渡辺麻友も白石麻衣も「ノースキャンダルだからスゴい」のではない

芸能界を引退した渡辺麻友、乃木坂46からの卒業を発表した白石麻衣を賞賛する声には必ずと言っていいほど「○年間ノースキャンダルだったのがスゴい!」という表現がついて回る。

さも、アイドルとしての価値すべてが「ノースキャンダル」にあるかのような意見に誰も異を唱えない現状からは、女性アイドルが日本社会でどのような役割を背負わされているのかが見えてくる。

渡辺麻友、白石麻衣がスゴいのはAKB48、乃木坂46というトップアイドルのメンバーとして24時間365日完璧なエースを長年務め上げたことであり、「恋愛スキャンダルの有無」と「アイドルの価値」は相関関係ではない。

2019年には欅坂46、日向坂46のメンバーが恋愛発覚により「活動自粛→卒業」という名の自主的な脱退に追い込まれた。男と歩いていた、食事をしていた程度の理由でファンからの集中砲火に遭い、該当メンバーは東京ドームでのコンサートや紅白歌合戦の出場を辞退せざるを得ない状況に追い込まれている。

これに対して多くのファンから「プロ意識が足りない!」「恋愛したけりゃアイドル辞めろ!」など、まるでアイドルには人権がないかのような意見が相次いだのには心底驚いた。「おまえら、峯岸みなみの丸刈り謝罪会見からなにも進歩しとらんのか」と。

「峯岸みなみの丸刈り謝罪会見」とは、2013年にAKB48峯岸みなみのスキャンダルが発覚したとき、彼女が頭髪を剃って行った謝罪会見のこと。当然のごとく海外からは疑問・非難の声が殺到したが、このときから日本のアイドル観はまったく更新されていない。

女性の主な仕事がお茶汲み・ゴミ出し・電話の取り次ぎであり、ハッキリともの言う女性が敬遠される昭和的な男性中心社会は、アイドルの世界において未だ健在だ。というより、その価値観こそが主流派だ。一部のファンにとってアイドルとは「自立した考えを持つことなく、政治的な発言をすることなく、恋愛にも手を出さず、常に世間に迎合し愛想を振りまく存在」であることが望ましいのだろう。

日本の女性アイドルは自立することを許されない。小泉今日子や秋元才加、柴咲コウのように確固たる意見を持ち、男性優位社会の構成員を脅かす存在には容赦ないバッシングが浴びせられる。そんな価値観に染まった世界では、アイドルの恋愛とは自立のための第一歩と見なされ即刻取締りの対象となる。

「青春すべてをアイドル活動に注ぎ込み、ストイックに生きる純情可憐な少女」というアイドル像は感動ポルノのネタとしても丁度よく、いかにも日本人受けしそうな要素がある。この辺が、旧態依然としたアイドル界の因習がしぶとく残り続ける理由だろう。

白石麻衣と渡辺麻友の「ノースキャンダル」という一点を過剰に褒めそやす意見には、日本社会の極めて偏った女性観が反映されている。

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