本の話 航空隊のトレンチアート
歴史が好き、古いものが好きで、アンティークの世界にも興味がある。
アンティークショップやオークションで時々遭遇して気になる「トレンチアート」なる言葉……。
硬貨を加工したアクセサリーやスプーンなどを見たことがある。
塹壕(trench)の兵士が制作した工芸品、としばしば説明される。
もう少し詳しいところが知りたくて、というか、WW1のイギリス航空隊関連のものも存在するのか?が気になって。
手に取ったのは『The Archaeology of the Royal Flying Corps』という本。
"陸軍航空隊の考古学"……トレンチアートの他、戦利品、お守りなどの遺物からRFCについて研究した一冊※。
航空隊のトレンチアート、やっぱりあるんだ。塹壕の中の人達じゃないけど!
※遺物そのものの話というより、ヒトとモノとの関わりからRFCの隊員個人の感覚や内的世界に迫る試み、とかそんな内容です。非常に興味深い話でした。が以下この趣旨からはちょっとずれます。
トレンチアートの定義は、塹壕の兵士に限らず、軍人、一般市民、捕虜が戦中戦後に戦争関連の素材を使って製作/制作した作品…と。
思ってたより範囲が広い。
航空隊に関連するアイテムとして挙げられるのは、機体の残骸から取った素材を使用した作品、たとえばプロペラを加工して作った置時計や写真立てとか、飛行機の模型とか、機体のマークを切り取って(※布だから簡単に切り取れる)額装したものとか。
表紙にも、タイトル左下に飛行機模型の写真が見える。
飛行機のトレンチアートの作者は航空隊関係者に違いない、と思ってしまうが、この写真のものは関係ない民間人が戦後作ったものだそう。
戦場に散乱した廃材を拾い集めて戦地の”記念品"を作って売る、というビジネスが戦時中~戦後まであったらしい。
作者は、軍の技術者であったり、地元住民であったり、土木作業に従事していた中国人労働者だったり…。
機体の残骸は戦場に普通に落ちていたので、航空隊関係者でなくても素材として入手するのは容易だった。
つまり。アンティークショップでトレンチアートですと紹介されている品物は、必ずしも「塹壕の兵士による芸術作品」とは限らないし、飛行機に関連する作品の作者が航空隊の人とも限らないのだ。
販売目的で作られた作品もれっきとしたトレンチアートであり、学術的には意味がある。けど、「アンティーク品」として見ると、自分の抱いていたイメージとちょっと違う。
航空隊員の中にも暇な時に何か作ってる人はいた。
現代に残っている作品もある。
しかし日付や署名でも入ってない限り、作者や来歴を見分けるのは難しそう。
これは誰がどんな経緯で作ったのだろうと、あれこれ想像を巡らせるのもまたアンティーク蒐集の愉しみ、ぐらいに考えておくのが良いのかと。
とりあえず「航空隊のトレンチアート」も存在する事がわかったのは収穫、そのうち探してみたい。
余談。
本のサブタイトルにある"lucky mascots"は幸運を呼ぶお守りのこと。
ちいさな縁起物のチャームをチェーンにつないでお守りとして手首に着けていた、という話から、そういえばアンティークのチャームブレスレットって見たことあるなあと思い出した。
手持ちのチェーン(何かのアクセサリーを解体したもの?)に、チャームを取り付けてみた。
チャームはピューター製、古いものではなく”アンティーク風”だけど。
統一感があるようなないような、たのしい一品になった。
幸運を呼ぶ云々はさておき。
腕を動かすたびにちいさなチャームが揺れる感覚になごむ。
百年前に思いを馳せつつ。