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【合理的】ひろゆきのタイタニック号脱出

序章:穏やかな海の出航、そして不穏な未来を知る男

――1912年、4月10日。
イギリスのサウサンプトン港は、晴れやかな春の陽射しに包まれていた。行き交う人々は、まるで祭りでも始まるかのように浮き立っている。
なにしろ、そこには世界最大級の豪華客船「タイタニック号」が、堂々たる姿を誇って停泊していたのだ。まばゆい白い船体、甲板に敷かれた高級ウッドデッキ、豪華絢爛な装飾……。世界が注目する処女航海の始まりに、港は熱気に溢れていた。

その喧騒のなかを、“あの男”は気だるそうな表情で歩いていた。
「えー、どうも、ひろゆきです。……でも、これって歴史的に沈む船ですよね?」
周囲が浮かれている様子を横目に、彼はぼそりとそう呟く。周りの人々には聞こえていないようだが、少しでも耳に入れば「不吉なことを言うな!」と叱られたかもしれない。
しかし、ひろゆきという男は“時給換算”という概念をこよなく愛しており、“無駄に危険なことをするくらいなら早めに撤退すべき”と考えているらしい。

ただ、なぜか今回、三等客あるいは雑用係のような身分でこの船に乗ることになったらしいのだ。
「なんでぼく、沈む運命の船に乗らなきゃいけないんですか?」と、ブツブツ言いながらも、妙な期待感を隠せない。ここまで豪華な船は他にないし、乗るだけなら一度は経験してみたい――そんな気持ちも捨てきれないようだ。

港のざわめきと豪華客船への賛辞
一等客がレッドカーペットを踏んで搭乗していく。貴婦人や紳士たちが、「タイタニックは“不沈船”ですって!」「これ以上安全な船はないわ!」と噂しあう声が聞こえる。
ひろゆきは心のなかで(いや、その“不沈”って感想ですよね? データあるんですかね?)と突っ込むが、口には出さない。騒動を起こしても時間の無駄だからだ。

ほんの少しだけ、盛装した乗客たちの様子を観察してみる。どれも金持ちそうで、鞄が山積みだ。しかし、どうせこの船は数日後に氷山に衝突して沈む運命だ――とひろゆきは知っている。
「みんな浮かれてるけど、危機管理ゼロじゃないですか? ま、そのおかげでぼくが得する可能性もあるんですけど」
そう心のなかで呟いた瞬間、汽笛が低く鳴り響く。タイタニック号の出港を告げる合図が、港全体の空気を震わせていた。

船内への足取り――先行き不安な未来を想像して
乗船口で簡単な手続きを済ませ、ひろゆきは三等客の区域へ向かう階段を降りていく。そこには多くの労働者階級や移民が詰めかけ、雑多な空気が漂っている。
「豪華とはいえ、三等客区はそこまでじゃないっすね。まあ、最低コストで乗るならこれでいいか」
ひろゆきは思う。いつでも逃げられるように、荷物を最小限にまとめたし、下の階層でも死ぬリスクは高いとわかってるが、どうせどこにいても沈むときは沈む。
ならば、お金を無駄に払うより、時給換算で安い方がマシではないか、と考えているらしい。

船室に入るや否や、隣の乗客が「ハロー、初めての海旅かい?」と気軽に話しかけてくるが、ひろゆきは苦笑いで答える。
「まあ初めてですけど……沈むんじゃないですかね。この船」
言われた相手は呆れ顔で「縁起でもない」と逃げていく。そんなリアクションを想定内としつつ、ひろゆきは苦笑しか浮かばない。

こうして、沈む運命を知りながらタイタニック号に乗り込んだひろゆき。
彼は時給換算的に“無駄な出費”を最小限に抑えながら、“いざというとき真っ先に脱出する算段”を立てようとしている。
果たして氷山衝突の瞬間、彼はどのように立ち回り、どんな交渉をして生き延びるのか。
多くの悲劇を乗せて出航するこの巨大客船に、ひろゆきの合理思考はどんな波紋を広げるのか――

沈む運命のタイタニック号を舞台に、ひろゆき流の“コスパ重視”脱出劇が、今ここに幕を開けようとしていた。


第一章:海原に出るタイタニック号と、ぼくの観察

タイタニック号がサウサンプトン港を離れ、ゆったりと大西洋を渡り始めるころ――。
船員たちは誇らしげに「世界最大の豪華客船だ」と口にし、乗客たちはまだみな浮き立った様子で、思い思いに船内を見物している。
甲板から見下ろせば、青々とした海面が広がり、天気も上々。誰もが「不沈船だし、きっと快適な航海になる」なんて信じて疑わない。

そんななか、ぼくは三等客室でため息をつきながら座り込んでいた。
「時給換算で考えると、これってぜんぜんコスパよくないですよね。そもそも、この船、数日後に沈むって歴史で決まってますし」
でも、周囲にそんなことをしゃべったら、面倒な騒ぎになるだけなので、もちろん口にしない。
こっそり脳内でぼやきながら、ぼくは「せめて、早めに脱出の手段は確保しておくか」と重い腰を上げた。

1. 船内散策:三等客室の下見はもう十分

三等客室はやはり狭く、共同スペースも質素だ。
「まぁ少ない金額で乗れるんだから仕方ないか」と割り切っているぼくだが、沈む船に多額の費用は払えない。
しかし、せっかく乗った以上、上層階の豪華設備をちらっとのぞき、**“おこぼれ”**的に利用できるものは利用しようと考える。
• 救命胴衣置き場の場所を確認
• 救命ボートの数をざっと把握(足りないらしい?)
• 2等や1等のレストラン付近を覗き、「廃棄される料理とかあるんじゃないかな…」と期待

ひろゆき(ぼく)「この船の施設って豪華ですよね。まぁ沈むのに金かけすぎというか……時給換算的に“あと数日しか味わえない”のに豪華さを満喫する人、多いのかな」
誰に話しかけるでもなく呟きつつ、ぼくは静かに上層デッキへの階段を上がっていく。

2. デッキで一等客を観察、そして“先手必勝”の算段

日差しが降り注ぐデッキでは、優雅なドレス姿の貴婦人や、タキシードを着た紳士がのんびり海風を感じている。
「なんだか、映画で見たような光景ですよね」
ぼくは心の声を抑え、なるべく自然に振る舞いながら、周囲の施設をチェック。
• 救命ボートの配置:どの甲板にいくつあるのかを数える。
• ボートを下ろす装置(ダビット)の操作がどうなっているか、ざっと見て覚える。
• 乗組員とのコネづくり:こそっと「ここは何人乗れます?」など世間話をして距離を縮める。

ひろゆき(ぼく)「沈む日は近いし、混乱になったときこそ“先手必勝”っしょ。 いずれこの船が氷山にぶつかって穴が空くんだから、そのときに騒いでボートに乗り遅れたらやってられませんよね」

3. 一等ラウンジにて、船員と仲良くなる

昼下がり、一等客だけが集うラウンジに、ぼくは「道に迷った三等客」を装って入り込む。
場違いだけど、乗務員に見つかったらすぐ撤退すればいい。
幸いにも、対応に出たウェイターが意外と親切で、
ウェイター「おや、三等の方ですか。迷われた? やれやれ、こっちが一等ラウンジですよ」
ひろゆき(ぼく)「すみませんね、いや、この船広すぎて。ところでボートのことなんですが……」
とさりげなく話を振る。
もし自分を不審がるようなら、それを逆手にとって「チップ」を小さく握らせつつ「あとで何かあったら頼りにしていいっすか?」と交渉する。

「やっぱチップ文化があるし、ちょっとした賄賂が通じるなら『ボート枠』を先取るのが時給換算で最良ですよね」
ぼくはひそかに内心で笑う。

4. ほんのり漂う“氷山情報”と船員の余裕

数日間の航海が続き、船内で過ごす乗客はみな退屈を持て余している。ダンスパーティやカジノまがいの遊びに興じる一方、
ちらほらと**「北氷洋で氷山が多いらしい」という噂がささやかれ始めている。 でも大半は「タイタニックは不沈船だ。心配無用」と笑い飛ばす。
ぼく「いやー、それってデータあります? 不沈船って感想じゃないですか?」
この呟きを聞いた一等客が嫌な顔をする。「縁起でもない。君は悲観的だね」**と言われるが、ぼくからすれば事実なんだから仕方ない。

さらに、こっそり船員から話を聞くと、「まぁ、最悪でも途中でスピード落とすこともあるし、大丈夫でしょう」なんて楽観論。
ぼくは「いや、ほんと油断してるなぁ」と思いつつ、運命の日までに救命策を万全にしておこうと心に決めるのだった。

5. コスパ重視で航海を満喫する…わけでもなく

他の乗客は**“船旅の醍醐味”として、デッキで海風を浴びたり、大食堂でフルコースを味わったり、夜会で盛装して踊ったりしている。
ぼくは三等客なので「そこまで豪華に楽しめない」と思いつつ、そもそも“沈む船で楽しむ”発想がまったく湧かない。
ひろゆき(ぼく)「数日後には氷山に衝突するイベントが待ってるなら、優雅に過ごしても結局沈んだら意味ないじゃないですか。時給換算で超絶無駄ですよね?
 余分な金使わず、必要最低限だけ確保して、いざというときサクッと脱出、これが最適っしょ」
そう考えたぼくは、“豪華な船内”**を特に満喫する気がなく、せいぜい廃棄される料理とかを狙うぐらいだ。
他の乗客から見れば「なんとも陰気な奴」かもしれないが、ぼくにとっては「気楽に稼ぐor奪う機会を探す」ほうがよほど面白い。

こうして、静かながらも不穏な空気を察知したひろゆきは、タイタニック号の内部を探索し、船員とのコネを築きながら脱出に向けて準備を進める。
まだ船は事件の前夜とも言える平和を保っているが、気づけば北大西洋は刻一刻と氷山の海域へと近づいていた。

次章へ―― 果たして沈没直前、ひろゆきはどう動き、どんな交渉で「時給換算で最も得な逃げ道」を確保するのか?
“華麗なる悲劇”とされるタイタニックの運命の裏で、“合理主義者”ひろゆきのサバイバルが始まろうとしていた。


第二章:優雅な船旅の裏で、こっそり脱出準備

「豪華な食事とか夜会とか、そういうの興味ないんですよね……」
と、三等客室の廊下に身を潜めるようにして歩きながら、ぼく──ひろゆきはぼそりとつぶやいた。
周囲では、濃厚なスープの香りやグラスの触れ合う音がかすかに伝わってくる。上層デッキの豪華ダイニングで、貴族たちは晩餐を楽しんでいるのだろう。

「一晩中パーティーしても、沈むんじゃ何の意味もないっしょ……」
食事の匂いに惹かれながらも、ぼくが向かう先は船の後部デッキだ。そこには救命ボートがずらりと並ぶスペースがあり、日中にざっと数えてみたら、どうやら定員に対して明らかに数が足りないようだった。

1. 夜の後部デッキ、ひろゆきの下調べ

船内は今、ディナータイム真っただ中。どのクラスの乗客も食事を楽しんだり、社交場で談笑している。
そんな時間帯、後部デッキは人通りが極端に少ない。船員も一部は厨房やレストラン対応に駆り出され、見張りが薄いのをぼくは知っている。
「いまのうちにボートの位置と数を再確認して、いざというとき確実にさっと乗れるようにしておこう」
それが今夜の目的だ。

ぼくは人影のないデッキを、足音を殺して歩く。夜の海風が頬をかすめ、遠くにかすかな音楽が流れてきている。
先ほど昼間に愛想よく話しかけた船員は見当たらないが、もし巡回員に見つかっても「いや、ぼく道に迷っただけで」とか言い訳する気満々だ。

2. 「ダビット(ボートつり上げ装置)」の簡単な操作を確認

タイタニック号の救命ボートは、**“ダビット”**というクレーンのような装置で海面に下ろす仕組みだ。
本来なら船員が手順通りにロープを下ろして稼働させるが、緊急時、彼らが混乱することも考えられる。
「もしぼくが先んじて操作を覚えてれば、一目散に下ろして逃げられるかも……」

ぼくは頭の中で、ロープの巻き上げハンドルとか解除レバーの位置を暗記する。
• 「ここを回す→ロープが緩む→ボートが水平に下がる」
• 「ちゃんと両端バランスを取らないとボートが傾く」
地味に難しそうだが、いざというときは細部を気にする余裕はないから、とにかくざっくりイメージをつかむだけでも違うはず。

ひろゆき(ぼく)「まあ、少しは練習しときたいけど、今やったらバレちゃいますよね……。
 うーん、賄賂で誰か船員を抱き込んで“代わりに下ろして”って頼む手もある。そこは臨機応変かな」

3. 船員にちょっぴり賄賂を──“お近づき”の作戦

ライトを持った船員がちらっと姿を見せた。夜の点検か巡回らしい。
普通に考えると、三等客がこんな所をうろつくのは怪しまれるが、ぼくはここが勝負どころだと思い、すっと近づく。

ひろゆき(ぼく)「すみません、ちょっと夜風にあたってたんですけど、道に迷っちゃいました。僕、三等客なんで上の階には普段行けなくて……」
船員「おやおや、三等客ならこんな場所に来るのは……まぁ危険ですよ。足元が暗いし」

そこでぼくは**「ちょっとこれでも飲んで休んでください」**と銅貨か小額チップ程度をそっと手渡す。
船員はぎょっとしつつも、拒まないらしい。「お、おい……?」と困惑顔をするが、そのまま受け取る。
「いや、大した額じゃないんでお気になさらず。でも、もしものときはどうかよろしくお願いしますよ」
と微笑むぼく。船員は戸惑いながらも、ほんの少し気を許した様子だ。これが後のコネに繋がれば御の字だ。

4. 沈没が近づくにつれ感じる微妙な違和感

その夜、ぼくは低い声の船員から少しだけ裏情報を聞いた。
「実は上層部に“氷山の警告電報が届いた”って噂があるけど、船長は大丈夫だって……」
こういう内緒話が、ぼくの不安をより強めると同時に、脱出の準備を早めなきゃという意志を固める。

ひろゆき(ぼく)「ま、歴史知識で沈むのは確定なんですけど、やっぱりこうして現場の人から聞くとリアルですね。
 あとは具体的な氷山衝突タイミングがいつになるか……。そろそろ海が冷えてきた感じがするし、あと1~2日かな……」

ぼくは夜風に身を震わせながら、足早に三等客室に戻る。
“先手必勝”の算段を練りつつ、もし可能ならもっと簡単に**“先にボートを下ろしてどこかに漂着”**できないかと夢想するが、 さすがに大海原を漕いで渡るのは自殺行為にも近い。
「うーん、やっぱ衝突後の混乱で逃げるのが安全か……。あんま早く下ろしても人目につくし」

5. 一方、乗客たちは悠然と過ごす──温度差に呆れるひろゆき

翌朝、ダイニングでは賑やかな朝食が進行中。甘いパンやフルーツが並んでおり、上流階級のおしゃべりが止まらない。
とくに一等客の若い男女などは「今夜のダンスパーティ、楽しみね!」「タイタニックは不沈なんだから心配いらないわ」なんて口にしている。
ぼくからすると、「それ感想ですよね?」と思いつつ、しゃべるだけ無駄なので近づかない。
ひろゆき(ぼく)「まぁ、死の直前までパーティ満喫してくれるなら、こっちとしては避難がしやすいけど。
 そういう意味じゃ、頑張って盛り上がっててくださいって感じですかね」

こっそり盗み聞きした会話から、どうもこの船は“スケジュールを遅れたくない”という理由で速度を落としてないらしい。突っ走っているのだ。
**「いよいよ危ないですって……これ」**と心の中で嘆きながら、ぼくは船の揺れを感じつつ、数日先の恐怖に備えるのだった。

こうして、沈没に向かって緩やかに突き進むタイタニック号の上で、ひろゆきは手堅く“先手を打つ”ための下準備を始めていた。
救命ボートの位置、船員への賄賂、あまり騒がずにコツコツ確保する生存ルート――。
歴史的惨劇の陰で、“時給換算”を最優先するひろゆきの合理的行動が、静かに動き出す。

次章では、船がいよいよ氷山海域に突入し、運命の日が近づく。 そこに至るまで、彼はどんな交渉をし、いかにして混乱を乗り越えようとするのか──物語は続く。


第三章:氷山の影と、決定的な一夜

海は静かだった。だが、その静寂は、むしろ不気味な気配を漂わせる。
沈黙を打ち破るように、タイタニック号は夜の大西洋を突き進んでいた。
いつもなら甲板で賑わいを見せる一等客たちが、今日は少し早めにディナーを終え、思い思いに散らばっている。なかには客室へ引きこもり、読書を楽しむ者もいるし、三等客とカジノまがいの遊びに興じる者もいた。

ひろゆき(ぼく)「そろそろ氷山が近づく頃じゃないですかね……」
三等客室の片隅に身を置きつつ、ぼくは小さくつぶやいた。
調子のいい船員から手に入れた情報によれば、北方海域は既に氷山帯。注意喚起の電報が何通も届いているという。
しかし船長や航海士たちは、“遅れを取り戻す”ために速度を落とさず突き進む。まさに悪い予感しかしない状況だった。

1. 予兆:寒さと霧の夜

夜更けにかけて、気温がぐっと下がり、船の甲板には冷たい風が吹きつけていた。
「やけに冷えるな……」
ぼくは懐に忍ばせていた防寒着を取り出し、体を丸めるようにして後部デッキに上がる。 ここから海面を見下ろしても、闇が広がるだけだ。
だけど、その向こうにぼんやりした何かしらの影があるような気がしてならない。

ふと見上げると、見張り台には船員が張りつめた表情で双眼鏡を覗き込んでいる。 その姿を見て、ぼくは「そろそろかな」と思う。
「今日は妙に静かなんですよね。 時給換算で考えると、ここからが本番……」
そんなことをつぶやきながら、ぼくはそっとグローブをはめておく。いざ衝突した時に備えて、すぐに動ける格好を作っているわけだ。

2. ついに衝突――衝撃と悲鳴

まさに日付が変わる頃、ゴンッ! という大きな衝撃音が船体全体を揺らした。
静かな海を裂くような違和感が走り、船の奥から金属がこすれる嫌な音が響く。
「な、なんだ!?」
周囲の乗客たちが慌て始め、騒ぎが起きる。三等客室の方からも「水が入ってきた!」という叫びが遠く聞こえる。
ぼくは心のなかで**「これだ、氷山衝突か……」**と呟き、急いでデッキへ駆け上がった。すぐに行動を起こさないと大混乱に巻き込まれるだけだ。

船員の対応

上層デッキに到着すると、士官たちがバタバタと動いている。「船底に穴が開いたか!」「速やかに点検を!」など怒号が飛び交う。
この時点でもまだ一部の乗客は「小さな事故だろう」「不沈船だ」と甘く見ているが、ぼくは確信している。
「これ歴史的にすぐ沈むやつっすよね。早めに脱出しないと死ぬの確定じゃないですか」

3. 混乱のデッキと、ひろゆきの先手必勝

騎士のように勇敢に走り回るわけでなく、ぼくは冷静に**「まず救命ボートの場所へ急ぐ」**。
昼に下調べしておいた後部デッキに向かい、あの船員に再び声をかけようと探す。
しかし、すでに周囲は人が増え始めており、士官の指示でボートを下ろそうとするグループ、まだ危機を信じられず騒いでいるグループなど、混沌としている。

ひろゆき(ぼく)「やっぱこうなるよね。混乱するほど時給換算で不利になるから、先に位置を確認しておいたのは正解っしょ」

すでに一部では「婦人と子供を優先!」など叫ぶ士官の声もあり、秩序ある救命活動を試みてるが、次第にパニックは拡大しそうだ。
ぼくはさっさと列に加わる……よりも**「空いてるボートを探し、ちょっと船員に賄賂で融通きかないか」**を考える。
恐怖に駆られて右往左往する乗客を横目に、ぼくは人波をかいくぐるように前へ進んだ。

4. 「賄賂」か「自力でボートを操作」か
• 案1:船員に多少の賄賂を渡し、空席を確保
「上層の貴婦人や一等客がまだ来る前に乗れますよね? ここに少しばかり謝礼を……」と。
ただし士官が目を光らせているので、成功するかは微妙。
• 案2:自分で勝手にボートを下ろす
すでに操縦の一部は把握しているが、一人で操作するのは危険。失敗すれば転落死のリスクも。
そこで**“あの船員”**を探し出して一緒にやるのがベストだが、彼が見当たらない。

ひろゆき(ぼく)「うーん、一番手っ取り早いのは列に並んで“婦人子供優先”が緩い時に乗るか、船員と組んで最初のボートで出ることなんだけど……どっちが得か?」

思考する時間は少ない。刻々と浸水が進み、甲板は微妙に傾斜し始めている。灯りはまだ消えていないが、緊迫感は増すばかりだ。

5. 混乱のなか、先行ボートが半分空で下ろされる!?

歴史的に知られているエピソードとして、初期に下ろされた救命ボートが定員の半分程度しか乗せていなかったという事実がある。
どうやら多くの人が「大丈夫だろう」と思って乗らなかったり、指示が徹底されてなかったりしたせいだ。
ぼくはそのチャンスを狙う。

士官A「ボートNo.2、下ろすぞ! 婦人子供は早く乗りたまえ!」
だが列をみると、まだ「あれ、大したことないのかな」「荷物を持ってこなきゃ」などと言って動いていない人が多い。
ここに急げば、すぐ乗れるかもしれない。
ぼくは**「婦人子供が少ないときにこそ紛れ込める」**と踏んで、勇気を出して一等客に混ざって列に入る。

ひろゆき(ぼく)「えーっと、ぼくの背格好なら子供扱いしてもらえないかな……いやムリかな。でも警備が甘いから、すっと乗れる可能性ある。
 並んでる人たちは男性が少なくて、まだ余裕席が残ってるみたいじゃない? 時給換算でここが勝負!」

6. 実際に乗れちゃう? 船員の曖昧な指示

ボートNo.2近くの士官が「ほら、急いで!」と手招きしているが、まだ本当に危機感を抱いていない乗客が尻込みしている。
ぼくはそこに勢いよく割り込んで、**「僕も乗ります!」と一言。
向こうが「だ、男性だね? まぁいっか……」と迷う瞬間に軽く握手で“紙幣”を忍ばせる。
士官は一瞬驚いたような目をしたが、周囲の混雑と混乱で咎める暇がない。「定員に余裕はあるからな…… 早く乗れ! 時間がない!」**と促され、ぼくは軽く笑みを浮かべて素直にボートへ。

ひろゆき(ぼく)「結果オーライっすね。 やっぱり歴史上、初期のボートは半分空で出発したらしいし、こうやってさっと乗るのが正解。
 感動シーンとか要らないっすから、時給換算でさっさと逃げるのがベスト」

少数の婦人子供と、なぜかぼくを含む数人の男性が急いで乗り込む。急すぎて、客同士の整列確認も何もあったもんじゃない。ここが混乱の怖さでもあり、ぼくにとっての好都合でもある。

エピローグ:ゆっくり離れていくボート、沈む船の悲鳴

ボートはゆっくりとロープで下ろされ、海面に浮かぶ。
夜の海は冷たく、空には星が瞬いている。遠くで他のボートの明かりや混乱の声がこだましている。
そして大きく離れようとオールを漕ぎ出す人々。ぼくはじっと船体を見やる。
「ああ、あの巨大な船が、これから……」
少しの間、船尾の方から断末魔のような悲鳴や演奏の音が聞こえてくる。
でもぼくは心中で「悲惨だなぁ」と思うだけで、やはり**“時給換算”が頭をよぎる。「結局早く行動したもん勝ちってやつですよね」**と納得する。

船が沈没し切るまで、その地獄絵図を遠くから見る羽目になるが、少なくともぼくはボートに乗って生き延びる。
「後は救助船が来るのを待つだけ。ま、これでしばらく耐えれば大丈夫でしょ」
暗闇の海に浮かぶ小さな救命ボート。その上で、ぼくは冷たい風に耐えながら、同乗者と少し言葉を交わす。
「もし映画みたいに感動的シーン待ってる方には申し訳ないっすけど、ぼくの“時給換算”思考だとこれが正解ですよね」と。
他の乗客が理解するかどうかはわからないが、とにかく**“タイタニック沈没”**という歴史的大惨事を、ぼくは最小限の労力で早期に脱出して回避したのだった。

――夜空の星が、静かに瞬いている。沈んでいくタイタニックの遠景を横目に、ぼくは心底ホッと胸をなで下ろす。冷たく暗い海面がやけにリアルに感じるが、このまま無事に救助を待てば、無傷で生還できるだろう。
「やっぱり先手必勝、逃げるが勝ちってことじゃないですか」
そう心の中でつぶやいて、ぼくはそっとオールを握る。同乗者らと協力しながら、混乱の海原を悠々と離れていくのだった。


エピローグ:いつものパリ、現代のフランスで

――ざわつく海の闇から目が覚めると、ぼくはいつものパリの街角を歩いていた。
広々とした道に車が走り、スマホを手にした観光客たちが記念撮影をしている。耳を澄ませば、フランス語や英語などが混ざり合い、20世紀初頭の香りなど微塵も感じられない。ここは現代のフランス、どうやら再び戻ってきたらしい。

「なんだかんだで生き延びられて、結局ここに帰ってきたんですね……」
そう呟きながら、ぼくはふと辺りを見回す。遠くにはエッフェル塔が霞んでいる。つい先日までは氷山に突っ込むタイタニック号で、あの冷たい大西洋の夜に怯えていたのに、今はカフェの香ばしいエスプレッソの匂いが漂っているのだから、なんとも不思議だ。

小さなカフェのテラス席に腰を下ろし、ぼくはホッと肩の力を抜く。あの壮絶な沈没劇を辛うじて回避し、21世紀の安全圏へ舞い戻った今、時給換算で見れば最高の結果だろう。

「沈む船から早めにボートを確保して助かったんで、結果オーライでしたよね。ドラマ性はないかもだけど、ぼくは無事だったんで満足です。感動シーンとか、正直どうでもいいんで……」

カップを傾けてコーヒーを一口。豊かな苦みが口の中に広がる。外の世界では観光客が笑い声をあげ、パリの日常がこの上なく平和であることを教えてくれる。
もしぼくがあのままタイタニックのドラマに付き合っていたら、今ごろは深海の底だ。時給換算で無駄に命を散らすなんて、まったく割に合わない。

「人生なんて暇つぶしっすよね。時給換算で損にならなきゃそれでいいんじゃないですか?」
ぼくはつぶやき、空を見上げる。青い空に沈む船の影はない。ここはもう現代のフランス、あの悲劇からは遠い遠い場所だ。
グラスに残ったコーヒーのしずくを飲み干し、ぼくは再び日常の散歩道に足を踏み出すのだった。

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