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『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』レビュー:過小評価されていることについて
★★★★☆- 77/100
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2024年公開作では、けた違いの傑作
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(2024年)の評判は、例によって批評家による沽券死守、その為に須らく悪い。これはイカン、と思い立ったが吉日。そこで、素人である僕が、いまさらながら分析というか、個人的な意見を述べます。僕的には、77点(100点満点中)くらい。これは、F・F・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(34点)と対比すれば、(あくまで)僕の中での個人評価度の高さがわかります。そもそもが、悪評する客が阿呆すぎるので、そこを糺したい。
まず、アーサー・フレックを演じたホアキン・フェニックスの演技力は、ヒース・レジャー(『ダーク・ナイト』)なんかをはるかに超えている。それは、しっかと認めないと。来年3月あたりで彼がオスカー像を手にしていなかったら逆に笑えます。レディ・ガガもうまかった。でも、スーパースターふたりの共演、そこに固執して、あの映画のメッセージが全然、お客さんに届いていない、ということも、たしかに言える。
『ジョーカー2』(日本ではなぜかこう呼ぶから)には、殺人愛好主義、障がい者差別から妄想による狂気(そもそもタイトルが精神医学用語〝ふたり狂い〟の意)そして悪魔崇拝から、人生における不安や絶望、性的虐待から、ムショの在り方、音楽療法の実験リサイタルにいたるまで、はばひろいメッセージ性が含有されている点で、非常に好ましい。というか、素晴らしい。
分かる人には分かる
この映画を絶賛して批判をくらったクエンティン・タランティーノの意見はともかく、この映画は僕が見たミュージカル映画の中で最も優れたものの一つであり、恐らく『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)を超えている。フランク・シナトラの「That's Life」や、カバーも多い「For Once In My Life」という名曲の挿入の、その場面、歌詞、なにもかも感動的だ。『ジョーカー』(2019年)では、あくまで個人的な異質性、精神疾患の個人性、内面へのダイブをテーマにしているが、今回は芸術性もより高度になり、狂気をセレブレイティンし、「異常性をオペラにする」というアバン=ガルド・オペラニズムの支援者をも擁護しているようにさえ受け取れる。まさに未来の音楽劇。
狂気と音楽は、相性が悪いとされてきたが、愛を歌って狂気を表現する、という意味じゃ、こんな成功した傑作もなく、このシネマの〝OST〟もこの上なく上出来だ。
失敗作の中に見えた景色
あいま、あいまにインサートされる楽曲によって、作品自体がもつ異常性が低下したという声や、メロドラマに落ち着いたという批判は、全くバカバカしい限りだ。そもそも狂気や、人間のダーク・サイドを、メロドラマに結実させることが難しいのに、それを失敗だ、なんて?
それに、この映画はロマンス・フィルムである、とタイトルが表している。そこを注意してほしい。本作は、サイコロジカル・ラブ・ストーリーなのだから。むしろ『カサブランカ』(1942年)と比較して、その評価をくだしてほしい。
失敗作にはえてしてスーパー傑作級の「演出」が隠れているもの(自論)だが、『フォリ・ア・ドゥ』を失敗作というのならば、ボリウッドやディズニーに散見されるあの煩わしい音楽劇の決まりきった歴史を終わらせるステージングを秘して、われわれは、この成果をもっともっと高評価していいと思う。
人間の狂気を描いた『ファイト・クラブ』(1999年)や、最高傑作『アメリカン・ヒストリーX』(1998年)などと比べると、その映画としての生々しさやストーリー展開では、やや劣る。しかし、映画館での没入感は恐らく両者をしのぐ。アニメーションが効果的な点も注記しておきたい。
最後に
『ジョーカー3』については、期待はしない。もっと言えば、作らなくてよいと思う。『フォリ・ア・ドゥ』以上の傑作は生まれないと分かりきっている。二番煎じは通用しない。この映画を製作する労力も相当だと思う。それに何と言っても本作の興行収益の失敗が、『3』を作らせないだろう、という大人の事情も絡んでくる。何にしても、この映画への無理解や過小評価がひどいので、映画の好事家はもっと映画を学んで、現代の社会性だけに捕らわれ、芸術的狂気に見向きもしない批評家たちにも、苦言を呈しておくべきだ。
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