暗かった部屋を青く明るいLEDが僕らを照らしてくれた。
すると目の前の壁に祐介最高司令官が足を組みながら椅子に座っている画面を映し出した。
「第1戦闘部隊No.01~No.03バッチ保有者に告ぐ。本作戦は研究施設の空気清浄機の作動、及びNo.00バッチの捕獲を目的とする。命令、指揮は私、小田 祐介が先導する。よろしく頼む。また、本作戦に限りウィングスーツPlotタイプを使用する。」
言葉が詰まることなく命令を祐介最高司令官から伝えられた。それほど心の中には焦りという感情があるのだろう。また、それを感じとった僕もまたこの作戦はとても重要だと気づいた。
「了解!」
僕達3人は声を揃えて言う。いつも通り黒い鼻から口までのガスマスクを付けて端っこにSDカードの付いたウィングスーツバッチを右肩に着けた。だがいつもとは違ってバッチをカプセル内で押してウィングスーツを着た。(ウィングスーツとは濃い青色のピチピチスーツのこと。バッチを押すと服の上から生成される。)
一連の動作を終えるとカプセルは東京天空城の下からヒョコリと外の世界に出た。夕日がだんだんと沈んでいく。そのままカプセルより続いた長い鉄の吊り橋をセンターDive研究施設総司令部まで歩く。
ヒメカは無言でどんどん進んでいく。
「コウイチ。君ってヒメカと話したことある?」
「いいや?全然話したことないよ。あ、でも16歳くらいの時に筆箱を家に忘れてから借りる時に『筆箱忘れたからシャーペン1本貸してくれる?』って言ったことならあるよ。」
「やっぱりそれくらいだよね....」
僕は驚いた。ナルセは今まで暗いイメージしか無かったけど今日になってから少し明るくなった気がしたからだ。もしかしたら昨日の公園の出来事からかな?お互いの心の声を発せたから?
そんなことを思っているといつの間にか研究施設についた。
「東口から入れ。」
とウィングスーツの左手首から祐介最高司令官の声がする。一瞬ビビった。そうだ、今日だけPlotタイプを使ってるんだった。
丸い形をして東京天空城の真下に浮いている研究施設の周りの吊り橋を時計回りに歩く。
「そろそろかな?」
僕はそうやって呟いているとガスマスクの耳の部分からピピピピと音が聞こえた。するとウィングスーツの右手首の部分からアナウンスが声を発した。
「4酸化炭素濃度。予定より50%越えです。今よりタイムアウトモードへ移行します。」
アナウンスがそう言うと僕は思わず
「タイムアウトモードってなんだ?!」
と驚きの声を発した。
左手首から祐介最高司令官が
「タイムアウトモードは4酸化炭素濃度高いと発動する。濃度が高ければ高いほどウィングマスク(ガスマスクのやつ)が耐えられなくなり10分で機能しなくなる設定だ。なので今より9分を目安に作戦を開始する。心してかかれ。」
と言う。両手首からアナウンス声やら最高司令官の声やらで色々と騒がしい。
一方センターProgram施設では研究施設の大扉のハックがされていた。壁一面がモニターだらけの中優さんと羅莉はキーボードをカタカタしている。
「第4ケーブル。大出電力蓄電装置に移行中。これより大扉の発動へ向かう。大出電力蓄電装置より第2ケーブルへ電力を供給。センター射出カプセルの電力分岐点を第2ケーブルへ接続。羅莉!そこやって!」
「はい! 第2ケーブルへ接続完了。電力移行します!優さん!5秒後大扉発動出来ます。5.4.3.2.1優さん!」
「りょーかい!」
優さんは勢いよくキーボードのエンターキーを押した。するとさっきまで電気で明るかったProgram施設が一気に暗くなった。すると1面のモニターがビビビビと音をたてた。画面には「PS Do you know?」と大きい文字が表示された。
「大扉の電力普及!これより沙美によるパスワード解析を開始する。沙美!」
「任せて!」
椅子に座って作業していた優の隣に立っていた沙美が横から優さんの使っていたキーボードを取り上げてキーボードをカタカタとタッチする。とにかく早い。
5秒後....
「出来たよ。優さん、コウイチ達に伝達、大扉より侵入って」
沙美はキーボードを机の上にカタッと置いて上司である優さんに命令をした。優さんは一瞬驚いた。「サミさん....すごい....」と。モニターには『PS解析成功』と表示されている。確かに解析が難しい研究施設のPSを一瞬で解析するのはスゴすぎる。
「そ、そうだね。」
優さんは少し焦りながらスーツの襟に付いているマイクに向かって
「コウイチくん!聞いて!大扉のハッキングを完了したからそのまま研究施設内部に入っていいよ!」
「はい!」
モニターからはコウイチの顔や現状が分からないけど自信気なコウイチの返事が聞こえた。
優さんと羅莉は疲れきった姿勢で椅子の背もたれにぐったりした。そんな状態で優さんは横に仁王立ちしている沙美にあることを問う。
「それより研究施設の大扉のハッキングパスワードはどこで分かったの?」
すると沙美からは驚きの言葉が発さられる。
「研究員に聞いた。」
「え?」
その回答を聞いた優さんは笑った。
研究施設の大扉が優さん達の協力により開きコウイチ達はそのまま研究施設の内部へと向かった。
ウィングマスクの右耳の方からピッピッピッピッと音が鳴る。4酸化炭素が予想よりも高い。今思えばNo.00バッチは何故4酸化炭素を発したのか.....侵略者が乗っ取っている?それともバッチに含まれていた?
コウイチは頭の中で情報を整理する。
「ついたよ。ここが4酸化炭素発生原因の研究施設の本部だよ。」
「こんな4酸化炭素濃度が高いとは....No.00バッチは一体なんなんだ?」
コウイチは頭の中で情報を整理できなかったが言葉に出すと不思議と頭の中がスッキリした。目の前には鉄格子の大きな扉がある。本来は不法侵入などを防ぐためだが4酸化炭素が電圧を上げて誤作動を起こしたのだろう。
右の壁に『解除用』と書かれた上下に上げるレバーがある。
試しにレバーを下げてみるとウィィィィンという音とともに鉄格子の1本1本が回りながら左右に消えていく。扉の向こうには青色の霧がかかっている。
「そのまま進んで2本目の通路を右だ。」
左手首から祐介最高司令官の声がする。僕達3人はそのまま指示に従い霧がかかった長い廊下を歩いていく。廊下には「すぅーはぁー」とガスマスクの呼吸音がする。それに加えてタイムアウトモードによる左右の耳に着いた小型ファンが静かに回る。そのおかげでマスクが少し涼しい。
2本目の通路に着いた。
「ここが発生原因場所か。4酸化炭素が予想よりもけっこう高いな。作業を急ごう。タイムアウトモードも残り7分だ。」
僕は右の通路を人差し指でさした。霧がさらに濃くなって青色から青紫色になっている。
そして研究室に入った。電子顕微鏡や沢山のコンピュータが長机に置いてある。扉から向かって左側の壁に非常換気用スイッチと書いてある。
ヒメカはスイッチに駆け足で向かい、僕とナルセらどこかの電子顕微鏡にあるNo.00バッチを探した。
「黒いNo.00バッチ。どこだー?」
僕はそう呟きながら部屋の至る所にある電子顕微鏡の引き出しを1回1回引いて閉めてを繰り返して探す。ナルセは無言でサクサクと探す。
ヒメカが急いで非常換気用の赤くて四角いスイッチの前に立つと赤いスイッチを一瞬眺めた。なにやら電気工事士のような眺め方をしている。
赤いスイッチを透明のスイッチカバーをパキッと力ずくで外して優しく押した。しかし非常用換気扇は動かない。電気が通っていないようだ。ヒメカは「チッ」と舌打ちをすると右手の親指と薬指を合わせて細長い棒のような電子ブレードを生成した。
「ふっ!!」
ヒメカは息を大きく吸うと電子ブレードをスイッチに向かって思いっきり刺した。僕達はずっとNo.00バッチを探していたが、さすがにヒメカの行動にはびっくりした。すると壁が電子ブレードの熱で溶けていき周りが赤くなっていく。だんだんと非常用換気扇が回っていく。そのおかげで研究室に籠っていた4酸化炭素による霧はなくなり綺麗な元の研究室へと変化した。
「これで、ゆっくり作業できるね。」
「う、うん。そ、そうだね。」
僕はヒメカの行動や言動に動揺する。ヒメカに対する恐怖を少し抱いた。まぁ確かにさっきの行動は妥当っちゃ妥当だった。でもそのおかげで僕達はマスクを外してゆっくりNo.00バッチを探すことが出来る。
そのまま3人はヒメカが電子ブレードで壁に開けた穴をチラチラ見ながらもバッチを探すことにした。
探すこと2分。
どこの電子顕微鏡にもNo.00バッチは見当たらない。その結果から僕はこんなことを考えた。
もしかしたらNo.00バッチ自体が4酸化炭素をたくさん含んだ大気性物質なのかもしれない。そう思うと寒気がしてきた。たしかに消滅した北アメリカに近づくほど腐敗の度合いはひどくなり4酸化炭素の密度も高くなる。そう考えればNo.00バッチは4酸化炭素の大気性物質説もたてられる。
無言でこんなことを考えている僕の肩をナルセがたたいた。
「コウイチ?どうしたんだ?」
「あぁ、ちょっと考えごとがあってね。」
「ふーん。No.00バッチ見つからないからどうする?」
肩を叩かれた瞬間驚いて肩がびっくりした。でもナルセだと知って安心した。でも、また考えなきゃいけないことをナルセに尋ねられた。
「とりあえず、優さんに無線で伝えよう。」
「そうだね。」
僕はそう言うとウィングスーツの襟に付いている小型マイクに口を近づけた。その瞬間だった。耳に付けている小型イヤホンから優さんからの伝達メッセージが着た。
「侵略者反応を検知しました。反応起点はX471、Yー14、Z3。おそらく今回4酸化炭素を発生させた原因の侵略者よ。1度第5連絡通路を通じて本部に帰ってきて!」
優さんが僕らに命令と現状を伝える。なにやら急いでいるようだ。
というか.....侵略者反応?!一瞬僕は疑った。じゃあNo.00バッチはどこへ?
頭の中をフル回転させながら研究施設を出ていく。
Dive総局にて....
第1戦艦射出口搭乗カプセルという射出カプセルの10倍はある床がなくて壁が白い円柱の形の中の隅にある通路で本作戦の命令を祐介最高司令官より受ける。
「本作戦における侵略者はY座標ー14に居座っているためHope Shipを使って地中に潜り込む作戦を行います。Hope Ship操縦士は伊佐美 羅莉。そして侵略者討伐は羅莉を除いた第1戦闘部隊4名。そしてHope Ship指揮官は多良間 優とします。また第3射出カプセルからの射出タイミングは臨機応変でお願いします。くれぐれも失敗することのないように。」
「はい!」
そう返事をすると第1戦艦射出口カプセルのなかった床が上からゆっくりと降ってきた。
コンクリートの白く丸い壁は不思議と僕のやる気を奮い立たせた。皆の横顔も自信で満ち溢れていた。Hope Shipを乗せた床は90度回転した。
僕達はHope Shipに乗りウィングスーツ(通常ver)のそれぞれのバッチを右肩に付けてウィングマスクをカチャっと装着した。
羅莉は操縦席に座り、U型のハンドルをしっかり握って
「Hope Ship出撃!」
と言って右足でアクセルをグンッと踏んだ。東京天空城の下から射出カプセルがヒョコッと出るとそこから大きな鉄の羽をはためかせ黒い鉄の鳥のようなHope Shipが射出カプセルからのっそり出てきて青く腐敗した広大な大地の上空を疾走する。
しかし例の研究施設の下の大地には侵略者の姿はどこにもいない。
「優さん。どこにもいませんね。」
羅莉はハンドルを90度回しながら窓の外を見る。
一瞬、地面が揺れたように見えた。不思議に思った羅莉はあることを思いついた。
「優さん。爆撃を行って地中から侵略者を炙り出しましょう。」
優さんはその提案を横の黒い丸椅子に座りながら聞くと
「そうしようか。」
すんなり受け入れた。優さんは提案を受け入れたり、作戦を考える時は甘い考え方のように見えるが案外作戦などは上手くいく。これも才能なのだろう。また、優さん自体はあまり理解できない考えたをする。優さんのことを知っているのは何人くらいいるのだろうか。
僕はHope Shipの自分の個室のベッドの上に座りながら今度はショカの事を少し思い出した。
僕から見ると優さんの作戦の凄さもあるが侵略者に勝てるのはショカがいたからかもしれない。そう思うと運が良かったのはショカだったかもしれない。
ショカを除いて侵略者討伐の任務を遂行させるのは初めてだ。自分に少し自信が無い。
でも、Hope Shipに乗る前の自分やみんなはなんであんなに自信に満ち溢れていたのだろう。今と前の出来事を比較すると矛盾が発生してしまう。
コンコンとノックの弟と同時に
「コウイチ。入るよ。」
と沙美の声がした。びっくりした。反射的に僕は
「あ、うん。いいよ。」
と返事をした。沙美は僕の部屋に入り僕の横のベッドの上に座った。一瞬、沙美が喋ろうとする前に間が空いた。沙美は息を少し吸って。
「ショカのこと、まだ心残りがあるの?」
「少し....」
「そっか。でも、ショカは空から私たちのことを見守ってくれてるはずだよ。ショカの為にも最高のパフォーマンスでこれから頑張ろうよ!」
「そうだね....」
僕は沙美が励ましてくれているのに暗く頷く。自分でも人が励ましてくれているのに何をやっているんだ、となってしまう。とてつもなく申し訳ない気持ちだ。
「じゃあ先に射出カプセル扉に行ってるね....待ってるよ」
「うん.....ありがとう。沙美さん....」
暗い部屋で孤独になり僕は沙美が部屋を出たあと暗く頷いた。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。仲間の期待に応えたいけど応えられない。応えにくい。なんとも複雑な心情のまま侵略者との戦いが近づくばかりだった。
東京天空城の下の広大な青い大地にアリジゴクのようなくぼみがある。しかし肝心の侵略者の姿は見当たらない。Hope Ship出撃前、Dive本部でも侵略者統計値を解析したが分析パターンを高濃度の4酸化炭素によって遮られていた。
黒いHope Shipは主翼を大きくはためかせてくぼみの上空をグルグルと回って侵略者の動きを偵察している。
「Hope Ship 加速を開始します。第3射出カプセル搭乗者はシートベルト及びジャイロモードに切り替えてください。」
ラリのアナウンス音声がHope Shipの館内に響く。尾翼の後部エンジンが見えない熱を放射して青い大地の大きなくぼみの方へ降下していく。
「誘導ミサイルSー821主翼先端より発射準備」
Hope Shipの主翼の先端の裏側についている大きなミサイルが360度回転してガコンという音をたてて止まった。
「Sー821発射!!」
2つのミサイルは主翼の先端からヒュュュューーーと音をたてて大きなくぼみに向かって落ちていった。ミサイルが落ちている途中、円柱だったミサイルの後方部から飛行機の羽が出た。ミサイルはさらに加速してくぼみに向かって一直線に落っこちていくとドカァァァァンとくぼみ付近で煙とともに大爆発を起こした。青い砂が付近に舞う。
煙が消えると侵略者のとげとげが生えた虫の足が見えた。
「目標確認。分析パターン出ました。節足動物タイプと一致。射出カプセル出動準備!」
Hope Shipはくぼみの空中で止まった。
「第3射出カプセル、 Hope Ship後背部より出動!!」
すると円柱の形の部屋がHope Shipの背中のような部分からゆっくりと出てきた。
ウィングスーツとウィングマスクを付けた僕たちがよ
僕が射出カプセルから見た景色は....いやそんなの関係ない。ただ僕は射出カプセルから降下して侵略者を倒すことだけを考えろ!
自分に言い聞かせると唾を飲み込んだ。
「行こう」
僕はそう言うと周りの3人と一緒に虫の足だけが見える侵略者に向かってスカイダイブした。風が勢いよく体全身に当たる。気持ち良くも悪くもない。Hope Shipの主翼からもう2つミサイルがヒュュュューーーと音をたてて侵略者に向かっていく。
僕達がスカイダイブしている横をとても速いスピードでミサイルが落ちていく。ミサイルはくぼみの近くでまた大爆発を起こした。爆風がスカイダイブしている僕達を襲う。吹き飛ばされかけた。
「みんな!ジェットパックを生成しろ!」
4人同時に右手の小指と親指を合わせて背中にジェットパックを生成した。ジェットパックで何とか体制を空中で立て直した。体が思い。
青い煙で侵略者の状況が全く見えない。
「クッ!煙で何も見えない!」
ナルセが叫ぶと青い煙が消えていく。
完全に煙が消えると僕達は青い大地に降りた。上では大きな音をたてながら東京天空城が意図的に真上からズレていく。きっと侵略者による災害を防ぐためだろう。
ザッザッザッと青い大地の砂の音をたてながら僕達はくぼみに近づく。ミサイルの破片があちらこちらに落ちている。
「さぁ、どうだ?」
僕達は大きなくぼみに着いて侵略者の様子を見ようとした。しかし見てみるとそこはくぼみではなくかなり深くまで空いた大きな穴になっていた。地面にしゃがんでよく観察すると穴の下に行くほど青色が濃くなっている。そして問題の侵略者はいなくなっていた。
「どう?No.00バッジ本体は見つかった?」
優さんの声がウィングマスクの内側に着いているイヤホンから聞こえる。穴の中を双眼鏡とかで見た感じNo.00バッジはどこにも無い。
「見つかりません」
僕はこう考えた。誰かが意図的に4酸化炭素を発生させてその間をついて誰かがNo.00バッジを盗んだのではないか?と。謎は深まるばかりだった。
「みんなお疲れ様。私達の活躍は無かったけど侵略者はいなくなったし、結果オーライということで東京天空城に戻りますか」
サミさんは僕と僕の横にいるナルセの背中を優しく叩いた。青い砂埃が少し舞う。そんな中ヒメカは穴の中の方を覗いて1人静かに立っていた。
いつの間にかショカが居ないことに対しての不満は無くなっていた。
東京天空城に戻り僕達はLife Homeに帰って個室のシャワー室でシャワーを1人で浴びていた。
「ヒメカ、喋ったことが全くないけどプライベートの時も人見知りなのかな?」
僕が小さな声でつぶやく。リンスの香りがする。シャワー室の扉の向こうからは朝ごはんの分の食器を洗っている音が聞こえる。しばらくすると食器をら洗う音は消えた。なにやら足音がこっちに向かってくる。
ガラガラガラとシャワー室の扉が開く音がする。
「早く上がってくれない?僕もあびたいんだけど」
ナルセの声だ。微かにお皿をスポンジで擦る音がする。
「分かったよ」
「あと5分ね」
勝手に決めつけられた。
僕はナルセの言う通り五分以内にシャワー室から出て僕は窓側のカウンター席で夕日を見ながらコーヒーを飲む。
ナルセから貰った「ユニバァルタ」というAIのアクション小説を読む。この本は僕の想像力を膨らませてくれた。僕の居場所を教えてくれた。
そんな気持ちで読んでいるとシャワー室からナルセが出てきた。まだ入ってから2分だ。
「ちゃんと頭とか洗ったの?」
短時間な故に僕は質問する。
「ん?洗ったよ。」
「早いね。」
ナルセはキッチンに置いてあるコーヒーを持って隣の席に座って窓から夕日を見た。
「光一。自分の意思を決められるのは自分だけだ。」
「な、何を?」
「まぁ、その時はいずれ来るさ」
僕は聞いた瞬間なんの事だか分からなかった。訳もわからぬままコーヒーをもう一度すする。窓の外には買い物帰りのサミさんとヒメカが家に向かってくる。大きな紙袋を何個も持ちながら。
ガチャっと玄関の扉が開く音がする。
「ただいまぁー」
「おかえり」
サミさんの声に僕とナルセは声を合わせて言う。相変わらずヒメカは黙って家に帰ってきた。ガサガサと紙袋の音がする。リビングの扉からサミさんが顔を出す。しかしヒメカはリビングにある螺旋階段を伝って自分の部屋に向かっていった。
僕とナルセとサミさんはヒメカをただ呆れた顔で見ていた。
「優さん、帰ってくるの夜中になるってさ。」
「じゃあ夜ご飯は先に作るか」
「そうだね。」
ヒメカが登って行った螺旋階段を見つめながらサミさんとナルセが喋る。なんか悪意がある目つきだ。これからどうやっていくのやら、僕は不安だった。
夜中の10時になり僕は薄暗いリビングでお皿を洗っていた。
お風呂上がりのヒメカが長い髪の毛をバスタオルで書き上げてソファーに座っている。
僕はヒメカと仲良くしてみたい気持ちが少しあった。仲間との交流のためだ。
思いっきって喋ってみようとしても無視されるだけだと思ってなかなか喋りかけられない。
2分が経過した。
ヒメカの手元のココナッツミルクはすっかり空っぽになっていた。
まずい!と思ったのか僕の口は自然の開き始めていた。
「あ、あの」
咄嗟に出た言葉がこれだった。少し焦った。
「なに?」
ヒメカはくらい声で対応してくれた。何故か安心した。答えてくれたからかもしれない。そこらへんは自分でも分からない。
「明日、一緒にどっか行かない?休日だし」
少しハラハラする。今まで人見知りな女性と話したことがあまりない。というか1年に話すか話さないかくらいだ。そんなんだから応えが怖い。
ヒメカはコクっと頷いたあと
「いいよ。」
と言った。僕はホッとした。ナルセのあの言葉が今日役立つなんて思いもしなかった。
翌日
東京天空城の新池袋駅といういかにも一般的な駅のホームの緑色のベンチにヒメカが1人スマホをいじりながらコウイチのことを待つ。
それに対し僕は朝から寝坊して集合時間の3分前なのに限らず洗面台で私服に着替えながら歯を磨いている。
焦燥感がありながらも歯をゆっくり磨く。僕は生活の中で最も歯磨きが嫌いだ。しかしながら誰かと大勢の場所に行く時は必ず磨く。「口臭い!」とか言われたら嫌だからだ。
「やば、もう7時3分。あと2分じゃん」
洗面台のタオルの上にふかっと置いてあるスマホで時間を確認してまた電源を切る。もう十分だろうと思って水色のコップに水道水を加える。水は出したままにしてうがいをしながら歯ブラシを洗う。
「よし!」
寝癖も無し。歯磨きもした。
カバンを黒い肩掛けカバンを掛けて黒い運動靴を履いた。
「いってきます。」
と誰も居ない家の廊下に放って玄関を開けて朝日で明るい外に出た。
ヒメカとの集合時間まで残り15秒で周りに高層ビルが立ち並ぶ新池袋駅の改札に着いた僕はSURIKAとイルカの絵が描かれたICカードを取り出して改札を通った。
階段を駆け足で降りる途中、電車がホームに来る音が聞こえた。
僕はここまで来れば問題ないだろう、と危機感を感じずのそのそと階段を降りていった。それもかなり遅いスピードで。
ヒメカは僕が来ないと感じたのかスマホをいじりながら丁度到着した電車に乗った。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
ヒメカの行動に動揺した僕は慌てて残りの段を降りてもうすぐ閉まりそうな電車に駆け込んだ。
「えー、3番線新宿行きまもなく発車致します。」
車掌さんの声は駅の外まで響いた。車掌は交代して黒い革の手さげを持って運転室に入っていく。メロディが鳴り終わると水蒸気のプシューという音とともに扉が閉まり電車は発車した。
僕はヒメカを探しに電車の各号車をくまなく探した。服装も分からない。ただひとつ分かる髪型だけを頼りに。
足が地面に着く音が自分の耳に響く。他人の迷惑になっているのではないか?と思ってしまう。そう、これがいつもの、普段の僕だ。
8号車分くらい歩くと吊革に掴まって片手スマホをしているヒメカを見かけた。
やっとか、と久しい感情を抱きながらヒメカの肩を叩こうとする。しかし肩を叩く直前で手は止まり自分の思考も停止した。
周りの席には新聞紙を顔面に乗っけて足を組んでるおっさんやスマホをいじってる学生がいる。そんな目線が気になり僕は周りを確認する。
「あ、あの....」
勇気をだしてヒメカに後ろから声を掛けてみた。ヒメカはスマホの電源を切り
「ん、よろしく」
とこっちを見て暗い表情で挨拶をした。今日1日大丈夫なのか?という不安で満ち溢れていた。しかしそんな彼女でも化粧をしたりピアスをしていたりしていて普段より色気づいている。
「あ....よろしく」
「まもなく第2新宿ー、第2新宿ー、お出口は右側です。」
しばらくの間一言も喋らずに吊革に掴まって電車に揺られながら待っていると車内アナウンスが流れた。今日ヒメカと2人で行く場所は第2新宿の大型アウトレットモールだ。
電車は第2新宿駅で止まり、僕とヒメカは社会人で群がる駅のホームを人混みを避けながら抜けた。
「おはようございます。8月29日、朝の新宿FMです!今回はゲストのはーー....」
朝のFMラジオが駅内に響く。
エスカレーターの下りには僕達以外誰もいなくて上りには社会人がたくさんいる。この中にDiveで働いている人もいるのだろう。
それにしても....ヒメカはエスカレーターの僕の5段も後ろに立っている。せっかく誘って遊びに来たのに距離感はいつも通りだ。
大きな噴水を囲むロータリーに停まっているアウトレットモール行きのバスに乗り、アウトレットモールのバス停で降りてアウトレットモールに着いた。アウトレットモールに来ても尚ヒメカと僕の距離感はちっとも縮まない。
「ねぇ、ここのコーヒー屋さん行かない?」
ヒメカから誘ってきた。こんなことがあるのか?と一瞬目を疑った。明日雪が降ってもおかしくない。
「ご注文は?」
「僕はー、えーと、アイスカプチーノひとつ。」
「私は....ホワイトアイスモカで....」
「かしこまりましたー、お会計は638円です。」
店員と僕達のやり取りがJAZZっぽい音楽が流れたコーヒー屋さんで繰り広げられる。段々と喋り始めてきたヒメカの横顔はさっきよりも色気づいていた。
窓際のカウンター席にそれぞれの飲み物を持って座る。2分間無言で飲み続けた。口の中がひんやりする。この真夏にはピッタリの冷たさだ。
「そう言えば、ヒメカはなんでみんなと一緒が嫌なの?」
これからみんなと仲良く過ごせるようにしたいと僕は願って聞いてみる。
「私は....親に嫌われて人間不信になってしまったの。だからみんなと関わりたくなかっただけ。」
「親に嫌われる?そんなことがあるんだ....」
「そう。光一とは違って今も親は生きている。」
「....」
僕は親と過ごした時間が約2年くらいしか無く、リブートによって親が亡くなってしまった為、親子関係がどのようなものなのか全く分からない。だから何も言い返せなくなってしまった。
「リブートの前はとっても楽しい生活を送っていたのに、リブートによって貧弱な生活を送るようになり、父親が狂人になってしまったのがきっかけで、そこから親に全く会っていないの。その逃げてしまった罪悪感から他人を信じるのが嫌になってしまったの。」
僕は咄嗟に思いついた励ましの言葉が頭に込み上げてきた。それにしてもヒメカはずっと喋っていないのか喋るのが下手に感じる。
「それはヒメカの思い込みの世界だと思うんだ。実際会って話してみないと嫌われているかどうかなんて分からないよ。だから1度は会って面と面向かって話してみるべきだよ。きっとヒメカの中の世界を変える為のヒントが見つかるかもよ。」
「そうしてみる。ありがとう。」
コーヒーを1口すすろうとすると、とあっという間にカップの中は空になっていた。僕は相談したヒメカの自信が目に見えてなにやらホッとした。いざ喋ってみると、沢山話が出てくるんだな。
コーヒーを飲み終わった僕達は、家にいるナルセ達のためにお土産を買いに雑貨屋に行っていた。
「んー、ナルセだとやっぱりコンパクトなノートの方がいいかなー」
誰も聞いていないのに呟きながら僕は商品棚を中腰で漁る。
ヒメカも僕と別で他のをつまらなさそうに見ていた。
元気づけようとして僕は駆け足でヒメカの方に向かう。
「ど、どうしたの?」
しかしヒメカはそんな僕の声掛けを無視して小さい子供たちや人形マニアっぽいがいる人形コーナーへ向かった。
円錐形の棚にアニメキャラの人形がズラっと満遍なく置いてある。僕は他人事のようにサッと見ながらヒメカについて行った。
ヒメカは商品棚に熊のぬいぐるみが置いてある目の前で止まった。それを見るヒメカの目は何かを思い出したような目をしていた。
「これ....」
とヒメカは言い放ちカバンの中をガサゴソと漁り始めた。謎に思いながらヒメカが漁りを終えるまで待つ。
…………………ヒメカの手がカバンの中で止まった。さらに謎に思うと次はバッ!と思いっきり手をカバンの中から出した。右手に何かを持っている。
僕は気になって足音を立てないでヒメカの右手に近づこうとすると、手には商品棚にある熊のぬいぐるみと同じ物の腕だけがあった。
腕の中から出ている綿にはほつれた糸が絡まっている。
「なにそれ....」
僕は腕だけを持っていることに対して少し引いた。
「なんでもない....」
なんでもない?と困惑しながら問い詰めようとする。しかし僕の頭の中は『問い詰めると嫌われるな』や『問い詰めないとヒメカが困ったりするかな?』などと複雑だった。
考え直すと、ふと思いついたのは『大切な人との思い出の品では?』という考えだった。
これなら聞いても嫌われないだろうと確信した僕は
「それって、誰かが本体を持っているの?」
と聞いた。ヒメカは無視したのか、無言でグ腕を眺め続けていた。
「あ、あの....」
無反応なことに対して『あれ?嫌われたかな』『まずいこと聞いちゃったかな?』なんて思ってしまった。
「....帰りに少しだけ寄り道していい?」
ヒメカはそう言うとカバンにぬいぐるみの手をしまった。
【Dive総局にて....】
夕日がDive総局のビルを照らし出す。街の街灯は次々と明るくなっていく。
そんな中、薄暗い個室のような場所で祐介最高司令官と羅莉がなにやら怪しげなものを持って話している。
「任務ご苦労。No.00バッジが役立つのはまだ先だが、研究者の突き放しに成功したからこの調子でこれからも頑張ってくれ。」
祐介最高司令官がラリから黒い革のカバンを受け取った。
「お役に立てて光栄です。」
「次回の命令まではゆっくりしてていいぞ。次回もよろしく頼む。」
「はい」
そう言って羅莉は部屋を出ていった。
祐介最高司令官は受けっとったカバンを机の下にある引き出しにしまった。それと引き換えに引き出しから右手がないクマのぬいぐるみを出した。
「次回はステルスモードの試験運行か....」
ラリはなにやら渡された書類の様なものを見ながら廊下を歩く。
帰りの電車にて....
「次は新大久保ー、新大久保ー、お出口右側です。」
電車に揺られながら、僕とヒメカはただひたすらぼーっとしている。
ヒメカの寄り道したい場所とはどこなのだろう、何をしたいのだろう、クマのぬいぐるみが関係している?いつものように僕は頭の中で色んなことを考える。
ガタン、ゴトン ガタン、ゴトン
何故か分からないけど眠くたくなってくる。
ガタン、ゴトン ドクン、ドクン
おなかの中のような感じがする。
これは、僕の感覚?それとも....
そのまま僕は眠りについた。
夢か分からないけど何かがぼやけて見える。
「コウイチくん。こんにちは....」
微かに目の前で一人の女性が僕を抱えてこっちに至近距離で挨拶してる。
誰だろう....どこかで見たことがある気がする....
「コウイチくん....コウイチくん.....コウイチ....」
「ハッ!?」
僕は目を覚ました。目の前にはヒメカが吊革に捕まってこっちを睨んでいる。
「な、何か用?」
「やっと起きたね....ずっと呼びかけてたのに....」
どうやら僕が寝ている間ヒメカは必死に僕のことを起こそうとしてくれたみたいだ。
でも、なんで....
「間もなくー、終点、新池袋ー、新池袋ー、お出口は左側です。」
電車の車内アナウンスが流れる。
駅に着くと辺りはすっかり暗くなっていた。
ヒメカが寄り道したいと言っていたけど一体どこに行くのだろう。
改札を出て無言でヒメカの後ろをついて行く。
「ね、ねぇ、どこいくの?」
「Dive総局....」
「なんで....」
僕はそこに行く意味が全く分からなかった。
歩くこと5分....
入り組んだビル群の道を歩き、ついにでっかいビルのDive総局についた。
でも、ビル内はすっかり暗かった。
本当に空いているのか?これ....
「コウイチ!」
聞き覚えのある声だ。声のする方に顔を向けるとスーツ姿で片手に黒い革のカバンを持ったラリがいる。
「あ!ラリさん。」
「何やってるの?君たち。」
夜でも相変わらず真面目気味だが少し声のトーンが高い。
「いまDiveってやってます?」
「いや?今日はみんな帰ったよ。」
ラリさんはこっちに近づくと少しずつ声のトーンを下げていった。
「じゃあ、コウイチついてきて。」
ラリが小声で言った。
僕の右手首をグイッと引っ張られてヒメカは一直線に走っていった。
「あ、あれ?大丈夫なの?」
ラリさんの横を素早く横切ると驚いたかのようにラリさんは僕に問いかけた。
僕の口は咄嗟に動いて
「だ、大丈夫らしい!」
と言った。
ヒメカの考えていることはよく分からないがラリさんにはこう伝えておいて良かったのだろうか....
少し不安になった。
また歩くこと5分....
次はビル群から離れた少しモダンな一軒家についた。
家の表札には「花咲」と書かれている。
ヒメカと同じ名字だ。
おそらくここにヒメカの狂ったお父さんがいる。と考察するのもつかの間、ヒメカはピンポンを押した。
ピンポーン、ピンポーン、インターホンの音が家の中から聞こえる。
「ヒメカか....今行く....」
なにやら聞き覚えのある声がインターホンのスピーカーから流れた。
玄関がガシャりと空いた。
僕はその光景を目の当たりにして腰を抜かしそうになった。
そう、出てきたのは祐介最高司令官だったのだ....
「え....この方がヒメカのお父さん。」
祐介最高司令官が花咲と書かれた表札の家から出てきた時はびっくりした。あれは、悪い夢でも見ているのかと思った。
「何の用だ....」
フェンス越しに喋る祐介最高司令官の口調は確かに似ている。祐介最高司令官の謎の威圧感にヒメカは負けそうな顔をしていたけど、左をギュッと握りしめて気持ちを堪えた。
「お父さん。お願い、元の、私が小さかった頃のお父さんに戻って....」
祐介最高司令官はヒメカの必死な言葉を聞いて少し動揺したように見えた。
「いや....私のことはもうほっとけ。私はお前を幸せにできなかった....だからもう私との関わりは一切無しにしろ。」
と言って祐介最高司令官は部屋に戻って言った。僕から見た祐介最高司令官の後ろ姿はなんだか悲しく見えた。
ヒメカは父親に強く言われたのか少しへこんでいた。しかし、パッと何かを思い出したかのように顔を上げるとカバンからクマのぬいぐるみの手を出した。
「お父さん!これ....」
ぬいぐるみの手を右の手のひらに優しく乗せて、祐介最高司令官に見せた。
祐介最高司令官はそれを見た瞬間、そっぽを向いて家に戻っていった。
「もう、帰る?」
僕はヒメカの機嫌を伺いながら聞いてみた。
何故かヒメカの顔はニコッとしていた。
「うん....」
〇×□△〇×□△〇×□△
あの時、何故ヒメカの顔はニコッとしていたのか。
強く言われるのが好きだから?それとも、自分の言いたい気持ちを言えたから?
凄いね。コウイチ。そこまで考えていたなんて。
〇×□△〇×□△〇×□△
ハッ!?
布団を思いっきりはぎ捨て、勢いよく起きる。
窓から朝日が僕の個室を射す。
何だったのだろうか....
「なんなんだ....」
体が熱い。いや、寒い。腕から汗がだくだくと流れている。
〇×□△〇×□△〇×□△
ゆっくりと目を開く。
そこは帰りの電車だった。
そう、僕は夢のまた夢を見ていたのだ。それにしても電車に乗るまでの記憶が無い。ヒメカは扉の前の吊革に捕まって、外の景色を見ている。そして、周りには僕ら以外誰も乗っていない。
ピロン!!
メッセージの着信音が鳴る。
スマホに手が行き、メッセージの確認をする。
『イタリア天空城、No.00融合型腐敗生物。通称侵略者Aにより、全電力がダウン。現在復旧に向けて各国の経済産業省が力を入れています。』
「え、やば....」
それを見た僕は思わず声を漏らした。そして胸の鼓動が大きくなる。
ピロン!!
まただ。
『第1戦闘部隊、Dive総局ニテ緊急招集。直チニ集合セヨ』
謎の着信だ。黄色い外枠に字が赤い。こんなのは初めてだ。その不気味な通知に恐怖を感じた。まるでこれから恐ろしいことが起こるような恐怖感を....
【Dive総局、地下ゲージ】
僕は総局に着くと、地下のHope Shipが停まっているケイジに連れていかれ、ナルセと一緒にHope Shipに乗り込んだ。これから何をするかも分からないまま。
いつも通り自分の薄暗い待機室に入りベッドの上に横になる。手に持っていた『ユニバァルタ』の小説を開き、昨日の夕方まで読んだページを開く。ほんの少しの恐怖心を抱きながら。
【イタリア天空城にて....】
「Requested cooperation from Japan. Will come by Hope Ship in time.」
「Roger that. I will tell the Sith broadcasting station.」
Dive総局と同じ形状のビルの屋上から周りの景色を見る男とその秘書が喋っている。
彼の名前はハネ・デュエルだ。Diveイタリア総局の最高司令官で、日本人とイタリア人のハーフだ。素敵な顎髭が特徴的だ。
秘書はハネと話し終わると暗闇の中迎えに来たヘリコプターに乗り込んだ。
天空城のガラスの向こうでは青い海と青い大地の境目で恐竜のような、熊のような黒い侵略者が大きなシッポを振り回している。
「祐介。No.00のバッジの管理不足だったな。融合した侵略者がわざわざ日本から持ってきたぞ。そのおかげでこっちはこの有様だ。しっかり落とし前は付けてもらうからな。」
ビル風がハネのスーツや髪を通り抜ける。
ピロン!!
スーツの胸ポケットからスマホの通知が来る。確認すると電話だった。
「なんだ。」
「最高司令官!CF-001とCF-002の凍結解除が完了しました。本当に使うんですか?」
「ああ、使う。」
電話越しに機械音などもする。
「なんにせよ、日本から祐介が推薦する適切な操縦士が来るらしいからな。」
「でも、初操縦ですよ?マッハが出るような戦闘機はとてもじゃないけど試験運行しないと乗りこなせませんよ。」
「だからこそだ。私は彼に期待しているのだよ。創 光一という少年に....」
と言って電話を切った。
後ろで秘書を乗せたヘリコプターはハネを置いてどこかに出発した。
「待っているぞ....少年たちよ」
【東京天空城Dive総局地下】
静まり返った東京天空城のHope Ship発射台第4ケイジではHope Shipの発射準備がされていた。
「67予備電源出力機を第4ケイジに輸送中。Hope Ship原動力発電全体の50%完了。F7点火準備。」
「了解、F7点火準備。」
ギュォォォォン
「主翼固定ロックボルト解除。続いて尾翼固定ロックボルトも解除。67予備電源出力機の挿入、及び設置完了。」
「了解、Hope Ship回転台を目的地NW方向に回転。Hope ShipF7点火!出力電圧正常。誤差範囲内です。」
ブオォォォン
「Hope Ship出撃前後準備完了しました。」
「了解。本目的、イタリア天空城の援護を目標とする、『カンバシ作戦』をこれより実行する。Hope Ship出撃!」
線路の上にある空中戦艦Hope Shipの主翼エンジンが大きな音を立てて熱を放つ。
回転台だけがどんどんと下がっていきHope Shipもそれに合わせてどんどん下に降りていく。
「回転台主要電源正常作動。B10カプセル開きます。」
ブザー音と黄色い光とともにHope Shipは外の世界を眺めた。
「最終安全固定装着解除完了」
ゴォォォォォォ
Hope Shipは暗闇の空に向けて東京天空城の下から勢いよく発射した。
Hope Ship操縦席では優さんがたくさんのモニターに囲まれながらたくさんのボタンをカチカチしたり舵をとったりしている。
「飛行スタイルWH可能範囲内です。」
1人の職員が言うと優さんはコクッと頷いて
「了解。WH作動!!」
そう言うとHope Shipの尾翼から白い雷をHope Shipの進行方向に向けて放電した。
Hope Shipの目の前には白い円盤型の物ができて、そこにHope Shipが飲み込まれていって、姿を消した。
【イタリア天空城】
侵略者Sの暴走により、主電源、予備電源共に作動しなくなったイタリア天空城は未だ沈黙を計っていた。
一方で、国民に気持ちの余裕を与えようと頑張る職員達もいた。それがDive総局イタリア支部だ。
モニターに囲まれた制御室で職員達は予備電源ではない別の方法で電力を天空城全体に与えようとしている。
「それにしても、東京側の電力はいつの届くのでしょうね。」
「単純計算では、WHでの移動速度も考えて最短でも約2時間。侵略者Sがこちらに歯を向けなければ後は私たちが耐えればいい話よ。」
「局長!予備電源セキュリティシステム内に異物、及び誤差想定以上の抵抗があります。」
職員達の会話がPCのタイピングの音と共に繰り広げられる。天空城の電力を復旧させようとしているのだ。そしてDiveイタリア支部の局長はハネの側近だった秘書である。彼女の名前はアリ サエマだ。
「どう?天空城地下電力吸収システムへの接続は出来そう?」
「NPからなら可能性はありますが、かなりの時間を要します。」
「可能ならやるわよ。」
「はい!」
職員達の威勢が高まり、やる気と熱気で満ち溢れたこの環境はもはや侵略者Sに勝てると言っても過言ではない。
「NPの作動の正常を確認しました。続いてTPアカウントの作成可能を確認。侵入も可能です。」
「TPアカウント作成完了。侵入経路D4からの経路を確認。NPセキュリティシステム経由でネットワーク環境を確認。オールグリーンです。」
「TPアカウント、NPセキュリティシステムへの侵入を確認。地下水量発電機のギアを1に変換。作動まで、残り30秒。」
職員達は作業にひと段落着いたことを確認して、椅子にふんぞり返った。その疲れ気味を見たアリはそれを見て安心した顔で疲れきった職員全員を見渡した。多分、ここにいる職員みんなが給料目当てではなく、住民の命を最優先にしているのだろう。
僅かな30秒がたち、職員達は全員作業に戻った。
「地下水量発電機作動を確認。誤作動なしです。NPセキュリティシステム内の電源を全てオートロックに切り替えて!」
「了解。オートロック切り替え完了。NPシステム地下電力吸収システムへの連動を確認。電力復旧します。」
全ての電力復旧作業は完了したらしく、暗闇に包まれていたイタリア天空城は明るい光に包まれた。
【Hope Ship内】
いつも通り薄暗い部屋のベッドに座り、本を読み続ける僕の部屋に
コンコン
とノックをされた。こんなのは初めてだった。
「入るぞ」
ナルセの声だった。ナルセから見ると僕の表情はまるで、何かを拒んでいるような感じだったらしい。そう、僕はいきなり始まったこの作戦に寂しさを覚えていた。
ナルセは僕の横に座った。
「なに?」
僕は少しキツい当たり方で尋ねた。
「優さんから伝達。2時間後、イタリア天空城に着いたら館内2-38出口前に集合だってさ。」
「分かった....」
そんな暗い僕の反応を見て、ナルセは何のため息かも分からない息をついて、肩をポンポンと叩いた。僕は背中にあるナルセの手に少しながら温もりを感じ、温かい気持ちになった。
「コウイチ。ヒメカと今日買い物行ったんだってね。急に終わったことに寂しさを抱くのは俺も痛いほど分かる。でも、人は必ず前を向かなきゃ明日を生きていけない。明日を楽しみたいなら前を向きな。」
ナルセはそう言ってベッドから立って、僕の部屋を出ていった。
部屋は薄暗いまんまだ。
僕はいつも励まされるナルセの言葉にありがたみを持った。しかし、目標に向かって頑張ろうという気持ちはあったものの、それを実行出来るのか僕には自信が全くなかった。
行動と思考が飛び交う僕の頭の中は少しずつ重くなっていき、そんな頭を手で支えた。
「うん、頑張るよ....ナルセ、ヒメカ」
Hope Shipの外の世界はたくさんの色のモヤがかかっている何も無い虚無空間だ。
人々はこの世界のことを天使の地と呼び、全体が4酸化炭素でまみれている。つまり、外に出れば人は一瞬で死ぬ。しかし、こんな世界でも珍しい景色などもある。それは謎の光線だ。そんな光線を見て癒される者もいる。
館内、操縦室では
天使の地の景色を見ながらコーヒーを飲んで一服する者もいれば、休まずHope Shipの制御をしている者もいる。
そんな職員達に囲まれる優さんはコーヒーを制御室の1番上の席で優雅に飲んでいた。
「あと何時間でイタリア天空城に着くのかしら」
「えーと、現在メインエンジンF7で走行していますから単純計算でWH内の抵抗も考えると、あと15分でイタリア天空城南西方向の 北緯45度、東経16度に到着します。」
「なるほどね。もう少しWH内でも早いFエンジンはあるのかな。いつになったら改修工事入るのかな。」
「そうですねー。今、世界もダメダメですし改修工事なんかめったに入らないでしょうね。」
コーヒーを飲みながら横にいる職員と話す。しかし、そんな優雅な時間でもストレスが溜まっているのか、優さんはため息をつく。
「彼ら、CFに乗れって言われたら乗のかな....」
「さぁ、でもたくさんの戦場を駆け抜けてきた第1戦闘部隊ですもの。必ずやり切ってくれますよ。」
「そうだね。」
そんな話しをしているとWH内の出口が近づいてきた。
1人の職員が座る席ではモニターに「Exit soon」と書いてある。それを見た職員は優さんに向かって
「優副司令官!間もなくイタリア天空城南西に到着します!」
と報告した。目の前のフロントガラスに「Be prepared for impact」と浮かびでる。それを見た職員達はイスのシートベルトをササッと装着してWHから抜ける時の衝撃に備えた。
「飛行スタイルWH型、間もなくホール開きます!」
「尾翼電力300億キロワットに上昇!自動電圧制御システム起動。WHホールを展開。」
虚無空間の天使の地を駆けるHopShipの目の前に出撃時と同じ白い円盤が現れ、Hope Shipはそこに吸い込まれていった。
白い円盤をくぐり抜けると青い海と青い大地の狭間の上に浮遊するイタリア天空城が見えた。
「イタリア天空城を視認。目的地まで残り3.0。減速を開始します。」
ゴォォォォォとHope Shipが唸りながらスピードを落としていく。
そのままイタリア天空城の横側にくっつくように軌道を修正して飛行した。
天空城の端っこではイタリアの住民達が浮遊戦艦にたくさんの荷物を持って避難している。それとすれ違うようにHope Shipは天空城の下に向かって行った。
<補足説明>
WHとは、ワープホールという物でNo.1にも出てきたあれです。マントル中心部に位置するアンダーラウンジにいた侵略者Eにより発掘されたNo.70シリーズのバッチを戦艦の動力にすることによって発生できる深雷(しんらい)を戦艦尾翼から発生でき、そこから超次元移動連絡通路への扉を開くことが出来るものを指します。
また超次元移動連絡通路は通称「天使の地」と呼びその実態は未だ分かっておりません。
【イタリア天空城、Dive総局地下】
Hope Shipはイタリア天空城のケイジに到着して、Dive職員達が大量の67予備電源を輸送し、避難用戦艦の充電に使った。
一方、イタリア支部ハネ最高司令官はあることを用意していた。
「第1戦闘部隊、事前に呼ばれた2名はHope Ship2-38に集合。」
ハネ最高司令官、いやコウイチたちにとっては全く聞きなれない声がHope Shipの館内に流れる。
僕はその放送を聞いて知らない人、知らない町が初めてなのか、少し出口に行くのに抵抗感を感じた。そんなものを感じながらも動く足は僕には制御出来なかった。きっと僕の中の2人目がそうしているのだろう。
Hope Shipの出口に行くと、顎髭がカッコイイハネ最高司令官とナルセが出口前に立っていた。
「ちょっと来てくれ。2人とも、いや未来の英雄よ。」
ハネさんに連れていかれ向かった先は無色の戦闘機が2機置いてあるガレージだった。いかにも新品そうな光を放っていて、天井に付いているライトが反射して眩しかった。
「これを僕らに見せて何をするつもりですか?」
ナルセはいつものように冷静さを振る舞う。そんなナルセの質問に答えたのが、後ろから近づいてきたラリだった。
「2人ともこれに乗るんだよ。」
辺りが静まった。
暑い、いや冷たい。額から冷や汗が流れる。手が震える。いや体が震える。体が動かない。まるで足に鉄球を巻き付けてる感じだ。
これはなんなんだ。いや、僕は何者なんだ?生きている価値はあるのか?答えが見つからない。
ナルセの反応を見ようとして、後ろを振り返る。しかし、ナルセはいつものように冷静さをら保っている。
○×△□○×△□○×△□○×△□○×△□
次はハネ最高司令官の顔を伺おうとして、顔をあげる。
しかしそこには白く大きなカメレオンの侵略者の前足があった。
『これは....ショカが死んだ時の....』
前足は僕の方に勢いよく飛んできた。
ドコォ
蹴られた。あぁ、僕は死ぬんだ....
しかし、蹴られたと思ったら次はショカのお墓がある霊園に立っていた。
「決断とは、自立。自立とは決意。決意とは心。心はひとつ。ひとつはあなた。」
ショカの声がどこからかする。
「ショカ!どこだ!?」
僕は霊園を走り回りショカをひたすらに探す。まるで、鬼ごっこをしている子供のように。
「まだ、君は死ぬべきじゃない。コウイチ。」
まただ。
必死に探す。
でもいない。
「なんなんだよ!」
だめだ、頭が痛い。
「何がしたいんだよ!」
血管がピクピクする。
「なんで!?答えてよ!ショカ!」
その声は暗闇に飲み込まれていくばかりだった。
すると、肩を押される感覚があった。ショカか?と思い、振り返るとそこは暗闇だった。
そのまま暗闇に飲み込まれていき、ショカの声は聞こえなくなってしまった。
○×△□○×△□○×△□○×△□○×△□
「ハッ!」
そこは、さっきと同じ戦闘機が置いてあるガレージだった。
さっきと同じ姿勢で僕は床を見ている。そこで、僕は何かの感情が吹っ切れたかのように
「乗りますよ。」
と言った。自分の意思でもないのに。
「コウイチが乗るなら僕も乗ります。ハネ最高司令官。」
ナルセも決断した。いや、もうとっくに決めていたのかもしれない。
そして僕は戦闘機に乗った。
戦闘機の名前はCF(冷却戦闘機)。僕が乗っているのはその1号機。そしてナルセは2号機だ。
僕に、あの侵略者をやれるのか。否なのか。
「第3発射台ビル展開します。CFタイプ満充電完了。これより発射台へ輸送します。第3輸送エスカレーター起動。」
「英雄達よ。操縦席の上に黒い箱があるだろ?その箱からあるバッジを出してくれ。」
ナルセと僕は言われた通り黒い箱を手に取り、そして開けた。中には赤色の三角形のバッジが入っていた。
「それは、No.10とNo.11バッジだ。完成状態の安全使用だから、体に害はない。そのバッジをINと書かれたPushOpen式のケースに入れてくれ。」
入れた。機械が動く音がする。操縦席に明かりが灯り、フロントガラスにたくさんの英語が並んでいる。
戦闘機は下にレールがあり、辺りを一望できるビルの上に着いた。
「CFシリーズ2機発射台準備位置に着きました。
最終電力調整。電力の80%を機体に吸収。自動防衛システム、制御システム、共に健在です。2機の安全を確認。固定機外します。」
「住民の避難を確認。目標方向にビルを回転。天空城ラップガラス 1部を展開。4酸化炭素密度プラス値、生存範囲内です。発車準備完了。」
「了解、CF-001及びCF-002発射!!!!」
アリ局長の声と同時に僕とナルセを乗せた2機の戦闘機は天空城のビルから窓を割って
大きな音と共に外の世界に出た。
「CFシリーズ2機、飛行を確認。」
僕とナルセは乗る前に受けた説明の通りに戦闘機を操縦した。気づくと手の震えは一切無くなっていた。
これが自分の居場所なのかもしれない。
本当は乗るのが怖いのではなくて、誰かに褒められるのが嫌だったのかもしれない。
「コウイチ!言われた通りに二手に分かれよう!」
ナルセの声が僕の操縦席に響く。
「うん...分かった」
僕はハンドルを曲げて怪獣のような侵略者のゴツゴツした背中に回った。
向こうにはナルセが侵略者のお腹の前にいる。
「S1予備電力弾発射準備!」
僕はオペレーターの指示に従って手前にあるレバーに手を添えた。
「発射!!!」
赤いボタンを押した。
強力な反動、そして高音の電子音と共に2機の戦闘機の下の銃口から青い光を纏った弾が侵略者に向かっていく。
全く聞いていないように見える。
「まずいです!目標内部に高電子反応!!」
侵略者の体が光っていく。
「2人とも避けて!」
咄嗟に戦闘機のハンドルを曲げた。
スバッッッ
キュイイイイイン
侵略者の体の至る所から青いレーザーが発射される。
イタリア天空城に1本のレーザーが当たった。
その数秒後、イタリア天空城は暗闇に包まれた。
「予備電源の作動を急いで!」
僕は天空城に気を取られていて、侵略者の全身から青い光がまたもや、出てこようとしていることに気が付かなかった。
「コウイチ!前!!!優さん!天空城の防御壁を立てて!!」
ナルセの声が頭にひびき、僕は侵略者の方に目を向けた。そこには、体から湯気が出ている侵略者がそびえ立っていた。
イタリア天空城の電力は復旧し、ナルセの言う通りに天空城を分厚い壁で覆った。
キュイイイイイン
ドガァァァァァァン
侵略者が爆発し、天空城の厚い防御壁は一瞬にして薄い紙のようになった。
強すぎる風に僕らが乗っている戦闘機は煽られ地上に落下した。
「ナルセ!大丈夫か?」
僕が問いかけるが応答がない。ナルセの戦闘機は逆さになって、青い大地の上に転がっている。
「コウイチくん!今は君にしか出来ない、S-821誘導ミサイル発射準備。陽動はこちらでする。タイミングは任せる!最後だコウイチくん!」
ハネ最高司令官の声が僕の重い頭に響く。
「これだから乗りたくないんだ....」
朝日が上り、全てのものを照らす。
乗りたくもない、褒められたくもない、僕は何をすればいいんだ。
操縦席は斜めっていて、誘導ミサイル発射のボタンが遠い気がした。
それでも頑張って手を伸ばす。片手を重たい頭に添えながら。
「いけるよ、コウイチなら」
ショカの声がどこかでする。
「うん」
「だって君は1人しかいないんだから。」
「そうだね。」
天空城による銃撃が侵略者に向かって行われている中、朝日による影と光の狭間にいる僕は誘導ミサイル発射の青色のボタンを押した。それも、何度も何度も....
ドガァァァァァァン
ドガァァァァァァン
ドガァァァァァァン
ドガァァァァァァン
4発の誘導ミサイルが侵略者に向けて発射され、4発全て直撃した。
侵略者は大地に倒れた。
「コウイチ。ありがとう。」
ナルセの声がどこからか聞こえる。
声の方向を見るとナルセがウィングスーツを着て侵略者の胸の部分に向かっていった。
そして5mはある電子ブレードを生成して、怪獣のようなゴツゴツした胸に向かって思いっきり電子ブレードを刺した。
僕はただそれを見守るだけだった。
「お礼を言うのはこっちだよ....ナルセ」
赤い血と共に、この戦いは終わった。
【侵略者:Aとの戦闘が終わって1時間後】
侵略者の遺体の1部は回収され、ついでに今回の元凶となるNo.00バッジも侵略者Aから発掘された。
各国の政府は、このNo.00バッジ融合型腐敗生物のことを侵略者Aと公式に認定し、No.00バッジを危険物体と視認とするため全世界でその正体を報道した。
No.00バッジは、4酸化炭素濃度が非常に高く侵略者が好むため、どこに保管していても必ず回収される。なので米軍を中心とするDive本局はNo.00バッジを北極点空中5000mに封印する事になった。
イタリア天空城はもう使い物にならず、帰還までHope Shipで待機ということもあり、僕は避難用空中戦艦の緊急医療施設で念の為、体に異常は無いか診察してもらった。
「幸い、怪我は右肘と左足ですね。怪我がこれで済んで良かったですよ。」
診察してもらった。僕は黒いジャケットを羽織って部屋に戻る準備をした。
「ありがとうございます。」
「はい、気をつけてね。」
椅子を立ち、診察室を出ようとすると
「あ、あと最低でも5日間は運動は控えてね。」
そう言われた。心配してくれたのが嬉しかった。心をこめて「ありがとう」と言おうとしたが
「ありがとうございまs....」
と最後の方だけ小声になった。いつもの癖だ。
避難用空中戦艦を出ると、そこにはボロボロになりながらも朝日を浴び続けるイタリア天空城があった。至る所に戦闘で使った防御壁の破片が落ちている。
「コウイチ、おはよう」
ナルセが僕の後ろから走ってきた。
「おはよう。なんか体感時間が変な感じする」
「そうだろうね。だって今日の夜中の1時からずっと戦ってたんだし。」
「なんか疲れたね」
「そうだね」
僕は道端に落ちている瓦礫を拾う。そしてそれを眺めながら、ある悲しい感情を抱いた。
「普通の日常に戻れないのかな....」
そんな僕の憂鬱そうな顔を見て、ナルセは少しニッコリして
「そのためにも頑張らなきゃだね。」
と言った。
そうだ、僕はこれが自分のやるべきことなんだ。絶対に地球本来の姿を戻してみせる。そのために僕がいるんだ。
【Hope Ship内】
ラリが艦内の廊下に立って誰かと怪しげな電話している。まるで、誰かとの取引のように。
「最高司令。ステルスモードの試運転は米軍行ないます。少しの間別れになりますけど、約束の時には必ず待っていますので迎えに来てくださいね。」
「了解した。ちなみに、ヒメカはそっちにいるか?」
「はい。今は艦内の個室で寝ています。昨日は夜勤でしたからね。そろそろ学校の方にも行かせていいんじゃないですか?おと、コウイチとも仲良くなっているそうですし。」
電話越しの祐介最高司令官は「おと」というラリの言葉に疑問を抱いたが、受け流す気持ち半々で話を続けた。
「そうだな。少し心配しすぎた。あと、今回の侵略者の覚醒について分かることはあるか?」
「はい。今回は東京側の侵略者がこちらのイタリア天空城の方にNo.00バッジ融合したまま進行してきたそうです。」
「じゃあつまり....No.00バッジを誰かが外に持ち出したのか?」
「おそらくそうなりますね。分かったことがあったら後ほど連絡します。では、また約束の時に....」
と言ってラリはスマホの通話を切った。ため息をついて、重たい頭を手で支えた。なにやら不安そうな表情だ。まるで、コウイチと同じような表情でもあった。
「そろそろかな....」
ラリは独り言を放つと、それと同時に外から他の空中戦艦が来る音が聞こえた。
【コウイチ視点】
ゴォォォォォと空中戦艦がこちらに向かってくる音が壊れかけのイタリア天空城とそのまわりの青い広大な大地に響く。
音がうるさくて、僕は耳を思いっきり塞いだ。横にいるナルセは何事も無いような表情をして耳を塞いでいない。
「ナルセは大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だけど....なんで米軍のTB2155がここに?」
ナルセの表情は驚いているのか、感動しているのか分からないくらいの微妙な表情で向こうから迫ってける戦艦を見ていた。
それを習って僕も耳を塞いでいた手を放して、迫りくる戦艦に目を向けた。
その戦艦と同時にラリさんが僕たちの横をしれっと横切り、戦艦に向かっていった。
「ラリさん?」
僕は思わず口を開いてラリさんを止めた。
「コウイチ、ナルセ。なに?」
「ラリさんはあの戦艦知っているのですか?」
ラリさんは数秒間を開けた。そして言いずらそうな表情で
「私、今日からアメリカのDiveに行くことになったんだ」
突然の告白に驚いた。その後、目を瞑る暇もなく、ラリさんは戦艦が停滞している方に向かって天空城の大通りのど真ん中を走って行ってしまった。
「ラリさんってコウイチにどことなく似ているよね」
「そ、そうかな?」
突然ナルセが言い出すと、僕は謎に必死になった。他人と比べられると少し恥ずかしい気もするし、嬉しい気もする。それが先輩など、敬える人だと尚嬉しかった。
【米軍戦艦 TB2155艦内】
戦艦の広い操縦室にたくさんのオペレーターがいる。日本のHope Shipとはほぼ変わらない構造だ。
「Confirmed hostile spoilage creatures at 8 o'clock. The distance is about 80,000 meters.(8時方向に敵性腐敗生物を確認。距離、およそ80000メートルです。)」
急に始まった。どうやら、侵略者がこっちのイタリア天空城に向かってきているようだ。
操縦席にあるすべての機械がピッピッピッと鳴って侵略者が進行してきている警告を出す。
影で顔が半分見えないTB2155の最高司令官は舌打ちをして
「All ships and all members, type 1 battle arrangement. The goal is to protect the No. 00 badge and prioritize the killing of hostile creatures. Preparing to start the operation!(全艦及び総員、第1種戦闘配置。目標、No.00バッジの保護と敵対生物の殺傷を優先とする作戦を決行。作戦開始準備!)」
と放った。
するとその場にいた全てのオペレーターが一気に騒ぎ始めた。
「まんまと引っかかったな。侵略者よ。」
少し怖い言い方で名無しの最高司令官はため息をついた。
~コウイチ視点~
「米軍。一体何をするんだろう?」
そんなポカンとした日常的な会話をナルセと天空城の大通りの真ん中でしていると....
ヒュュュュュュュュ
と、大気圏から隕石が飛来するような音が聞こえた。
「何この音!?」
僕が耳を塞ぎながら空を見ると、天空城の斜め上方向に電車がこちらに向かって飛んでくるのを確認した。
侵略者との戦いとは違う意味の非日常を一瞬にして理解した僕は鍛え上げられた反射神経でナルセの背中を押してビルの影に向かった。
パリィィィィン
遠くから謎に飛んできた電車は天空城の外膜強化ガラスを突き破って天空城の中に入ってきた。
ズガガガガガガガ
と大きな削れる音が天空城に響き渡り、大通りを勢いよく転がりながら僕たちの隠れているビルの方に向かってくる。
その時僕は、「止まってくれ!」という気持ちで一心だった。
すると電車は念じたかのように僕たちの少し手前で止まった。
止まったことに喜ぼうとしたのもつかの間
ドガァァァァァァン
と大きな爆発音を立てて電車とその周りのビルを爆発に巻き込んだ。その爆風に僕とナルセも少しながら巻き込まれ、大通りに放り投げられた。
「避難!避難!直ちに避難用空中戦艦への避難をお願いします!避難!避難!直ちに避難用空中戦艦への避難をお願いします!」
天空城の至る所のスピーカーから不気味な音と共に、アナウンスが繰り返し流れる。
「ナルセ早く!」
僕はナルセの手をグイッと引っ張って一心不乱に戦艦が停泊している方へと走っていった。
避難用戦艦の前では行列が出来ていた。
おそらく最後尾らしいところに僕達は並んだ。
高鳴る鼓動と、緊迫感が僕に走った。
足が
【TB2155操縦室】
「Confirmed evacuation of Japan and Italy. From now on, the operation will be carried out. Let's go smart.(日本とイタリアの避難を確認。これより作戦を決行する。手際良く行こう)」
名無しの最高司令官が言うとオペレーターが一斉にたくさんの機械をいじり始めた。
「Distance to the target, about 5000 meters. Shifted to a guided bullet firing system.(目標との距離、およそ5000メートル。誘導弾発射体制に移行。)」
「Confirmed the safety of the Italian sky castle. Confirmed missile launch permission from Commander-in-Chief Hane.(イタリア天空城の安全を確認。ハネ最高司令官より、ミサイル発射許可を確認。)」
「Point the N launch port toward the target north!(N発射口を目標北方向に向けろ!)」
「S-821 guided missile launch! !! !!(S-821誘導ミサイル発射!!!)」
バヒュュュュュュュュン!!!!
TB2155という、いかにも海軍が使う戦艦のような形をした空中戦艦の甲板上のミサイル発射口から4発のミサイルが勢いよく遠くから見ると豆粒ほどの小さい侵略者に向けて飛んで行った。
ミサイルが侵略者に近づくにつれ、侵略者の姿は鮮明になっていく。その姿はゴリラのような白い腐敗生物だった。
堂々と青大地の上に立っていて、両手には列車を2台持っている。
ヒュィィィィィィィィィィン
ミサイルが侵略者に懐の近くに接近すると侵略者は両手に持っている列車をミサイルに向けてぶつけた。
ドガァァァァァァン
微かに爆風が当たったのか白いゴリラの侵略者は一瞬、後ろによろけた。
しかし、表皮は全く気づ付いていなくて、その姿はいまだ健在だった。
「It should be a direct hit ...(直撃のはずが....)」
1人のオペレーターは机に思いっきり台パンする。
「Commander-in-Chief Bazaar. What to do now?(バザー最高司令官。どうしましょう?)」
どうやら、アメリカのDive本局の最高司令官。いわゆる世界のトップの名を バザー最高司令官と呼ぶらしい。
そんなバザー最高司令官は、焦らず、冷静に
「Demonstrated with S1 power bullets and opened WH at the same time as the S-821 missile was launched.(S1電力弾で陽動し、S-821ミサイル発射と同時にWHを開け。) Perhaps WH cushioned the impact.(おそらく、WHで衝撃を緩和したんだろうな。)」
と言った。
ヒュュュュュュュュ
またしても、大気圏から隕石が落ちてくる音が響く。
ガァァァァァァァァァン!!!!
凄まじい衝撃音がTB2155艦内に響き渡り、TB2155の艦尾が大破した。
「The stern is wrecked. The damage is believed to be due to the invaders.(艦尾が大破。損害は侵略者によるものだと思われます。)」
「Confirm the movement of rotting creatures. The train will fly over here again!(侵略者に動きを確認。また電車が飛んできます!)」
遠くにいる侵略者はもう1台電車を手に取り、イタリア天空城に停泊している戦艦に向けて投げた。
今度はTB2155ではなく、後ろに飛んでいるコウイチ達が乗っている避難用戦艦に電車が飛んできている。
手前にいるTB2155のS1電力弾の発射口が飛来する電車に向かい、近づいてきたところでS1電力弾という白い電気を纏った弾が発射された。
ジュュュュュュ ドガァァァァァァン
見事に飛来する電車を空中で破壊することに成功した。
「now! Do it!(今だ!やれ!)」
バザー最高司令官が叫ぶとオペレーター達は一斉にスイッチを押した。
するとTB2155の目の前にWHの白い雷のリングが出現し、発射されたまんまのS1電力弾はそこに吸い込まれて行った。
それとほぼ同時にS-821誘導ミサイルがもう一度白いゴリラの侵略者に向けて発射された。
侵略者の目の前にWHの白いリングが出現し、そこからさっき打ったS1電力弾が出てきた。
「グォォォォォォ」
いきなりの攻撃をもろに食らったゴリラの侵略者は雄叫びを上げた後、地面にヘタった。
そんな侵略者に追い打ちをかけるかのようにS-821誘導ミサイルが
ヒュュュュュュュュ
と音を立てて侵略者に向かっていき、侵略者にミサイルが当たると
ドガァァァァァァン
と大きな爆発を起こした。
その爆風は遠く離れたイタリア天空城も揺られるほどだった。
「The goal was completely silent.(目標は完全に沈黙しました。)」
「well done. good work.(よくやった。お疲れ様。)」
とバザー最高司令官は言い残して操縦席の後ろの扉から操縦室を出ていった。
避難用空中戦艦で避難している僕らは窓からその光景を見て米軍の恐ろしさというか、強さを存分に思い知らされた。
また、その横にくっついているイタリア天空城は無惨にも半壊状態で浮遊している。
おそらく今もあそこに留まっていたら死人が大勢出るだろう。
【TB2155艦内廊下】
バザー最高司令官は何事も無かったかのように廊下を歩いていった。
侵略者の戦いかがあったというのに何も無かったかのような素振りをしている。
「えーと、ここが第二上下並行廊下だから....ここを左か」
ラリさんの声がする。誰でも分かるであろう、この少し緊張気味な喋り方はおそらく道に迷っているのだろう。
それでもバザー最高司令官はその声を無視して廊下のT字路を通った。しかしその時バザー最高司令官の姿がラリの目に止まり横からいきなり
「あ!すいま....」
と出てきた。しかしラリはその顔を見覚えあるかのように思ったのか急に話すのを辞めた。
「なんだ?」
バザー最高司令官が威圧をかけるかのようにラリの顔を見て聞くがラリはその威圧を無視して
「東京天空城Dive総局から派遣されました。明石 羅莉といいます。これからお世話になりますのでよろしくお願いいたします」
と自己紹介をした。
「私の計画に積極的な職員が日本にいると聞いたが、君か。こちらこそよろしく頼むぞ」
「はい!」
2人は廊下の真ん中で握手を交わした。
ある計画とはなんなのか。バザー最高司令官達は何を企んでいるのか。
これはあくまで終わりの始まりに過ぎなかった。
心臓通信
崩壊の導き
完
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