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2024年12月             第68回感染管理抄読会の紹介

2024年12月の抄読会で取り上げた論文をご紹介します。
今回は、水道水による膀胱洗浄に関する非常に興味深いテーマで、臨床現場での現状や活用方法、関連するガイドラインについて、さまざまな視点から活発なディスカッションが行われました。      

論文タイトル
Bladder irrigation with tap water to reduce antibiotic use for urinary tract infections in catheter users

カテーテル使用者の尿路感染症に対する抗生物質の使用を減らすための水道水による膀胱洗浄

書誌情報
BJU International(Impact Factor:3.56)
(1929年に設立された月刊の査読付き泌尿器科に関連した医学雑誌)
DOI: 10.1111/bju.16552

この論文を選択した理由
私が勤務している病棟では、間欠的導尿や尿道留置カテーテルの自己管理を目指した退院指導を行っています。しかし、退院後に尿路感染を起こすこともあり、退院指導に難渋することがあります。退院後の生活を見据え、少しでも尿路感染のリスクを軽減できる方法を模索していたところ、この文献を見つけたので、抄読したいと選択しました。

抄録
目的:再発性尿路感染の症状を有する患者において、尿路感染の治療における抗生物質の使用を減らすための水道水による膀胱洗浄の安全性と有効性を評価し、膀胱洗浄の治療満足度を評価すること。
方法:2022年7月から2024年3月までの間に再発性尿路感染症状があった留置カテーテルを使用している患者、または間欠的導尿法(CIC)を行っている患者を対象に、前向き観察研究を行った。水道水による膀胱洗浄は、全身症状(発熱、側腹部痛、せん妄など)のない尿路感染の治療に使用した。患者は尿路感染の症状が発生した場合、膀胱洗浄を毎日実施し、スケジュールに従って回数を徐々に減らしていった。尿路感染症に対する抗生剤による治療回数、尿路感染症発生率比(IRR)、尿路感染症関連の入院患者数、治療満足度、生活の質を水道水による膀胱洗浄を前後3ヶ月間で比較した。
結果:合計60人の患者が対象となり、年齢の中央値(四分位範囲)は64.5(50.4-72.6)歳、66.7%が男性で、83.3%が間欠的導尿を実施していた。抗生物質の使用は平均で38.1% (IRR = 0.62;P = 0.016)、カテーテル関連尿路感染症は37.9%(IRR = 0.62;P = 0.005)の減少がみられた。全身症状を伴う尿路感染または尿路感染関連の入院の発生率の増加は観察されなかった。また、健康関連のQOLにも差は認められなかった。患者の大多数は、水道水による膀胱洗浄の主観的有効性(81%)、使いやすさ(86%)、および全体的な満足度(85%)について肯定的であった。
結論:これらの知見は、尿道カテーテル患者における尿路感染の治療において、有望で患者に優しい代替手段として、水道水を用いた膀胱洗浄の可能性を強調している。水道水を使用した膀胱洗浄は、再発性尿路感染の患者における抗生物質の使用と尿路感染の発生率を大幅に減少させ、尿路感染の管理に容易に実施できる安全で患者に優しい代替手段である。

クリティーク・ディスカッションを終えた感想
私が新人看護師の頃は、ルーチンで行っていた処置の1つに膀胱洗浄がありました。しかし、感染予防の観点から膀胱洗浄することが推奨されなくなり、病院で実施される場面は限られています。水道水を用いた処置を行うことに抵抗を感じていましたが、参加者とのディスカッションを通して、CDCや学会などが示しているガイドラインは、急性期の患者を対象としているため、今回の研究対象者のように長期的にカテーテル管理が必要となる患者には、必ずしも適用されるものではないことを学びました。
臨床の看護師としては、水道水を用いた理由や意義について、もう少し詳しく示してほしいと感じていました。しかし、参加者とともにクリティークを進めていくと、クリティークチェックシートで「○」と評価されることが多く、字数制限があるなかで読者にわかりやすく説明されていることがよく分かりました。今後、自身の論文を作成する上で参考にしていきたいと思います。
                             (院生A.T)

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