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2024年9月             第65回感染管理抄読会のご紹介

今回はパルスキセノンUVを用いた環境消毒による多剤耐性生物の抑制効果についての論文でした。このテーマは、臨床現場や感染管理認定看護師にとって非常に関心の高い内容でした。

論文タイトル
Lowering the Acquisition of Multidrug-Resistant Organisms (MDROs) With Pulsed-xenon (LAMP) Study: A Cluster-Randomized, Controlled, Double-Blinded, Interventional Crossover Trial
パルスキセノン (LAMP) 研究による多剤耐性生物 (MDRO) の獲得の低下: クラスター無作為化、対照、二重盲検、介入クロスオーバー試験

この論文を選択した理由
UV-C照射機器の効果は、MDRO等で微生物を減少させる効果についてすでに多くの報告がある。しかし、ガイドライン等で推奨されるまでの根拠となる論文はない。コロナ禍で多くの医療機関が導入したUV-C照射機器は、新型コロナウイルスよりMDROで使用する機会が増えている。この論文では、primary outcomeとしての感染の定義を明確にし、臨床におけるデバイス感染等をアウトカムとしてその有効性についての評価を行っており、実践への示唆を多く得られるのではないかと考え選択しました。

書誌情報
Clinical Infectious Diseases(CID) (IF: 8.1)
Doi:https://doi.org/10.1093/cid/ciae240

抄録
背景:環境消毒は、医療関連感染症(HAI)の蔓延を減らすために不可欠である。以前の研究では、感染の軽減における紫外線(UV)の影響に関して矛盾する結果が報告されている。この試験では、標準的なterminal cleaning(病室の徹底的な清掃・消毒、通常は患者の退院後に実施される)にパルスキセノンUV(PX-UV)を追加した場合、環境に関与するHAI(eiHAI)の低減への影響を評価した。
方法:Reducing the Acquisition of MDROs with Pulsed-xenon (LAMP) 試験は、2 つの病院 (15 の入院病棟) で実施され、標準的なターミナルクリーニングとそれに続く PX-UV (介入群) または 偽 (対照群) 消毒を比較したクラスター無作為化、対照、二重盲検、介入クロスオーバー試験を行った。主要アウトカムは、滞在4日目以降、または研究ユニットからの退院後3日以内の臨床微生物検査からのeiHAIの発生率であった。eiHAIには、バンコマイシン耐性腸球菌陽性の臨床培養物、拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ産生大腸菌または肺炎桿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、アシネトバクター・バウマニー、クロストリダイオード・ディフィシル陽性の便ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が含まれていた。
結果:2017年5月18日から2020年1月7日までの間に、25,732人の患者が含まれ、発生率は601人のeiHAIと180,954人の患者日であった。介入群と偽群のeiHAIの割合に差はなかった(それぞれ3.49対3.17感染/1000患者日;RR、1.10;95%CI、.94–1.29;P = .23)。eiHAIタイプ、病院タイプ、ユニットタイプで層別にすると、研究結果は同様であった。
結論:LAMP研究では、terminal cleaning後のUV光消毒の追加がeiHAIsの発生率の低下に及ぼす影響を実証できなかったた。病院の環境表面を対象としたさらなる調査と、HAIを減らすためのノータッチ技術の利用を検討する必要がある。

クリティーク・ディスカッションを終えた感想
過去のUV-Cの環境消毒の有効性を評価した論文における研究の限界をデザインに組み込み、可能な限りのバイアスの低減を目指した論文である。研究デザインにおいて、クラスター無作為化を行い、UV-C発生装置を盲検化、その上、クロスオーバーを行い約2年6か月にわたってデータ収集を行っている。primary outcomeとなる感染件数は保菌を含まないなど臨床検体における感染の定義を明確に示している。環境要因によるHAI(eiHAI)の対象微生物を設定、デバイス関連感染(CLABSI、UTI)の感染イベントをカウントするなど、アウトカムの判定基準が明確に設定されていた。また、環境要因によるHAIの影響因子として、手指衛生遵守率や、ターミナルクリーニングの清掃の評価も取り入れた研究デザインとなっており、副次的評価としての指標も設定されていた。
しかし、これだけのバイアスや交絡の除去を考えたデザインであっても、患者の病室移動が頻繁に行われたことでprimary outcomeの評価が困難になったことや衛生コンプライアンスは最終的には、評価指標として用いることができなかったことなど、想定外の事象が発生しており、臨床研究の難しさを改めて認識することができた。
最後に、そもそも環境の消毒がどれだけ環境要因HAIを低減させることができるのか、という前提については、あまり触れられていないことが意見された。環境を消毒しても、環境はすぐ汚染されることを前提に考えると、今回の研究においては、手指衛生のコンプラアンスの指標は非常に重要である。クリニカルクエスチョンとして、環境消毒がHAIにもたらす影響をよく検討することが重要であり、研究意義の明確化が最も重要であることを抄読会で再認識することができた。
                                                                                                                 (O.E)


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