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パチンコ店で再会した元上司の連帯保証人からの「再出発」

予期せぬキャンセルがもたらした運命の出会い

『申し訳ありません。本日の取材、緊急のトラブルで...』

ちょうど4年前の勤労感謝の日の午後。
取材先からスマホにキャンセルのメール。
次のアポまで3時間もの空白。

とりあえずトイレを借りようと
近くのパチンコ店に入った瞬間…

「連帯保証人になった時点で、もう人生終わってたんだと思う」

出版社時代の上司から
そんな言葉を聞くとは。

トイレを借りようと
駆け込んだパチンコ店にいたのは…

思いがけない再会

『えっ!まさかSさん』

黒いポロシャツの制服を着た
かつての上司、Sさんの姿があった。

『見なかったことにしよう…』

そんな考えが頭をよぎった時、
目が合ってしまった。

「しばくん?」

「Sさん...お久しぶりです」

パチンコ店の制服に身を包んだ
元上司の言葉に、一瞬凍りついた。

出版社時代、Sさんは
ある界隈ではちょっと名の知られたプロデューサーだった。

「ちょうど休憩時間なんだよ。
ちょっと話さない?」

Sさんがパチンコ店で働いている理由

店の裏手の喫煙所。

自販機の缶コーヒーから立ち上る湯気が、
秋の冷たい空気に溶けていく。

「独立したんだよ。デザイナーの友人とね」

先輩の声が、少し震えていた。

「そう。一緒に小さな出版社を立ち上げたんだ」

スマホを取り出して、
写真を見せてくれる。

小さいけど小ぎれいなオフィス。

「最初は順調だった。でも...
あいつの投資癖、知らなかったんだよ」

FX。日経先物。仮想通貨。

損失を取り戻そうと
Sさんの友人の投資は
レバレッジをかけて
どんどんエスカレートしていった。

「気づいた時には...
彼の借金は2000万超えてた」

先輩の声が、か細くなる。

「ある朝、あいつが出社しなくなって...」

電話はつながらない。
LINE、メール、すべて既読無視。

SNSのアカウントも削除されて、
あいつが住んでた部屋にも行ってみたけど、空っぽだった。

残されたのは、
借金の取り立て電話と、
連帯保証人としての責任だけ。

「会社を畳んで、離婚して、
今はここに住み込みで」

言葉が詰まる。

缶コーヒーはすっかり冷めていた。

Sさんからの意外な言葉

「でも、しばくん。
これでよかったのかも」

意外な言葉に、僕は顔を上げた。

「連帯保証人になったのも自分で決めたことだし、
どうせ会社はコロナ禍で傾きかけてたしね」

制服の胸元の名札が、
傾いてきた日差しに照らされて光る。

「連帯保証人にならなくても
結果は同じだったかもしれない」

空になった缶を潰す音が響く。

それから…

「Sさんにお願いがあります」

「ん?」

「Sさんにこんなこというのは
恐れ多いんですけど、
僕の仕事、手伝ってもらえませんか?」

「相談にのってもらうだけでもいいんです」

Sさんは謙遜して言う。

「俺、もう仕事のことなんか全部忘れちゃったよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

あれから毎月、
企画や経営の相談に乗ってもらっている。

Sさんは今も…
あのパチンコ店で働いてる。

でも、もうすぐ借金を返し終わるそうだ。

これから一緒に立ち上げる企画が、
僕らの「再出発」になるような気がしている。


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