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お嬢さんはいったい何を……意識の同調は問題なく進んでいるはず……、ならば先程の感覚は……?
まぁいいでしょう……徐々に視界が開けてきましたね
さて、この国の人間達は何で遊んでいる…………っ!?
なんだあれは……いつの間にあのような巨大なものを!?
しまった……、私としたことが油断した…!
なんということだ、この私が見くびってしまった…!
あんなものの攻撃を受けてしまっては……いくらこの体でも……
……まさかお嬢さん……これを……!?
『はい、待っていました。きっと私を救いに来てくれると信じていました。お兄様が、男爵様が、騎士様が、より強い力をもって私を救いに来てくれると。ならばそれまでに私が出来る事は何か、それを精一杯やったまで』
はっ…はっはっは…そういう事ですか…
なんとまぁ素晴らしい洞察力と判断力……
ですがお嬢さん、このままでは私もろともお嬢さんも滅びる。私と共に次の世界に行くことが正しい選択であるはずです。それを理解しているのですか?
『私もベリンゲイ王家が娘。国を守るために命を使う覚悟など、とうの昔にできております。そして国だけでなく……世界が救われるならなおさらです』
バカな!そのような浅はかな考えを…
『……死ぬことは…怖いですよ。ですがそれはあなたも同じはず』
………
『ならば、私はあなたをも救いたい。
ひとりにはしません、共に参りましょう。
あなたはこれまで十分に苦しんでこられた……、ならばもう終わりにいたしませんか。
……あなたは私達と同じように、幸せにならなければならないはずです』
……っ!?
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「おいおい、なんだいこの変な花は……」
「綺麗でしょ。ずーっと東の国にはこの花がいっぱい咲いてるんだって」
「花ならもっとこう…、シュッとしたのとかあったんじゃ……」
「これが良かったのよ。紫色でまるっこくてなんか可愛いじゃない!今日の君の誕生日にきっとぴったりだと思ってさ!」
「なるほどね……」
「この花の意味はね『君を忘れない』。
……ね、忘れないでよ。
君は私と、幸せにならなきゃいけないんだから」
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なんだこの風景は……
どこの誰の……
思い出し…た……?これは私の……?
………!!あぁ……あ……あああああああああああああっ!!!
なぜ!?なぜ思い出した……?なぜ思い出せた……?
なぜ……なぜ思い出させたっ……!!!
私には……この使命は私にしかできないというのに……
なぜ今ここでっ……
思い出すべきでは無いはずの……
……私は果たさねばならないというのに……
あぁ……もう遅い……、愚かな記憶が私を愚か者にした…
天秤にかけてしまった……自身と、世界とを……
やってはいけないのだ……比べてはいけない選択を……
だがもう遅い、もう取り返しはつかない
このお嬢さんは、この国の人間達は選んでしまったのだ
私を止めるという結果を選択してしまったのだ
私は止められてしまったのか……
この無垢なお嬢さんに……
たったひとこと……、たったひとことでっ!!!
それだけの言葉で、私がしてやられた……
幸せに……だと……
呪いの言葉だ……実に忌々しい……!
実に身勝手な……!実に腹立たしいっ!!
これもお嬢さんの思惑通り……?
いや……それは違いますね、お嬢さんは知るはずも無いのですから……
けれど事実は変わらないようです…
……私は救われてしまった……この世界と引き換えに
実に愚かしい。
私にとってもこの世界の人間達にとっても愚かな選択ではありますが……
こうする以外の事を私は考えられなくなっていますね
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『どうされたのですか…?何を考えてらっしゃるの…?』
……お嬢さん、あなたをこれから元に戻します
『えっ!?』
黙って聞きなさい。
これからいまのあなたを構成している精神と肉体の状態から還元を……、言っても判りませんか。結論を言いましょう、あなたを元の姿に戻して地上へ帰します。といっても、今からでは間に合うかどうかもわかりませんけどね
『私だけ!?それではあなたが…!』
何を言っているのですか。
これからの私の行動は、あなたがそうさせるのですよ。
あなたには言葉の責任を負う義務があるはず。
……いや……、いまさら違いますか。
私がそう思いたい、そうしたいだけなのか……
『あなたひとりを置いてはいけません!』
ご心配なく。
このドラゴンは爆散するでしょう。
ですが私に死は訪れません、あの砲を受けたところでね
……いいのです、いずれまたどこかで会うことになるでしょう。
あなたが言った言葉ですよ、私を救うのでしょう?
『でもっ!!』
私の事を憂うよりも、あなたを救いに来たあの人間達に感謝をすることです。
私を救うのがあなたでも、あなたを救うのは彼らなのですから。
さぁお話をしている時間はありません、還元を始めます!
『待って!!!約束してっ……!!!!』
「ぶっ放せぇーー!!!!!!!」
「「「 おおおおーーーーっ!!!!!」」」
ドガァアアアァァンン!!!!!
「「「いけぇえぇーーーーっ!!!!!」」」
バキバキバキバキバキッ………!!!!
ゴオオオオオオオオンッツ………!!!!
…………忘れませんよ。
私はお嬢さんを、忘れません……
私も決して……
……ごめんなさい……
……っ……まぶしいっ……!
…あぁっ!兄さま!!やはり来てくれた…!
男爵様も……!あぁ……!こんなにも多くの方々が…!
みなさん……
『 みなさん……!ありがとう……!! 』
「!?」
「今のって!!」
「聞こえたぞ!!お姫様の声だ!!」
「「「 うおおおおおーー!!! 」」」
「お姫様の声が聞こえたぞー!!!」
「ドラゴンが粉々だー!!!!」
「魔術師をやっつけたぞぉぉー!」
「やったぞーーー!!!!」
同時刻 封印の館 デラーシェビューレ前 砲台拠点
「ふぅ……やりましたねぇ…こいつぁ皆も盛り上がるわけだ。
よおぉーしお前ら!撤収だ!!!」
「「「「おおおおーーっ!!!」」」」
「……男爵…」
「…??なんスか??」
「……ありがとう……感謝している」
「…!?
……へっへっ、なんのこたぁねぇっすよ王子さん。
お姫さんのピンチに駆けつけるなんざ、誰でもできますねぇ…」
「くっ……」
「ちょっ!泣かねぇでくださいよ!湿っぽいの苦手っすよ!
それにまだお姫さんの姿をきちんと見てねぇんですから!」
「泣いてなどいない!」
「あ!鼻水が服に!もぉぉぉ!勘弁してくださいよぉ!」
「うるさい!!」
同時刻 ベリンゲイ 領主の館
バンッ!!
「国王陛下っ!!」
「~~っ!?!?ばかもんっ!!ドアは静かに開けろ!着替え中だ!
あと領主と呼べ!!」
「し、失礼しました!
ですが、たったいま連絡がっ!中央広場に………王女殿下がっ……!」
「っ!?」
同時刻 ベリンゲイ中央広場 玉座
「みなさん…ありがとう…!
本当に……、ありがとう!!!」
「「「お姫様のご帰還だーっ!!!」」」
「「「うおおおおーーーー!!!」」」
「「「栄光あれーっ!プリマティス王国に栄光あれーっ!!!」」」
同時刻 冒険者ギルド スピードスター
「……どうやら、王女殿下がお戻りになられたようですね…」
「そうだね。王子と男爵なら絶対やってくれると思っていたよ。
私達も精一杯なすべきことをなせた」
「そうですね」
「……だが終わりじゃない、ここから再び私達の出番だ。忙しくなる。
将校たちを緊急招集、地下の封印の地および火山と砂漠の徹底調査を行う。極度の危険が伴うことが想定される、十分な装備を整えろ。」
「かしこまりましたっ!!!」
「冒険者構成の一般軍は首都防御のため待機、国軍精鋭のみで調査は実施する。それと一部特別小隊を編成、北方の廃墟にも調査派兵に向かわせろ。
大規模だが……最上級クエストの後始末…、だな。ふふっ。」
「はいっ!!!!」
同時刻 ベリンゲイ中央広場 玉座
「うおおおおおーーー!!!わが娘ぇぇーーー!!!」
「あはは!ちょっとやめてお父様!!もう涙でお顔がぐしゃぐしゃじゃない!」
「よかったよぉ…!本当によかったよぉお……!!うおおおおおーーー!!!」
「ちょっとお父様ったら!!あははっ!」
「まただようちの王様は!ほんとしょうがない!」
「よかったじゃねぇか!無事に帰ってきてくだすったんだ!」
「今夜は祭りだな!!!」
「おふたりを囲め!お祝いだ!!」
「「「 ははははははっ!!! 」」」
同時刻 ベリンゲイ中央広場 ネコヘーヤゲート前
ブゥン……
「……なにやら騒がしいと思ってきてみれば……。
ほっほっほ……そうか……帰ってこれたんじゃな。何よりじゃ。
歴史が動いたのか……いや、これから歴史が動くのか……
……空に点々と浮かんでたあの影……もしや……
いや、思い過ごしかの。
よからぬことにならなければよいがのぅ
おじいちゃんは平和に余生を過ごしたいぞぃ……」
同時刻 ベリンゲイ ミル港
ドンッ!
「よっと…」
「王妃様っ!」
「……にぎやかね」
「はい、先程王女殿下がお戻りに!国王様も王子殿下もご無事です!」
「そう…。
最後の砲撃があるって伝書があったからね、急いで戻ってきたんだけど…、ふぅん。あの子たち、ちゃんとやれたんだね。
そうか、それならよかった」
スッ……
「王妃様!?どちらへ!?」
「海に戻る。まだ艦も沖に出たままだ、指揮を執ってくる。済んだらすぐ戻ってくるから。
あー、そうだ。あの人に伝えといて。いい歳なんだからあまり子供にベタベタすんじゃないよってね」
「かしこまりました!」
「ふふっ、いつの間にそんなに大きくなったんだろうね」
「えっ?」
「なんでもないよ。じゃ、あとよろしく」
「はっ!!」
「うおおおおーー!!!娘よぉおおーー!!愛してるよぉーー!!!」
「あはははっ!もうやめてってお父様っ!泣かないで!!
おひげがチクチクするわ!くすぐったい!!」
「うおおおおーー!!!」
「「「 ははははははっ!!! 」」」
:
:
同時刻
某所
:
:
:
「ふむ……」
「映像と音声が途切れましたね」
「最後に起きたのは力場の緊急還元でしょうか」
「まさか。還元を行う理由がありませんよ」
「あの巨大な砲は何だったのでしょう」
「信じられません、あのような大きなものを作れるとは」
「彼らのレベルでこの破壊力は想定していませんでしたね」
「おそらくあれも粉々に破壊されたでしょう」
「なんということだ。最も奪還の成功確率が高かったから派遣したのではなかったのですか?」
「今となっては致し方ないでしょう、何か予測不可能な事が起こったとしか考えられません」
「起動後に何かが起きたという事でしょうか?」
「さぁ。それを解析するには情報が足りませんね」
「ですが力場となる二本持つ者はまだ生きています」
「その通り、全ての可能性が断たれたわけではありませんね」
「地上に残されていたのはあれが最後の1体だったのではないですか」
「記録に残っていたものでは最後、ということでしたよね」
「今一度これまでの情報を検索し精査し直さなければならないでしょう」
「今回の彼らの行動からみても、装備を十分に整えなければなりませんね」
「そうですね、今回は詰めが甘かったのでしょう」
「次は用意周到に。彼らに勘付かれてしまっては二の舞になります」
「この1000年間が全くの無駄、ゼロになってしまうことは避けなければ」
「心配ありませんよ、ここまでの積み上げは決して無駄ではありません」
「必ず次の世界の1としなければ」
「1000≠0でなくてはいけません」
「その通り。今回私は倒されてしまいましたが、これで終わりではありません」
「悲願を果たすその時まで」
「私は」
「私は」
「私は」
「私は」
「私は」
「私は」
「私は」
「私は」
「私は」
「「「「「「 ここにいるのですから 」」」」」」
1000=0 (了)