カープ暫定戦力分析2024‐25
ドラフトが終わり、二次の戦力外通告もあり、一旦来季の陣容が固まりつつある様子です。
デプスチャートを見つつ、ざっくりと戦力分析をしていきます。
先発投手
今オフの退団はおおよそ投手。戦力の変化が最も大きなポジションです。とはいっても、26~30歳、31~35歳のゾーンに主力が集中し、比較的整っている様子です。
今季、ファームで規定投球回に到達した森翔平が一軍で一定の結果を残したほか、常廣羽也斗、高太一、滝田一希、杉田健の大卒ルーキー4人がファームで多くのイニングを消化し、育成枠の杉田以外3人が一軍を経験しました。
今季復活した大瀬良大地が来季34歳となり、長期的な活躍を望むことが難しくなり、同い年の九里亜蓮はFAでの移籍が極めて濃厚という状況ですが、決して未来は暗くないと見ています。
一方、チーム防御率2.62(12球団位)と安定していた投手陣ですが、Warだと9.9で12球団6位。個人で見ても森下暢仁が2.3で規定到達者19位がチームトップと、かなり寂しい結果に終わっています。
大きな理由として、三振を取れる先発投手がいないことが挙げられます。K%が20%に到達した投手がおらず、規定到達25人の中で森下が18位、今季ノーノーを達成した大瀬良大地が19位、床田寛樹が22位と、かなり低い位置にいることがわかります。
幸い、二遊間の守備力の非常に高いチームではありますが、出力向上やピッチングスタイルの変化がないと成績の上下動が大きくなる危険も秘めています。
また、近年活躍した投手は大卒に偏っており、一時期結果を残した遠藤淳志が壁にぶち当たり、山口翔、鈴木寛人らは既にチームを去りました。有望株の小林樹斗も故障がちで育成へ降格と、高卒の右投手の育成に苦慮している点が見受けられます。斉藤優汰、日高暖己ら、同様の好素材が今季結果を残せなかったところも含めて気になるところです。
ただ、高橋建二軍投手コーチが就任して以来、伸び悩み気味だった左腕の高橋昂也や玉村昇悟に成長が見られ、右腕でもその手腕が発揮される可能性があります。
リリーフ投手
クローザーの栗林良吏は、年間を通して速球が走らず、ストレートの平均球速がプロ入り後初めて149キロを割りました。ただ、不振だった昨年よりも三振を奪えており、三振率は50イニング以上投げた投手だとリーグトップの30.4%に上りました。9月11日の6失点KOも、投球内容の割に失点が少ない状態が続いており、揺り戻しが1日にまとめて来てしまっただけと考えています。四球がもっと減ったらいいとか、速球の出力がもっと上がったらいいとかありますが、基本的にもうこれ以上望むことはないので、無事に絶対的な存在であり続けてくれたらと思います。
個人的には栗林を先発で…と思い続けているのですが、どうやら過去のコメントを掘っていくと、元々リリーフ志向の強い選手で、恐らくこのままクローザーとしてのキャリアが続いていくものと思われます。
セットアップとしてテイラー・ハーン、島内颯太郎、森浦大輔が主に起用されました。ハーンは35イニングで26奪三振と、意外と三振を取れていませんが、平均152キロの角度ある速球で詰まらせる投球で素晴らしい成績を残しました。
島内は最優秀中継ぎ投手を受賞した昨年から成績を落とし、三振率は4.9%低下し22.3%、四球率は4.1%上昇し11.3%となりました。そんな中、ストレートの平均球速は横ばいで、チェンジアップも依然として優秀で、Pitch Valueは全投手中5位と、「11勝」に恥じない内容ではあったと思います。
森浦は概ね例年通りの内容で、出力も順調に伸びています。右打者に対して強さを見せていますが、四球が多いのが課題です。6月にはイマキュレートイニングを達成するなど三振は取れる投手なので、制球力の向上がレベルアップに直結しそうです。スライダーとチェンジアップで左右に曲がるボールがあり、出力も一定のものを備えているあたり、実は先発でもやれるのでは?と思う部分もあります。
その他では矢崎拓也と大道温貴が出番を減らしましたが、矢崎は勤続疲労でしょうし、大道は出力を上げようと増量したのが失敗に終わった可能性が高く、二人とも、特に大道は来年以降巻き返してくる可能性が高いと考えています。
一方で、復活を遂げたベテランの中﨑翔太が四球率2.1%という驚異的な数字を残し、渋くブルペンを支えました。若手では黒原拓未が飛躍を遂げ、53試合59.2回を投げ、三振率は27.5%と、「栗林がもう一人いる」レベルです。今季も開幕時は先発だったこともあり、九里亜蓮が移籍した場合、すぐにその穴を埋めて、場合によってはお釣りまでくるレベルの先発に育つ可能性も秘めています。ほかには河野佳も16イニングの登板ながら、三振率23.6%、四球率5.6%と非常に優秀な数字を残し、来季の飛躍に期待が持てそうです。
また、サイドハンドに転向した塹江敦哉も復活を遂げ、左の低いアングルから平均149.8のストレートが飛んでくるのは恐怖です。四球が多く、三振率は20%をやや上回る程度ですが、K/9で見れば9に近く、1.58の防御率に見合う内容も示せていたと考えています。
ファームを見ると、傑出した数字を残す松本竜也とロベルト・コル二エルが、能力は非常に高い益田武尚が殻を破れるか、復活の兆しを見せた高橋昂也がどこまでやれるか、といったところに期待できるでしょうか…。
捕手
正捕手の坂倉将吾が前半戦かなり苦しみましたが、オールスター戦を機に復調。おおよそ平年通りのWar2.5を記録しています。控えの石原貴規も59試合でWar1.2を記録、守備面で課題が見えたものの、長打力を秘めたバッティングと強肩で二番手の地位を確立した感があります。26歳(石原は早生まれ)の二人が今後中心になっていくことが想定され、ここはしばらく安泰といってよいでしょう。
ところで、139打席しか立っていない控え捕手がチーム内野手のWar5位という構成には問題がありまくりで、なんと表現すればいいかわかりません。
そんな中、正捕手の坂倉は関東出身で、将来的にFA移籍の可能性も拭えません。次世代の育成も並行していくべきですが、あまり上手くいっている印象がありません。
ファームでは主に23歳の持丸泰輝がマスクを被り、War2.2を記録。オープン戦では守備面で大きな課題を露呈し、今季一軍で出番がありませんでしたが、ファームでは初めてwRC+が100を超え、守備でも進境を見せました。ただ、一軍の二人と3歳差しかありませんので、次世代となると、もっと若い選手が必要でしょう。
しかし、より若い高木翔斗と清水叶人は打撃面で苦労しています。そろそろ目玉クラスの有望な捕手を上位指名することも考えていい頃かもしれません。
今ドラフトで育成指名した安竹俊喜はキャッチングとスローイングに優れた守備型の捕手。静岡高~静岡大の学力もさることながら、非常に「賢い」捕手で、面白い素材です。
一塁手
今季、チームの一塁手全体で打率.228(11位)、出塁率.281(最下位)、ISO.080(最下位)…と、長打もなければ出塁能力もなく、wRC+は74(最下位)と、惨憺たる成績に終わりました。
実は1Bとして最も多い190打席を消化したのは坂倉将吾で、wRC+は103と平均的。189打席の堂林翔太が続きますが、こちらは今季大不振でwRC+が69。平均より3割得点創出能力がないのは問題です。昨季は.188だったISOが.066に急降下したのが大きな要因で、打席数はそう変わらない(284→273)で本塁打数が激減(12→1)しています。理由として考えられるのは、打球が上がらずに長打が増えなかったこと。昨季よりフライの打球が8.8ポイント下がり、43.3%に、ゴロが6.2ポイント増えて47.2%になっています。そんな中で、強い打球の割合は40.4%から41.6%へ良化しており、来季大幅な揺り戻しがある可能性も否定できません。
2人に次いで出場したのが林晃汰で55打席。今季も三振率が30%を超え、打席数が少ないながらも本塁打はゼロ。来季25歳を迎え、そろそろ育成云々の年齢でなくなってくるので、どうにか殻を破ってほしいところです。
現実的には来季も外国人選手を獲得して当て込むのが良さそうで、今季はジェイク・シャイナーが故障で全く稼働せず。今季以下の結果になる方がむしろ難しいので、1年目のライアン・マクブルームぐらい打てる選手がやってくると嬉しいですね。カージナルス、ロッキーズでプロスペクトとして期待されたエレフリス・モンテロとの契約ができましたので、また別記事にしようと思います。
今後は、モンテロでお茶を濁しつつ、今季最終戦で4番起用された仲田侑仁と、ドラフト4位の渡邉悠斗が今後メインで育てられることになりそうです。仲田はファームでも全く目立つ数字を残していませんが、一軍でも全く見劣りしなかった体格で、新井貴浩監督の現役時代のような選手に育ってほしいと見ています。渡邉は、長打力に加えて強肩も武器で、元々は捕手。プロでは両翼のオプションがあると、早くから活躍の場があるかもしれません。
二塁手
今季も9割近い135試合(1122イニング)を菊池涼介が守り、UZR1000は+1.3。35歳の2Bが常時出場してUZRで+を作っていることは異常ともいえるのですが、終盤ややらしくないミスも増えてきたように思いました。打つ方でも菊池はチーム3位の9本塁打で、印象的な一打も数多く見られました。そうはいっても、もうキャリアも終盤に差し掛かってきているのは事実です。
控えの上本崇司は中軸でも起用されましたが依然として打撃が弱く、走塁でのポカも今年は目立ちました。ユーティリティ性は素晴らしく、内外野で高い守備力を見せるだけに、今一度集中力の高いプレーを見せてほしいです。足のスペシャリスト・羽月隆太郎も本来は小力あるタイプですが、打撃で苦労しました。菊池の休養日に得点力がガタ落ちしてしまうのはかなり痛く、奮起してほしいものです。
ファームではルーキーの佐藤啓介が352打席を消化。.350近い高打率を引っ提げて一軍デビューも果たしました。高校時代は控え選手、大学は国立大学だったこともあり、1シーズンを戦う体力面で課題を見せたものの、打力に確かなものがあることを示しました。一方、守備では大型二塁手らしく、と言ったら失礼ですが、UZR1000で-7.4と課題を残しています。守備面で言えば韮澤雄也が佐藤をリードしていますが、こちらはパワーとスピードに依然として課題を残しています。当て勘は非常に鋭い選手なので、せめてスピードを補うパワーがあると将来が開けてきます。
今後も佐藤を中心に育成していくのか、はたまた小園海斗のコンバートがあるのか、注目のポジションです。
三塁手
マット・レイノルズが守るはずだった3Bは正SSの小園海斗がスライドすることで事なきを得…たのかもしれません。ただ規定到達者最下位のWar-0.7に終わり、印象的な活躍が多かった割に低調な数字に終わりました。バッティングでは、ゴロの割合が非常に多く53.3%(規定到達リーグ4位で、上位3名は矢野、秋山、野間)にのぼり、強い打球の割合も30.0%(規定到達リーグワースト2位)と、結果ほどの内容でなかったことを示しています。本質的にチャンスメーカータイプの選手なのかもしれませんが、より一層のレベルアップが求められます。
また、打つ方よりも深刻だったのが守備で、守備率は今季精彩を欠いていた村上宗隆と同程度の.953(リーグ3位…村上、佐藤輝明より上)で、UZR1000は-12.1で12球団最下位。特に守備範囲の評価が低く、34歳の浅村栄斗や、36歳の宮﨑敏郎よりも低い-12.2に終わりました。
急造の三塁手だった、という点で仕方のない面もありますが、元々アジリティに課題のある選手で、SS時代も守備範囲の狭さを肩で補う守り方をしていた印象です。より打球への反応スピードが求められる3Bの適性がなかった可能性もあり、長期的に「三塁小園」として計算していくのは難しいと考えています。
そんな中、2年目の内田湘大が最終戦で一軍を経験し、ドラフト1位で小園、内田双方の競争相手となる佐々木泰を指名しました。プロスペクト2人と、(課題は多いものの)若手のコアプレイヤーを抱えるポジションなだけに、コンバート含めて最注目のポジションかもしれません。
遊撃手
矢野雅哉がレギュラーに座り、UZR1000で12球団トップの10.8を記録するなど素晴らしい進境を見せました。課題のバッティングでは、ハードヒットが最も少なく、ゴロが最も多い、おまけに三振率が22%に達するなど、成長途上であることも見せましたが、1打席22球のNPB記録(恐らく世界記録)をマークするなど、P/PAは12球団3位の4.45と、つなぎ役のバッターとして「簡単にアウトにならない」ことはできていました。P/PAが矢野より高い野間峻祥は三振率が11.7%に抑えることができており、打撃の志向的にも野間が一応の将来像になるのかと思います。
一方、矢野は来季27歳になり、「若手」と呼べる年齢ではありません。守備力は今季~来季あたりがピークとみられ、次世代の選手を育成していく必要があります。矢野より若いSSは小園、二俣翔一、前川誠太しかおらず、小園は1歳差で「次世代」とは言えません。二俣は意外と守れるところを見せましたが、ユーティリティ性に強みを見せており、強打のUT枠として成長していきそうな様子です。また、隠れたプロスペクトである前川はファームでK-BB%が-1.2%と非常に優秀なアプローチに加え、ISO.128と長打力も示しています(中村奨成.196、林晃汰.135、田村俊介.131でチーム4位)が、守備面ではSSでのUZR1000-24.7と大きな課題となっており、UZR1000で3.1と見られる数値になった2Bの方に適性がある様子です。
この点を踏まえると、やはり宗山の1位指名は必然だったといえなくもありません。来年のドラフトでの獲得が必要でしょう。
外野手
ベテランの秋山翔吾と野間峻祥が休み休み起用され、主砲候補の末包昇大が故障がちといった中、期待されたプロスペクトの田村俊介や、中村奨成ら若手も結果を残すことができず、停滞感あるシーズンとなりました。
秋山は長打こそ少なかったものの、攻守ともにハイレベルな働きを見せ、若手の指導役としても欠かせない存在です。
野間は時折見せるポカが依然として見られるものの、リーグ2位のP/PAをマークしながら、三振率11.7%、四球率9.7%と非常に優秀な成績を残しました。序盤はISOも1割を超え、長打が出るようになった印象でしたが、シーズン後半になると疲労から成績は下降線をたどりました。
末包は主砲として期待されたものの、相次ぐ故障で伸び悩んだ印象です。9月以降は、93打席に立ち91打数15安打、長打はわずかに二塁打1本と苦しむチームを救うことができませんでした。特に、逃げる球と落ちる球に脆さを見せ、準レギュラーだった東洋大学時代を思われる姿を見せてしまっており、来季に向けて改善が急がれます。
来季以降は田村俊介、中村奨成らの開花を待ちつつ、大盛穂、宇草孔基、中村健人、中村貴浩あたりの中堅にもう1ランク2ランクの成長を期待する必要があります。こうなってしまっているのも、田村俊介より若い外野手が在籍しておらず、内野手とは打って変わって20代半ばに伸び悩む選手を大量の保有している歪なチーム構成に起因するものです。積極的にトレードを行う(ただしトレードバリューが高い選手がいるかとなると…)など、活用を考えていく必要があります。
今季のドラフトでも外野手(特に高校生)の指名は必要なポイントで、育成の竹下海斗が外野手として育てられていくようだと、ちょうどいいかと思ったら、どうやら投手のようです。
チームの方針を邪推すると、センターを守れる選手のハードルが非常に高い印象を受け、「センター」として指名された選手は近年で野間と久保修ぐらいのものです。このように「アマチュアトップクラス」の守備力を持つ選手を待っているのであれば、今年のスルーは一応納得できるものになるかもしれません。