【オタクのガクリ Vol.1】リズムをもっと楽しもう! Part.1「リズムの基本の表裏」
こんにちは、蜷川です。
普段はアイドルとポップスを主食としながら社会人をしています。
この連載では、普段聴いている音楽に対する解像度をちょっとだけ上げて、楽しみ方をちょっとだけ増やしていこう、という目的の連載記事となります。
方針というか理念については前回の Vol.0 をご覧ください。
今回から 3 回は音楽の 3 要素「リズム」「メロディー」「ハーモニー」のうちリズムに焦点を当てて基礎的なところからちょっとずつ深堀りしていこうと思います。
それでは早速いきましょう。
音の長さを振り返ろう
これを読んでいる方のほぼすべての人は少なくとも学校の音楽の授業で楽譜を読んだことがあるでしょう。
そこで出てきたのは、いろいろな種類の音符です。全音符、二分音符、四分音符、八分音符、二分音符、十六分音符、……。あとフテン?みたいなものもあったかと思います。
これらの音符にはそれぞれ違う音の長さを表していて、音の長さのことをちょっとかっこいい言い方では音価(おんか, note value)と言います。
※今後は「音の長さ」と書くのがめんどくさいので、音の長さのことを音価と呼んでいきます。
先ほどの全音符、二分音符、……の順番でどんどん短い音価になっていくのですが、今回は一番短い音価を十六分音符として、いろいろな音価とそれらの関係を振り返ってみましょう。
具体的な音価の話の前に……
さて、とはいったものの、十六分音符が具体的に何秒か、という問いには具体的な答えは出せません。
それは、音価はあくまでテンポ(BPM)をに対する相対的な指標でしかないからです。
例えば BPM = 60 というテンポは、Beat Per Minutes = 60 ということで、1 分ごとに基準となる音価(大体は四分音符)が 60 個入るスピードを表します。この場合は計算が簡単で、1 秒に四分音符が 1 個、つまり秒針と同じ区切りで音楽のテンポが刻まれていきます。
実際に手を叩きながら BPM = 60、1 秒に 1 回のリズムを手を叩きながら合わせてみましょう。
(BPM = 60の四分音符×4小節動画)
それに対して、もし BPM = 120 というテンポがあった場合には、1 分間に 120 回四分音符がなる速さが曲のテンポとなります。BPM = 60 と比べると同じ尺にたくさん音が詰まるので、聴いている際に速い印象を与えます(実際演奏する場合も音がたくさん詰まるので諸々の動きが速くなります)。
(BPM = 120の四分音符×4小節動画)
楽譜としての見た目はほとんど変わらないけれど、まったく別物だと感じたかと思います。
このように、音符の実時間での長さは「テンポ」と「音価」の掛け算であらわされることになります。
これからの説明では、いったんテンポを BPM = 80 として説明をしていきます。人間の正常な心拍数が BPM = 60 ~ 100 とのことなので、その中でも真ん中らへんの心拍数と合わせているので、困ったら心の音を聞いてみてください。
音価はつまるところ〇〇ゲーム……?
テンポを BPM = 80 に固定したおかげで、あとは音の実時間としての長さを支配するのは音価だけとなったので、音価の違いにより注目しやすくなりました。
それでは、早速まずは BPM の定義に従って、四分音符の長さを改めて感じてみましょう。これもぜひ手を叩きながら身体で感じてみてください。
次に、八分音符だけにしたバージョンを見てみましょう。音がたくさん詰まっているので頑張って手を叩いてみてください。
大変ですよね~。それでは次はさらに細かくなった十六分音符だけのバージョンで手を酷使してみてください。
はい、というとでどんどん細かくなっていきましたが、これまで出てきた四分音符、八分音符、十六分音符の間にはどのような関係があったでしょうか?
まあ数字を見ればわかっちゃうのですが、それぞれの前後の例の間には倍・半分の関係があります。
四分音符の半分が八分音符
八分音符の半分が十六分音符
逆にいえば
十六分音符 2 つ分で八分音符
八分音符 2 つ分で四分音符
になります。
この関係図、最近どこかで見たことありませんか?
……そう、これスイカゲームと全く同じなんですよね。
昨年末に子ども向けに音価の話(今回の記事)について話す機会があったのですが、スイカゲームと一緒で~~みたいな話をしたらめちゃくちゃ興味持ってくれたのと理解が速くて、いい時代だな~と思いました。
という雑談を念頭に置いてみて、もうスイカゲームを踏まえるともうほとんど説明不要なレベルで音価の関係が理解できるかと思います。
すると、これから二分音符、全音符のバージョンを流しますが、先にどのようになるかを予想してから体験してみてください。
大盛のフテン
さて、全音符から十六分音符まではそれぞれ倍・半分の関係で結ばれていました。
ですが、ときには四分音符の 1.5 倍の音価も欲しくなるかもしれません。この長さは八分音符を用いると……
四分音符 × 1 × 1.5 = 八分音符 × 2 × 1.5 = 八分音符 × 3
なので八分音符 3 個分の音価になります。
この 「.5」の長さは付点音符という表記により楽譜上で表現されます。
それでは付点四分音符 2 回 と四分音符 1 回のリズムの繰り返しを体験してみましょう。イメージとしては「ターンターンタン」と付点四分音符がちょっと長めの感覚になります。
1.5 倍といったら、ラーメンやつけ麺、油そばとか食べに行った時の大盛 1.5 玉ですよね。なので、「付点は半玉プラスの大盛」と覚えておきましょう。
この付点は別に四分音符にしか付けられないわけではなく、それぞれの付点音符の音価は以下のような対応関係となります。
倍と半分では書けない「さんぶんこ」の世界
これまで出てきた音価には倍・半分の関係がありました。付点も合わせればかなり幅広い音の区切り、すなわちリズムを表現できるようになります。実際、大体の J-POP の曲ではこれらだけで十分表現が可能です。
しかし、例えば「四分音符を三分割」した音価も欲しい、そんなことを言われたらどうしましょうか。
倍・半分の x2、x1/2 の世界から逸脱した x1/3 の操作はこれまでの操作だけでは(無限に繰り返せばできなくはないのですが)基本的に不可能です。
「大体の J-POP ではそんなことはない」みたいなことをさっき言いましたし「それじゃあこんなの聴いたことないぞ」と思うかもしれませんが、実は皆さんが物心つく前からこの音価にはなじみがあるんです。
懐かしいですね。さて、この「四分音符を三分割」する音価はどこで出てきたでしょうか?
簡易的な楽譜となってしまいますが、答えは以下の部分になります。
歌詞でいうと
の「ばかり」の部分になります。このような音価のことを三連符と呼びます。
いちに、いちに、と進んでいくリズムの中に出てくる三連符はどこかなだらかで壮大・優雅な印象を与えてくれます。
が、何回か言及したようにあんまり出てきません。その分出てきたときには「三連符かも!」みたいな印象があるかもしれませんので、ぜひそのときは「いぬのおまわりさん」を思い出してみてください。
以上で、よく出てくる音価の総ざらいを終わりとします。めっちゃ特殊な例として五連符や二連符などもなくはないのですが、ほとんど起こりえない現象として興味のある方はぜひ各自で調べる、ということにしておきましょう。
一方で、忘れてはいけないのが休符の存在です。これまでの四分音符、八分音符などの音価は音を鳴らす音価でしたが、音楽には「音を鳴らさない」という指示もあります。それを表記するための記号が休符で、各音符の音価に対応した休符は次のような表であらわされます。
この表に出てくる音符と休符で大体の曲のリズムを表現することができます。
音価そのものについての話はここまでとして、次にこれらの音価に注目しながら「リズムにノる」ことについてみていこうと思います。
小節の中のオモテ・ウラ
「リズムにノる」という話をするうえで、まず最初にこちらの曲を聴いてみましょう。
世代を問わずどこかで聴いたことがある曲かと思うこの曲は、Queen の "We Will Rock You" という曲です。
リズムの話をしているのでなんとなく見当がつく方も多いかと思いますが、その想定通り最初の「ドンドンパンッ」のリズムを楽譜にしてみると次のようなものになります。
BPM が 160 前後とかなりハイテンポな曲ですが、それぞれのリズムは四分音符(と四分休符)で表現されています。1 小節の中に 3 つの音符がありますが、印象的なのはどの音符でしょうか。逆に言えば、無視してもよさそうなのはどの音符でしょうか?
いきなり答えとなってしまいますが、2 番目の音符、つまり真ん中の音符を抜いたバージョンを聴いてみましょう。
「まあなんとなく似てるかな」という印象を持てるかと思います。これは、1 つ目と 3 つ目の音符がそれぞれ小節の中の先頭を表す音符になっているためです。テンポの速い曲ながら、「1, 3, 1, 3, ……」というエッセンスだけ取り除くと実質テンポとしては半分(だいたい BPM = 80 は心拍数付近!)として感じられます。そこに 2 つ目の音が加わることで、少し音が詰まってハイテンポ感・エネルギッシュな印象を与えてくれます。
ここで 1 拍目と 3 拍目は 1 小節を 2 つに分ける場合の「表拍・裏拍」にあたります。始まりのタイミングである 1 拍目が表拍、後半の始まりを表す 3 拍目が裏拍です。
前半の先頭が表、後半の先頭が裏という覚え方をしておきましょう。
さて、それではもう一度 "We Will Rock You" のリズムに戻ってみます。
先ほどは小節をざっくり前半後半に二分割で分けたときの表裏を見ましたが、今度は前半の中での表裏、後半の中での表裏、つまり全体を四分割した場合の表裏を考えてみましょう。
すると、1 つ目は二分割でも四分割でも表、「表の中の表」の音符ですね。一方で、3 つ目の音符は二分割では裏ですが、四分割にしたら表という「二面性」を持ち合わせています。
このような感じで様々な表裏を考えることができるのですが、ここでいったん「表と裏」が与える印象について考えてみましょう。
例題として、ベイビーレイズJAPAN「夜明けBrand New Days」のイントロを流すのですが、曲そのものではなくオタクたちのコール(「 ハイッ ハイッ」ってやつ)に注目しながら聴いてみましょう。
こちらもハイテンポな曲なのですが、この「 ハイッ ハイッ」というコールは 2 回入る塊で 1 小節というこれまたハイテンポな曲ですが、意味深なスペースがある通り、これらは 1 小節を四分割したときの裏たちに相当する 2, 4 拍目のタイミングのコールになります。
この裏のタイミングはアップテンポな曲に合い、イメージとして「アガる」「高まっていく」印象を与えてくれます。
一方で、こちらの同じ曲の間奏部分の「ウーッ ハイッ 」のコールを感じてみてください。
こちらも先ほどの「裏」のコールと同様に 1 小節に 2 回コールのタイミングがあるのですが、先ほどとは打って変わって 1 拍目と 3 拍目、つまり四分割の際の「表」側のみのコールになっています。簡略化した "We Will Rock You" と同じタイミングですね。
この表のタイミングは裏のイメージ対して、「地に足のついた」「落ち着きの中の力強さ」を感じさせてくれます。
これらを合わせると、
表は地面・落ち着きの下向きの力
裏はアガる・高まりの上向きの力
を与えてくれる、とまとめられます。
さらにもう一歩細かな表裏
"We Will Rcok You" や「夜明けBrand New Days」では全体を四分割した場合の表裏を見ました。それでは、さらにもう一段階細かく見た、八分割の場合はどうなるでしょうか?
この場合はよくリズムを「1と2と3と4と」と八分割で出てくる裏の部分を「と」で声に出してカウントします。
この八分割の裏がよく感じられる好例として、アルストロメリアの「Love Addiction」を聴いてみましょう。Aメロが始まったあたりから「と」のタイミングで手拍子をしながら聴いてみてください。
すごくジャジーでおしゃれな感じの曲調ですが、このように八分割での裏がたくさん出てくることで、おしゃれながらノリノリ感もきちんと両立できている印象を感じられるのではないでしょうか。
このように、小節のなかの表と裏をうまく使い分けることで、どっしりとした力強さ・おっとり感(表)とノリの良さ・フレッシュ感(裏)を調節することができます。
裏とメロディーの融合:シンコペーション
Vol.0 の本連載の概要説明のうち、音楽の三要素にはそれぞれ複合的な領域もあると述べました。今回は最後に「リズム」と「メロディー」の複合領域としてシンコペーションに注目したいと思います。
さっそくですが、次の曲を聴いてみてください。サビ部分から始まりますが、シャイニーカラーズで『シャイノグラフィ』という曲です。
メロディーに注目するとだんだんと音が上がっていくような印象を感じます。実際に楽譜に起こしてみると次のように確かに一段ずつ音が上がっているメロディーになっていますね。
ここで、今回のテーマであるリズムに着目してみましょう。1小節目と2小節目の間はタイという音楽記号で結ばれ、これは「これで結ばれた同じ音の高さは区切らずに一塊の音として弾こうね」という記号です。(※細かいことはいったん置いておくので気になる表現をしていると思った人はそれでOKです)
この記号を踏まえ、メロディーの音符の場所と表裏の対応表を見てみると次のような関係になっていることがわかります。
このように、八分割での表のブロックと裏のブロックが交互にきていますね。
それでは、もし表のブロックと裏のブロックの切り替えがなく、ずっと表のままだったらどのように聴こえるでしょうか?一回実験をしてみましょう。
……なんかお経みたいな、もった~りとした感じなってしまいましたね。いろんな楽器を使ってアレンジ次第ではこのもったり感を解消できるかもしれませんが、「裏」のパワーによるノリノリ感は出せないでしょう。
「ツバサ」というのがこの楽曲を出しているコンテンツの根幹にあるのですが、音が上昇しているのと合わせて高度を上げていく羽ばたきのような印象を作るために表のブロックと裏のブロックを交互に出すことで、ツバサを上下にはためかせるような印象を与えてくれています。
このとき裏のブロックの始まりは前の小節の「裏」を借りてきていますが、この構造をシンコペーションと呼びます。
シンコペーションはこの例のように裏のパワーによるノリの良さを作り出すために非常によく使われます。J-POPでは本当にいろいろな楽曲で使われているので探して感じてみてください。
また、補足になりますが、このシンコペーションが出てくる場所の後、メロディーが素直な上昇じゃなくなったところからは表のリズムが主になるのですが、それは十分に羽ばたいて高度を上げたところから見える様々な景色を音程の上下で表現していると感じることもできます。
メロディーは音の高さとリズムからなるものですが、このように音の高さとリズムそれぞれの観点から曲で表現したい光景・ストーリーを作り出すことができます。
お経のようになってしまった改変例もありえた可能性の一つですが、異なるものを表現したい場合には改変例の方がよりマッチしている、と感じることもあるでしょう。
完成形として普段我々が聴く音楽は、それが作られる過程で(意識的または無意識的な)このような複数の可能性からの選択が行われています。
ですので、好きな音楽をより理解をしたいと思ったときに、一つの手がかりとして「どうしてこうじゃなかったんだろう」と考えることは大切な思考実験となります。
もちろん他のパターンを提案するには経験や知識による部分も多いのですが、この連載ではその一助となれると幸いです。
おわりに
今回は音の長さ、音価の総復習と、リズムの表裏に注目してそれが与える印象を整理しました。
もちろんすべてがこの考え方に当てはまるわけではありませんが、表と裏という考え方は音楽に「ノる」際の最も基本な概念となります。
次回は、今回も一部触れましたが、この表と裏の観点からよくあるコールを分析していこうと思います。
それでは~。
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