コンテンツ・プランナーのススメ #07
Projection Mappingのつくりかた① 横浜ドックヤードガーデン「YOKOHAMA ODYSSEY」
今日ではすっかり市民権を得たプロジェクションマッピング。
国内できちんと行われたのは2011年の成蹊大学(制作:ピクス)が最初だったと記憶する。翌年の2012年、東京駅舎で大々的に行われたプロジェクションマッピングが話題となり、これを機に各地のナイトエンターテイメントとして、この手法が広がっていくことになる。
建物にプロジェクターで模様を映す手法自体は、2000年代から使われてきた。しかし、プロジェクター自体の輝度、PCやソフトウェアの性能が上がり、表現力が大幅に進化したのが2010年前後である。
「森の木琴」で、15秒/30秒から「尺の拡張」をしてもCMの技術が使える手応えを得た私は、今度は16:9からの「画角の拡張」を試みるべく、様々な仕事でプロジェクションマッピングの提案をしていた。そのうち、横浜みなとみらいにあるドックヤードガーデンでプロジェクションマッピングを実施する機会を得た。
ドックヤードガーデンは、その名の通り、船の形に窪んだ広場である。かつて造船所として使われていた煉瓦造りの建造物が、そのまま文化遺産として残っている。広場の周囲には飲食店が立ち並んでいるが、あまり人が立ち入らない場所であり、何か話題性のある施策が必要だった。しかし文化遺産のため、ドックヤード自体に手を加えることはできない。そこで、常設のプロジェクションマッピングを行い集客を図りたい。これがクライアントである三菱地所さんからのオーダーであった。
常設の入れ替え制。尺は10分。プロジェクター設置可能な場所を考慮すると、投影範囲は船の前方と側面180度。テレビCMからはかなり距離がある挑戦だった。
それまでのプロジェクションマッピングは、成蹊大学にしろ、東京駅にしろ、建物の凹凸はあるものの、真っ直ぐなフラット面に投影されている。スクリーンの延長線上と言える。一方ドックヤードの場合は、投影面がそもそも凸型であり、ただのレンガである。根本的に異なる考え方をしないと、映像として成立しないように思われた。
観客の目線になって考えてみる。すると、平面とは異なり、左右の周辺視野全部が映像で埋まることになる。そこで、コンセプトをこのようにした。
「鑑賞するマッピングから、体感するマッピングへ。」
CONTENT × FRAMEの原理で言うと、「左右を包み込む視野」「横浜という場所」がFRAMEだ。それにふさわしいCONTENTは何か。
横浜について調べてみると、いろいろな「始まりの地」であることがわかった。ペリー来航の場所、そして開国。文明開化が始まり、ガス灯や汽車、キャバレー・・・すべて横浜が最初であった。これを辿っていくのはどうだろう。
そこで、ドックヤード自体を一つの船に見立てて、横浜の過去から未来へ旅をするストーリー構成を考えた。同じシーンの時間軸が変わるCMの型「時制変化」である。
退屈させない長さで考えると各シーンは1分程度だろう。オープニングとエンディングを30秒ずつと考えて、9シーン。江戸時代から明治、大正、昭和、現代、未来へと割り振っていく。
制作は困難を極めた。私にとっては初めてのプロジェクションマッピング、しかも10分。映像ディレクターは東弘明氏、プロデューサーは浅井氏、音楽プロデューサーはBruce池田氏。腕利きの仕事仲間のおかげで何とか実現に漕ぎつけたものの、ここでは書ききれないほどのトラブルに見舞われた。作り終わって涙が出たのも、帯状疱疹になったのも、この時だけである。
苦労の甲斐あって、文化庁メディア芸術祭の審査員推薦作品に選ばれたこの仕事は、私に新たな道を開くことになる。「体感型映像」というジャンル、そして広告ではない「コンテンツ制作」への道である。
<CREDIT>
Executive Producer : Osamu Enari (Drill)
Creative Director / Content Writer : Jun Nishida (Drill)
Planner : Yasuhiro Suzuki (Drill)
Director : Hiroaki Higashi (Stoicsense)
Producer : Nobumichi Asai (P.I.C.S)
Line Producer : Koji Kojima (P.I.C.S)
Production Manager : Rina Funatsu・Aya Kumakura (P.I.C.S)
Software Engineer : Toshiyuki Takahei・Naoya Ueda (ORIHALCON Tecnologiesa), Paul LACROIX
Music Director / Producer : Bruce Ikeda (JKD Collective)
Account : Hiroyuki Abe (ADK)
Client : MITSUBISHI ESTATE
Agency : Drill+ADK
Production Company : P.I.C.S