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ひろゆきのホームアローン

【プロローグ】
「……えーっと、ここはどこですかね?」
僕、ひろゆき。いつもはネットの海で「でもそれってあなたの感想ですよね?」とか、まあちょっと小洒落たフランス暮らしなんかをしているわけですけど。気がついたら、見覚えのないアメリカ郊外らしき住宅街の路地に立っていた。真っ白な雪と妙にキラキラしたクリスマスの飾り……うーん、どうにも既視感があるのはなんででしょう。
まるで昔見た映画のセットのような、ベタなアメリカ冬景色。寒いし、スマホを取り出しても圏外。ネットにつながらないなんて、ちょっと困りますよねぇ。

【第一章:この世界、どこかで見たような?】
雪道をとぼとぼ歩きながら、考える。僕がふだん住んでいるのはフランス・パリだけど、ここは確実にパリじゃない。タクシーも見当たらないし、何より英語の看板が並んでいるし。
「なんか『これはどこ?』ってツッコミたくなりますけど……とりあえず足を動かしますか」
周囲は閑静な住宅街。ドアや窓にはリースやイルミネーション。ツリーのオーナメントまで揃っている。だけど人の気配が少ない。こんなに静かなのも、何かがおかしい。

【第二章:いたいけな少年との遭遇】
道の向こうから、ちっちゃい子が雪を蹴散らしながら走ってきた。金髪で素朴な顔立ちの少年は、驚いたように僕を見上げると、
「ちょっとどいてよ!」
と、強めのトーンで言った。えー、なんか必死そう。
「ああ、ごめんなさいね。……ところで君、日本語わかるの?」
「え? あんた何者? 泥棒じゃないよね」
「いやいや、スリでもないですよ。こんなスーツケース持ったまま泥棒する人いないと思うんですけど」
少年はケビンと名乗った。聞けば、家族が海外旅行に出かけちゃったらしく、ひとり取り残されたとのこと。で、家を守るために泥棒から必死に逃げ回っているらしい。
「え、それってもしかして、有名な映画のシチュエーションじゃ……」
ピンときた。これ、もしや『ホーム・アローン』の世界じゃないですかね。映画だとフランス旅行に行く家族に置いてかれたケビンの話。僕の人生でこういう展開、普通ないんですけど。

【第三章:無理矢理チームアップ】
「どうしよう、家に忍び込もうとする泥棒がいるんだ!」
「まあ、家に入られたら困りますよね……。えーっと、僕はもともとネットで色々言い合うのが生業みたいなもんですけど、実戦経験はないんですよね。でも、子どもを放っておくのもアレだし……仕方ない、協力しましょうか」
「ほんとに?」
「あ、ただし、ケガしたくないし、あんまり走り回れないから。僕の膝がね、ちょっと……」
別に膝が悪いわけでもないが、どう考えてもガチの肉弾戦は勘弁。そういうときこそ口先の技術と、相手を煙に巻く知恵ですよね。

【第四章:ケビンハウス・トラップ見学ツアー】
ケビンの家に着いて驚いた。玄関には焼けるドアノブ用の仕掛け、部屋にはヘンテコなおもちゃやマイクロマシン(ミニカー)がバラ撒かれ、バケツやらペンキ缶まで天井に吊るされている。
「うわー、やりたい放題じゃないですか。これ、どっからこんなアイデア出してるんですか?」
「ぼくがテレビとかで見たの、アレンジしてるだけ」
「いやー、自己流にしては本格的すぎる。もし大人が踏んだら、普通に一発アウトですよね……」
感心していると、外から人の気配。どうやら泥棒コンビが戻ってきたらしい。

【第五章:ひろゆき流・口先ディフェンス】
「よーし、ケビンは隠れて。僕は彼らと話してみますから」
「……本当に大丈夫?」
ドキドキのケビンを置いて、僕は勇気を出して玄関のドアをちょっとだけ開ける。そこには、キツネみたいな顔をした男と、ずんぐりした男が不審そうに立っている。
「君たち、ここはお留守ですよね? でもね、家に侵入すると犯罪ですよ? 日本の法律では住居侵入罪に相当するし、たぶんアメリカでも普通に不法侵入で逮捕されるわけで……」
「なんだ、この訳わからねえ野郎は!」
男たちは英語でまくし立てる。僕もフランス在住で鍛えられたやり取りの中で、そこそこ英語は理解できるし、返せる。でも、彼らはそもそも話を聞く気がなさそうだ。

「お前こそ何者だ! ガキを連れ込んでるってのか?」
「いやいや、僕は通りすがりの旅行者ですよ。ね、こんな雪の中、わざわざ泥棒するメリットあります?」
「うるせえ、どけ!」
無理だったか。すかさず僕は大声で合図。
「ケビン、いまだ!」

【第六章:トラップ祭りと大人の憂鬱】
すると、玄関ドアの上からペンキ缶が勢いよく落下。泥棒1号は避けきれずペンキまみれ。床に飛び出したミニカーに乗って派手にすっ転ぶ泥棒2号。さらにケビンが仕掛けた熱々のドアノブトラップが発動し、彼らの手のひらには灼熱の刻印……。
「これ、かなり痛そうですね……下手すると訴訟案件ですよ」
「ギャーギャー!」
痛がりながら逃げ出す泥棒コンビ。それを見送った僕たちは、家の中に戻って一安心。少年が一人でやるには破天荒すぎる作戦だが、結果オーライと言えばそうかもしれない。

【第七章:家族からの連絡と別れの予感】
しばらくして、ケビンの家の電話が鳴る。出てみると、どうやらケビンの母親が急いで戻るとのこと。やはり映画と同じ展開か。
「じゃあケビン、よかったですね。あとは家族と再会するだけじゃないですか」
「うん……でも、あんたはどうするの?」
「僕? そりゃフランスのパリに帰りたいですよ。もともとそこで暮らしてますし」
「そっか。ちゃんと帰れるといいね」
僕は苦笑いする。そもそもなんでこの世界に飛ばされてきたのかすらわかっていない。それでも、ケビンが無事ならひと安心だろう。

【エピローグ:そしてフランス・パリへ】
ケビンの家族が戻ってきて、家はにわかに大騒ぎに。家族愛があふれる光景を見たら、僕の出番もおしまいだなと感じる。
「じゃあ、邪魔者はそろそろ退出しますね」
と言って、玄関のドアを開けると、さっきまでのアメリカの雪景色が唐突にホワイトアウトする。頭がくらくらして、目が回った。

気がつくと、僕は石畳の道端に倒れていた。見上げると、そこには街灯に照らされたフランス語の看板と建物。鼻をくすぐるのはパン屋から漂うバゲットの香り……間違いない、ここはパリだ。
「おお、戻ってきた……。まあ、誰に話してもたぶん信じてもらえないでしょうけどね。でも、それって僕の感想ですから」

立ち上がり、雪の残るパリの街を歩く。家族を心配そうに待っていたケビンの笑顔、泥棒に翻弄されるドタバタ劇。あれは現実だったのか、それとも夢だったのか。
ポケットの奥に、クリスマスの飾りの欠片がちょろっと引っかかっていた。
「……まあいいや。ネットで『映画に迷い込んだ体験談』とか書いたら面白いかな。でもそんな記事、普通は誰も信じないだろうし。いやでもそれって――」
僕の呟きが道行く人のざわめきにかき消され、夜のパリはひっそりと深まっていく。

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