1000=0 (3)
「あなたはもう、この世界にはいないのですよ」
「っ……!?」
「おそらく理解することは不可能でしょう。しかしそれは仕方のない事です、恥じることはありませんよ。あなたの国の誰一人として私の話は理解することは不可能なのですから。ただ私の頭脳と知識があなたがたを超越しているだけなのですから。
いいですか、あなたはもうこの世界にはいません。しかしそれは生物として死んだわけではありません」
「どういう…?」
「あなたはいま、メeんtぃスカorうプsの状態にあります。そしてあなたの体はパrテiかuラrィッsとなったままこの封印の中心、私の作り上げた装置を経由して、いままさに地上へ向かって飛び出そうとしているあのドラゴンの中にも存在しているのです」
「……???なにを……?」
「たとえ伝え聞いていたとして、やはりそこまでの知識はありませんか。いいでしょう、判りやすくお話して差し上げましょう。
あなたの肉体はいま人間の形を保っていません。もっともあなたの意識はあなたの肉体の形を認識しているでしょう。きっと今まで通りの体が感じられるはずです。ですがそれはあなたの意識が感じているだけで実際この世界にはほとんど存在していません。
あなたの肉体はあなたの心と共にひとつの力場となってこのデラーシェビューレにある装置とドラゴンに繋がり、存在しているのです。」
「私は……死んでしまった……?」
「理解を超えてしまったようですね。
先ほども言ったでしょう、死んではいませんよ。そもそも人間の意識とは心とは、どこに存在していると思いますか?あなたの頭脳ですか?あなたの心臓ですか?形として観測することが出来ない曖昧なものをどうやって位置づけますか??……まぁ、これもお話したところで理解は届きませんか。
あなたの心と体は間違いなく存在しています。ですが、以前のお嬢さんの形ではない、この世界には人間の形として存在していないということです。
現にあなたのその声、どうして私に届いているのでしょう。あなたの目の前に私がいないのに。」
「あなたはいったい何を……、あまりにも判らな過ぎて恐ろしい……もしやこれが魔術と呼ばれるもの……」
:
:
はぁ……、知識と知恵を失った人間とは、かくも愚かに衰えるものか…。
1000年。人間にとっては多少長いとはいえ、生物の歴史からすれば一瞬にすぎない、たった1000年という時間でここまでとは……。
判らないのでしょう…あなたには。とても理解できないのでしょう。
仕方のない事です、それこそがあなた達が失ってきたものなのですから。
ましてあなたはこの世界に産まれてたった十数年。私とは比べ物にならない……。ですが……
「……恐れることはありませんよ。私もすぐそちらに行きますから」
「えっ……!?」
「あなたは力、そして私は意思なのです。そうやってアレは動くのですよ。かつてそうであったのと同じように」
「あなたも……死ぬおつもりなのですか……」
「何度も教えて差し上げたはずです。死ではありませんよ。
そうですね……ひとつうかがいましょう。
お嬢さん、死とは一体なんでしょう?」
「えっ?」
「肉体が滅びる事でしょうか。精神が滅びる事でしょうか。人々に忘れ去られる事でしょうか。この世の中から消えてなくなる事でしょうか。世界が滅びる事なのでしょうか。死の概念はあるようで無いのですよ。死とは「どう思うか」という意思の違いによって全く異なるものになるのです。
いずれにせよ私達のこれからはそれのいずれでもありません。私たちは死ぬわけでは無いのです」
「私にはそうは思えない…、あなたは怖くは無いのですか?」
「怖い?恐怖するかどうかですか?
考えたこともありませんしそのようなものはありません。私は死ぬわけではありません。
そしてこれから起こることは私の悲願の達成です。恐怖とはまるで違う、私にとってはこれ以上ない達成感がいまここに存在していますよ。
さて……なかなかに興味深いやり取りでした。あなたとこんな会話ができるとは思いませんでした。ですがそろそろ時間です……」
「……最後に……最後にひとつだけお聞かせください」
……??このお嬢さん、一体何を……
「ならばあなたにとって死とはいったい何ですか」
……面白い思考ですね
残り数分で力場も問題ないレベルに達するでしょう。もう少しお嬢さんの勉強に付き合って差し上げましょうか……
「そうですね。私にとって死とは『絶望』です。この私の悲願が叶わなかったとき、それは私の死を意味するのかもしれませんね」
「そこまでして叶えたいのですか」
「もちろんです、私はそのためにここまでやってきた。
何も得ず、何をも捨てて、私は私とここまでやってきたのです。
……あなたに想像ができますか……?
長い長い時を経て、苦しみを経てここまでやってきた。そしてその切願叶う時が目の前までやってきているのです。
……そう……やっとですよ……ここまで長かった……永遠に続くと思われた願うだけの日々……それが間もなく終わる……!
そう!これほど嬉しい事はありません!!!
この悲願の結末が、もう目の前まで来ているのです!今まさに飛び立とうとしているのです!!!
……だからこそ私は果たさなければならない。私は…私を…!……世界を救わねばならない……!だからっ……!!」
:
:
あぁ……この方は……苦しんでこられたのだ……
死ぬことも許されず……願い続けてこられたのだ……
そう…あなたは……
「……救われたいのですね」
「っ!?」
「あなたは、救われたい。……受け入れたくないのではないですか?」
「私が救われたい……?
何をバカなことを。
私の悲願は……私は世界を正すこと、そのためにここまでやってきた。
私の願いはそれだけです、私に課せられたものはそれだけのはず……
課せられた……?
いや私は私の悲願を……
死……、いやそんなものは思考には無い、なぜなら私は悲願を果たしそこで……
そこで……終わる……?
いや終わりではない、そのあとの……そのあとの意思は……?
……いやある!私はこの世界を正すために…」
「あなたはそれを誰に言われたのですか」
「!?
言われてなどいない!これは私の意思だ!今までもこれからも!何も変わらない!何も変わらないのです……!
……もう時間がありません。
お嬢さん、なかなか興味深い会話でした。ですがもうおしまいにしましょう。私と共に来て頂きますよ、次の正しい世界を作るために」
カタカタカタ……タッ……
ブゥン……
……これで私の体は装置と一体化、意識の同調が始まりましたね…
順調に進んでいるようです
いずれ私の視野はあそこに群がる人間達を見下ろすことになるでしょう。楽しみです。この充実感、長年の願い、いまこそ叶うのです…
……そして……
……そのあとは……?
……なんだこれは……
……何を気にしている……あのお嬢さんの言葉……?
……いや…何も間違ってなどいません。これは私の意思、1000年間の悲願なのです。そしてこれから私がこの世界を正していくのです
:
……徐々に意識が広がっていく……
……?なんだこれは……あたたかい……?
おかしい、意識だけの状態でこんな感覚が発生するわけが……これはいったいなんだ……
『わたしはあなたを救いたい……私を救おうとしてくれる人々がいるように……!』
!?!?
ドラゴン復活まであと1分
封印の館 デラーシェビューレ前 砲台拠点
ガゴォン!!!
「会長ぉー!!!特大のヤツ!準備完了しましたぁーっ!!」
「っしゃぁーっ!!!!!」
(4)へ