コンテンツ・プランナーのススメ 終章
最後に、何故このnoteを書いたかを記しておく。
実績を自慢したかったワケではないし(少しはあるけど)、クリエイターが昔話を始めたらおしまい、とずっと思ってきた私が、どうしても今書いておかなければと考えたのには理由がある。
コンテンツ・プランナーと名乗り始めて20年という節目とか、いくつか個人的なタイミングが重なったのもあるが、最も大きな理由は、2025年の現在が映像産業にとってターニングポイントになると思われるからである。
産業革命の中間地点
イマーシブミュージアムの企画で19世紀を調べている時、教科書で習う「産業革命」は、数十年かけて社会の産業構造が変化したことを指す、と恥ずかしながら初めて知った。「革命」という言葉の響きからか、なんとなく数年程度でガラッと変わったイメージでいたが、実際には数十年というスパンでゆっくりと、全く異なる社会へ変容したのだ。
だとすると、現在は「21世紀の産業革命」のちょうど中間地点あたりではないか。PCが一気に普及した1995年を始まりとしてちょうど30年。この間に登場したインターネットや、YouTubeや、スマホや、SNSや、配信といった変革が前半戦。昨年一気に飛躍したAIの進化は、産業革命が次のフェーズに入ったことを感じさせた。これからの30年で劇的に世の中を変えるだろう。少なくとも映像業界において根本的に作り方が変わることは疑いようがない。
現に今年に入ってから、舞台映像の仕事とマッピングの仕事で生成AIを使った。従来の作り方では時間的にも予算的にも実現不可能な表現が、プロンプトだけで生み出される様は衝撃であった。まだ「映像作品単体」として使うには課題が多い。「狙い通りの映像」を作るには根気がいる。しかしそれらが解決するのも時間の問題だろう。
新しい技術は、新しい映像の可能性を開く。
AIを駆使する映像クリエイターが一気に出てくるはずだ。プロとアマの境目が無くなるどころか、AI自身が映像を大量に作り、人が作る映像との差がわからなくなる未来だって、あり得なくはない。玉石混交なカオスの状況が、もう目の前に来ている。
それは私にとって、絶望であり、希望である。
コンテンツ・プランナーのススメ
このnoteを読んでくれた方は、コンテンツ・プランナーの守備範囲の広さを感じてくれただろう。同時に、一つの挑戦が次の機会に繋がり、また次の挑戦へと連鎖していく様も理解いただけたと思う。確かなクオリティさえ出していけば次の扉は開く。クリエイティブの世界は割とシンプルだ。
EXPANDED MOVIESの冒険に終わりはなく、新しい映像表現や映像体験はこれからもどんどん拡張できるだろう。
一方で、多くの人の心を動かし、価値観を揺さぶるほど強烈な映像に出会える確率は減っていくのではないか。私がCMプランナーのなりたてに見た
The Independentのような傑作は、メディア環境も含め生まれにくくなるに違いない。
要は映像が「軽く」なるのだ。
OK Goのダミアンと仕事をした時、彼がボソッと言った。
「音楽は一人で作るけど、映像はみんなで作るから楽しいんだよね。」
全く同感である。
プロデューサー、ディレクター、カメラマン、照明、スタイリスト、ヘアメイク、キャスト、音楽家、美術家、CGデザイナー、エディター、テクノロジスト、オペレーター、コレオグラファー…多くのプロフェッショナルが結集して、当初自分が構想した内容を凌駕するクオリティの映像が出来る。それが楽しくて私はこの仕事を続けている。
映像が持つパワーは、制作者が込めた熱量に比例する。簡単過ぎても、難し過ぎても、参加メンバーが本気で「作りたい」と思える仕事にはならない。個々のしょうもないプライドやエゴを捨てて、力を合わせてやらないと辿り着けない高い頂を目指した時、チームがフロー状態に入る。そのグルーヴを生み出せるかどうかは企画次第、つまりプランナー次第だ。
CMプランナーのスキルをこのように領域展開した例は、私が知る限り少ない。革命の後半が始まる現在、映像の「CONTENT × FRAME」という原理が持つ応用可能性を、改めて今この時点で残すことは意味があると考えた。
「物語構造の型」と「枠の見極め」。このロジックと考え方の手順を踏めば、一定のクオリティには必ず届く。才能などというあやふやなものではない。正しいフォームで訓練すれば習得可能な「技術」なのである。
その先には、広告だろうが、マッピングだろうが、舞台だろうが、展示だろうが、映像であれば何でも射程となる、コンテンツ・プランナーの世界が広がっている。
今まで紹介してきた数々の事例は名作だと思っている。ここでは紹介できなかった良い仕事もたくさんある。書ききれないほど多くのクリエイターたちと、書ききれないほど沢山のエピソードがある。本気の仕事を通じて出来た絆や思い出は私にとって何よりの宝物だ。
当然、まだ現役を降りるつもりはない。
大御所化するつもりもないし、マインドは今でも挑戦者のままだ。
実現したい企画、試したい企画がいくつもある。
映像にはまだまだ未踏の地があり、それは広がる一方なのだ。
それでも、30年後まで続ける自信は全く無い。
80歳を越えてまだ現場をやっていたら笑っちゃうぐらいの奇跡である。
産業革命が落ち着いて今とは全く違う社会になった時、あらゆるFRAMEに対応できるコンテンツ・プランナーが作る、クオリティの高い映像が溢れる世の中だったら素敵だなと思う。
映像を愛する人たちに何らかの刺激や発見があれば幸いだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。