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グリーンな通貨を目指すユーロ

EUはユーロの国際化を推進する方策の1つとしてグリーン金融に取り組むという。EUがグリーン金融のハブとなりユーロの役割をより大きなものにするという。民主主義や人権という理念を創出した西欧だけあって壮大な構想を打ち上げた。

グリーン金融への取り組み

グリーン金融はグリーンなプロジェクトに資金を提供する。具体的には、温室効果ガスの削減、エネルギー効率改善、再生可能エネルギー事業、廃棄物処理といったプロジェクトである。2016年9月のG20杭州サミットにおいて、首脳声明でグリーンファイナンス拡大の必要性が確認された。

EUにおいて環境への取り組みが前面に出て来たのはフォンデアライエン欧州委員長が2019年12月に発表した「欧州グリーンディール」からだ。これはEUの成長戦略と捉えてもらえばよい。

EU企業がクリーンな製品と技術において世界のリーダーとなることを目指す。そして2050年までに温室効果ガスの正味排出量をゼロとする。従来の経済成長を軸と一線を画す壮大な構想である。経済のグリーン化には巨額の投資が必要であり、この投資が経済成長を牽引する。

具体的な計画として「欧州グリーンディール投資計画」を2020年1月に提示した。気候変動対策に投じる資金支援は総額で6,725億ユーロにのぼる。その内訳は補助金が3,125億ユーロ、融資が3,600億ユーロである。欧州投資銀行が「欧州の気候銀行」としてさらなる支援を行う。

EUは2018年にはサステナブルファイナンスアクションプランを採択してグリーン金融の準備に着手した。環境に貢献する経済活動の分類システム、サステナブル投資に係る情報開示制度、投資のベンチマークや基準を整備している。

進捗状況は?

グリーン金融の中核はEU委員会が発行するグリーンボンドである。EUはパンデミックからの経済復興、環境配慮、デジタル化、雇用訓練を目的に8,000億ユーロの復興基金(NextGenerationEU, NGEU)を設定した。復興基金の財源の30%はNGEUグリーンボンドで賄う。欧州委員会がグリーンボンドの発行者として世界一になるという。

発行実績を確かめておこう。NGEUグリーンボンドは2021年10月に初めて起債され120億ユーロの資金を調達した。2024年初頭における発行残高は489億ユーロである。なお、グリーンボンドという名称であるが資金使途には環境だけでなくデジタル化も含んでいる。調達した資金の配分は下表にように計画されている。

データ出所:European Commission

経済活動における環境配慮をコストととらえず投資と認識することは「コペルニクス的転回」と言えよう。ただし、グリーン化投資が経済成長を牽引できるのか半信半疑である。欧州経済が低成長に甘んじるのであればユーロの価値そのものに疑問符が付く。もしそうならグリーン化はユーロの足枷となる。

参考文献

  • 山口昌樹(2020)「欧州「緑の革命」 「脱炭素」へ120兆円投資 経済成長との両立は可能か」、『週刊エコノミスト』、2020年2月18日号、

  • European Commission (2023) EU Investor Presentation

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