【Catcher In The HitoRilay】愛の座敷牢に捧ぐ
愛の座敷牢をご存知であろうか。
11月のある日。
待ち遠しくもどかしい深夜0時までの6時間をぎゅっっっっと凝縮して3分29秒くらいにならないかしらんとソワソワしていた頃のことである。一通のDMが舞い込んだ。
「愛の座敷牢傑作選を書いていただけないでしょうか」
かの適正アルバム診断チャートで博士号を取得した樒先生は今や誰もが知るCatcher In The Spy学の権威だ。
今年の初めに、長く「都合の良すぎるオタクの妄言」とされてきた「Revival Tour Catcher In The Spy」の実現が発表された際には、この学説の牽引者として時に強く糾弾されたこともあった樒先生の過去作が再び脚光を浴びた。
中でも、今年のツアーを通してその実用性が実証された『来るCatcher In The Spy revival tourに向けて我々が備えておくべきこと、7選』はあまりに有名であり、先生の名前を知らずともその論文タイトルを耳にしたことのあるUNISON SQUARE GARDENのリスナーも多いのではなかろうか。
そんな偉大な博士の作品が「無料で読める文章」として全世界に公開されているサイトこそが、愛の座敷牢なのだ。
身に余る光栄。どう考えても、私では力不足だ。
しかし「恐縮のあまり蟹になりそうです」とボケて濁すか迷ったのはわずかに(かに)一瞬だった。これは私の人生で最大の仕事になるだろう。『悩むくらいならとりあえずやるかの気持ち』ですぐにこう返信した。
というわけで、本記事では今更紹介するのは無粋な程の名作も含まれ恐れ多いが、樒先生の傑作を12編選ばせていただいた。偶然であろうか、いずれも8月にリリースされた記事である。既にお読みになったことのある方も今一度作品に触れる機会として楽しんでいただけたら幸甚だ。
前置きここまで、以下セロリ。
1)イカれたセットリストを求めて
「セトリ予想」なる言葉が存在する。対をなし、「妄想セトリ」という言葉も。そして妄想は一人ぬるま湯に浸かりながら脳内で転がすだけでは留まらないのが、世の常である。
一つの題を決め、理想のセットリストを組み、その背景にある思考を詳らかにしていく(ただし、いかに巧妙な仕掛けがあろうと全ては妄想に過ぎない)という謎のジャンルの記事のなんと多いことか。
これって他のバンドのファンでもよくあることなの?
その答えは知らないが、今作「イカれたセットリストを求めて」は一言にすれば、妄想セトリ記事である。
特徴として、まず脳直でセットリストを組み、見えてきた課題を自ら指摘し、洗練させていく手法を取っている。
「セットリスト→解説/反省」を一つの単位とし、ブラッシュアップの過程でこの単位を繰り返す本文は適度にボリューミーな文量となっている。しかし、さすが読みやすさを美徳とする樒先生だ。スルスル楽しくテキストが進んでいき、あっという間に最終形態に至る。
どこが「イカれて」いるのかは是非本編にてお楽しみいただきたい。私も、イカれた最終形態のセットリストを提供されたとしても、絶対に最後まで帰らない。
ちなみに、サイレンインザスパイを一つのキーに妄想セットリストを組み立てる手法は今回選外となった過去作にその萌芽が見つかる。この手法により、筆者(コリ)の常識と性癖は大きく捻じ曲げられている。
2)Zoumotsegazer speaker
臓物/シューゲイザースピーカー。待望のビンゴ記事新作。
様々な臓器の役割とシューゲイザースピーカーの多機能性を照らし合わせた、謎すぎるが間違いのない傑作。
シューゲイザースピーカーは各人によって捉え方が大きく異なる楽曲の一つであると考えている。例えば、サイレンインザスパイと切り離せないスターターとして。長いセッションのついた音源が残っていたり、Catcher In The Spyのツアーでは美味しいポジションに配置されたりと主役級として。最近では、Ninth Peelツアー(2023前半)で切れ目なく繋がる長いブロックの一部として、中継者としての力量も発揮した。曲調で言えば、強い。でも速いだけではない。歌詞に芯が通っていてメッセージ性も高い。
そんな多彩なシューゲイザースピーカーを変わった切り口から語りこむ。臓器ごとの話になるので、一つ一つの話題は軽妙で読みやすく、しかし結末まで読み終えれば、確かな重量のある楽曲であったことへの畏怖を今一度思い出させる、そんな記事である。
ちなみに、蛇足とはなるがワタクシの考える「最高の足元」といえば、斎藤氏の代名詞とでも言える赤いエフェクターワーミーをウィンウィン鳴らす姿が印象的な蒙昧terminationの映像だ。(awesome)(acoustic)
3)好きな歌詞グランプリなんて唐揚げ屋の金賞と同じ
唐揚げ屋の金賞は、オリンピックの金メダルと異なり唯一ではない。好きな歌詞グランプリだって、同率首位があって然るべきだろう。このシンプルなテーマで紹介される好きな歌詞ピック。
「好きな歌詞」を適切に回答するためには適切な部門設定が必要だとは考えたことがなかったが、この記事を読んで、なぜこれまでこの考えに至らなかったのかとまで思ってしまう、真理。もはや、選択した歌詞ではなく部門設定にこそ回答者のセンスが最も表れるのではなかろうか。
そして実際に選ばれた部門、歌詞への共感が止まず頷いた首が痛くなるくらいが、この記事の功罪と言えるかもしれない。Jリーガー樒氏を前にこんな世迷い言を垂れる私の存在が、不条理。
4)第1回 だんだん蒙昧terminationに侵食されるお悩み相談
累計100,000記事を数えて久しい文章保管庫、愛の座敷牢。その中で初めての企画がまだあったのか、その事実がおそロシア。記念すべき第一回のお悩み相談室である。
どのような展開かというのは、タイトルに記載の通りである。お悩み7つの解消方法を検討しながら徐々に、そして最後には取り返しがつかないほどに蒙昧terminationに侵食されていく。
ネタバレにはなってしまうのだが、この記事の妙技は「お悩み」のタネをChat GPTで生成した点にある。AI問題は非常にホットな話題だ。個人的に、この記事への最大の賞賛として、とても適切なAI活用方法を取っているとの感想を送りたい。アウトソーシングの塩梅が素晴らしい。
「お悩み」まで全くの100%が樒さんの文章であれば、恐らくここまで「お悩み相談室」の体を取るのが難しかったのではないか。
実際に「お悩み」を第三者に募集しても悩みが寄せられるか不安であったため募集はしなかったとのことだが、それ以上に、取り扱いの難しい「お悩み」が寄せられた場合は処理に困ったのではなかろうか。
どの「お悩み」が『適当に生成』されたのかは明かされていないが、お悩みの選び方、並べ方含めて本当にバランスが良い記事だと感じる。
そしてなんといっても、「お悩み」への回答がこの記事の本質部分である。樒先生の時に親切に、時に鋭く切り込んでいく姿勢、お悩み5までに増していく狂気、オチの付け方が、「ああ今私は愛の座敷牢を読んでいるのだな」という確かな実感と満足に繋がる。
5)大人になってしまった後に
愛の座敷牢で出ているが、飴にもありそうな文章だなと感じた。心地よく手に取りたくなる温度感。
テーマとなっている楽曲の持つ役割と同じ役割を、連作のブログの中で全うしている。これは、単にしっとりした曲だからしっとりした記事である、という話にとどまらないように思う。
熱伝導のように変化する自分の感性や興味の移ろいに丁寧に向き合った文章で、ささやかに結ばれた最後の一文が温かい。
振り返り編にあった『有川浩が読めなくなった奴がなんでUNISON SQUARE GARDENを聴いているんですか? と問われると、回答に詰まりそうだな』というのは、私もゆくゆくぶつかりそうな課題だと思った。その点でも示唆に富む一文である。
6)どうして"メカトル時空探検隊"は「メルカトル」じゃなくて「メカトル」なの?
何かと話題に事欠かない「メカトル時空探検隊」であるが、まだこんなに新しい仮説検証が出てくるのか。驚きである。信じがたい、樒先生の徹底ぶりが。
メルカトル図法からなくなった「ル/R」はRayであるというのは、新しく、しかし突飛ではなく現実的で地に足のついた発想だった。「ル/R」の1文字の違和感がジャケットや帯の構想にまで波及するという仮説は、確かにその通りだと同意できた。
この記事を読んで、文字書きとしての私自身を顧みると、大胆仮説を披露し、切り貼りすれば確かにその仮説の根拠と言えなくもない事実を持ち出してくる手法をよく使ったことがあると気付かされる。
一方、愛の座敷牢ではこれは割と珍しい手法のように思える。しかし、論理は緻密で読むに楽しい記事であった。すご。どんな書き口でも質の高いテキストをお届けしてくださる樒先生マジリスペクト。
7)就寝、執心、修身、終身
ロックだ。
Catcher In The Spyを象徴する一曲とも言える、純度の高いロックサウンドに終始する「流れ星を撃ち落せ」。
この曲にフォーカスする一文として相応しく、真っ向勝負を仕掛けた姿勢がロックだ。
多くの樒先生の文章には、フィクションフリーククライシスを『最初にくしゃみをするようなタイトルの曲』と称した(MODE MOOD MODEとかいうただの最高傑作)ような、キャッチーでインパクトのある、そしてその多くが笑いを誘うパワーワードが段落ごとに細やかに仕掛けられている。
対して、今作『就寝、執心、修身、終身』には、もちろんおもしれ〜一文はあるのだけれども、いつもより少なく思える。純粋に扱われる内容そのもので訴えかけてくる文章であった。
2024年1月に待望のリバイバルツアーの開催が発表され、2024年4月、ツアーが無事に執り行われた。そして2024年8月、今作にて我々は再びこのツアーに触れる。樒先生を介して観るツアー。リバイバルライブを振り返るためには、やはり1月の発表時からの心境を振り返ることが必須だろうという需要に確かに応える流石の構成だ。
リバイバルツアーを終え、Catcher In The Spyは二度目の完結を迎えたはずなのだが、ここから更なる深みに誘う最後の一文に、未来を見る。
最後に、これは完全に樒さんへの私信となるが、『エンゼルフレンチ、ワールドトリガー、そして流れ星を撃ち落せ』のことを思い出していただきありがとうございました。
8)その一曲を語るのに
この一作を語るのに、作品の具体的な内容・構成を持ち出してしまうとネタバレになってしまうのがひどくもどかしい。
なので、読者の皆様には今作がここまでに述べてきた7作と等しく素晴らしいことだけ信じて、読み進めていただくしかない。
序盤、今作も一つ前に紹介した『就寝、執心、修身、終身』と同じく正攻法で強い納得感を導く良質な文章か〜、と、一文ごとに「いいね」「わかる」を繰り返しながら一通りを読み終えてからが、本番である。
具体的な言及は避けるが、私の気に入った箇所を述べさせていただくと、好きな数字である5枚目、5分後の5。進めるほどに制約が増えてきて、やがてどうしようもない爆笑に包まれる。
9)おいかける
素朴なタイトルに呼応する、著者自身の率直な好きなところ・心境が語られた作品である。
シングルゆえパワーのある楽曲、harmonized finaleに言及しているが、文章量やネタ・構成の豪華さで太刀打ちするのではない。冷静で大袈裟な飾りがない、それなのに全く曲に力負けしていない。ああ、これは確かにシングルについて書いただけあるしっかりした文章だなぁと思わされるのは、Catcher In The Spyについて書き続けてきたことにより獲得された筆致の賜物であろう。
そして、ここで初めて連作全体を俯瞰したい。
12連作とはなるが、9作目である今作まではCatcher In The HitoRilay、そして次からはCatcher In The Relayと題した企画への正式な寄稿文となる。
HitoRilayの終わりとして、しかし次の企画へ続いていく始まりとして、楽曲のコンセプトとも合った未来を予感させるタイトルから織りなされる文章がたまらない。
10)天ゴリと地ゴリ
愛の座敷牢の真骨頂、ここに極まる。
Catcher In The Relayというブログリレー企画をリアルタイムで読んでいた全ての読者が期待していたのではなかろうか。樒先生の書く「天国と地獄」を。chaotic showとしか言いようのない、ぶっ飛んだ文章を。企画の展開としては唯一設けられた「予定調和」な部分、『難易度★』である。
それゆえ、「あの謎の推理編からこの曲が導かれるのか〜!」という「驚き」が与える満足感のアドバンテージを取れない文章になるのは苦しい。
ということもなく。
流石世界の認めたゴリライター(※ジャンル:ゴリラ のトピックを専門に扱う文字書きのこと)。タイトルの通り圧倒的ゴリラで殴られる。そこらの顕微鏡の分解能では到底描き出せないレベルの微粒子にまで噛み砕きにくる、ありあまるセンス。
『毎回わたくしの担当する曲はどこかしらのパラメータがぶっとんだ曲ばっかりな気もする』、『主催返事をしろ』に始まるメタ視点で語りかけるコメントから、天国と地獄のYouTubeのサムネイルの下の一言まで、全部好き。
「ああ、私は今愛の座敷牢の新作を読んでいるのだな」という事実が与える喜びが、再び。
『己構文』、そして一作中で全く異なる複数のジャンルの文章に飛躍していく手法といった過去の企画記事との共通点も光る。どう転ぶのか、いやもはや着地はもうどうでもいいとまで思わせてくる、怒涛の展開に翻弄されることこそが至高の体験だ。
あと今読み返して思ったんですけど、もしかして愛の座敷牢ってグルメ記事?
11)16.7km/s
こちらについては、記事のリリース時に直接寄せさせていただいたコメントが気に入っているので、再掲する。
Catcher In The Spyを聴きすぎてCatcher In The Spyに最適化左れUNISON SQUARE GARDENとは違やり方のライブに辟易するに至った人間が脱CITS化史、再度純粋に楽しくCITSを回すための、傑作文
多くのブログ記事が溢れる中、企画や連作の中の一つの文だと思うと、中々食指が動かない人が多いと思う。それゆえ見過ごされてきたことがあるとすれば本当に惜しい。
企画のことは一旦置いておいて、UNISON SQUARE GARDENを好きな全ての人にぜひ読んでもらいたい一文を紹介する機会があるならば、今作を選ぶかもしれない。
本記事(愛の座敷牢に捧ぐ)で言及した12作の中で、一番気に入ったのは今作だ。本記事中にしれっとリンクを貼り付けている過去記事たちは、たまにわけもなく読み返しているくらい好きな作品たちなのだが、今作『16.7km/s』もこれから何度も読み返す作品の一つになるのだろう。素敵な文章をありがとうございます。
12)Revival Blog “Catcher In The Meat Pie”
いよいよご紹介の最後の作品。タイトルに冠してある通り、過去の先生ご自身の記事のセルフオマージュである。しかし、よりによってミートパイ回!!!
愛の座敷牢では一つのテーマ「Catcher In The Spy」を語るべく、手を替え品を替え本当に多彩な切り口からたくさんの記事が書かれてきた。その中でも、やっていることのぶっ飛び具合が頭一つ抜けている。
『これまで書いてきたこのアルバム関連の記事の中ではこれ(オマージュ元「Catcher In The “Meat Pie“」)が一番好き』とあったので、やはり樒先生は相当に変なのだと認めざるを得ない。知っていたけど。
偶然か必然かはわからないが、先にご紹介の『天ゴリと地ゴリ』のカレーも伏線として拾っていく鮮やかなグルメ記事。
壮大なHitoRilayの迎える大団円がこれか〜、画面越しにいい香りがしてきそうで最高だぜ!!!と、もう真面目に「愛の座敷牢の紹介文でっせ〜」という大嘘建前を取り繕うのも諦めて賞賛してしまう。ミートパイを作る27歳成人男性が29歳成人男性にレベルアップした様を見届けてこられてよかったな〜人生最高にオモチロイ!
普通にレシピ記事としてありそうな体裁を保っているし、美味しそうでしっかり美味しかったようで本当によかったです。
樒先生ご自身が仰っているけれども、過去記事の構成をなぞるレベルで収まらず、リバイバルツアー開催年にこのリバイバルブログを出せることが素晴らしい。
そして発想・テキストのみのブログをオマージュすると単に引用、n番宣じ的になり塩梅が難しそうなので、「もう一度作ってみた」はナイス・アイデアとしか言いようがない。
※本文中、Catcher In The Spy以外のUNISON SQUARE GARDENの楽曲引用はfiesta in chaosの提供でお届けしました。
※Special Thanks
Catcher In The HitoRilayと並行して開催されていたCatcher In The Relayの企画者ナツさん。本稿の応援含め、いつもありがとうございまスロベニア🇸🇮
編集後記
いかがだったでしょうか。
めちゃくちゃに人の褌で相撲を取りながら、全てが事後報告です。
唯一リンクを埋め込めないタイトルの原案には、原点にして頂点とも噂される(n=1)『Catcher In The Spyに捧ぐ』を選ばせていただきました。
愛の座敷牢未読の方は、是非ここから。(まかセロリ)
と、謝罪の気持ちに嘘はないが、まあ多分無限に広がる四畳半世界のごとく広い心でお許しいただけるのではないかと思っています。LOVE TATAMI ROOMって書いてあるし。「応援してください(まかセロリ)」にリアクションをくださったし。
①「愛の座敷牢傑作選のお誘い」という全きの虚構を軸としたの地の文に愛の座敷牢(毎年Catcher In The Spyの記事が出るブログ)の好きな作品を織り込み、
②Catcher In The HitoRilay(Catcher In The Spy10周年記念マラソン記事)の感想をまとめつつ、
③のっけからCatcher In The Spyと全く関係がない小ネタをふんだんに盛り込むという大ボケをかます
という三段仕掛けでお送りしました。
『「HitoRilay」はRelayの誤字ではなく、「Hitori」の方の綴りを優先した結果である』とのご本人談を踏まえたら、③もあながち意味のないジョークではないかもしれないですね。
というわけで本日12月6日。
ゆーまおさん、お誕生日おめでとうございます!