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モンスターハンターひろゆき〜ドラゴン狩り〜前編
ひろゆきがドラゴン退治を請け負ってから数日。
彼は自慢の“ハンドキャノン”を磨きつつ、ドラゴンを待ち構える罠の設計に余念がなかった。
前回、とある沼地でゴブリンやオーガの群れをまとめて蹴散らして以来、ひろゆきの噂は街から街へと広がっていた。彼が狩りの際に使う独創的な仕掛けと手際のよさは、普通ならば成し得ない危険な仕事までも軽々とこなしてしまうという評判を呼んでいる。そして今、そんな彼に舞い込んだのが「王国を脅かす巨大なドラゴンを退治してほしい」という依頼だった。
もっとも、ひろゆき本人は「いやー、ドラゴンってめんどくさそうですよね。燃費悪いし大きいし」と、あまり乗り気ではない様子。だが報酬の金貨は相当な額で、酒場や宿屋で散財しながら旅するにはうってつけの“資金源”になりそうだと判断し、重い腰を上げたのだった。
ドラゴンの棲み処を目指して
依頼の情報によれば、標的のドラゴンは「ヘリオス峠」と呼ばれる山岳地帯の奥に、巨大な巣を構えているという。火を噴くタイプのドラゴンで、体の鱗は黒く頑丈。首都近辺の村をいくつも焼き払ったという、非常に獰猛な性質を持っているらしい。
ひろゆきはまず、ドラゴンとの直接対決を避けるため、周辺地形を徹底的に調査した。飛来ルート、止まり木になりそうな断崖、狩りのためにドラゴンが飛び立つタイミング――ネットで情報検索できるわけでもないので、一つひとつ現地の人々から聞き込みをする。
「なるほど、だいたいわかりました。確かに羽の大きさ的に、ここを旋回して巣へ戻るんですよね」
ひろゆきは、村人たちの話を地図に書き込みながら頷く。論理的に組み立てていく癖は、街中でも荒野でも彼の基本スタンスだ。
こうして得られたデータを基に、罠を仕掛ける最適ポイントを割り出す。彼が選んだのは山の中腹にある細い尾根道。ドラゴンが空から降り立ちやすく、かつ周囲に崖が連なっていて逃げ道が少ない場所だった。
特製トラップの準備
「いやー、ドラゴンって飛んでるから厄介なんですけど、逆に言えば着地させさえすればどうとでもなるんですよね」
そう言いながら、ひろゆきは尾根道のそこかしこに、地中に埋め込むタイプの大型の捕獲罠を仕掛けていく。ごく普通の動物用トラバサミをさらに強化し、鋼の爪にはドラゴンの鱗を貫くための特注加工が施されていた。金属の刃先に火竜の毒腺から採取した溶解液を垂らし、一度食い込めば鱗の一部を溶かせるようにしてある。人間では到底触れられない猛毒だが、もちろんひろゆきは対策を万全にして取り扱っている。
さらに狭い通路には、小型の機巧弓(オートボウガン)を複数台設置。ドラゴンの大きな目を狙う特殊な矢を、遠隔で一斉に発射できる仕組みだ。
「これでドラゴンの目を潰してしまえば、こちらが一方的に有利になるはず…たぶんですけどね。ま、上手くいかなくても“ハンドキャノン”の出番なんで」
と、ひろゆきは独り言のようにつぶやく。
そして、罠の要となるのが「ドラゴン用のおとり」。ひろゆきは地元の狩人から譲り受けた、新鮮な山牛の肉を大量に調達していた。ドラゴンは肉食で、とくに血の匂いに敏感だという。尾根道の途中に肉を山積みにしておけば、狩りのタイミングでドラゴンがそこへ舞い降りてくる可能性が高い。そこを罠で捉えたうえで、視界を奪い――最後は至近距離から「ハンドキャノン」を撃ち込む作戦だ。
奇襲の準備と影
尾根道の設営を終えたひろゆきは、山肌にある小さな洞穴を見つけ、そこを仮の拠点にすることにした。食糧と装備を置き、夜はここで休む。もしドラゴンが先に気づいて襲来するようなら、洞穴の中に引きこもれば、ひとまずブレスを防ぎやすい。
しかし、彼の様子を遠巻きに見守っている存在があった。
――小高い岩の上に、人間らしきシルエットが立っている。ローブをまとい、まるで何かを監視するようにじっと尾根道を見下ろしている。その姿を、ひろゆきはまだ気づいていない。
ローブの人物は何かの動物の骨を削ったような杖を手にしており、不気味に輝く宝石が埋め込まれている。時折それを振りかざし、どこかへ念を送るような仕草をしている。
「…さては、ドラゴンを操っている何者かがいるのか?」
まるでそんな雰囲気を匂わせながら、ローブの人物は姿を消した。
焦り
翌朝。ひろゆきは洞穴から出ると、空模様を確認する。雲が低く垂れ込み、山肌を薄い霧が覆っている。ドラゴンの飛行には好都合とは言い難いが、見通しが悪くなれば逆に敵を捉えやすい可能性もある。
「そろそろ餌の腐敗も気になるし、時間をかけすぎるのもイヤなんですよね」
そんなぼやきを口にしつつ、ひろゆきは崖際の草むらに隠れて待ち構える。遠方から風に乗って、低いうなり声がかすかに聞こえた気がした。ドラゴンが近づいているのかもしれない。
ただし、妙な予感も胸に去来する。尾根道周辺には、ほかのモンスターの気配すらほとんどないのだ。通常なら、小型の飛竜やグリフォンなどがいても不思議ではない地域。まるで何かに怯えるように、モンスターたちが姿を見せなくなっている。
「まぁ、ドラゴンが強すぎるから、みんな逃げちゃったっていう説もありますけど。なんだか引っかかるなあ…」
そう考えながら、ひろゆきはいつも通り、冷静に備える。背の鞘に納めたハンドキャノンを取り出し、弾薬を点検。普通の火薬式ではなく、特殊な錬金術で生成した“魔力ガス”を圧縮し、着火時に強烈な爆発力を発生させる代物だ。撃ち出す弾丸も大きく、金属の先端には魔力を蓄えた水晶が埋め込まれている。
「これなら、ドラゴンの鱗だろうと貫けるはず。…まあ一発で仕留められればいいんだけど」
迫り来る気配
やがて遠方の空から、低く響く羽ばたきの振動が伝わってくる。強烈な風圧が山肌を揺さぶり、濃い霧の切れ間から巨大な影が見え隠れした。
「うわー、本当にでかいですね。めんどくさそうだなぁ」
ひろゆきは心の中でぼやきながらも、視線はそのドラゴンの動きを逃さない。
予想どおり、ドラゴンは血の匂いに誘われたのか、ゆっくりと尾根道近くへ降下してくる。甲高い咆哮とともに、岩を砕くようにして大きな四肢を地面へ突き立てた。
その姿は情報のとおり、漆黒の鱗に覆われ、眼光は紅く燃えている。口を開けると、喉奥には淡い炎が見え隠れしていた。
「目標、ドラゴン、確認。罠の発動タイミングは…今じゃない。まだじっくり待つ」
ひろゆきは小声でつぶやく。設置してある自動弓は、ドラゴンが肉にかじりつき、ある程度位置を固定したときに遠隔操作で発射する狙いだ。油断なく見定める必要がある。
すると、ドラゴンは鼻孔を広げ、血の匂いを嗅ぎ分けつつ、おとりの肉の方へ一歩ずつ歩を進めた。次の瞬間――。
大地を揺るがす衝撃音。ドラゴンの前足が、ひろゆきの仕掛けた大型罠を踏み抜いたのだ。金属がきしむような鈍い音とともに、罠の鋼の爪がドラゴンの足首にガチリと食い込む。毒の溶解液が瞬時に鱗に染みこみ、鋭い痛みがドラゴンを襲った。
「よし、かかった!」
ドラゴンが怒りに任せて罠を引きちぎろうとした瞬間。ひろゆきはスイッチを入れ、周辺に配置していた機巧弓を一斉に稼働させた。複数の矢が甲高い音を立ててドラゴンの頭部へ集中する。
そのうち何本かが、ドラゴンの目をかすめる。鋭い鱗に阻まれはしたが、一部の矢がまぶたや眼球の端を裂き、ドラゴンは思わず目を閉じた。ブレスが撃ちづらくなるうえ、視界が一瞬でも塞がれれば狙い通りだ。
そして至近距離へ…
「まずは第一段階クリア。じゃあ次は仕上げといきますか」
ひろゆきは崖際の茂みからすっと立ち上がり、ドラゴンの横合いへ一気に駆け込む。口から火炎を吐かれる前に“至近距離”へ潜り込み、“ハンドキャノン”を撃ち込む作戦だ。
「――はいはい、ドラゴンさん、失礼しますよ」
ぐちゃり、と血と毒が混じった粘液が滴る前足の脇腹へと滑り込み、ひろゆきは素早く膝をつく。ハンドキャノンの照準を上へ向け、ドラゴンの心臓付近を探る。トリガーを引けば、一撃で仕留められるはず。
しかし、ドラゴンの反応は予想よりも早かった。痛みで逆上したのか、罠に囚われた前足を引きずりながら、尾を横薙ぎに振り回したのだ。
「うわっ!」
ひろゆきはとっさに身を捻って回避するも、その衝撃波だけで体が吹き飛ばされそうになる。尻もちをつき、危うくハンドキャノンを取り落とすところだった。
「力、ハンパないですね…。ちょっと予想以上かも」
それでも、動揺を最小限にとどめたひろゆきは、すぐに体勢を立て直す。ドラゴンは眼球付近を射抜かれた痛みと毒の食い込みで、まだ思うように動けない。チャンスとみたひろゆきは、ほとんど地面を転がるようにしてドラゴンの脇腹へ接近し、ハンドキャノンを構え直した。
「ほらほら、絶望するにはまだ早いですよ。僕も余裕ないんで」
ドン、と空気を破裂させるような轟音。魔力を圧縮したハンドキャノンの弾丸が、ドラゴンの堅固な鱗をこじ開ける。強烈な反動でひろゆきの腕が痺れるほどだったが、それはドラゴンにとっても衝撃だ。血煙が舞い、ドラゴンの咆哮が山中に轟く。
まだ倒れはしないが、かなりのダメージを与えたことは確かだ。このまま立て続けに撃ち込めば倒せる――。そう確信しかけたそのとき、先ほどの不穏なローブの人物が再び姿を現した。
差し込む闇
遠くの岩場の上に、黒いローブをまとった人影が立っている。杖の宝石が怪しく光り、ドラゴンの瞳が一瞬、真紅に染まった。まるで何かに操られるかのように、ドラゴンが苦痛を押し殺して吠え声を上げる。
「えっ、ちょっと何これ……誰かいるんですけど」
ひろゆきは奇襲を警戒しつつ、ドラゴンとの距離を少しとる。すると、ローブの人物が杖を振りかざし、何やら呪文めいた言葉を唱え始めた。
次の瞬間、ドラゴンの傷から紫がかった煙が立ち上り、溶解液も毒矢も、まるで浄化されたように消えていく。ひろゆきの仕掛けた“毒”が、あっさりと無力化されてしまったのだ。
「え、今のは回復魔法? しかも毒対策までできるやつって…。何者なんですかね?」
ドラゴンは足首の罠を引きちぎり、抜け出すと同時にブレスを溜め込んでいる。ひろゆきは慌てて身を隠せるポイントを探すが、尾根道の地形は視界が開けていて、完全には回避できそうにない。
「これ、やばそうですね。作戦の練り直しが必要かも」
ドラゴンの口腔に赤黒い炎が宿り始めた。尾根道が一瞬、昼間のように明るくなるほどの光量だ。ひろゆきはまさにそのブレスの射線上に立たされている。
――絶体絶命の状況にもかかわらず、彼の表情には焦りというより、次の打開策を考えるような思考の光が宿っていた。
「まぁ、論破するときもそうですけど、大抵は最後まで諦めない方が勝つんですよね。さて、ここからどう逃げてどう仕留めるか…」
こうして、ひろゆきとドラゴン、そして謎のローブの人物との死闘は、新たな局面を迎えた。
ここで物語はひとまず一区切り。
ドラゴンの猛攻をしのぎ、再び“ハンドキャノン”を突きつけるチャンスは巡ってくるのか? 謎の人物の正体と目的は?
そして、ひろゆきは無事に依頼を果たして報酬を手にすることができるのか?
数多の危険と策略が交錯する“ドラゴン狩り”。
その決着は、次回“後編”へ――。