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結局クッパが一番かわいい――Switch版『スーパーマリオRPG』感想

 Switch版『スーパーマリオRPG』をクリアしました。総プレイ時間は約15時間程度。寄り道しなければ金土日でサクッとエンディングまで到達できるくらいのボリュームか。やり込み要素や小ネタなどは社築さんの配信でチェックしています。「いやさすがにそれは初見で気づけなくない!?」と思えるほど細かいネタがびっしり詰まっていることを知り、毎配信驚きを味わってます。

 まずネタバレしない範囲で感想を述べていくと――オリジナル版が名作RPGとして語り継がれていたことがとても納得できる、随所にあふれた遊び心に思わず心をくすぐられるような作品でしたオリジナル版は1996年、任天堂とスクウェア(エニクッス合併前)との共同制作でスーパーファミコンから発売。ということで実に27年越しのリメイクということになる。スーファミリアルタイム世代でない私ですら、本作の評判は聞き及んでいたし、何なら元ニコ厨なのでプレイ中に「出たあ❗ 音MADでよく使われてた曲だ❗」とキャッキャしていました。そこまで語り継がれている作品ではあるが、さて実際はどうなのか。蓋を開けてみれば、そこには、おもちゃ箱をひっくり返したような素敵な世界が広がっていました。

 台詞やフレーバーテキストに至るまで、あらゆるテキストは一癖も二癖もあって、その独特な世界観とテンポに引きずり込まれる。使用するアイテムや道中のギミックはいずれもちゃんとマリオ作品の要素を活かしており――たとえばRPGでは定番の「隠し宝箱」は、マリオ作品にもよく登場する「隠しブロック」として登場したり――なるほど、『スーパーマリオブラザーズ』という作品をRPGの諸要素に落とし込めばこうなるのかと、何だか妙に納得する。今年4月に公開された3Dアニメーション映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』でも、随所に原作ネタが散りばめられていて、映画館内で思わずニヤニヤさせられましたが、その感覚を思い出しまたね。いつもの雰囲気とはちょっぴり異なる大冒険。そこにある懐かしさと、新鮮な体験。「いやちゃうやろー❗👆💦(ズコーッ」と、コロコロコミックみたいなツッコミを内心しつつ、魅力的なキャラクターたちが織り成すユーモア溢れる台詞の応酬を楽しんでいました。

 そして、演出キャラクターのモーションは、いずれもレトロチックな雰囲気を残したまま、現代のグラフィックでブラッシュアップされていることが窺える。どうしてダイパリメイクはこうなれなかったんですかオリジナル版をやったことがない私ですら「こういうのでいいんだよ。こういうので」と思える、リメイク版として生まれ変わった意義を実感できる内容に仕上がっている。よく実現したよなあほんと。BGMアレンジはなんとオリジナル版と同じく下村陽子さん。相変わらずいい仕事。私にとっては『ゼノブレイド』のメインテーマを作ったお方です。

 ただ……このノリにノリきれていない自分がいるな、という自覚があることもまた確かだ。前述した社築さんの配信では、配信者本人もコメント欄も大盛り上がりなのだけど、どうしても温度差を感じてしまう。たとえば、本作ではミニゲーム要素がふんだんに用意されていて、それはストーリーを進める上で不可避のものであったり、やり込み要素として用意されていたりする。中にはクスッと笑わされるものもあったけど、たまーに「………………(ポチポチ)」(…………いやこれいる? なんで唐突に別ゲーみたいなキャラコン要求されなきゃいけないの?)と思ってしまうことがある自分もいた。これは純粋に私に適性がなかっただけですね。むしろそうしたバラエティに富んだ諸要素があることが本作の醍醐味だというのに、それを心の底から楽しむことができないのは非常にもったいないなあと。

 思えば『ファイナルファンタジー』シリーズでは作中のカードゲームやミニゲーム要素を一切触ってこなかったし、ポケモンもクリアしちゃったら図鑑埋め作業は全然やんない。子どもの頃なら夢中でやり込んでいたかもしれない要素も、今では投げっぱなしにして積みゲーにすることが多くなってしまった。本作も小学生の時にやってればもっと熱中できたかも。嫌な大人になっちまった。

 これについてはあくまでも"Not for me"。それでも面白さの一端を味わうことは充分できた。極太な物語を味わえるRPGをプレイしたい、という場合には向かないかもしれないが、子どもの頃に夢中でマリオ作品をプレイしたことがある(私は『スーパーペーパーマリオ』でボロ泣きしたことがあります)、映画版がめちゃくちゃ楽しめた、そんな方にはぜひともオススメしたい作品です。ニンテンドーカタログチケットで買えますので、もう一本のソフトを何にするから迷っていたらぜひともご検討を。

 しかし、本作で何よりも印象に残ったのは、やはりあいつの存在以下はエンディングまでのネタバレを含む感想となります――







「『クッパぐんだん』に いれてもらった!
・・・コトにしておこう」
このテキストほんとすき

 そう、クッパ大魔王。中盤までの彼の動向をまとめると――ピーチ姫をさらったがマリオに阻止される。そこまでならいつも通りだが、そこに突如、城の上空からカジオーの刺客・カリバーが飛来。成す術もなく城を占拠されてしまう。クッパは城への帰還を目指して配下の軍団と共に奮闘。しかし、この異常事態を前にして誰も対応することができず、部下たちは散り散りになってしまう。いつしか独りぼっちに。そこで邂逅するのは長年のライバルであるマリオ。クッパは未曾有の大危機に立ち向かうため、そして、敵国のお姫様たるピーチ姫への一途な思いを胸に、マリオ一行と道中を共にすることになるのであった。

 …………やっぱりこうして振り返ってみるとかなり重いな。一国の主が地位も名誉も領土も軍勢も全てを失い、敵国の手に落ちる屈辱を味わいながらも、野望ため臣民のために自国の再建を目指して孤軍奮闘するその姿はさながら架空戦記ものの主人公だ。これもうファイアーエムブレムだろ。まさに『もうひとりの英雄王』ってか。今でこそマリオとクッパが手を組む展開はさして珍しいものではない印象があるけと、当時はかなり斬新だったんじゃないだろうか。

「なぜミンナ マリオ、マリオと イウノダロウ
ワガハイのハートは とってもカナシヒ
大魔王クッパ」

 しかし、プレイ中にそんな辛さを微塵も感じさせないのは、やはりクッパの豪胆さと、かわいげがあるからこそ。不器用ながらも持ち前のパワーで道を切り拓き、「ワガハイがマリオの仲間になるのではない! マリオがワガハイの手下になるのだ!」と息巻いては、大魔王としての威厳を何とか保っているつもりでいる。が、自分よりマリオの方に名声があるとなれば、悔しがったり、悲しんだりもする、その素直さ。やってることは暴君ではあるが心は純真。彼がピーチ姫を毎度さらうのは、本当に彼女を心の底から愛して止まないからであり、そして、その手段しか取れないからこそ決して結ばれることのない悲恋でもあると言える。切ねえ……😭

 もうひとつ、印象的なのは部下に対する思いやり。途中でクッパ軍団を抜けて、遥か遠くの地で庵を結んだ部下たちに対して、彼はこう言い放つ――

「オマエは オマエの
シアワセを さがすのダ!
ゲンキでな!」
「オマエは オマエの
いきるミチを さがすのダ!
ツヨくなれよ!」

 ワガハイのことは気にするな、オマエはオマエの人生を大切するのだ、と。退職後の部下のキャリアを大切にする。新たな門出を祝福する。

「・・・もうヨイ。
アカかったときのコトは
すべて ミズにながす。」

 洗脳されていたカメックのことも深くは咎めず、

背中がデカすぎる(物理的にも)

 エンディングでは、工事現場で部下と共に城を再建する作業に勤しむ彼の姿を確認できる。常日頃から現場をちゃんと見ている上司であることが窺える。なあオイいい上司すぎるだろ。部下を怒鳴りつけることも多々あるだろうけど、それと同じくらい、「ガハハ! やるではないか! それでこそ我がクッパ軍団! ワガハイは誇りに思うぞ!」(背中バシィッ)もやってるんだろうな。

 思えばクッパ軍団が散り散りになったのはあくまでも不測の事態に対処できなかったことであり、クッパに対する信頼が揺らいだからではなかった。まあモンンスターリストによればシャンデリワンの時給は2コインだそうで、それはさすがにひどすぎるとは思うが……ストーリー終盤のクッパ城では、クッパを戦闘メンバーに加えた状態で戦闘になると、元クッパ軍団と思われる敵はクッパにおびえて退散する。そこには国王と部下として過ごした歳月が作り上げた信頼もまたあったように思える。

 失墜。屈辱。悲恋。しかし、表面的にはそれを感じさせないタフさ。部下からの厚い信頼。そしてかわいらしさ。そんな彼だからこそ、かつての敵と共に手を取り合い、この世界を踏みにじる異世界の禍々しい敵に立ち向かう様はカタルシスに満ち溢れている。……ねえこれ本当に子どもがやるゲームのキャラ? 乙女ゲーの攻略対象じゃないよね? かなり好きなタイプなんですけど? 全然推せるんだけど?

 一昔前はTwitterで「クッパ姫」「キングテレサ姫」なるものが流行ったけど、こうして見ると素のクッパが一番かわいい。映画版を観た時も「こいつかわいいな……」ってなったけど、本作も振りかえってみると結局は「……やっぱクッパが良いんすよねえ。かわいげもあって」と、私はそんな感想に落ち着く。これからはクッパの強火オタクの人格を宿しながら生きていこうと思います。というのも――

 『ペーパーマリオRPG』も来年リメイクが出るんですよね。前評判を聞く限り、シナリオ重視派のオタクである私には、こちらの方が向いていそう。PVではクッパの姿も確認できる。どんな役回りになるのだろうか。こちらもオリジナル版は未プレイなので楽しみです。

「ムテキの クッパぐんだんに
ハイボクの モジは ナイ!」

 今年は映画版とリメイク版『スーパーマリオRPG』で、思いのほか『スーパーマリオブラザーズ』というシリーズが持つ世界観の奥深さに浸ることになりましたが、それはもうしばらく続きそうです。そして、その世界には、乱暴で不器用ながらもまっすぐ生きる大魔王がいることは忘れないようにしたい。それではまたどこかで。(来週は『ポケモンSV』のDLC後編に狂わされてきます)