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ひろゆきとちびまる子ちゃん「それってあなたの昭和ですよね?」
「それってあなたの昭和ですよね?」
――夕暮れ時のさくら家。縁側から外を眺めていたまる子(さくらももこ)は、不意に小さなため息をつく。今日もなんだかんだで平和な一日だったなぁ、としみじみ思っていたその時。
視界の端に、妙な格好の大人が映った。上下ともにゆるりとしたパーカーと、足元はクロックス。昭和の町にはあまり似つかわしくない“ユルい”服装の男が立ち尽くしている。
「ねえ、おじさん。もしかして迷子?」
まる子が声をかけると、男はやや眠たげな表情を浮かべたまま首をかしげる。
「いやあ、僕が迷子かどうかは確定してないですよね。それってあなたの感想ですよね?」
「えっ……? なんか難しい言い方するね」
ひろゆきと名乗るその男は、どこからどう見てもこの町に馴染んでいない。けれどひょんなことから、さくら家に一晩泊まることになってしまった――というのが今回のお話の始まりだ。
第一章 パーカー&クロックスの大人がやってきた
翌朝、まる子はパーカー姿のひろゆきを連れて学校へ向かう。歩きながら思わずツッコミを入れずにいられない。
「おじさん、その格好じゃ寒くないの?」
「パーカーって結構便利ですよね。フードかぶればあったかいですし、クロックスも通気性がいいんで」
「へー、でも穴があいてるから砂とか入るよ?」
「まあ、入るかもしれないですけど、それって僕にとっては些細な問題ですよね」
そんな調子で会話は噛み合ってるような、噛み合ってないような。
小学校の門をくぐると、すぐにクラスメイトたちが興味津々に寄ってきた。
「まるちゃん、その人いったい誰? 先生が『大人を勝手に連れてきちゃダメ』って言ってたよ?」
たまちゃんが小声で囁く。
「うーん……なんか泊まりに来ちゃったから仕方ないじゃん。だけど、ほら、パーカーにクロックスって変わってるでしょ? 未来の人かもよ」
「み、未来から来たんですか?」
花輪クンが目をキラキラさせるが、ひろゆきは「いや、来たというか来てしまったというか……。なんか気づいたらこの世界でしたね」と曖昧な返答をする。
第二章 教室で論破(?)発生
まる子の担任の先生は、教壇の前に立つひろゆきを見て目を丸くした。
「えーと、あなたはどちらさま? その……靴に穴があいてますけど、大丈夫なんですか?」
「クロックスは穴が空いてるからクロックスなんですよね。穴が空いてることが問題かどうかは状況によると思いますけど」
「そ、そうですか? うーん……。とりあえず授業を見学してもらっても構わないですが、静かにしてくださいね」
授業が始まると、今日は社会科だ。先生が「戦後の日本の発展」について説明しようとすると、パーカー姿のひろゆきがゆったりと手を挙げる。
「それって本当に“発展”なんですか? 定義が曖昧ですよね?」
「えーと、定義というか……多くの人がそう思っているから……」
「多くの人がそう思うって根拠はどこから出てるんです? 結局“自分の感想”を寄せ集めているだけでは?」
先生は唇を震わせながら、どう返したものか考え込む。
教室の中も、まる子たちが固唾を飲んで様子を見守っていた。そんな中、永沢くんと藤木くんがぼそりと囁き合う。
「……あの人、なかなかの変わり者だよな」
「僕、ああいう強い物言いには抵抗があるよ。卑怯かな……」
第三章 家族と情緒のすれ違い
放課後、家へ戻ると、さくら家のちゃぶ台にはいつものように母のすみれが夕飯の支度を整えていた。
「ただいまー。お母さん、おじさんも一緒だよ」
「あらまあ、パーカーに……クロックス? 珍しいわね。ごはん食べていく?」
ひろゆきは少し首を傾げる。
「ごはんは無料ですか?」
「ええ、うちはお客さんに代金なんか取らないわよ。遠慮しないでね」
居間ではおじいちゃん(友蔵)が和歌や俳句を考えていた。筆を走らせ、読み上げる声が聞こえてくる。
「秋深し 縁側越しに 客を見て……ふむふむ、最後が思いつかないのう」
ひろゆきはちゃぶ台に腰を下ろすと、パーカーのポケットに手を突っ込みながらつぶやく。
「それって客が僕だってことを前提にしてますよね。まあ、そうかもしれないですけど」
「おお、そうじゃ。おぬしは風変わりな客じゃからのう……」
「いや、風変わりっていうのは主観ですよね。根拠あるんですか?」
友蔵は「うっ」と言葉に詰まり、まる子はハラハラしながら二人を見つめる。
しかし、そのまま友蔵は微笑んで、筆を動かし始めた。
「ともかく、俳句っていうのは感じたままを詠むもんじゃよ」
理屈と情緒がかみ合わないまま、夕飯は進んでいく。けれど、まる子の家は不思議と居心地が悪くならない。パーカー姿のひろゆきも、ちゃっかりおかわりをするほどだ。
第四章 駄菓子屋に癒される?
翌日、まる子とたまちゃん、そしてパーカー&クロックスのひろゆきは、帰り道に駄菓子屋へ寄る。
「うわぁ、昭和っぽい駄菓子がいっぱいですね。さすがにネットで買うわけにもいかないし、ここは現地調達するしかないですよね」
ひろゆきは興味津々に店内を見回す。色とりどりのスナック、ビニール袋に入った小さな玩具、ビー玉……。まる子とたまちゃんは慣れた手つきでアイスやわたがしを取り、店先にちょこんと座って食べ始める。
「あ、おじさんも食べる? やきそばスナック。安いよ」
「安いっていうのはコスパがいいってことですか? まあ、試してみますかね」
ぱりぱりとスナックを頬張りながら、ひろゆきはどこか満足げだ。
「ネットもスマホもないけど、なんだかこういう世界も悪くないですよね。のんびりしてるし」
「でしょ? 私、いつも暇だけど、なんかそれで幸せなんだよね」
まる子が伸びをして言うと、ひろゆきは含み笑いをもらした。
「結局、幸せかどうかも‘感想’なんだけど、まあ、それが悪いわけじゃないですよね。僕も案外嫌いじゃないですよ、この緩さ」
第五章 ゆるい終わりと、ちょっとした変化
パーカー&クロックス姿のひろゆきが町にやってきて数日。
最初は戸惑いの連続だったが、まる子やクラスメイト、そして家族たちと過ごしていくうちに、彼の言葉遣いにも少しだけまろやかさが見え始めた。
「‘根拠は?’って思うのは僕の癖だけど、時には根拠がなくても面白いことってあるんですね」
「ふふ、それってあなたの感想だよね。……って言ってみたかったんだ」
まる子が得意気に言うと、ひろゆきは苦笑いを浮かべる。
そんな軽口を交わし合いながら、今日も夕陽を背に帰路につく。
「おじさん、もう帰っちゃうの?」
「うーん、いつか帰らないとね。でも、気が向いたらまた来るかもしれないですよね」
ひろゆきはひらりと手を振って、どこへともなく歩き出す。その後ろ姿に、まる子はほんの少し寂しさを覚える。
これが自分でも“根拠のない感覚”だとわかってるけど、やっぱり寂しいものは寂しいのだ。
遠くの空には、おなじみのオレンジ色が広がっている。ふと耳を澄ませば、あのいつものエンディングテーマが鳴りそうな気配。
パーカーとクロックスのおじさんが、ちょっとだけこの世界に“論理的な風”を吹かせてくれた――そしてその風は、昭和の町に静かに溶け込んでいったようだった。
エピローグ
数日後、いつものように縁側でぼんやりしているまる子の元に、友蔵が俳句を持ってきた。
「パーカーに クロックス履いて 秋の旅」
「おじいちゃん、また変なの作ったね」
「ふふふ。今度、あのお客が戻ってきたら、“それってあなたの感想ですよね?”って言われるかもしれんがのう」
「ははは、そうかもね」
昭和の空気漂うさくら家。その庭にはひんやりとした風が吹いてきて、もうすぐ季節の変わり目がやってくる――。
でも、ひろゆきが残していった“根拠”と“感想”の話は、まる子たちの日常にほんのりとした刺激を与えたに違いない。
今日も変わらないようでいて、ちょっぴり違う気持ちを抱えた昭和の町は、ゆっくりと夜の帳へ包まれていくのだった。
以下は“ちびまる子ちゃんの世界”を体験したひろゆきが、現代フランスへ戻った直後のワンシーンを、余韻を感じさせる短いエピローグ風にまとめたものです。
エピローグ:駄菓子の袋
あたりはパリの街並み――石畳に歴史ある建造物、そして夕暮れのセーヌ川が見渡せる。ひろゆきは自宅のソファで目を覚ました。
「ん……ここは……?」
視線を巡らせると、見慣れたパソコンや書類が散らばっている。さっきまで昭和の町を歩いていたはずなのに、どうやらいつもの現代フランスのリビングにいるらしい。
時計を見ると、ほんの数十分前にベッドに入ったような気がする。しかし、脳裏にはやけに鮮明な“駄菓子屋”や“木造校舎”の風景が残っていた。
「まさか、ただの夢だったのかな……」
そんな独り言を呟きながら、パーカーのポケットを何気なく探る。そして、指先が触れたのは、カサカサとした小さなビニール袋だった。
「これ……駄菓子の、空袋?」
封を切ったあとがある袋には、ひらがなの商品名と可愛らしいイラスト。昭和感あふれるデザインだ。どう考えても、フランスのスーパーでは手に入らないだろう。
夢と断じるには、あまりに現実味のある証拠――ひろゆきはその袋をまじまじと見つめる。
「それって僕の感想ですけど、やっぱり現実ってこと、なのかな……」
ソファから立ち上がると、窓の外に広がるフランスの街明かりを眺めた。微かに聞こえてくる車の音や通行人の足音が、ここが現代の世界だと思い出させてくれる。
だが、ポケットの中でカサリと音を立てる駄菓子袋は、ほんの少し前までいた昭和の町を証明するかのように存在感を放っていた。まるで「いつでもまた来てください」と言わんばかりに――。
ひろゆきは袋を丁寧にたたんで、机の引き出しに仕舞い込む。
「まぁ、たまには根拠なしでも面白いことってあるんだろうな」
そんな一人言とともに、夜のパリの街に灯りがともり始める。
昭和の空気と、クロックスにパーカー姿で駄菓子を頬張った日々。それは一夜の夢だったのか、それとも……。
答えは誰も知らない。けれど、ひろゆきの胸に残るノスタルジアだけは、確かな現実の痕跡となって新たな夜の始まりを彩っていた。