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【絵本】「すずのへいたい」 H.C.アンデルセン 文・竹下文子 絵・西巻茅子
「へいたいは バレリーナを じっと みました。バレリーナも へいたいを じっと みました。ふたりとも なんにも いいませんでした。」
「すずのへいたい」 H.C.アンデルセン 文・竹下文子 絵・西巻茅子
すずのへいたい
すずは、鈴ではなく、錫の兵隊です。
この絵本は
何気ない日常の中にどんな高い障害があろうとも、縁(えにし)という強力な磁力が働いていて、それは決して誰にもコントロールができないものであり、風や川や魚や炎までも縁の力に動かされているのかもしれない。そう思える、切なくて一途な恋の物語でありました。
読んでいると
不思議な感覚になり、どのように捉えていいのかわからなくなりました。読み手によって、さまざまな捉え方をされるのだろうと感じました。
「ハッピーエンド」なのか
それとも
「悲しい結末」なのか
錫でできた兵隊。
全部で25人います。
男の子は誕生日に錫の兵隊をもらいました。
そのすずの兵隊は鉄砲をかつぎ、制服を着て、全員前を向いていました。
みんな、そっくり同じです。
しかし
ひとりだけ、一本足の兵隊がいました。
一番最後に造られたようで、材料の錫が足りなかったのかもしれません。
それでも、一本足の兵隊はみんなと同じようにしっかりと立っていました。
テーブルの上には、他にもたくさんのおもちゃがならんでいました。
中でも目立っていたのが、紙でできたお城。
そのお城の扉の前に、バレリーナが一本足で立っていました。
紙でできたバレリーナ。
きれいな布のスカートをはき、肩に青いリボンをかけて、真ん中にきらきら光る大きなかざりがついていました。
すずの兵隊は、一本足を高く上げて立っているバレリーナを見ました。
「ぼくと おんなじだ」
「ぼくの およめさんに なってくれないかなあ」
と、すずの兵隊は思いました。
夜になると、おもちゃたちは遊びはじめます。
バレリーナだけは、ひとり静かに立っています。それをすずの兵隊はだまってじっとみています。
夜の12時なると、びっくり箱があいて小鬼が顔を出しました。
「すずの へいたい、なに みてるんだ?」
すずの兵隊は、小鬼を無視してだまっています。
「ふん、それなら いいさ。 あしたの あさまで まってろよ!」
と、小鬼は言いました。
朝になりました。
どういうことなんでしょう。
男の子が起きてきて、すずの兵隊を窓際に立たせたのです。
(コレ、小鬼のしわざかな?って思いますよね?・・・)
すると
急に窓が開き、すずの兵隊は下のほうに真っ逆さまに落ちてしまいました。
町のいたずらっこが、落ちたすずの兵隊を見つけ
「やあ、すずのへいたいだ。 ふねに のせて やろう」
と新聞紙で船を折り、すずの兵隊を乗せ、みぞに浮かべました。
そのまま
すずの兵隊は流されていきました。
どんどん、流され 流され 流され
急に辺りが暗くなりました。
「いったい ぼくは
どこまで いくんだろう」
「せめて あの きれいな
バレリーナさんがいっしょに
いてくれたらなあ」
流れがますますはやくなり、みぞが滝になり、大きな川に流れ込んでいきました。
船は沈みはじめます。
「もう だめだ。もう にどと バレリーナさんにもあえないんだ」
そう思ったとき・・・
魚が・・・
パクリとすずの兵隊を飲み込んでしまいました。
明るい光が差し込みます。
魚を買ってきて、料理しようと、包丁で切ったお母さん。
なんと
魚からすずの兵隊が出てきたのです。
すずの兵隊は子ども部屋に連れて行かれ、テーブルの上に置かれました。
すずの兵隊が見たその光景の先に!
片足を大きく上げたバレリーナが立っていたのです。
そう、すずの兵隊は元の家に戻ってきて、バレリーナと再会したのです。
へいたいは バレリーナを じっと みました。
バレリーナも へいたいを じっと みました。
ふたりとも なんにも いいませんでした。
そのときです。
男の子がやってきて、いきなりすずの兵隊をつかみ、ストーブの中に放り込んでしまいました。
なんと理不尽なことでしょう。
すずの兵隊は燃える火につつまれます。
それでもしっかり前を見ています。
じっとみつめています。
バレリーナの ほうを じっと みつめていました。
そして
急に風が吹きました。
バレリーナがひらひらと、ストーブの中のすずの兵隊のところへ飛んでいきました。
すずの兵隊もバレリーナも、燃えてとけてしまいました。
次の日
ストーブの中の灰の中には、錫のかたまりと、バレリーナがつけていたリボンのかざりが、真っ黒に焦げて残っていました。
その錫のかたまりは、小さな ♡ の形をしていました。
いかがだったでしょうか?
風に意思があるのなら、バレリーナの想いを乗せたのでしょうか?
それとも
それは、まったくの偶然だったのでしょうか?
世の中にはどうすることもできないことがあります。でも「想い」だけが、現状を変える風を吹かせることができるのではないでしょうか?
あなたは、どう思われますか?
【出典】
「すずのへいたい」 H.C.アンデルセン 文・竹下文子
絵・西巻茅子 岩崎書店