見出し画像

ひろゆきとイブンハルドゥーンの対話



登場人物

ひろゆき(西村博之)
日本のネット文化の先駆者的存在であり、現在は様々なメディアやSNSなどで独特の論調や切り返しが注目されている論客。

イブン・ハルドゥーン
14世紀のチュニジア出身の歴史家・思想家・社会学者。代表作は『歴史序説(ムカッディマ)』。王朝の興亡や社会集団の興隆と衰退の法則を考察した先駆的な学者。

第一幕:時空の交差点

舞台は不思議な書庫の一角。古代から現代までのあらゆる書物が所狭しと積み上げられた静謐な空間に、一人の男がぼんやりと座っている。彼は、カジュアルなTシャツにジーンズ姿のひろゆきだ。コンピュータの画面もスマホの電波もないはずのこの場所で、彼はため息をつきながらもどこか楽しげな表情を浮かべていた。

すると、古代の装いをまとった男が書棚の奥から姿を見せる。ターバンを巻き、長いローブに身を包んだその男は、まるで大偉人の肖像画から抜け出してきたようだ。その男――イブン・ハルドゥーンが声をかける。

イブン・ハルドゥーン
「お初にお目にかかります。どうやら、見慣れぬ服装をなさっているようですが、あなたは何者ですか?」

ひろゆき
「僕はひろゆきって言います。なんか気がついたらここに来てて……えーと、ターバン巻いてるし、まるで昔の偉い人みたいですけど。もしかして、どこかの歴史上の学者さんですか?」

イブン・ハルドゥーン
「私はイブン・ハルドゥーン。歴史や国家の興亡、それに社会の仕組みについて書を著しておりました。」

ひろゆき
「おお、名前聞いたことありますよ。『ムカッディマ』とか書いた人ですよね。実はちょっとだけ読んだことあるんですけど、現代の社会学とか経済学にも影響を与えてるって話を見ました。」

イブン・ハルドゥーンはひろゆきが自分の名を知っていると知って、少し嬉しそうに微笑む。

第二幕:文明の盛衰、そしてネット社会

奇妙な「時空の図書館」で二人は腰を下ろし、お互いの時代や思想について話を交わし始めた。

文明のサイクルについて

イブン・ハルドゥーン
「私の考えでは、王朝や文明には興隆と衰退のサイクルがあります。それは指導者のカリスマ性や共同体の結束が強い時期には力を発揮しますが、やがては富を求め、贅沢に溺れ、支配階級が他者と分断されるにつれて衰退していくものです。」

ひろゆき
「いわゆる“王朝が豊かになる→権力者が堕落する→内部で腐敗や争いが起きて滅びる”っていうやつですよね。まあ現代でも、大企業がトップの不祥事でイメージダウンして倒産したり、政治家がスキャンダルでもめたりとか、ありがちですからね。」

イブン・ハルドゥーン
「現代にも当てはまるのは面白いですね。では、あなたの暮らす時代の社会は、今まさに興隆期なのか、それとも衰退期なのでしょうか。」

ひろゆきは肩をすくめ、軽い笑みを浮かべる。

ひろゆき
「うーん、日本は少子高齢化もあるし、経済停滞も長いから、ちょっと衰退期に近いかもしれませんね。でも、なんだかんだみんなそれなりに暮らしてるって感じ。いきなり崩壊ってわけでもないんですけど、未来が明るいとも言いづらい状態。」

イブン・ハルドゥーン
「なるほど。支配層の有り様だけでなく、民衆のモラルや結束が弱まりつつあるなら、やがて抜本的な変革か、新たな外部からの刺激が必要になるでしょうね。」

ネット社会への好奇心

イブン・ハルドゥーンはふと気になった様子で、言葉を続ける。

イブン・ハルドゥーン
「ところで、あなた方の時代には“ネット”というものがあると聞きました。文字のやり取りや知識の蓄積が一瞬で広まるとか。」

ひろゆき
「そうですね、すごく便利ですよ。好きなものを好きな時に見たり読んだり、人ともつながれる。だけど、フェイクニュースや誹謗中傷もやりやすい環境でもあるので、問題も多いんですよ。僕は昔、大きな掲示板を作って運営してたんですが、自由と混沌は紙一重だなぁと痛感しましたね。」

イブン・ハルドゥーン
「ほう、自由を求めれば、それだけ秩序も乱れやすいというわけですか。私が言う“アサビーヤ”(集団の連帯意識)の逆ですね。自由は高めるが、逆に結束は失われる面もあると。」

ひろゆき
「ネット上で“連帯意識”が生まれることもあるんですけど、いわゆる“空気を読む文化”とか、“同調圧力”が強すぎるコミュニティもあって、そうすると今度は空気に支配される感じになるんですよ。難しいところなんです。」

第三幕:人間の本質と未来への展望

イブン・ハルドゥーンは深く頷きながら、思索するように瞳を閉じる。

イブン・ハルドゥーン
「興味深いですな。集団や社会を分析するにあたっては、人間という生き物の本質をいかに把握するかが鍵となります。私は、人間がもつ“欲望”や“利害関係”、そして“恐れ”が社会の動きを大きく左右すると考えました。」

ひろゆき
「欲望や恐れ、利害関係――まあ、結局、人は損得で動くことが多いって話ですよね。僕もそういう個々人のどうしようもないところを突く感じでコメントすることが多いです。社会を綺麗事でまとめようとしても、まあ無理ありますよねって。」

イブン・ハルドゥーン
「しかし、一方で人間は共同体を求める生き物でもある。孤独では生きられない。だからこそ、衝突や矛盾が絶えず生まれてしまうのでしょう。」

ひろゆき
「そうですね。ネットが広まった現代でも、めちゃくちゃ盛り上がるSNSのコミュニティとか、オフラインで集まって結束して盛り上がるグループもあって、結局“仲間と一緒になにかやりたい”って気持ちは大きい。自分でコミュニティをつくる人もいますし。」

未来への問いかけ

イブン・ハルドゥーン
「あなたの時代の人々は、今後どのように社会を変えていくのでしょうか?」

ひろゆき
「いやー、ぶっちゃけ僕も未来予測は当たらないタイプで(笑)。ただ、技術の進歩や価値観の多様化が進む以上、新しい形の連帯が出てくるんだろうなって思ってます。仕事もAIに任せる領域が増えるかもしれないし、国境が曖昧になるかも。そうなると、今までとは違う“アサビーヤ”というか、結束の単位が広域になるのか、それとも小さなコミュニティごとになるのか……そこは見どころですよね。」

イブン・ハルドゥーン
「なるほど。私がいた時代からすれば、まるで夢物語に聞こえます。ですが、人間の本質が変わらないなら、あまり根本は変わらぬのかもしれません。」

ひろゆき
「まあ、人間はそんなに変わらないですよね。いくらテクノロジーが進んでも、嫉妬するし、争いもするし、助け合いもするし、恋愛もする。アナログな部分は残る。個人的には、人間の矛盾をいかにうまく扱うか、そこに社会システムの改良の鍵があると思ってます。」

第四幕:別れと次の時代へ

やがて周囲の書物が白い靄に覆われ、二人がいた図書館がゆらぎ始める。別れの時が近づいているのだ。互いに立ち上がり、名残惜しそうに視線を交わす。

イブン・ハルドゥーン
「短い間でしたが、大変興味深い話を聞かせていただきました。私の時代では想像もできぬほど大きく世界が変わっているのだと知って、少し興奮しております。」

ひろゆき
「いえいえ、こちらこそ。イブン・ハルドゥーンさんの“文明や国家の興亡のサイクル”は、今の世の中でもめちゃめちゃ参考になりますよ。何か企業でも国家でも、同じように盛者必衰を繰り返してますからね。そういう視点でみると、変わってない部分に気づけるのが面白いです。」

白い靄が二人の体を包み込み、視界が少しずつ消えていく。

イブン・ハルドゥーン
「もし次に会う機会があれば、もっと詳しく現代の社会について教えてください。私の“アサビーヤ”の概念がAIやネットとどう交わるのか……知りたいことは尽きません。」

ひろゆき
「僕もそっちの時代の行政や学問の成り立ち、興味ありますよ。まあまたどこかで、“うっかり”こういう時空の交差点が生まれたらぜひ。」


エピローグ

パリの深夜、ひろゆきはいつものアパートのベッドで目を覚ました。窓の外からは遠くセーヌ河岸のかすかな街灯が照り返し、車の走る音が微かに聞こえる。いつもの風景と喧噪が戻り、「なーんだ、夢だったのか……」と苦笑いしながら、彼は軽く伸びをした。

しかし、何か胸騒ぎがする。どこか体がふわふわと宙を浮いているような、不思議な感覚が残っているのだ。気のせいかもしれない、と思いつつ、何とはなしにジーンズのポケットに手を入れた。

そして、指先が妙な紙切れをつかむ。薄茶色に変色した、破れかけの一片。縁にはアラビア文字の断片がかすかに見える。見慣れない記号と文字が、かろうじて数行だけ残っていた。その文字を目にした瞬間、イブン・ハルドゥーンの姿やあの書庫の匂いが、一気に脳裏をかすめる。

「……まさかね」

苦笑を浮かべつつも、心臓がわずかに高鳴る。自分が確かに体験したあの対話は夢だったのか、それとも。メガネをかけ直し、その紙片を光に透かしてみても、アラビア文字の文意は簡単には読み取れない。

ひろゆきはそっと紙片をポケットに戻す。そして、窓の外に目をやった。朝の光が少しずつパリの街を照らし出す。あれほどはっきりとした幻を見たのは初めてだ。いつか、イブン・ハルドゥーンの時代や思想をもっと深く調べる必要があるかもしれない。
そう思うと、どこか胸の奥に微かな熱が宿る感触があった。

「現代にも通じる視点が、まだあの書の中に眠ってるかもしれないしね」

そう呟くと、ひろゆきはいつもと同じように朝のコーヒーを淹れに向かった。しかし、ジーンズのポケットがほんのり温かいような気がしてならなかった。

いいなと思ったら応援しよう!