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ひろゆきの風来のシレン



ひろゆきの風来のシレン

~「論破だけでダンジョン踏破?」編~

プロローグ:迷い込んだ異界

「いや、まじで意味わかんないんですけど。ここ、どこなんですか? 死んだら装備全部ロストとかコスパ悪すぎでしょ」
 フランスのネットカフェで余生を過ごしていたはずのひろゆきは、なぜか“風来のシレン”の世界に飛ばされていた。周囲には見慣れない瓦屋根の宿場町と、妙に和風テイストな風景。
 そんな戸惑うひろゆきの前に、三度笠をかぶった青年・シレン、そして口うるさい相棒――語りイタチのコッパが現れる。
「へえ~、あんたも風来人志望かい? でも根性あるの? 死んだら丸裸だよ?」
 コッパが尻尾を左右に振りながら挑発的に言う。
「いやいや、そもそも死んだら装備全部失うとか、正気じゃないですよね? 僕はそんなハイリスク求めてないんですけど……」
 シレンは無言で微笑しつつ、ひろゆきにダンジョンの入り口を指し示す。“行くしかない”という無言の圧だ。

第一幕:不思議のダンジョン、論破スタート

 いざダンジョンに足を踏み入れると、モンスターや罠が盛りだくさん。剣や盾がなければ、普通の冒険者はひとたまりもない。
 ところがひろゆきは手ぶらだ。
「いや、装備どころか棒すら持ってないですけど。どうやって戦えばいいんですか?」
 すると隣のコッパが呆れた声を上げる。
「このイタチの目を見ても分かるけどさ、普通は殴り合いするんだよ? モンスターに論破なんて通じるわけ――」
 コッパの言葉が終わらないうちに、目の前にマムルが出現。尻尾を振って威嚇してくる。
「えーっと……マムルさん、そもそも襲う理由あります? メリットなくないですか?」
 ひろゆきが淡々と問いかけると、マムルは首をかしげて一瞬戸惑う。
「ほら、食料としても僕は美味しくないですよ。死体処理するにも手間だし、そもそもこの洞窟には他にもおいしいご馳走あるじゃないですか」
 マムルは困惑顔(に見える)で後ずさり。次の瞬間、すっと踵を返して去っていった。
「な、なんだこりゃ……!? マムルを撃退しちゃったよ、論破で!」
 コッパは目を丸くし、シレンも杖を振り下ろすまでもなく静かに頷いている。

第二幕:語りイタチ、困惑する

 ダンジョン奥へ進むにつれ、カラカラペンペンや妖怪にぎり変化など、凶悪なモンスターが襲いかかる。だが、ひろゆきは片っ端から“そもそも論”を展開していく。
• 「あなたが今僕を倒しても、経験値は増えますけど、死体処理が面倒くさくないです?」
• 「にぎり変化さん、無闇におにぎり作るのも労力かかりますよね? そもそももう少し効率的なビジネスありませんか?」
 すると、モンスターたちは「たしかに……」と言わんばかりに戦意を喪失していく。これにはコッパも唖然。
「おいシレン、こんなのアリかよ。普通は剣とか盾とか杖使うんだぜ?」
 シレンは“結果オーライ”という目でコッパを見る。どうやら、ダンジョンを楽に進めるなら文句はないらしい。

第三幕:アイテム店の価格破壊

 途中、怪しげなアイテム屋を発見。普通なら高額な巻物や壺がズラリと並び、足元の罠に引っかかれば瞬殺、万引きすれば店主が襲いかかってくる難所だ。
 ひろゆきは悠々と店に入り、店主を見回しながら言う。
「この“火迅風魔刀”、めちゃくちゃ高いですね。需要あるんですか? そもそもここに来る客って限られてますよね?」
 店主はぎょろりと睨む。
「……文句があるなら買わなくていい、出ていけ」
「そうですね、ただこの値段を下げればもっと回転率が上がって売上増えるんじゃないですか? 経済活動として考えれば、利益率の最適化が必要ですよね」
 店主は一瞬ムッとした顔をするが、次第に冷静な表情へ変わっていく。
「う、うむ……確かに最近は客足が落ちていて……。値段を下げたら在庫処分しやすい、か……」
 すると突如、店主は長い腕で棚の価格札を塗り替え始める。
「これ、半額にしてやろう。買っていけ、若いの」
「え、いや、僕は別にいらないんですけど。そもそも論として装備必要ないんですよ、論破で勝てるんで」
「……なんだって?」
 店主は呆然とするが、ひろゆきはにこやかにお礼だけ言って店を後にする。コッパはもう何も言えず、ただ口をパクパクさせるだけだ。

第四幕:ボスモンスターを論破

 ダンジョン最深部に待ち構える巨大なボスモンスター(通称“魔蝕虫”とか“魔王”とか)が、その威圧的な姿を現す。普通なら、剣や杖を駆使した激戦が繰り広げられる場面。
 しかし、ひろゆきは一歩前に進み出る。
「いや、そもそもあなたがここで待ち受けるメリットってあります? もしぼくらを倒しても名誉とか得られないし、次の挑戦者が来たらまた戦うんですか? 疲れませんか?」
 ごうごうと唸り声をあげるボスモンスター。しかしその視線は揺らいでいるように見える。
「それに、このダンジョン自体が不思議空間らしいじゃないですか。あなたが守ってる宝とやら、実際に外に持ち出せるか分からないんですよね? 無駄に体力消耗してないです?」
 ボスモンスターは体をのけぞらせ、最後の抵抗を試みるかに見えたが、次の瞬間ピタリと動きを止める。どうやら、“そもそも”論が急所に刺さったらしい。
 ドスン……と地鳴りを立て、ボスモンスターは退却。こうしてダンジョン最深部はあっさり平穏を取り戻す。

終幕:論破だけで踏破する男

 こうして、剣も盾も使わずに“論破だけ”でダンジョンを踏破してしまったひろゆき。杖をほとんど振らなかったシレンも肩透かしを食らったようだが、結果オーライとばかりに笠を脱いで微笑む。
 一方、コッパは呆れ顔でひろゆきを見上げる。
「まさか、こんなやり方でクリアするやつがいるなんてな……おいシレン、あんた今どんな気分だい?」
 シレンは無言で、しかしどこか誇らしげに頷く。
「コッパさん、あなたもお疲れさま。まあ、死んだら装備全部ロストってのはコスパ悪いんで、論破が最適解でしたね」
 ひろゆきはそう言って肩をすくめると、いつの間にか空間の歪みへ吸い込まれて消えていく。

エピローグ:またいつか、風来の道で

 ダンジョン入口に戻ってきたシレンとコッパ。周囲には驚いた風来人たちが集まり、“論破だけでダンジョンを制覇した男がいたらしい”と噂している。
「まさかねえ……言葉だけでモンスターもボスも撃退しちまうなんて。俺たち、いったい何度痛い目を見てきたんだか……」
「まあまあ、そもそも論、ああいうやり方だって一つの解だよ。モンスターや店主、ボスにだってそれぞれ言い分があるんだからさ」
 コッパは感心とも呆れともつかない表情で呟く。シレンは静かに笑って、再び笠をかぶる。
 二人は次なる冒険へと足を踏み出す。ひろゆきのような奇特な風来人に出会うことは、もう二度とないかもしれないが――“風来”の道は何が起きるか分からないのだ。

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