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[脳から考察]アウトプットは、なぜ重要なのか?

何事も、重要なのはアウトプット?

こんにちは!SIGNCOSIGNライターの中野です。加来さんも以前から上記のようにその重要性を訴えていますが、勉強やビジネスの場でも、アウトプットすることの重要性は常に注目されていますよね。そもそもアウトプット、一体どんな効果があるのでしょう…?とりあえずGoogle検索などを行ってみると以下のような答えが多く見られます。

アウトプットすることで、得た情報が整理・洗練され、自分の中に定着する

う~ん、情報が定着するのは分かったけど … なぜ、アウトプットがその役割を果たすのかがイマイチ分かりませんね。それが分かれば、アウトプットの本質的な重要性が見えてきそうです。

そこで今回の記事では、私が勉強している脳神経科学を軸に、アウトプットに関わる脳のはたらきについて考察し、最後に「最適な記憶の定着法」についてお話します。それでは一緒に、脳科学の視点から私たちの日常を見つめてみましょう!

記憶の3ステップ

みなさんは「記憶」と聞いて何をイメージしますか?

幼い頃の思い出や、学校の勉強で暗記した内容 … 昔体験した特別な出来事(思い出)や、自分でインプットさせようとしたもの(暗記)を思い浮かべる方は多いかもしれません。

しかし実際には、あなたがたった今見ているもの、聞いているもの、嗅いでいるものなど、日常で触れている全ての情報は記憶され得るものです。脳神経科学の世界で語られる「記憶の3ステップ」というものをご存知でしょうか?

記憶の3ステップ:① 獲得 → ② 固定 → ③ 想起

私たちの脳は、これらの過程をたどって情報を記憶しています。それぞれを順に見ていきましょう。

Step 01. 獲得

まずはもちろん、「情報を得る」ことから始まります。私たちが手に入れた情報は、脳の中で「(同時に活動する)神経細胞の集団」として表されます。「情報A」=「神経細胞の集団A」というように、それぞれの細胞集団がどの情報を担当するかを決めていきます。

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Step 02. 固定

①で獲得した情報は、脳内で繰り返し「再生」されます。これにより、情報を表現する細胞同士がより強固に結びつきます。(このはたらきについては、記事最後の「長期増強」で詳しく説明します。)

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Step 03. 想起

そして最後が「思い出す」過程です。このとき脳内では、情報を持った細胞集団が再び活動しています。

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ここで意外な事実を紹介します。この3ステップを辿り「想起」が起こることで記憶はより強固なものになりそうですよね。しかし、それだけではなんと「不安定化」してしまうのです。

そう、「記憶の定着」を果たすにはここからが本題。私たちは、一度想起させた記憶(=情報を持った細胞集団)を「再固定」させなくてはいけないのです!でも安心してください。記憶を再固定する方法は至ってシンプル。私たちが、再度同じ情報に触れればよいのです。これにより、再固定化された記憶は保持され、されなかった記憶は消失します。

つまり、ある情報を「記憶」し続けるためにやるべきこと。それは、想起したときにその情報が正しいことを再度確認することなのです。

そして、ここで登場するのが「アウトプット」です!

アウトプットをするとき、私達は情報を思い出しますよね。つまり「想起」しています。そしてアウトプットされる内容は基本的に「正しい(インプットと同じ)」はずです。つまり、アウトプットによって私たちは自然と、記憶の「想起」→「再固定化」ができているのです。

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アウトプットを行うたび、記憶を強固にする過程を能動的に繰り返せるというわけですね。こうして情報は、みるみる自分の中に定着していきます。

また、本当に必要な情報だけをアウトプットさせることで、整理・洗練された良質な情報を記憶として貯蔵させることもできるでしょう。

アウトプットにふさわしいタイミングは?

では、この「アウトプット」、一体どのように行うのが効果的なのでしょうか?ズバリ私がおすすめしたいのは、「眠る直前」のアウトプットです!

睡眠中、特にNREM睡眠中には「固定」が起こりやすいことが研究でも分かっているため、「就寝前」は絶好のタイミングと言えるでしょう。

また、効果のあるアウトプットに必要なのは、「想起」です。見たもの聞いたものを “すぐに” 紙に書いたり口に出して言ったりするアウトプットの仕方では、実はあまり効果は期待できません。ある程度の時間をおいた後で、その日学んだことを夜寝る前に自力で思い出しながら書き出したり口に出してみたりすることが、効果のある方法だと考えられます。

最後に、神経細胞がどのようにして細胞同士の結びつきを強めたり弱めたりしているのか=記憶の「固定」の段階では一体何が起こっているのかを紹介したいと思います。

ここからは少し専門的な内容になりますが、自分の脳を理解するのにとっても重要なお話です。「もっと理解を深めたい!」という方、ぜひ読んでみてくださいね。

同時に活動すれば結びつく 「ヘブ則」

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ドナルド・ヘブ(Donald Hebb)は、心理学者でした。彼は生物学的な実験データを持たずして、1949年に出版した著書の中で記憶形成のメカニズムとして次のような仮説を提唱しています。

「神経細胞Aと神経細胞Bはつながっている。AがBを何度も活性化させると、一方または両方の細胞に何らかの長期的な変化が起こり、AとBの結びつきが強くなる。」

ヘブのこの仮説は、発表当時はまだ根拠がなく注目されませんでした。しかし、提唱から20年以上経ったあと … 神経科学者であるブリスとレモの行った実験が、この「ヘブ則」にたちまち脚光を浴びせます。

ヘブ則を説明する現象「長期増強」とその分子メカニズム

1973年の論文でブリスとレモは、ウサギの海馬にある貫通線維を電気刺激した際の(※)、海馬細胞の活動を記録しました。線維を何度も連続して刺激する中で、連続刺激の前後で、(一回のみの刺激よりも)海馬細胞の反応性が高まることを発見しました。まさにこれは、ヘブが唱えた『「AがBを何度も活性化させると」「AとBの結びつきが強くなる」』ことを証明する結果でした。

※電気刺激を与えると神経細胞は活性化する

この現象は、後に「長期増強(long-term potentiation ; LTP)」と名付けられ、脳機能を支える神経細胞の非常に重要な性質とされています。

では、その長期増強の主要な分子メカニズムについて解説しましょう。

神経細胞同士は、「シナプス」という構造を介してつながっていることはご存知でしょうか?シナプスでは、「神経伝達物質」と呼ばれる分子が片方からもう片方の細胞へ送られることで、情報の流れをつくっています。

ここで登場するのが、「グルタミン酸」というアミノ酸です。(昆布やチーズに含まれる「うま味成分」としても知られていますね。)

実はこのグルタミン酸、神経伝達物質として多くの神経細胞(中枢神経系のおよそ70%)に使われているのです。

例えば、神経細胞Aが活性化すると、Aのシナプス前膜からグルタミン酸が放出されます。神経細胞Bのシナプス後膜には「グルタミン酸受容体」が並んでいるため、放出されたグルタミン酸を受け取ることができます。

このグルタミン酸受容体には、2パターン存在することが分かっています。
いつでもグルタミン酸を受け取ることのできるAMPA受容体と、「細胞の大きな活性化」があってはじめて受け取れるようになるNMDA受容体です。

これまで、「活性化」という言葉を何度か登場させていますが、神経細胞の「活性化」とは、一体何を指すのか。それは、「細胞内の一過的なナトリウムイオンの上昇」です。

通常、AMPA受容体がグルタミン酸を受け取ると、ナトリウムイオンが細胞内へ流入します。AMPA受容体はこうして細胞内のナトリウムイオン濃度を上昇させることで細胞を活性化しているわけですが、あるときナトリウムイオン濃度は、一定より大きな値をとります。

それが、ヘブの「AがBを何度も活性化させる」ときであり、ブリスらの「連続刺激」を与えたときなのです。(より厳密に言うと、AとBが同時に活性化したとき。A自身が活性化しつつBを活性化すると、AとBが同時に活性化する瞬間が訪れます。)

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「細胞の大きな活性化」が起こると、「NMDA受容体」が機能できるようになります。NMDA受容体は、今まで出てきていたAMPA受容体と異なり、ナトリウムイオンの他にカルシウムイオンを通すことができます。

このカルシウムイオンの細胞内への流入が、シナプス後膜におけるAMPA受容体の数を増やす役割をするのです!AMPA受容体の数が増えれば、神経細胞Aから放出されるグルタミン酸の量は変わらなくとも、シナプス後膜でより多くのグルタミン酸シグナルを受け取ることができるというわけです。こうして、神経細胞AとBのつながりは強められるのです。

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以上のような長期増強の分子メカニズムが明らかとなったことで、ヘブ則の「一方または両方の細胞に何らかの長期的な変化が起こり」という部分は生物学的に支持されるようになりました。

「なぜ同時に活動すると神経細胞同士のつながりが強くなるのか。」このメカニズムを知ることで、上述した記憶の一過程である「固定」の段階で何が起こっているのかを想像いただけるのではないでしょうか?「繰り返し再生される」とは、「同時に活動する可能性が高くなる」ということになるんですね。

さて、気づけばついつい専門的な話のボリュームが多くなってしまいましたが「インプット」お疲れさまでした!脳神経科学の世界は、皆さんにどう映ったでしょうか?これからも「クリエイティブになるための日常」と「脳神経科学」を紐付けた、すこーし真面目なお話をお届けしていこうと思います。

こんなことが知りたい!などありましたら、コメントをお願いします。
そしてぜひ、今回のお話を「アウトプット」してみてくださいね!

イラスト・編集 by ねもとさやか


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