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2024年5月             第63回感染管理抄読会の紹介

2024年度最初の抄読会が開催されました。今回は、実装科学に関する論文をクリティークしたのでご紹介します。

論文タイトル
Results of the CHlorhexidine Gluconate Bathing implementation intervention to improve evidence-based nursing practices for prevention of central line associated bloodstream infections Study (CHanGing BathS): a stepped wedge cluster randomized trial

テーマ:エビデンスに基づくクロルヘキシジン清拭の実装を促進するための多面的介入効果の評価

この論文を選択した理由
中心ライン関連血流感染予防のためのクロルヘキシジン清拭の定着に向けた看護師主導の介入研究であり、実装科学の方法論についても学べると思い選択しました。

書誌情報
掲載雑誌:Implementation Science
DOI: 10.1186/s13012-021-01112-4

抄録
背景:中心静脈カテーテル関連血流感染症(CLABSI)は、米国では年間28,000人が死亡しており、医療コストの増加をもたらすが、エビデンスに基づいた適切な介入によって大部分が予防できる可能性がある。グルコン酸クロルヘキシジン(CHG)清拭は、CLABSIを予防するエビデンスがあるにも関わらず、臨床での実践は不十分である。
目的:主要評価項目は、CHG清拭のプロセスと電子カルテへの記録の遵守に対する実践戦略プログラムの効果を評価することであった。副次評価項目は、①病棟の特性と文化的背景を考慮した介入の効果、②CHG清拭に関する看護スタッフの知識と認識に対する介入効果、③CLABSI発生率に対する介入効果を調べることであった。
方法:研究デザインは、ステップドウェッジクラスターランダム化比較試験で、2つの病院を対象に14の病棟を4つのグループに分類し、順次1か月ずつ合計4か月間の介入を実施した。介入内容は、グロルとウェンシングの実装モデルに基づき、教育的アウトリーチ訪問、監査とフィードバックを行った。評価方法は、特定の訓練を受けた、感染予防スタッフと臨床看護専門家によって、CHG清拭のプロセスと記録の評価が行われた。
結果:CHG清拭プロセスの遵守と、CHG清拭に関する看護師の知識・認識は、介入後に大幅に改善した。記録の遵守とCLABSI発生率は大幅には改善されなかった。ただし、CLABSI発生率は臨床的に有意に減少した。
結論:教育的アウトリーチ訪問、監査やフィードバック戦略を用いることで、エビデンスに基づいたCHG清拭の実践を改善することができる。

クリティーク・ディスカッション内容と感想
この論文は、エビデンスに基づいた感染予防策を臨床現場で確実に実践してもらうための効果的な方法を探る、実装科学に関する研究でした。エビデンスが臨床に実装されるまでに17年もかかるという事実に驚かされた一方で、現場に反映していくことの難しさを実感しました。研究デザインが複雑で、読み解くのに時間がかかりましたが、介入効果を評価する際に病棟特性を組み込んでいる点が興味深かったです。これにより、どのような病棟で新しい実践が定着しやすいのか、あるいは定着しにくいのかといった洞察が得られました。また、介入を受ける前に受け入れ度を測ることの重要性についても議論されました。介入内容の詳細や実施度合い、評価方法の適切性、ホーソン効果の影響などについては、さらなる議論が必要だと感じました。ホーソン効果があったとしても、プロセスが定着すれば良いのではないかという意見もあり、臨床での活動についても共有していただきながら、ディスカッションができました。今後も実装研究に関する論文を読み勉強を続けることで、臨床現場と研究者との協働研究に貢献できればと思います。

(T.Y)

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