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人命を守る「0.1ミリ」の世界を極める冷間鍛造の魅力。クルマ部品を作る現代の職人が「仕事が楽しい」と言い切る理由とは?

広島県呉市に拠点を置く自動車部品メーカーのシグマは、「マツダ」「デンソー」「ダイセル」などの大手企業が顧客として名を連ね、中国・インドの自社拠点を含め、外資系メーカーともグローバルに事業を展開しています。

さらには経済産業省に「グローバルニッチトップ100選」に選ばれ、ワイパーシャフトの世界シェア20%、人の命を守るエアバッグ部品の世界シェア6.5%など、海外市場でも存在感を放っています。

特に成型技術において業界で確固たる地位を確立しているシグマ、そのコアテクノロジーとも言えるのが「冷間鍛造」です。

今回はその技術の未来を担う設備オペレーターの濱 拓也さんにお話を伺います。それは一体どのような技術なのか、なぜ濱さんはその緻密な仕事を「面白い」と言い切るのか――。職人技の魅力に迫ります。

「人の命にかかわる仕事」を支える冷間鍛造

―濱さんの現在のお仕事を教えてください。

濱:クルマの部品を作るための設備を稼働させる、オペレーションの仕事をしています。私が担当しているのは、エンジンカバーのボルトなどのプレス工程。マツダさんやデンソーさんとのお取引がありますが、何万個と部品を作るので、さまざまなクルマに使われています。

自分が作っている部品に、仮に不具合が発生した場合、どういうことが起きるかを調べると、やはりクルマが緊急停止したり、事故につながったりすることが分かります。人の安全を守る部品を作っているという責任感を持って、仕事をしています。

シグマには3年前に転職しました。もともと航空業界で生産技術に携わる仕事をしていたのですが、「直接製品に触りたい」という気持ちが湧いてきて。また、すでに設備が整っていて、ボタンを押したらすぐ形になる、というのではなく、自分で考えて手を動かせる仕事がいいなとも。

その方向で調べたら、このシグマの「冷間鍛造」の仕事が見つかりました。

―「冷間鍛造」とはどのような工程でしょうか?

濱:冷間鍛造はプレスの一種にあたるのですが、単純になにかをつぶして形にするのではなく、複雑な構造を形作るために、何段階かに分けて少しずつつぶしていく技術を指します。

 冷間鍛造により、1秒に1個のスピードで、自動車に搭載されるエアバッグ用の部品が整形される。左端が加工前の材料。右端が完成品。

部品の材料が鉄やアルミなどの金属なので、一気に圧力を加えると破裂してしまったりするんです。なので圧力などを考えながら、「多段式」というのですが、段階に分けて変形させていくことで、部品も金型も壊れないように成型していく、というものです。

「冷間」という言葉は温度と関係していまして、外部から加熱せず常温に近い温度域で加工するというものです。金属が変形するときに発生する熱で通常では最大200℃程度の温度域になります。普通に考えれば熱いんですが(笑)、金属加工としては温度が低いので、冷間という名前がついています。

特に大事なのは、プレスのボタンを押す前の「段取り」です。機械まかせではなく、自分の考え、調整で仕上がりが変わってくるからです。

「カンコツ」が物を言う、「0.1ミリ」の世界

―「段取り」とは具体的にはどのようなことを?

濱:部品を成型するために、まず設備に金型をセットします。その金型にも何十トンという圧力がかかるので、それ相応の重さの金属の型になります。

「ダイス」という金型の穴の中に、「パンチ」というもう片方の金型を押し込む形で成型するのですが、ただセットしただけでは、つぶしても形が悪かったりすることがあります。クルマの部品なので、精密に左右対称に仕上がらないといけないんですが、ちょっとしたズレが生じるんです。

僕らの言葉では「振れを直す」と言うんですが、そういった微調整が必要になります。金型を、例えば0.1ミリ上か下か左か右に動かす、というような「カンコツ(勘とコツ)」も必要な世界になってくるんです。

「こんな緻密な作業を人間ができるのか?」と自分も最初は懐疑心を持っていたんですが、部品は1秒に1個生産できるので、ズレたままで生産してしまうと、1時間に3600個の大量の不良品製造につながってしまう事につながります。

そして、それを万が一お客様に納めてしまえば、もっと大きな問題になって、さらにリコールのようなことが起きれば、会社の経営が傾く事態にもなりうる。一つの不良が命取りになるという危機感があります。

「この後の工程で検査するからいいや」ではなく、「自分がちゃんとしたものを作れば、後工程の検査はなくてもいい」という気持ちで仕事に臨んでいます。

将来必ず財産になる仕事、目指す「師匠」の存在 

―そんな緻密な仕事を続けられる理由はなんでしょう?

濱:「面白いから」というのが一番です。プレスって、単純につぶすだけというイメージがあったのですが、もとの形からは想像もできないような複雑な形状になる面白さがあります。

また、弊社の設備は旧型のものも大事に使用しているので、一部は自動化されていないアナログな設備もあります。ボタン一つ押したら部品ができるデジタルな設備と違って、設備の中身を見て、手で触って調整する必要があります。

その分、原理原則を理解することができます。冷間鍛造の設備だけではなく、様々な種類の設備に強くなれると思いますね。これは将来、仮に他社で仕事をするとしても必ず自分の財産になります。

それから、冷間鍛造を教えてくれている木崎さんという「師匠」がすごい人で、見ていてかっこいいんです。例えば、僕が5〜6時間かかってしまう段替えという作業が、木崎さんなら2時間で終わる。なんでこんなに速くて、動きもスムーズなんだろうっていう。

もうこの仕事を30年くらいされている、まさに「職人」という言葉がぴったりな人。最初は「10年くらいで追いついてやろう」と思っていたのですが、やればやるほどなんか違うぞって焦るんですよ(苦笑)。彼の存在が、仕事に対するモチベーションになっています。

師匠と仰ぐ、木崎さんと一緒に

木崎さんに言われたことをやるだけじゃなくって、「こうやったらどうなるんだろう?やってみてもいいですかね」と、積極的に設備を触らせてもらうようにしています。そのうちに、勘とコツだけじゃなくって理屈も分かってきて、ますます面白くなります。

「若手が育てば財産」社員の学びを支える文化

―シグマの職場の雰囲気や文化について教えてください。

濱:シグマは、職場の先輩などフォロー体制がしっかりしていると思います。木崎さんも、なんでも聞いたら手を止めて返してくれます。

「作業をしている先輩の手を止めるのは申し訳ない」という気持ちって、だれにでもあると思うんですが、僕は自分が学ぶためならどんどん止めて、なにをしているのか聞きます。そうしないと成長できないですからね。

分からないことを聞くのは、若手の仕事です。そのために、僕も部下やメンバーに対して、声をかけてもらいやすい環境作りを心掛けています。質問されたときは手を止めないといけませんが、それで若手が育てば財産になると考えているので、苦ではありません

例えば、納期がせまっている仕事に取り組んでいるときにも、若手が質問に来たら、自分の上司に「若手に教えるので仕事が遅れます」と宣言します。それがダメと言われたら、若手に教える仕事のほうを上司にお願いします。

僕はシグマという会社をより良くするために、自分の筋を通したいタイプ。だれかと議論になっても、話し合って、どちらかが謝ればいい。自分のわがままではなく、会社のためにやっていることなので。

―シグマには資格取得など、社員の学習をサポートする制度もあると聞きました。

濱:シグマには、社員の「学びたい、成長したい」という思いを応援する社風があると思います。例えば、製造に携わる社員なら「設備保全」、事務職なら「エクセル」や「パワーポイント」など、受けたい講習や通信教育を申請すると、その費用を会社が負担してくれます。フォークリフトやクレーンなど危険なモノを扱う場合も社内講習してくれたり、経営に関する社内教育も充実しています。

僕もその制度を活用して設備保全の通信教育を受けて、理解が深まりました。テキストで勉強するのは苦ではないし、会社に行けば学んだ設備があるので、理解が深まって、仕事がますます面白くなります。

―最後に、就職活動中の方へのメッセージをお願いします。

濱:クルマやバイクの改造が好きな人にとっては、頭で考えながらモノも作れるという、ダブルの意味で楽しい職場だと思います。普段の生活でクルマを見たとき、「この部品知っている!」みたいなことが増える喜びもありますし。

冷間鍛造は未経験という方でも、まわりの人がフォローしてくれる環境がありますので、大卒、高卒関係なく、ぜひ来ていただければと思います。

[取材] 岡徳之 [構成] ウルセム幸子 [撮影] 下中慎太郎

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