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アジアリーグアイスホッケーの試合中止・延期に関する考察

書こうかどうしようか迷ったけど、とりあえず自分自身の整理をつける為にまとめます。いつも同じこと言うようですが僕自身はプレー経験の無い無責任な外野のオッサンであり、取材とかは全くやっておりません。公式リリースと、ちょこっとだけ小耳に挟んだ話を軸に進めていきますので、事実関係の間違いがありましたらご指摘ください。なお今回は中止試合のうち、日光のホームゲームに絞って書きますことご承知おきください。

1.時系列

ことは2月3日のお昼頃、十勝毎日新聞が「今週末のアジアリーグは帯広、日光とも中止」というネット記事をアップし、1時間もしないうちに非公開(削除ではない)となりました。今から思えば完全にフライングです。この日の夜は北京冬季五輪の女子アイスホッケー予選「日本vsスウェーデン」が行われ、スマイルジャパンが見事に白星スタートを切って暗い話題しかない国内のアイスホッケーファンを沸かせたのですが、アジアリーグについては続報もなし。ここで帯広で試合を予定していた横浜グリッツ公式アカウントが「今週末の試合は中止の可能性が高い」とツイートします

このツイートは、はっきり言って異例中の異例。リーグの発表前に所属チームが公式で喋っちゃうなんて、今まではあり得なかった。当然ファンは称賛の嵐です。 

 
翌2月4日のお昼頃、アジアリーグ公式HPより正式に日光と帯広の試合延期(ここが勝毎のフライングと変わったところ)の報せがリリースされ、同時に当該4チームがそれぞれ中止となった経緯を説明するリリースを出しました。結果的に、試合延期の発表は試合前日となったわけです。

 

夜になって、日本アイスホッケー選手会もこの延期決定に対する声明を出しました。

2.中止・延期に至る根拠

アジアリーグジャパンオフィス事務局(以下事務局)は、今回の延期理由を1月15日・16日に釧路で行われた試合でクラスター発生となったことと、全国的に新規陽性者増加が止まらないことを上げ、規約にある通りチェアマン判断で中止延期を決めたとのこと。釧路でのクラスターとなった試合を開催したひがし北海道クレインズの田中社長はHPで再三にわたるお詫びと、帯広で開催できない無念をあらわにしております。

ちなみに、各チームへの連絡の話ですが、様々な状況を見るにおそらく2月2日夕方の時点では可能性の話として伝わっていたように思えます。いろんな方がツイッターで「中止延期の決定が前日なんて遠征するチームにも迷惑がかかるだろ」とお怒りだったのですが、さすがに事務局もそこまで外道ではないと思います。後述しますが、アイスバックスがこの決定を不服とした為にリリースが遅くなったと推察します。

 3.アジアリーグvsアイスバックス

今回割と大きな騒動になっているのは、HC栃木日光アイスバックスが暴露した事務局の対応の問題でした。

アイスバックスの主張はHPよりスクショします。試合をできない、というチェアマンのトップダウンの決定への不服、そして異議申し立てに対する回答が来ないということへの怒りが文面からグツグツと沸き立っております。

プロスポーツクラブがここまでどストレートにリーグ及びトップを批判した例を僕は知りません。とはいえ、アイスバックスと事務局が揉めるのはこれが初めてではありません。2017年のアジアリーグプレーオフで、当時サハリンの選手がアジアリーグとKHL(ロシアのリーグ)を掛け持ちしていたいわゆる「二重登録問題」

とても長いです。ですが、知らなかったという人には是非読んでもらいたい。特に「アジアリーグからの回答書」は今読んでも名文です。

・規約にある「他のチーム」についての規定がない
・他のチームの試合に出た場合の処分に関する規定がない
・なので処分なし

要約しているだけで、なぜ僕はアジアリーグを未だに見ているのか疑問を覚え始めました。アジアリーグにクーリングオフ制度は適用できないんでしょうか?

また昨年12月には試合中のラフプレーについてもリーグに抗議しました。

しかしこちらも、なんだかんだとはぐらかされ、決定打を与えられぬまま時間だけが過ぎてしまいました。事務局のクリンチが名人芸すぎる。

4.チェアマンとは

アジアリーグの最高責任者はチェアマンです。現在は木坂隆一さんという方が2021年7月務めておられます。この方は王子HD専務取締役、そしてレッドイーグルス北海道の前身となる王子イーグルスの最後のオーナーでした。

僕はこの人事を好意的に受け止めておりました。就任時の挨拶にもあるようにアジアリーグにはガバナンスと呼べるようなものはなく、全てが行き当たりばったりだなあどいつもこいつも感想しかなかったもので。前チェアマンの小林澄生さんは元々アイスバックスの社長で、チェアマン就任後も懇意にさせていただきましたので色々お話を伺う機会もあり、とにかくアジアリーグという組織がこの体制でよくも15年以上続いているなあという思いを抱いておりました。そして、王子の看板を背負って来ている以上、下手な真似はしないだろうという逆説的な期待もありました。
そんなわけで就任した新チェアマンですが、木坂さんの具体的な改革への道筋はファンに知らされることはありません。この辺はアイスホッケーの最大の泣き所だと個人的には思うのですが、トップや経営者にインタビューをして記事にするというメディアが会社・フリーランス含めてほぼいない。選手や監督以上にリーグや競技の未来のカギを握っていると思うのですが…なので、木坂さんがどういう仕事の形態で事務局と繋がっているのかが全くわかりません。これは小林さんから伺った話ですが、小林さんより前のチェアマンは事務局に顔を出すことがほとんど無かったそうで、小林さんが事務局員に常駐することを伝えると「席が無い」と言われたそうです。『チェアマンになって最初の仕事が自分の机と椅子を買ったこと』という良くできた落語の小咄みたいなほんとの話があります。話が逸れましたが木坂さんが事務局に常駐してるかどうかもわからないわけです。王子イーグルスがレッドイーグルス北海道として刷新したことからもわかる通り、王子HDとしてもそれなりにアイスホッケーの立て直しに傾注するであろうことは察することはできても、それが進行しているかどうかは外から見ても全くわかりません。

5.ガバナンスとは

中止についてアイスバックスは納得がいきません。クラスター発生は釧路のことであり、同じ期間に冬季国体を(陽性者を出しながらも)やりおおせていたわけで、2月5日と6日の試合は場内飲食を禁止するなど更に感染対策を徹底してホームゲームを守ろうとしたわけです。徹底抗戦を完遂しようとしたアイスバックスと完全無視の事務局。おそらく発表が遅れるという事実を前に両者が出した落とし所が「延期」だったのでしょう。十勝毎日新聞の記事が中止発表だったので、辻褄が合います。

ここでアジアリーグ側に立って考えてみました。

釧路で起きた大規模クラスターは、残念ながら昨年苫小牧での高校選抜の再来となってしまいました。おそらくリーグ、連盟、施設管理者、自治体etcには更なる「重荷」を課せられたはずです。開催にあたって検証が不十分という認識があったと思います。特にレフェリーやボランティアにまで感染拡大してしまったことは衝撃でした。本当に忘れがちなんですが、リーグとか試合とか、というかスポーツは「支える人」がいないと成り立たない。栃木は関係ない、と言い切れるのか?自分たちがコントロールできるアジアリーグに関してはリスクを回避させたい、と考えることは何もおかしいことではありません。それなのに、アイスバックスだけが執拗に抵抗してくる。

『ガバナンス崩壊を起こす元凶こそ、アイスバックスだ』

と、思われた可能性があります。端的にガバナンスって「上の言うことに従わせる」って意味でいいと思うんですけど、従わないアイスバックスがガバナンス云々て何言ってるの?という取り方だってできるんですよね。

ガバナンスに関してはアイスバックス側にも言い分があるわけです。なぜ従うのか?それはリーグが試合を担保してくれているからです。他にも賞金をくれるとか分配金があるとかがあれば、より強く言うことを聞かせることができます(これはアジアリーグにはありませんが)その試合の担保が無いのであれば、これは従う意味がないんですね。

僕自身は今回の一連の出来事をめちゃくちゃざっくりまとめると『普段から統治体制がめちゃくちゃだったので、非常時にトップダウン手法を取ろうとしたら反発が半端ない。結果的に発表が遅れてファンが呆れた』ということだと思います。

6.どうすれば良かったのか

リーグに関しては、チェアマン裁定ということであればチェアマン署名のリリースを出すべきでした。そして、リスク回避について懇切丁寧な説明を行うべきです。もちろん、全ての人が納得するわけはありませんが、それでも事務局として「やることをやった」という足跡は残すべきなんです。そしてこれは今後の話ですが、今回のアイスバックスのように徹底抗戦するチームが現れたら、規約で縛ることが必要です。いざというときに強権発動できないのは、却って全体の不利益となるからです。


7.アイスバックス

一方のアイスバックスは…事務局に対抗するには「新リーグを作る為に脱退する」くらいしか思い付かないですね。これは伝家の宝刀みたいなもので、抜いたら最後なんですよね。覚悟だけではどうにもならないものは過去のバスケットボール・bjリーグでたくさん見てきました。小林さんがチェアマンになった時に、上手くいってない部分が解消されていくのかなと思って見ていましたが、相変わらず問題は山積状態…日本初のプロアイスホッケーチームとして、様々な難局を越えてきたチームであることは間違いないのですが、リーグとの関係性は良好とはとても言えません。

8.最後に

アイスバックスはホームゲーム延期のお知らせの中で「アイスバックスとしては、リーグのガバナンスについて第三者を含めて調査すべきと考えております。」とされておりますが、これって実現可能な話なんでしょうか?仮にそれをやるとして、民間の会社への調査費用を負担するのは誰なのか、事務局がそもそもまともに査察受けるのか。そもそもの話として、僕が聞いた話だとアジアリーグには法人格がないとのことですが、そういう相手にガバナンス云々を言う意味等々、興味は尽きません。一方で、事務局側の本当の主張、あるいはアイスバックスに対する反論などはまだ見えておりません。この部分なんかは、まさにメディア不在の業界の闇を感じますね。なぜ誰も取材に行かないんだろう…アイスホッケーの一番の不幸は、ここに集約されてると思います。


最後までお読みいただきまして、ありがとうございました

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