恐山夏の旅 その参 〜信仰と供養の世界〜
涙のお勤め
2日目の朝。朝6時30分から朝のおつとめへ向かいます。まずは地蔵殿にて祈祷。読経と太鼓の音が響きます。心地よい響きです。お経にもうまい下手があるようですが、かなりの手練れとみた。その後、本尊をお参りします。
そして、本殿に移動してご先祖供養。焼香が回ってきます。高野山でも朝のおつとめで焼香をしたけど、あのときはこっちが立ち上がって移動していたな。こちらは焼香台が回ってくるシステム。東日本大震災で亡くなった方々の供養、さらに先祖供養を申し込まれた方々のお名前も読み上げられ、終わればお坊さんのありがたいお話です。
涙を流す方も……って、となりで家人が泣いとる。信仰とか供養とか、こういう話に全く縁も関心もないのに。お話をしてくれたお坊さんは大変話し上手。それもそのはず、恐山の本も何冊かだしておられる。
実母への土産に購入し、読んでみたら「せっかく恐山に来たのだから」と、霊がみたくて夜中にさまよっていたら、朝宿坊で「白い人影が出た!」と騒ぎになった話は笑いました。ヒヒヒ。
エンドレス口寄せ
そしてこの日は例大祭メインの日。山主や僧侶がお経を唱えながら山へ向かう、山主上山式(さんしゅじょうざんしき)と呼ばれる行列があります。
コロナ禍後ということで、規模が少し縮小されているそうですが見られてよかった。
イタコの口寄せは大行列。20人以上が待っており、とてもじゃないけど並べない感じ。6時過ぎに朝のお勤めに向かうときも、小屋の前で何人か待ってたもんなぁ。宿坊に泊まってる方は、開門前に並べるそうですが、朝ごはん食べらんないじゃん。
おじさんが雑談しながら「俺、もう4時間並んでる」と言ってました。ヒエッ。1日並んでも順番が来ないこともあるのだそう。その場合、あきらめるんだろうか……。
同行の家人が暑さでバテてしまったため、口寄せが行われている建物で休憩。そう、ここはお寺の休憩所なんです。イタコの口寄せって、恐山公式というわけじゃないんですってね。あくまでお寺は場所を貸しているだけで、オフィシャルというワケではないのです。
人は死ねば恐山に行く
家人が休んでいる間に境内の温泉でひとっ風呂。一緒になった地元のおばあちゃんたちにお話を聞くと、いつもは5、6人くらい来ているイタコさんが今年は1人しか来ていないのだそう。待つわけだよね。
ただでさえ人数が減っているというイタコさんは、高齢の方が多く。一番若い方で40代くらい。コロナ禍などもあり、いまは出てきておられない様子。でも、普段は青森市内などで口寄せをされている方もいるのだそう。正直、そっちに行った方がいいかもしれません。
おばあちゃんたち曰く「イタコは年取ってる方がいいよ」とのこと。根拠はよくわからないけど、経験が豊富なのかなぁ。
この辺りでは昔から「人は死ねば恐山に行く」と言い伝えられているそうです。なのでみなさん、お供え物をもって故人に会いにきます。
お堂にあった花嫁人形は若くして亡くなった方が、冥界で伴侶を迎えられるように。たくさんの洋服はキレイな服を着せてあげたいという気持ちの現れでしょうか、新しいものが多いように見えます。まだみんな心の中で生きているんですね。
お参りを終えたら食堂でお昼を食べて、バスで帰路につきます。山の中なので何もないのかと思っていましたが、霊場の外には食堂があるんですよ。
カレーやうどん、そばのほかに甘味もありました。近くにはお土産や風車などを販売している売店もあります。帰りのバス停は大行列。ただ増便されたようで、何とかみんな立たずに乗り込めたようす。
今回の旅、私は幽霊とかお化けがだめな怖がりなのですが、恐山にその手の怖さは感じませんでした。
でもひとつだけ。お風呂場で髪の長い女性とすれ違って振り返ったら、うしろに誰もいなかったとき。あのときだけはぞっとしましたね……。
「人は死ねば恐山に行く」とのことですが、機会があれば生きているうちにもう一度行って見たい場所です。
<おわり>