
ひろゆきの鬼滅の刃
ひろゆきの鬼滅の刃
~「いや、そもそも鬼狩りってコスパ悪くないですか?」編~
プロローグ
「いやちょっと待ってくださいよ。鬼退治って、命を懸けるほど割に合うんですか?」
森の中をさまよっていた僕――ヒロユキ・ニシムラは、気づけば大正時代らしき世界へ迷い込んでいた。スマホどころか電気すら満足に行き渡ってない時代に放り出されたら、そりゃあ困る。
しかも、突然鼻の良さそうな少年(炭治郎)に遭遇して「あなた、血の匂いがしないから悪い人じゃないですね!」とよくわからない基準で善人認定される始末。おまけにその少年が言うには「鬼を狩る任務があるんです!」とのこと。
「いやいや、鬼とかファンタジーじゃないですか? コスパ良く生きたい僕には無縁の話なんですけど……」
第一幕 炭治郎との出会い
目の前に立っている竈門炭治郎は、額に傷があって、どこか人が良さそうな雰囲気。背負っている木箱には妹が入ってるとかいうし、もう何から何まで意味不明。
「鬼殺隊? 日輪刀? すみません、説明してもらっていいですか?」
とりあえず話を聞いたところ、鬼に家族を襲われた妹を人間に戻すために奮闘しているらしい。感動的なストーリーではあるけど、“生死のリスク”が高すぎる。
「そもそも鬼って不死身らしいじゃないですか。倒そうと思ったら日輪刀で首を切らなきゃいけないなんて、ハードル高すぎません? 普通に仕事探したほうがいいですよね」
炭治郎はキリッとした表情で反論する。
「でも、これが俺の使命なんです! 妹を人間に戻すためなら、どんな苦労でも厭わないんです!」
「あー、そういう精神論は否定しませんけど……まあ、僕が手伝うメリットはどこにあるんでしょうか?」
第二幕 鬼殺隊本部へ
なんだかんだで炭治郎に連れられ、鬼殺隊の本部にたどり着く。そこには“柱”と呼ばれる精鋭たちがずらりと並んでいた。胡蝶しのぶは優しげに笑ってるけど、なんか裏がありそうだし、煉獄杏寿郎はやたら声が大きくて元気そう。でも、彼らがいくら強くても鬼との戦いって危険すぎるでしょう……。
「皆さん、危険手当とか出るんですか? そもそも鬼を狩ってお給料出るシステムあるんですかね?」
質問攻めにする僕に、柱の一人・冨岡義勇がボソリと呟く。
「そんなものはない。鬼を狩るのは使命だ。己が信じる道を行くだけだ」
「……いやいや、無償ボランティアですよね、それ。コスパ重視の観点からしたら割に合わないなんてもんじゃないですよ」
「黙れ。必要ないことは喋るな」
そっけない態度だが、どうやらこれが彼のデフォルトらしい。炭治郎や他の隊士から「義勇さんはコミュ障なんです!」などと耳打ちされ、僕はちょっと納得する。
第三幕 鬼との遭遇
ある夜、炭治郎の“鬼を探す”任務に同行していた僕は、運悪く本物の鬼と遭遇するハメになった。漆黒の夜に浮かぶ鬼の目はギラギラと光り、鋭い爪が一閃したと思ったら、「あ、これヤバい」と思う間もなく眼前に迫る。
「いや無理無理無理! 逃げたほうがいいですよ、炭治郎!」
しかし炭治郎は果敢に日輪刀を振るって応戦。水の呼吸だとか何だとか、技名を叫びながら華麗に斬りかかっていく。
「技名叫ぶ余裕あるなら、もっと効率的に攻めたほうが……」
そんな呑気なツッコミをした瞬間、鬼が僕の方に向き直る。
「ぎゃー! 来ないでくださいよ! 僕はただの一般人ですよ!」
死を覚悟した刹那、妹の禰豆子が箱から飛び出し、猛スピードで鬼を蹴り飛ばすではないか。
「え、妹さん鬼化してるんじゃなかったんですか……? なんで人間の味方してるんです?」
そう問いかける暇もないほど、禰豆子は戦闘能力が高く、炭治郎と連携して見事に鬼の首を落とした。
第四幕 そもそも何のために戦うのか
血の匂いが漂う中、炭治郎は鬼の首が崩れていくのを静かに見つめる。そっと目を閉じるその表情には、何ともいえない悲しみがあった。
「鬼も元は人間だったんだ……。俺がもっと強ければ、こんなことにならなかったかもしれない」
彼の言葉に、僕は思わず言い返す。
「え、それって炭治郎さんのせいじゃないですよね? そもそも鬼にされた人が可哀想なのはわかりますけど、あなたが背負う必要なくないですか?」
「……でも、俺は見過ごせないんです」
決意のこもった瞳。その一途さが、僕の“コスパ思考”を一瞬鈍らせる。
「いやまあ……結果的に、こうして救われる人がいるなら、あなたのやってることも意味あるんでしょうね。ただ、マジで危ないですよ。もうちょっと安全策を考えたほうが……」
「ありがとう、ヒロユキさん。でも俺は、命を懸けても守りたいものがあるから」
「はぁ……そこまで言われたら何も言えないですよね」
第五幕 柱たちとの別れ
その後、鬼殺隊の本部へ戻ると、柱たちはさらなる任務へと散っていくところだった。煉獄杏寿郎は「うまい!」と叫びながら食事をし、胡蝶しのぶは「ふふ、刺さりそうですねぇ」と微笑み、悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)は仏のように祈りを捧げている。
「いや、こんな個性強い人たちが全員集まっても、柱や隊士はどんどん殉職するって聞きますからね。やっぱりやばい組織だと思いますよ」
そっと炭治郎に耳打ちすると、彼は苦笑しながら首を横に振る。
「みんな、それでも鬼を一掃して、この世に平和をもたらしたいんです。妹を含め、救える人がいるなら、僕たちは戦わなきゃいけないんです」
「そもそも、鬼舞辻無惨ってやつが全ての元凶なんですよね? そいつ倒せば鬼いなくなるなら、みんなで一斉に攻めればよくないですか?」
「……俺たちはその術を必死に探してるんです。一筋縄ではいかない相手だから」
エピローグ そして現代へ
任務を終えて一息ついたある夜、僕はふと謎の“時空の歪み”を見つけた。どうやらここを通れば、現代フランスに帰れるらしい。半信半疑だったが、ほかに帰る手段がないので飛び込むしかない。
「え、ヒロユキさん、もう行ってしまうんですか?」
炭治郎が少し寂しそうな目でこちらを見つめる。すぐ隣では、箱に戻った禰豆子がコクコクと首を傾げている。
「いや、僕に鬼狩りはムリですよ。そもそもネット環境ないのは耐えられないですし……でも、あなたのおかげでちょっとだけ大事なこと学んだ気がします。命懸けで守りたいものがあるっていうのは……悪くないですね」
「そう言ってもらえると、すごく嬉しいです!」
「みんな死なないように、ちゃんと生き延びてくださいよ。鬼舞辻無惨に勝ったら教えてくださいね。あ、連絡手段ないんでしたっけ……まあ、気持ちだけ受け取っておきます!」
そして僕は時空の歪みへ足を踏み入れる。光に包まれたと思ったら、目の前はパリの街並み。懐かしのカフェテラスに逃げ込んで、深く息をつく。
「はあ……やっぱり文明最高。だけど、なんか物足りないというか、炭治郎と禰豆子の姿がちょっと恋しい気もしますね」
ふとカプチーノを飲みながら思う。割に合わない戦いなのに、それでも人を守ろうとする姿勢。僕の“そもそもコスパ”思考を簡単に超えてしまう、あの一途な強さ。
「まあ、やっぱり命を懸けるんだから、労災とか給料とかしっかり整備してあげてほしいですよね……。でも、あの世界じゃ仕方ないのかな」
そうぼやきつつ、スマホを取り出すと、すぐにSNSを開いてしまう。やっぱりこれがないと落ち着かない。
「さてと、久しぶりにネット接続。鬼狩りがどんなリスクを負ってるか、一度まとめて投稿してみますかね。……炭治郎たち、今ごろどうしてるかなあ」
パリの夕暮れが金色に染まる。見慣れた街に戻ってきたはずなのに、ほんの少しだけ物寂しい。あの世の中で出会った仲間たちの情熱を思い出しながら、僕はそっとカフェの椅子に背を預けた。