日本人が知らない国富流出16兆円
海外流出する国富
円安と資源高を背景とした物価高のニュースが連日のようにメディアで報道されている。この物価高によって所得が変わらない場合でも購入できる財・サービスは減ることになる。いわゆる実質所得の減少である。
減ってしまった所得はどこへ行ったのだろう。そのうちの多くは燃料・資源の輸入額増加として海外へ流出している。実質所得の減少は家計レベルでは日常の買い物の際に実感できる。ところで日本全体としてはどのくらいの損失になるだろうか。
2022年度は約16兆円の所得が海外へ流出した。この数字は内閣府が作成する国民経済計算、いわゆるGDP統計の中で公表されている。円安が大幅に進んだ2022年度は、交易損失が前年の約6.8兆円から大幅に拡大した。
ここで所得流出を計測する指標として交易損失(あるいは利得)を用いた。この指標は交易条件の変化に伴う実質所得の増減を測定する。重要な経済指標なのだがテレビや新聞でお目にかかる機会はあまりない。
交易条件の悪化
巨額の交易損失をもたらした交易条件は輸出価格指数と輸入価格指数の比である。比を取ることの意味は国際貿易での商品の交換比率を測定することにある。
交易条件 = 輸出価格指数÷輸入価格指数
それでは、交易条件は数値が高い方がいいのか、低い方がいいのか。商売の基本と同じように、安く輸入して高く輸出できれば日本にとって貿易が有利だと考えればいい。つまり、数値が上昇すると交易条件は改善したと評価できる。
上の図では交易条件についもて近年の動向を追っている。図の交易条件は基準時点を2020年に置いたものであり、基準時点と比較して交易条件がどう変動したかが表されている。なお、基準時点を100とした指数であるので単位はない。
2010年代の前半にも交易条件は悪化した。この悪化は資源高とアベノミクスによる円安進行によって引き起こされた。ところが、2022年度における交易条件の悪化はその比ではない。アベノミクスの際における水準をはるかに超えて円安が進行したことが交易条件を急落させた原因である。
働いても報われない
交易損失の増大は、額に汗して働いて生産を行っても所得が海外流出するので生産に見合った所得が得られないという実態を表している。この実態は先に触れたGDP統計から確かめられる。
中学校で学んだようにGDP(国内総生産)は国内で生み出した付加価値を計測する。2022年度の実質GDPは549兆円であった。GDPに似た概念としてGDI(Gross Domestic Income、国内総所得)がある。国内で得られた所得の総計である。
GDPとGDIとの関係は次の式によって表される。
GDI = GDP + 交易損失
生産したからと言って、それに見合う所得が得られるとは限らない。2022年度のGDIは約532兆円であり、交易損失の分だけGDPより少ない。
この記事で紹介したように、少し手間をかけると公開されているデータから日本経済の実態を知ることができる。この事実を知ってしまったからには円安の動向、円安をもたらした日本銀行の金融政策に無関心ではいられないだろう。
終
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